千秋真一×野田恵
![]() 「ちょっとのだめーー!このプリーツのスカート何? のだめがワンピ以外の服持ってるなんて珍しいじゃない。」 のだめの部屋に遊びに来ているターニャが、 ベッドの上に無造作に放られたスカートをつまんで言った。 のだめはお盆に乗せて運んできたお茶を、机代わりの段ボールにそっと乗せる。 「それは‘セイフク’デス。日本では学校に通う時、決められた格好をする文化があるんデスよ。 多分、段ボールの中に上もあるはず・・・」 「へぇー、‘セイフク’・・・って何でパリに持ってきてるのよ? こっちの学校ではそんなもの必要ないじゃない!」 「そなんデスけど、ヨーコが新作を送ってきた段ボールの中に紛れ混んでて・・・ 懐かしくてちょっと広げてみたんデス。可愛いでしょ?」 「ふーん・・・あ、これが上ね。あれ・・・?なんかこのデザイン見覚えが・・・ そういえばフランクの部屋でこれと同じような格好のフィギュア見たことあるわ! これよりはもうちょっとスカート丈が短かったけど。」 「それはきっとセ○ムンですネ、日本で人気のアニメデス。ジャパニーズ萌えデス」 「‘もえ’!?それって最近パリでも聞く言葉よね・・・確か‘最高に魅力的’みたいな意味だったような」 「ほへー、そデスねー・・・ちょっと違う気もしマスけど・・・」 セーラー服のスカーフを握りしめたターニャの目がギラリと光った。 「・・・のだめ・・ちょっとこれ着てもいい・・・?」 **************** ピンポーン、玄関チャイムの音が響く。 「のだめー、ターニャー、いる?わざわざ電話で‘カメラ持ってのだめの部屋まで来て’だなんて いったい何が・・・ってうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 玄関が開かれた瞬間、フランクは絶叫して尻餅を付いた。 「ちょっと!何叫んでんのよ!見てー、のだめのセイフクよー♪可愛いでしょ?」 「うーん、ファスナーが上まで届かないデスね・・・写真に撮る分には問題ないと思うんデスが・・」 無理もない、目の前にピチピチのセーラー服を着たターニャがセクシーポーズで立っていたのだから。 「何でセーラー服なの!?しかもちょっと無理があるよ、そのサイズ!ピチピチじゃないかぁ〜〜!!!」 フランクは尻餅を付いたままターニャを指さし、足をバタバタさせてもがいた。 「あら、ボンテージっぽくてセクシーでしょ?これ、‘セーラーフク’って名前なのね? ほら、早く‘最高に魅力的’なわたしを写真に納めてよ! いつも‘コスプレ’の人たちを撮ってるフランクなんだから、バッチリでしょ?」 「コスプレはコスプレでも僕は美しいコスプレイヤーしか写真に収めないんだ!!! ・・・まさかこの写真、ふられた元彼に送ろうとか考えてないよね・・・?」 「ギクッ・・・・!つっ、つべこべ言わずにさっさと撮りなさいよ!!このオタク!!!」 「それが写真撮ってもらう人の態度ーーー!?」 騒音に耐えかね、隣の部屋のドアがゆっくりと開かれる。 「うるさいな・・・人の部屋の側で何ギャーギャー騒いでるんだ・・・?」 「あ!チアキ!助けてよ!ターニャがあんな格好を僕の大事なカメラに収めろってうるさいんだ!」 は?と呟き、目線をターニャに向けた千秋の顔に縦線が勢いよく走った。 しかも傍らにしゃがみ込んでいるのだめは、スカートのファスナーを上げる事に躍起になっている。 悪夢というか、地獄というか・・奇妙そのものの光景である。 「・・・それ・・セーラー服・・なんで・・パリに・・・」 「ヨーコが間違えて送ってきたんデスよ、のだめが中学生だった時のデス。」 口をぱくぱくしながら言葉を絞り出す千秋にのだめが冷静に状況を説明する。 ・・・なんだよそれ・・・ **************** それからも散々騒ぎ散らし、セーヌ川のほとりで‘最高にあり得ない’としか形容できない 写真を撮りおわった頃には、辺りも大分暗くなって来ていた。 「ハー・・もうこのカメラ汚れちゃったヨ・・・・」 「可愛いのはいいんだけど・・・これ・・・体中ミシミシ言うわ・・・早く脱ぎたい・・・」 とぼとぼとお互いの部屋に向かう中、ふと千秋がのだめの腕を掴んだ。 「センパイ?」 突然の事に驚いて振り向いたのだめに、目線をあわすことができない千秋は下を向いた。 「そのー・・・あのさ、ターニャが帰ったら・・制服来て俺の部屋来いよ・・・」 「・・・・何でデスか?」 「えっ・・何て言うか・・そのー・・・お前のセーラー服姿がどれだけ笑えるか見てやろうと思って・・・」 「・・なんデスかそれー!!!のだめのセーラー服姿は正直バリヤバですヨ!!青い果実デスよ!!! すぐ行きマスからおいしいご飯作って待ってて下サイ!!!」 走って自分の部屋へ入っていくのだめの後ろ姿を見ながら、千秋はそっと顔を赤くした。 ・・・・・・俺ってコスプレプレイもOKなヤツだったのか・・・ だってセーラー服だぞ・・・セーラー・・・って・・何考えてるんだ俺・・・・ 「お盛んなのもいいけど、破ったりしないでね?また今度着るから」 「んもー、アダルトビデオみたいな事を本当にしたがるだね、日本の男は・・・」 ばっと顔を上げると、 階段の隙間からターニャとフランクがニヤニヤしながらこちらを見ている事にやっと気付いた。 「・・・・おっ・・おまえら・・・!!!さっさと自分の部屋へ帰れーーーーーーーーーーー!!!!」 真っ赤な顔で両手を振り上げて叫ぶ千秋を見て、二人は蜘蛛の子を散らすように去っていった。 ・・・くそー・・・このアパルトマンでの俺の肩書きがどんどん ‘最高に変態’に近づいてきてるじゃねぇかぁぁぁぁー!!!・・・ 芸術の、美食の・・・そして変態の街。パリの夜はまだまだ長い。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |