流星群
千秋真一×野田恵


不意に流れてきた ピアノの 音 は 偶然には違いなく
それでも ただ
哀しい 哀しい 哀しい
重なる雨音は 曇った窓ガラスから さやさや 頼りなく 限りなく
優しい
その温かな贈り物を 全身で受け止めたい 衝動 は もはや止められずに
自分でも説明のつかない 感情 を 曖昧にするために 誤魔化すために
独り 外へ
呼ぶ声は 蔦のように全身に絡みつくけれども
これは 幻想だと 幻想だと

落ちてくるのが 星 であれば 空に光を見ることも無く
頬に伝うのが 雨 であるなら 悲鳴を闇夜に耐えること無く

「……先輩?」

距離を感じる微かな呼び声に安堵して、しかし真一は振り向かない。
今は触れないでくれと言う背中に、しかし恵はゆっくりと近づき手を伸ばす。
指先の柔らかな誘いに、びくりと肩を震わせその大きな手で顔を覆う。
そんな彼の様子に、彼女は静かに溜息を落とす。

「これなら、いいですか?」

やがて訪れたしっとりと生暖かい重みに、真一は無言で答え。
恵は彼に背を預けたまま、両の手で雨を掬う仕草をした。
彼は零れ落ちるものを拾えない自分を呪い。
彼女は零れ落ちたものを掬い上げたいと願った。

「のだめは、もう、大丈夫ですヨ」

だから。
今は顔を上げられなくていい。背中を向けたままでいい。太陽を憎んでもいいから。
この場所に飽きたら、あの部屋で。
これ以上望むものなど無い位に繋いでほしい。

濡れて冷たくなった身体をシャワーで暖めている間にも。
絶え間なく響くピアノの調べ。
それはやはり、ただ哀しいという声にしか真一の耳に届かず。
耳を、塞ぐ。
しかし、その前に不可思議な一音がその耳を捉え。
手の動きが、止まる。
先程まで自分を守っていた水音が、もはや単なる雑音に変わり。
真一はシャワーを止め、やけに緩慢な時の中、バスローブを羽織り。
リビングへ続く扉をそっと開けた。
ピアノに向かう恵はその瞳の淵を赤くしながらも、うっすらと微笑を浮かべ。
彼女が紡ぎ出す音色は、真一の中に溢れるものへと響いた。

「あは。また先輩泣かせちゃいマシタ」
「……うるせ、バカ」

おまえだって泣いてんじゃねーかとその目尻に触れると。
恵はくすぐったそうにしながらゆっくりと瞳を閉じる。
唇を重ねた後、彼女は涙を湛えたまま悲しいんじゃないですと笑った。
頬の筋肉が上がり、水滴となって床に落ちる。

「アリガトウ、なんです」
「それ、わかる気がする」

真一は正面から彼女を抱きしめる。温もりが心に届く。

「……オレ、おまえに会えてよかった」

本当に、本当に、心からそう思うから。
奇跡など無くていい。無力でもいい。醜くてもいいから。
孤独ではない、あの部屋で。
これ以上望むものなど無い位に繋ぎたい。

いつの間にか雨は止んで、聞こえるのは甘やかな息遣い。
月明かりに青く映える肌にその長い指を滑らせると。
身体の振動に合わせて髪がサラサラ揺れ、夜の闇に薫る。
柔らかな胸に手を伸ばし、その頂を舌で擽れば高らかな鳴き声。
彼女の中は温かく湿り、彼はもっと、もっとと奥へ入っていく。

「あ、あぁ……っん、は……も、ぅだ……っ」
「ま、だ……ダメ」

こんなにも執拗に求める真一の姿は珍しくて。
恵は快楽の波に閉じられた眼を無理やり開けて彼の顔を覗うと。
なんて、キレイな。
視線が交わり、真一は優しく微笑む。
そしてもう一度囁くように言うのだった。

「おまえに、会えてよかった」

私もと言う言葉はやはり声にならず、代わりに恵は背に回した手に想いを込めた。

落ちてくるのが 星 であれば 空に光を見ることも無く

けれども輝くものはここにあると、真一は恋人を腕の中に抱きながら思う。
失くしたものの大きさは、今は量ることができない。
それでもアリガトウという言葉を与えてくれる人が側にいてくれたことこそ、奇跡だと。






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