千秋真一×野田恵
![]() のだめと付き合い始めて7ヶ月になる。 と言ってもそれ以前でさえ、まるで俺達は恋人のような生活を送っていたわけだから 普段の生活が物理的に大きく変化したということは無い。 一日の大半は、一緒に過ごすという生活を、もう4年近く送っている。 変わったことと言えばお互いの、相手に対する感情と、体の関係を持つようになったことだ。 たまに喧嘩もするけど、今のところ順調に付き合ってきた…と思っている。 これだけ四六時中傍にいて、いい加減飽きてこないのが不思議だが、それもあいつの 人の意表を付くような行動と、二人ともが目標があるというところに起因するのだろう。 刺激しあうような仲でいられる恋人という点では、俺がずっと昔から無意識に求めていた理想のパートナーだと思っているけれど…。 最近、のだめの様子がおかしい。 いや、おかしいのはいつものことだけど、そういうことじゃなくて…。 まず、今までどこでも置きっぱなしにしていた携帯を、俺の目に触れないようにしだした。 電話が鳴ると、その場で会話をするが、その後は、以前のようにテーブルに置くということは無くなってしっかりとカバンにしまいこむようになった。 もちろん俺は人の携帯を覗くような浅ましいことはしない人間だが、そんな風にさりげなく隠されると何かあるのではないかと疑ってしまいたくなるのが心情だ。 それに、セックスの時の態度が変わってきた。 最近はコンスタントにするようになったから、あいつにも慣れというか、 余裕が出てきたのだとは思うが、なんだか、気が抜けているというか、 前のように、俺のする愛撫に気を失うような昂ぶりで応えるということが少なくなったような感じだ。 終わった後も、いちゃいちゃと俺の腕枕で語り合っていた頃が懐かしくなるほど、 あっさりと一人でシャワーを浴びてしまい、その後はすぐに寝てしまう。 おはようのキスもこちらからアクションしないとしてくれないばかりか、フレンチキスのみになっている。 なにか俺に気に入らないところがあるなら正直に言って欲しい、 このままの状態ならいつまでも悶々と悩まなくてはいけないから…。 と、本人に言って、なんとかこの状況から抜け出したいとは思っているのだが、 決定的な事を言われるのが怖いのと、プライドの高さが邪魔して 言えずにずるずる過ごしているのが現状だ。 いつの間にかこっちが追いかけているような構図になっているのが悔しいが…。 俺の両親が離婚したのは12歳の時だ。 父親はピアニストで俺は3歳からピアノとヴァイオリンを血反吐が出るくらい毎日弾いてきた。 父親のレッスンを受けたのはただ一回だけだった。 母は仕事で海外にしょっちゅう行ってしまう人だったから 俺は叔父の家で、金銭的には何不自由なく生活してきたし、音楽にも励んできた、 指揮者を志す土台も作ってきた。 何人も彼女も出来たし、その都度真剣に相手のことを好きになってきた。 だけど……。 俺が、何度も考えては何度も打ち消してきた'寂しさ'が癒える時は無かった気がする。 のだめに出会うまでは、自分が寂しさを感じていたことに気づきさえしなかった。 のだめがいつも傍にいることで、初めて一人じゃないって思えたんだ。 だから、これからもずっと一緒にいたいと思ってるけど、もしかしたらあいつにとってはそうじゃ無いのかもしれない。 俺が精神の深くでつながっていると一方的に思ってるだけで、俺は昔と同じようにやっぱり一人なのかもしれない。 でも、例えそうだとしても、あいつが俺のことを拒み始めたとしても、 俺があいつのことを求めていることは、もう昔のようにごまかしたりしたくない。 そんなことを考えながら、オケの次回公演の為の楽譜を探していると、窓の下からのだめの声が聞こえる。 もう学校から帰ってくる時間か、と時計を見上げる。 あいつが、数ヶ月前に買ってきたカイワレ栽培セットの置いてある出窓から、 何気なくそちらの方を見て、俺は心臓がカッと熱くなった。 見下ろしたのだめは、ターニャでもフランツでもなく、俺の知らない男と話していたから。 見たことも無い男、日本人では無いことは確かだが、ここからはのだめが目隠しになってよく見えない。 ただ、二人とも本当に楽しそうに笑いながら話していることだけは分かる。 5分ほど話した後、男はのだめの耳元でなにか囁いた後、名残惜しそうに立ち去った。 のだめの方はというと、囁かれた方の耳を押さえてしばらくその場から動けずにいる様子だったが、 やがてこちらを振り向いてエントランスに入っていった。その顔は逆光でさえ分かるくらい真っ赤だった…。 「そーいうことかよ…」 他に好きな奴ができたって考えれば全てに納得がいった。 急に携帯を隠しだしたり、一緒にいても、心ここにあらずという風なのも。 だったら、最初から言えばいい。もう俺のことが好きじゃないって。 俺だけ一人であいつのこと好きで、馬鹿みたいじゃねーかよ。ふざけんな。 悔しいのと悲しいのとごちゃまぜになって、コントロールができない。 頭に血が上って、俺は無意識に玄関のドアを乱暴に開けた。 丁度その時、のだめは螺旋階段を上り終えたところだった。 「ほ、ほわぁー、ビックリした。先輩、いたんデスか。あ、今から出かけるとこデスか?」 「いちゃ悪いか?」 自分でも最高に不愉快な顔をしているのが分かった。 それでのだめが脅えるのも。 「先輩、なんかあったんデスか、顔怖いデスよ」 俺の最悪の出迎えに、負のオーラが感染して、のだめも口をとがらしている。 悪いのは、お前のほうだろ!? 「話があるから、ちょっと来て。」 俺は努めて冷静な声で言うと、のだめの腕を強引に引っ張って部屋に連れいれた。 リビングのソファの上にのだめを乱暴に投げ出すと、あいつは、その上に弾みをつけて沈んだ。 「いった…!先輩、何するんデスか!ひどいデス!」 もう涙目になっているが、ほんとに泣きたいのはこっちだ。 「さっきの男誰…?」 「さっきって…?」 はぁ…。 ため息が出る。今更ごまかした所で無駄だって、こいつも分かってるはずなのに。 「もう、そういうのいいから。聞いたことだけに答えろよ。」 それだけ言うと俺はピアノにもたれかかり、のだめから顔を逸らした。 今から聞く、決定的な告白に俺も心構えが必要だったから。 のだめもただならぬ気配に押されてか、言葉を選んでいるようだった。 「あの、さっきの人は、えっと、マストヴィエーさんっていうドイツ人で、32歳です。」 「そういうことじゃなくて…」 再びため息をつこうとして、固まってしまった。 マストヴィエーってもしかして…。 肉牛 「思いっきり偽名じゃねーか!!」 手近にあった楽譜をのだめに投げつけると、あいつはぎゃぼっと奇声をあげた。 「だって本人がそう言ったんデス!」 「もういい!それで?お互い好きなんだろ?俺と別れたいんだろ!?はぐらかしてないで言えよ!」 のだめは、口を開けてぽかんとしている。今更何驚い… 「ぎゃはははは!先輩、何言ってるんデスか?」 「何がおかしいんだよ!こっちは真剣に…!」 「好きもなにも、今日初めて会ったんデスよー。"タクシー走る道おしえますかー?"って」 「今日初めて…?」 「はいー、それで、今日一緒にご飯食べに行く人いなくて寂しいって言うから、家まで連れてきたんですけどー、彼氏の家デスって言ったら帰っちゃったんデスよー」 「無防備すぎるだろ…って、じゃあ、なんで顔赤くしてたんだよ!見てんだよ俺は。耳に息かけられて、公道でサカりのついた犬みたいにいちゃいちゃと…」 「あ…見てたんデスか…」 「もう言い逃れ出来ねーぞ」 そう言うと俺はゆっくりとのだめに歩み寄った。 見下ろす俺の影がのだめに重なる。 「ふぎっ…、ブラの肩紐落ちてるよって…教えられただけデスよ…」 ぷいっと顔を赤くして顔を背けるのだめに、俺は更に追い討ちをかける。 「分かった。そういうことにしとく。じゃあお前が最近携帯隠すようになったのは、どうやって説明するんだ?」 俺はのだめの脇にあった音符柄のバッグに手を突っ込み、携帯を探した。 すると、あいつは必死に俺の手をのけようとしてくる。 それみたことか。やっぱりやましいことがあるんじゃねーか! 「ぎゃほーー!何するんデスか!やめてくだサイ!やだっ!」 「うるせー!離せ!」 のだめの手を払いのけて、俺は取り出した折りたたみ携帯を、一呼吸置いておもむろに開いた。 すると、そこにあった待ち受け画面には… 「あーーー…!先輩…やだって言ったのに…」 「お前………ふざけんなーーーーーーー!!」 俺は、自分のセミヌードの待ち受け画面の携帯をのだめに全力で叩き付けた。 それはクリーンヒットで、頭を押さえてうずくまっている。 「ひどい…痛い…ひどい…先輩、なんでそんな力いっぱい…」 「あ…ご、ごめん、つい、力が入って…」 「ついって…」 俺はのだめの隣に腰掛けて、今自分が作ってしまったタンコブを撫でた。 「ごめん…。あ、今日何が食べたい?」 「"はぐらかしてないで言えよ"デスよ、先輩。何で急にそんな疑い出したんデスか?」 のだめの射るような視線に俺は立場が無くなり、目を逸らして冷や汗をかくことしか出来なかったんだけど、 その空気に耐えられるわけもなく、とうとう弱いところをさらけ出すことになってしまった。 「だから、最近!……お前が冷たいから……そのっ…もう俺のこと嫌になったのかって…」 「冷たい?…のだめがデスか?…先輩みたいな冷血人間に言われるとは心外デスよ…」 のだめは口をとんがらせて拗ねている。 俺はさっきまでの勢いも手伝って、うつむきながらさっきまで鬱々と悩んでいたことを吐露した。 「だって…お前、終わった後すぐにシャワー浴びに行ったり、最中だって全然身が入ってねーし!キスだって軽いのしか…!」 恥ずかしくて死にそうだった。 なんで俺がこんな女々しい告白をする羽目になってるんだ…? 自慢じゃないが、俺は今まで来る者は拒んでも去る者を追わない性格だったんだ。 それが、なんで一人の女にこんなに振り回されてるんだ? しばらくの沈黙の後、笑い出すかと思ったのだめはぽつりとつぶやいた。 「だって、先輩、最近のだめがお風呂何日も入ってない時に限ってシたがるから…」 「え…?」 のだめにつられて、俺の顔がますます赤くなる。 確かにここのところ、俺はのだめが風呂に入ってない時、匂いだす頃が、特にムラムラ来るというか、 ただの体臭がフェロモンに変換されるようになったのは自覚していた。 なんつーか、俺も変態だとは思うが、一番好きなのは3日目ぐらいで、さりげなく風呂に入らせないように ピアノをがつがつ弾かせたりして調節することは確かにあったけど…。 まさか、それを恥ずかしがってただけ…? 「のだめ…」 「別に先輩がいいならいいんデスけど、のだめだって一応女の子だってことを忘れないでくだサイ!」 俺って、すでにこいつに呆れられるほどの変態になってたのかーーーーー!? 白目になっている俺を尻目に、のだめはソファから立ち上がると 「ぷぷぷ…先輩のそんなとこ初めて見ましたヨ。ほんとに甘えんぼさんなんだから…」 そう言って俺の頭を撫でだした。 くっそー…なんでこの女…… のだめの腕を今度は優しく引っ張ると、俺の胸に倒れこんで見上げているのだめにキスをした。 「お前ムカつく」 「言ってることとやってることがバラバラデスよ…」 「風呂入ってきてもいいけど…」 「先輩こっちの方が好きなんでしょ?今日二日目デスけど…」 「うん、好きだ…」 お前が………。 別に、子供のときもらえなかった愛情を、この年で取り返そうなんて思っているわけじゃないけど…。 でも、甘えんぼさんなんて、俺のプライドが傷つく言葉、言っていいのはこいつだけだ…! 久しぶりにのだめの口腔内をえぐるように嘗め回すと、少しずつお互いの息が荒くなるのが分かった。 深く浅く、何度も、いつまでもキスを繰り返す。 唇を離すと、二人の間に糸が引いて、のだめがそれを舌で軽くすくいあげるのを見て、俺はますます興奮した。 まったく…"盛りのついた犬"は俺の方だな…。 息がうまく吐けなくてハァハァと、本当に獣のようになっているのを自覚しながらもそのまま床にのだめを押し倒した。 「先輩…ベッド…寝室行きませんか…?」 「嫌だ、我慢できない」 「って…隣じゃない…んっんむぅ」 しゃべる隙も与えず再び唇をふさいだ。 間髪入れず、背中のファスナーを一気に下げ、のだめの上半身を露わにすると、 ブラジャーの上から強引に揉みしだく。 のだめの強くつむった目尻にうっすらと涙が滲んでいるのは気付いていたが、もう止められなかった。 こんな乱暴なこと、今まで考えたこともしたこともないのに、優しくしたいと思ってるのに…。 ブラを外さずに押し上げると、小さいピンクの乳頭を強めに吸ったり噛んだりを繰り返す。 乳輪の周りに赤く点が浮かんできて内出血し始め、両手で顔を覆っていた のだめのその手の下からくぐもった嬌声がひっきりなしに響く。 「せんぱ…あっ…あぁ…やぁ…っふ…」 今度は硬く尖らした舌先でチロチロと舐め続けると、背をのけ反らせて、ますます胸を主張してくる。 「あぁっ…せんぱ…急にそんな優しくされたら…のだめ…あっ…あっ…あっ…あぁ!」 のだめは無意識なのか、膝を立てて腰を小刻みに動かし始めた。 その誘うような仕草に誘われるまま、俺はワンピースを一気に足から引っ張り抜くとその間に強引に割り込んだ。 胸から離れ再び軽くキスをした後、舌を伸ばし、のだめの唇を舐め、その間に割り込ませ 、のだめの舌も空中に誘う。虚ろな下目使いの先に、舌だけの絡み合いが映っている。 耳にはその水音も。 その接合部を通じて、俺の唾液が伝わり、のだめの口の周りに水滴を落としている。 片手で、パンツの脇から中指を突っ込むと、そこはもう、本当に"ぐちょぐちょ"という表現がぴったりなほど 濡れていて、俺は思わずつぶやいてしまった。 「すげー…すごい濡れてる…」 すかさず軽いパンチが俺の腕に飛んでくる。 「なんでわざわざ口に出して言うんデスか?はじゅかしいのに…」 「ごめん……でも、ほんとにすごいから触ってみろよ」 「え?」 返事を待たずに、今俺の腕を攻撃していた腕をつかんで自らの秘部に運ぶ。 抵抗する暇も無いその手は下着の中に吸い込まれていって… 「あぁっっ!!」 驚きとも、官能とも取れる声が響いた。 「な…?」 「うぅ…先輩意地悪デス…あぁ…」 俺が秘部から抜いたのだめの指先をねぶるように舐めると、その快感に歯を食いしばって堪えている。 再びのだめに覆いかぶさると、腰紐を解いた。 「うつぶせになって…」 「え…?………はい…」 のだめは一瞬驚いたが、すぐに応じる。抵抗する余裕が無い感じだ。 うつぶせになったのだめのブラのホックを外し、露わになった真っ白な背中。 無駄な肉の無い背中を、背骨に沿って一気に舐め上げる。 「やぁっ!あっ…せんぱ…はぁ…んぅ」 呻いているのだめを尻目に今度はゆっくりとねっとりと背中を舐めると背を反らせて震え出した。 体の下に出来た空間に左手を入れ、乳首をつまんでいじり、右手で濡れそぼったそこを指でなぞる。 完全に逃げ場を無くしたのだめは、俺の為すがままになってぐったりとあえぎ声をあげ続けている。 「はぁ…あ…あ…あ…あっ…せ、せんぱいのエッチ…」 「エッチで結構…ほら、ケツ上げろ…」 背をのけ反らせ、持ち上がった臀部は後ろから見ると何もかもが丸見えで…正直もう挿れたくて仕方ない。 自身がパンパンに主張しているのを自覚しながらも、俺は中指を解放された膣にねじ込んだ。 反対の手でもどかしいながらもベルトと下着を除きながら、中指でピストンを繰り返す。 「あぁぁぁっ!あっ!はっ…あっ…あぁっせんぱい!もう、のだめ…イクっ…」 親指でクリトリスを刺激したのがキッカケになったのか、 のだめは冷たい床に横顔を押し付けながら、ビクビクっと痙攣しはじめた。 俺の指は波のように起こる律動と、泡だった愛液に押し出され、冷たい空中に放り出された。 「あぁ…はぁ…んんぅー…」 のだめは全身で息をしてるという風だ。 俺のほうもむき出しになったペニスの先から我慢汁がしたたり落ちて床を汚していた。 持ち上がっていたのだめの下半身は絶頂を迎えた為か、 力が入らずそのままペタンとうつぶせにぐったりとしていた。 その体をゆっくりと返し、力なく空を見つめているのだめに覆いかぶさると、 位置を調整しながら、ゆっくりと俺はのだめの中に沈んでいった。 まるで息をふきかえしたかのように、のだめは再び喘ぎだした。 俺のピストンに反応して、小刻みな声が耳元で響き続ける。 「あっあっあっあっ…もう…死ん…死ぬぅ…うっ…んうっ…」 「俺も…やばい…んっ…」 パンパンとお互いの皮膚がぶつかり合う音と、ぐちゅぐちゅと湿った音が静かな部屋に響いて、ますます興奮を誘う。 そのまま抱きしめ、お互いの体の間に隙間が出来ないほどぎゅうぎゅうに密着すると、 まるで、皮膚を通り抜けて、一つの塊になってしまったような…本能的なセックスをしているようで…。 「せんぱ…、なんだか、あ…あぁ…」 「分かってる…」 俺はのだめの両足を持ち上げ、肩にかけるとますます奥まで挿入し、腰をホールドするとのだめの奥のほう、 子宮の入り口付近での浅いピストンを加速させた。 「もう………」 「うん…」 はぁはぁと荒い息だけしかお互い出てこない。 再度ののだめの痙攣の直後、俺は全てを吐き出した…。 「……い、先輩…先輩…起きてっ…」 「……んー…?」 「先輩…良かった…ほんとに死んじゃったかと思った…」 「あれ…」 「急に意識が無くなるから心配しまシタよー、もー…」 「え…どれくらい…」 「3分くらいデスけどー、気絶するのはのだめの役目デショー?」 「嫌な役だなそれ…」 「ぷぷぷ…先輩無防備でしたよー、全裸でぇ…」 「え……わーーーーーーーー!」 俺は首を持ち上げ、自分が大の字でなにもかもさらけ出しているのを確認すると叫んでしまった。 いくらセックスした後とは言え、男としてこれはどうなんだ!? 「うふふ、のだめのも全部見たんだから、おあいこデショ?」 そういうのだめはバスタオルを体に巻きつけている。 「おい、ふざけんな、それ取れよ」 「え?嫌デス。」 「俺ん家のタオルは俺の物だろ?返せ。」 「子供デスか、先輩…。元はと言えばこんな部屋のど真ん中でスるから、開けっぴろげなんデスよー」 呆れているのだめを忌々しげに睨んでいると、急に携帯の音が響いた。 「お前の?」 「まだ寝ぼけてるんデスか?あの無機質な電子音は先輩の携帯デショー?」 「俺はあの打ち込みのメロディが嫌いなんだっ」 「分かったから早くでたほがいいデスよぉ」 のだめに促され、散らかっているズボンのポケットから携帯を探り当て、液晶を見ると、発信はシュトレーゼマン。 こんな状況で話すのは嫌だったが仕方なかった。 「もしもし…千秋です」 「あーーチアキー?突然なんデスがー私の甥っ子がねー?」 「甥?」 「そうそう、今度パリに行くそうだから、案内ヨロピクネ?」 「はぁ?」 「もしかしたらもう着いてるかもしれないんデスけどー、着いたらチアキを頼るようには言ってあるカラぁ」 「な…勝手に…!困ります、俺も仕事あるし…!」 「女とイチャイチャしてる暇があればダイジョーブでショー?」 なんで分かるんだ……ジジィ… 「それに、私に似てとってもジェントルマンですヨ?」 ジジィに似て…? 俺は隣で聞き耳を立てているのだめに目をやった。 「もう会ってます………」 「えーーナニーーー?聞こえないヨーーー、あぁ、エリーゼ少し黙って…と、とにかく師匠命令デスのでー」 プツッ ツー ツー… 俺は震える手で携帯を握り締めたまましばらく動けずにいた。 やっぱり同じDNAかーーー! 「先輩?ミルヒ、なんて?またどっかにお仕事デスか…?」 寂しそうにうつむくのだめを抱きしめて再び床に寝転んだ。 「いや…当分はパリを離れられないと思う…。」 諦めにも似た気持ちでつぶやいた。…が、大事な事を俺は忘れていなかった。 「おい、お前、携帯出せ」 「え……?な、何でデスか?」 俺の胸の上で白々しく目を逸らす。 「何ででも!お前の行動パターンは読めてんだよ!」 さっきと同様に必死に自分の携帯をガードするのだめを押しのけて再度液晶を見ると…案の定… 「お前…こんな局所のアップ待ち受けにするなんて、どういう神経してるんだ…?本当に女か…?」 「女デスよー、先輩が一番良く知ってるデショ?ぎゃはっ」 「ぎゃはじゃねーーーーー!!」 何でさっきまであんなに不安だったんだろう…。 こいつはこんなにも俺のことが好きなのに、知ってたはずなのに。 もちろん俺だって…。 じゃれあいながら、のだめの胸に顔をうずめる。 「先輩…?」 「しばらく、このまま…。安心するから…。」 「ほんと…先輩はぁ…」 「分かったって…、いいだろ、二人の時くらい…」 「でも、のだめ以外の人には駄目デスからね…」 「うん…」 こんな弱いところさらけ出せるのはこいつだけなんだから…。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |