千秋真一×野田恵
![]() 「すいませーん」 ゆっくりと歩いていたところをふと呼びとめられる。 白いセーラー服に紺色のプリーツスカートの少女。 茶色がかった肩までの髪が風になびいている。 中学生くらいか? 「あの、道に迷ってしまって…… イギリス館ってどこにあるか知りまセンか?」 よく見ると観光客用の地図を握り締めている。 制服もこの辺りでは見かけないものだし…… 修学旅行生か。 そういえばしゃべり方もちょっと変だ。 むりやり訛りを矯正しているような…… 少女の持つ地図を覗き込み道筋を教えてやる。 同じ公園内だし、すぐそこだよと言ってやると、うれしそうにふわりと笑った。 「ありがとうございマス。の…私、友達とはぐれちゃって……」 「友達ってあれ?同じ制服の子がいるけど」 同じ制服を着た何人かの中学生が、何かを探すようにして歩いてるのを指差す。 向こうもこちらに気がついたようだ。 黒い髪の少年が一人、こっちに向かって走ってくる。 「あっ、みんな」 「のだめ!あほ!なんで急にいなくなると!」 かけつけた少年が少女の腕を握りしめて何かを叫んでいるが、 何を言っているのか、はっきり言ってさっぱりかわからない。 少年は怒ったような口調で何かをいい、少女はからからと笑う。 ……だいたい「のだめ」ってなんだ?名前か? 「ありがとうございました。本当に助かりマシタ」 俺が考えこんでいる間に話は決着がついたらしい。 少女は礼を言い、手を振りながら、少年と共に仲間の元へ戻っていく。 * * * 「ごめん待たせちゃったかな?」 「いや。俺が早く来すぎたんだよ。今日はどうする?」 「私、映画の券もらったんだ。ちょうどみたいのあったし。行かない? ……ところでなんでそんなニヤニヤしてるの?」 「してねえ。じゃあ行くぞ」 待ちなさいよー、と言いながら彼女が付いてくる。 追いついたその手をとり、からませると、彼女は満足したように笑った。 「なにかいいことでもあったの?千秋君」 別に、と答えるけれど。 ちょっとおもしろいものも見れたし。 ……あのセーラー服の子かわいかったな。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |