The Mark
千秋真一×野田恵


先輩の腕が優しくわたしの体を包み、首筋にキスをしてくる。
わたしが首筋に弱い事を知っているから。
シャワーを浴び、軽く拭っただけの黒髪が頬に触れくすぐったい。

「んん……」
「……いい?」

耳もとで先輩が囁く。わたしの体に手を這わせながら。
返事のかわりに甘い声が出る。
何も言うこともできないまま、ナイトドレスを脱がされ、下着だけの姿にされる。
たったそれだけの事で、身体が火照り、溶けそうになる。
抱き合ったまま、先輩の手は、いちばん敏感な部分へとのびてゆく。

「…だめ……先輩……やぁ……」

その否定の声さえ、甘ったるい色を帯び、
先輩の欲情をさらに煽っているのが自分でも分かった。

「気持ちいいんだろ?」

これ以上ないくらいに優しく体をまさぐりながらも、意地悪く聞いてくる。
わたしは力なく首を横に振る事しか出来ない。
先輩の指先がわたしの秘部に触れ、そっとなぞる。
爪でそこを弾くように触られ、わたしは悲鳴のような声を上げてしまう。
全身を貫くような快感が走る。
膝がガクガクして、体が震える。
もう立っていることさえも出来なくなり、力なくその胸板にもたれかかる。

頭に血が上って、うまく呼吸出来ない。
抱き合ったままシーツの海に飲み込まれる。
先輩の顔がわたしの胸にうずめられ、濡れた髪から大好きな芳香が香る。
それだけで、快感に全身が疼くのが分かる。
華奢な紐をほどいて下着を剥ぎ取られ、
蜜の溢れるそこを執拗に嬲られ、わたしの身体はびくりと震えた。

「のだめ……もう溢れてる……ふふ」
「や……言っちゃ…だめデス……」

先輩はわざとぴちゃぴちゃと音を立てて、わたしに聞かせる。

「あふ……」

わたしはもうさざ波のように迫ってくる快楽に押し流され、抵抗する力もない。

「さわって」

先輩はわたしの手を導いて、自分のものを触らせる。
わたしは何かに憑かれるように、先輩のものに手を這わせた。
やがて、わたしの上にいた先輩が、身体をずらし、それをわたしの顔の前に差し出した。
わたしは吸い込まれるように、何の抵抗も、ためらいもなくそれを口に含んだ。

付け根から、先端に向かって、ゆっくりと舌を這わせ、また戻っていく。
何度か繰り返すと、その先端から、体液がにじみ出てきた。
それを舌ですくい、先をくわえ、絞り出すように吸い上げた。

「ああ………」

普段、声を出さない先輩から、かすれた声が漏れる。
ため息まじりの、この上なくセクシーな声。
わたしが感じさせたんだ、そう思うと、身体の芯がまた熱くなった。

「あん……」

夢中で愛撫を続けていたのに、それを不意に離され、
思わず非難するような声を上げてしまう。
きっと今わたしは、ひどく淫らな顔をしているに違いない。

先輩が、わたしの足を広げ、間に入ってくる。
わたしのひざに手をおいて、もうぐっしょりと濡れたそこに、先輩の先端が触れる。
そして、入り口から、最も敏感な部分に向かって擦り上げる。

「…やぁ…っっ……!!」

それだけで達してしまいそうになる。

いつもと違う快感に、戸惑いながらももう既に溺れかかっていた。
快楽を求めて、先輩の足に自分の足をからめた。
先輩が、それに気付いたのか、ゆっくりと挿入してくる。

「ああ……」

痺れるような快感に、深くため息をつく。

もっと……もっと深く……

でも……入れられたのは、ほんの先端だけだった。
抜けるか抜けないか、そんな微妙な深さのところで、弄んでいる。
くちゅ、くちゅ、といやらしい水音が部屋に響いた。
まるでそこに心臓があるかのように、血液が集中するように、
熱くなっていくのが分かった。

「や……ぁ……」

もっと深く入れてほしくて、自分から腰を動かしてしまった。
それを、先輩が見のがすはずもない。

「どうして欲しい?」

分かりきっているのに、先輩は本当にいじわるだ。
でも、それに煽られ、さらに感じている自分がいる。

「……ぃ……いれ……て……」

こんな状態でも、羞恥心は捨てきれず、消え入りそうな声で訴えた。

「入れてるよ」

そう言って、またわざと音を立てて動かす。

「やぁ……」

わたしは激しく首を横に振った。
身体が溶けそう。どうにかなってしまいそう。
欲しい。欲しい。もっと、もっと深く………!!

「のだめ……どうして欲しい?」

もう一度先輩が聞く。

「言わないのなら、このままいっちゃうぞ?」

その声さえ、甘く響いて、身体の芯を熱くする。
先輩はにわかに動きを早めた。この状態で、先輩が達しないことは分かっている。
でも、本当にこのまま終わってしまったら………?
息が乱れて、呼吸が出来ない。
体が熱い。

「お願い……入れて……センパ……」

うまく声も出せなかった。泣きたいわけじゃないのに、目から涙がこぼれた。

「ダメ。ちゃんと言って」

先輩が動きを止めて、それを抜こうとした。


「やだ…!!…やデス……!…入れて!……もっと……真一くん……!!」

無我夢中だった。快楽に支配され、がんじがらめにされ、
自分がどんな淫乱な台詞を吐いたのか、そんな事を考える余裕もなかった。

「やん……!!」

先輩のものが一気に奥まで挿入された。
強い感覚に息が止まる。先輩がわたしの上に覆いかぶさる。
さらに求めるように、わたしは先輩の背中にまわした手に力を入れた。

「すげ………熱いよ…お前の中……」

いつも自分の快楽を表に出さない、先輩の声が上ずっている。
わたしの身体に感じてくれている……。
そんな幸福感も、わたしの感覚を高めていた。

「あ…ん……気持…ちいいデス……」

重ねた体の心地よさ。
先輩に合わせて、腰を動かしている自分がいた。

先輩が動きを止めて、ゆっくりと抜き取る。

「後ろ向いて」

優しい口調だけど、有無を言わせない、そんな口調。
わたしは機械のように先輩に従って、うつ伏せになった。
熱く濡れそぼったそこに、先輩のものが当てられる。
でも先輩は、それ以上侵入してこない。
わたしは先輩を求め、腰を浮かせ、自ら先輩のものを深く埋めようとした。
どんどん淫らな格好になっていくとも気付かずに……。

「は…ぁ……」

先輩のものを全部くわえこんだときには、うつ伏せだったはずが、
四つん這いになって、獣のように自ら腰を動かしていた。

「ああ!やん……!もっと……もっと……!!」

頭の中が真っ白で、何も考えられなかった。
全身から汗が噴き出し、のど元からあられもない声が溢れ出てしまう。
先輩の手が腰から、太ももを撫で、ある部分へ、ゆっくりと近付いてくる。
その行き場を知って、わたしは声を上げた。

「やぁ!!触っちゃ…だめ……!」
「もう太ももまで溢れてる、やらしいな……のだめ……」

その一言一言が、快楽となって脳に響いていく。
さわさわと陰毛を撫でた後、ぎゅっと肉芽に指を押し当てられ、わたしは悲鳴を上げた。
先輩はかまわず、コリコリとそれを弄ぶ。
その刺激と膣への圧迫感で、いいようのない快楽の波に押し流され、
身体に力が入らず、わたしは肘をついて、シーツに頭をもたれかけた。

「は……ぁ……もぉダメ……いっちゃう……!!」

熱い、熱い、熱い………。
登り詰めていく感覚が身を焦がす。

「俺も……もうだめ……いきそ……」

先輩の声も上ずり、腰の動きが早まる。抉るようにわたしの最奥に押し付けた後、
先輩の精液が体内に注ぎこまれるのを感じながら、わたしも果てた。



「大丈夫?」
「ん……」

気を失っていたのか、眠ってしまったのか……。
多分、ほんの数分の事だったのだろう。
先輩は、ベッドの端に腰掛け、ミネラルウォーターを飲んでいる。

「のだめにも下サイ……」

全身がだるい。
重い身体をなんとか起こして、枕に背を押し当てるようにして体を起こす。

「はい」

わたしの口に冷たい水が注がれる。先輩の口によって。
冷たい水が、事後の甘く火照った体に染み渡る。

「今日、どうした?」
「何がですか?」

急に言われて、何の事だか分からず、先輩の方を見る。

「そんなにしたかったの?」

思わず口に含んだ水を吹き出しそうになる。

「……何の話デスか?」

「……セックス。だってお前すごい乱れて……こら、目そらすなよ」


急遽決まった先輩の演奏旅行。
出発する前は、時間的にも精神的にも余裕なく勉強に打ち込む先輩の姿に、
邪魔にならないよう、先輩の部屋に入るのも抱き合って眠るのも遠慮していた。
出かけてしまった後も、帰って来るまでの時間がまるで永遠のように感じられた。
それは実際にはとても短かかったのにもかかわらず、だ。

「……だって寂しかったんですよ?先輩急にいなくなっちゃうし」

となりに座り、わたしをゆるく抱きしめ、甘く濡れた髪を弄んでいる先輩。
いじわるを言うその唇。濡れた髪。汗ばんだ体。
何もかもが先ほどの情事を、思い起こさせる。
わたしは耳まで赤くなってうつむいた。

「やらしいな、のだめ」

からかうような口調が、腹ただしいような悔しいような、泣き出したい気分だった。
ぷいっと横を向いた。先輩はにやにやしてるに違いない。

「知りマセン!!」

楽しそうな先輩の声を無視して、ベッドに横になり、乱暴に布団をかぶった。
さきほどの痴態の数々が、死ぬほど恥ずかしく、
千秋から優しく与えられるキスからも、身をよじって体を反らす。

「こら、のだめ……愛してるって」

こんなときに、そんな台詞ってなんだか卑怯だ。
それなのに、わたしはフワフワと夢見心地で幸せになる。
こちらを見つめる瞳も、啄ばむようなキスも、
もう拒むこともあきらめて、キスをしながらくすくすと笑いあう。
再び熱を持ち始めた体で、先輩の首に手を回して、耳もとで囁いた。

「のだめも、愛してマスよ」

知ってるよ、とでも言うような余裕綽綽の笑顔が、愛しくも悔しかったので、
わたしはその肩口に噛み付いて、みた。






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