千秋真一×野田恵
![]() 「のだめー、もう1軒行くぞー!」 「のぞむトコロですー!」 明日から千秋は、またシュトレーゼマンのツアーに同行することになっている。 ヨーロッパだけならば合間に帰って来ることもできるが、今回は2か月は パリを離れっぱなしになるだろう。 言葉には出さないが、ふたりとも今までになく「寂しい」という感情が生まれていた。 出発の前夜、すこし豪勢な食事をしよう、と千秋は2つ星レストランに予約を入れておき、 祝いでもなんでもないけれど、と思いつつシャンパンをあけた。 2人ともいつもよりも飲んでいて---のだめは元々弱いが、千秋も飲める割にはすぐに酔う。 酔いながらもどこかでもう少し飲もうと決めたものの、 どこに行くかちょっと考えながら、とりあえずあてもなく歩き出しながら 千秋がのだめの手をとり、指を絡めると、のだめが潤んだ目で横顔を見上げる。 “彼女だって、いつまでもコドモじゃないんですからネ” “黙って飼い主を待ってる子犬でもないデスよ” シュトレーゼマンから先日言われた言葉のせいで、小さな不安が千秋の胸の中にあった。 のだめと長期間離れるのがこんなに辛く思えるなんて……おれはどうしたんだ。 すると、そんな考えが伝わったのか、のだめが、千秋の腕をぎゅっと掴んだ。 ん、と顔を見やると、真剣な表情で。 「なに?」 「センパイ……パリを離れている間も、のだめのコトちゃんと覚えていてくださいヨ……」 「何言ってんだよ」 「のだめ、時々不安になるんデス。 ……のだめ、こんなにセンパイが好きなのに……センパイは…?って」 「ばーか、この酔っ払い……」 酔っているせいでこんなことを言っているのは確実だが、 少なからず本気なのだろう、そんなことが伝わってくる言葉だった。 「……それは俺の台詞」 そう言うと、千秋は立ち止まってのだめの肩を強く抱き寄せた。 「……おまえ、最初はただの変態だったのに」 「ムギャー!なんですか変態ってー!」 「その変態のことを……いつのまにかこんなに好きになってるんだからな」 のだめが何も言わないので千秋が顔をのぞきこんでみると、 すこし潤んだ瞳で千秋の目を見つめていた。 「センパイ……のだめ、すごーく、嬉しいデスよ……?」 「おれも……」 2人は、しばし無言になった。 抱いた肩から、触れている手から、お互いの体温が入り込んでくる。 「………やっぱり、帰ろうか」 「……そのほうが、いいかも……」 千秋はのだめの肩を抱いたまま歩き出した。 ほとんど無言で、時折、からめた指を、千秋が優しく撫でさする。 まだ夜半過ぎ、人通りは多い。 もちろん誰もそんなところは見ていないのだが、のだめはその感触に とてもエロティックなものを感じ、自分の中が熱くなるのがわかった。 「はやく、2人きりに、なりたいデス……」 「……ああ」 アパルトマンへ辿りつき、鍵を開けるのももどかしく扉を閉めると、 どちらからともなく唇を合わせた。 豊かな感触。もう、何度となく合わせている唇なのに、 何度味わっても飽きることがない、甘美な瞬間。 強く抱きしめ合い、お互いの背中に手を這わせていた---が、 「………ん」 「あ……あ、きゃ……あ!」 力を入れ過ぎたのか、バランスを崩し、2人ともひっくりかえってしまった。 だけど床の上に倒れた2人は、なぜか笑っていて。 「あー……ばーか…ははは、大丈夫かー…?」 「うふふふーーーっ……」 「はははは……」 「センパイ、すっごい笑顔ですヨ…?」 「なんだか楽しくて……なんだろ?」 「酔っぱらってるからでショー…」 「いや……おまえといるからじゃねーか……?」 「うふふ……今ごろ気付いたんデスか?」 「そう、かもな……」 床に座り込んだままふたたび、のだめの唇が千秋の唇で塞がれた。 お互いを求めるような唇のすきまから漏れる吐息が、だんだんと熱くなってくる。 耐えきれなくなったのだめが彼の頭を抱きしめ、柔らかな黒髪をかきまぜると、 それが合図のようにのだめの身体がふわりと浮き、千秋の腕でベッドまで運ばれた。 唇を重ねたまま、ベッドの上に座らせたのだめのワンピースのファスナーを下ろし、 頭から引き抜く。ブラジャーをはずすと、豊かな双丘がまろび出た。 灯りは点けていないが、月明かりがカーテンを透かして、 のだめの白い肌をかすかに浮き上がらせている。 「センパイも脱いで……ズルイ……」 「ああ……」 千秋は、のだめの身体から視線を外さないままにジャケットを脱いだ。 ネクタイを器用に片手で外して後ろへ放り、シャツのボタンを外しはじめる。 まず、両の手首……それから胸の一番上から…… のだめは、その仕草を美しいと思った。 千秋の指が、丁寧にボタンホールをこじ開けていく、 その指が、これから自分の身体を縦横無尽に動くのだ…… それだけでのだめは濡れるのを自覚した。 「……なに?」 「え?」 「なんか、視線を感じたんだけど」 「イエ、先輩の指が……やっぱり、エッチだな、って見てたんデス」 「誰がエッチだよ……ベルト、外して」 「のだめがデスか?」 「おまえ、初対面のときに人のベルト勝手に外したんだろ、なんだよ今さら」 だって…、と思う。 だって、いま千秋のベルトを外そうとすれば、どうやったって 下腹部---のそばに自分の手がいくことになる。恥ずかしい。 躊躇していると、千秋が自分でのだめの手をとって、ベルトのバックルへ導いた。 「ほら」 「……センパイ、カズオ入ってますヨ?」 のだめは仕方なく、言われた通りに外そうとしてみたが、他人のベルトを外すのは 案外難しくて、力を込めて両手で引っ張らなければならなかった。 「おまえ不器用だな」 「知ってるくせにやらせてる人が何言ってるんですか……あっ」 千秋が、のだめの乳房に手を伸ばしてきた。指先だけで、頂をはじく。 「や……外せなく、なっちゃう……っ」 「がんばれ……」 「ん……っ……あ、やだ…」 千秋からの刺激でのだめの手元は狂い、手が滑って 下腹部に手が当たってしまった。 「ごめんなさい、デス……」 千秋は何も言わなかった。 千秋の悪戯な手をかいくぐりながら、ようやくベルトは外れたが 目でうながされ、ボタンとファスナーも下ろす羽目になる。 露になった下着、そしてそれを押し上げているものが目の前に現れる。 「……触って」 千秋の言葉に促されて、のだめはおずおずと手をのばし、 下着の外から手で触れ、覆い包むようにして形をなぞった。 のだめにはほかの人のものがどうなのか分からないが--- 千秋のもののように美しいものはないのではないかと、いつも思う。 触れるとぴくり、と動き、撫でてみると、またちょっと固さを増したような気がした。 「……来いよ」 千秋は自分で下着を脱ぐと、のだめの背中に手を回し、自分の上に誘った。 のだめが上にまたがるようにして座ると、千秋が指を伸ばしてくる。 「……まだ何もしてないのに、すげ……」 「やだ……」 のだめは頬が熱くなり、千秋の首に腕を回して抱きつき、顔を首筋に埋めた。 千秋はそんなことにはかまわずに、指で泉を探る。 もうそこはすっかり濡れそぼっていて、少し蕾に触れただけでさらに 泉が溢れてくる。 指を1本、そして2本……と挿し入れるとあっさりと飲み込まれた。 「ん…っ……やん」 やがて千秋の大きな手が乳房に触れると、のだめの身体が反った。 下から持ち上げて、円を描くように揉み上げながら乳首を擦ると そのたびごとに身体が震え、一層甘い声がのだめから漏れる。 優しく舐めあげ、舌先で思うまま蹂躙すると、間断なく子猫のような 鳴声があがるようになった。 もう、……だめだ。 千秋は自分の限界が近いことを悟り、のだめの腰を抱いた。 「このままちょっと腰浮かせて……自分の手、添えてみて…」 「ん……あっ……」 「あ……」 包み込まれる。 のだめを抱くときはいつも、千秋はこの中の熱さと気持ち良さに改めて驚く。 のだめがゆっくりと千秋自身を自分の中に埋めていくようにしゃがみ込むと、 千秋はのだめの背中を支えて身体を揺すった。 ゆっくり、そして早く。繰り返し腰を持ち上げては落として。 やがて、のだめも自然と自分で身体を動かし始め、 ふたりの合わさった部分からは水音がしていた。 「や……あ!……はっ……あ……」 「気持ち、よすぎ……っ」 「のだめ、も……う……ダメ……あんっ……あっ」 「め…ぐみ……!」 「しんいちく…ん……!」 ***** 「千秋、体調でも悪いのかい?なんだか、疲れた顔してるけど……」 翌日。 シュトレーゼマンの自家用ジェットに搭乗するため、空港に行くと まずオリバーが声をかけてきた。 「いや、大丈夫……着くまで寝させてくれ」 そんな千秋を見て、シュトレーゼマンが面白そうに声をかける。 「どーせ、昨夜はのだめチャンと別れでも惜しんでたんデショ。 顔色だって、悪いっていうワリにはツヤツヤピカピカ、スッキリしてるじゃない、 ワタシが焚き付けたんだから感謝しなサイよ。 ほんと千秋はやせ我慢の負けず嫌いですからネー」 何とでも言ってくれ。とにかく、今は、眠りたい。 昨夜を思い出しながら−−−。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |