ある日の終演後
千秋真一×野田恵


――ある日の終演後――

コンコン…

(このノックは…のだめだ。まだ興奮してるはず…)

「どうぞ。」
「のだめデース、お疲れ様でした!」
「おう、どうだった?」
「コンチェルト良かったデス!でもソリスト変わってましたねー何かあったんですか?」
「あぁ、急遽来れなくなって…4番(シンフォニー)に変えようかとも思ったんだけど、
うちのオケじゃ心配だし、人気ある曲だったし、結局コンマスにやってもらった。」
「コンマスさん流石です!よく指まわりますヨー、あ、先輩は弾けますよね。」
「いや、あれは超絶技巧だから…今はどうかな。まぁ指揮よりはイケるかも?(なんて)」

今日はそれなりに満足のいく出来だったが、ちょっと謙遜して言ってみる千秋。

「絶対そデスよー!先輩の指揮、コンクルの時とあんまり変わってなくてー、
のだめ真似できそうでした。アハー」

(…こいつは時々こういう鋭い事をグサッと遠慮なしに言う…)

「先輩照れ屋さんだから、ロマンチックなくねくねはズバリ苦手なんでショ!」

(まだ言うか…)

「べっ別に苦手ってことは…
ただ、コンクールは別にして、ほんとはもっと時代を追って勉強したいんだよ。
そんなに器用じゃないし…チャイコみたいな後期はまだまだ先でさ。
でも常任とは言え、俺みたいな駆け出しの若造は選曲に口出しできないしなー。」
「真一くん、苦手だからって言い訳は良くないですヨ?」
「言い訳じゃねーーー!!!」

思わずのだめの首を絞める。

「ぎゃぼーーー!!!」

コンコンコン!

「は、はい(今度は誰だよおい…)。」
「「千秋!今日のオール・チャイコフスキー・プロ大成功だったねー!」」
「アラン、ロラン……トラお疲れ。すごく助かったよ。」
「こっちこそ千秋の振るオケにのれて嬉しかったよ!話したい事いっぱいあるんだーv」
「ちょ、ちょっと待って。」
「あ、ゴメン。奥さんだっけ?かわいー」
「まぁ!いつも主人がお世話にな」言いかけたところで空かさず声が掻き消される。
「まさか!!ただの大学の後輩だよ、今こっちに留学してて。
のだめ、俺ここでシャワー浴びて真っ直ぐ会場行くから。
お前一度家帰って着替えて来いよ。ホテルわかるだろ?じゃな。」
「え……じゃあ後ほど…お先です。」

トボトボと部屋を後にするのだめ。

(なんか冷たい…まるで早く帰れと言わんばかりデス。オマケにただの後輩って…)

「千秋いいの?帰しちゃってー」
「あぁ、殆どうちに寄生してるヤツだし。」
「それって同棲!?どこがただの後輩なんだよー彼女の前で素直じゃないね千秋!」
「うっ…」


――レセプション会場にて――

壇上での挨拶も終わり、乾杯後、楽団員の一人と談笑している千秋。

「千秋は本当に耳がいいね!ミスは必ず指摘されるし…
お陰で君が指揮する時は、いつも一度さらっていかないといけないよーいやぁツライ!」
「ははは…僕、全部の音が把握できてないとなんかダメなんですよね。すみません。」
「いやいや、指揮者にとって耳は命だよ。君は本当に恵まれてるってことさ。」
「ありがとうございます。…あ。」
「ん?どうかした?」
「せんぱ〜い!どうですか!?淑女なのだめvvv」

母親が作ったであろう緑のドレス姿で、のだめが駆け寄って来た。

「…ケバい。」
「ぴぎゃ!こゆカッコの時は、お化粧しないと顔がドレスに負けちゃうんデス!」
「もうちょっとうまく出来ないわけ?ハハッ、なんか目ぇ黒いぞ。」

(やべ、口が勝手に…)

「人前でそんな言い方しなくても…この日のために練習までしてお化粧頑張ったのに…」
「なにナイーブぶってんだよ、らしくねー。」

(やばい!)

「…もういいデス。」
「あ、おい。」
「向こうで飲んでマス。」

(怒った…よな)

「千秋の恋人?」
「え?ええ、まぁ…彼女コンセルヴァトワールの学生なんです。
俺もピアノはずっとやってたんですけど…それこそプロでやっていけるくらいに。
でも、あいつのあのピアノを聴くと、つくづく自分は凡人だって感じるんですよ。」
「君にそこまで言わせるなんて、さぞかし素晴らしいピアニストなんだろうね。」
「機会があれば是非一度聴いてやって下さい。まさに未完の大器ですから。」
「そりゃ楽しみだ!友人が来てるんでそろそろ行くよ。じゃ、また後で。」

(はぁ…
のだめがいないと、言えるんだよなぁ。
あいつを褒めたり…俺達の関係についても正直になれるし…
ただ本人を前にしては、なかなか照れ臭くもあり、こっぱずかしくもあり…
結果わざと怒らせるような事をして…
……謝ろう。)

ひたすらワインを飲んでいるのだめを見つけ、声をかける。

「あんま飲み過ぎんなよ。お前弱いんだから…」
「飲みたい気分なんデス。」
「でもメシ食ってないんだろ?空腹で飲むと酔うぞ。」

気を遣って優しくしているつもりの千秋。

「ほっといて下サイ。
それよりのだめみたいなちんちくりんと一緒だと笑われるんじゃないですか?」
「…何か取ってきてやる。」

(まともに会うの三日ぶりなのに…話したい事も沢山あるのに…
なんかどんどん嫌な方向に進んでいく――――って原因は俺にあるけど。)

関係者に挨拶をしつつ、せかせかとのだめが好きそうな料理を皿にのせていく。
会場の隅では、相変わらずワインを飲んでいるのだめ。
入れ替わり立ち代り、楽団員に声をかけられている。
珍しくドレスアップしたのだめ…施された化粧は彼女を普段より大人っぽく見せて。
男なら必ず目がいくであろう姿。

(本当は、すごく可愛いのになー…)

「失礼。のだめ、コレ。」皿を差し出す。
「あっ千秋!君の連れだったの?」
「ええ、お疲れ様です。いい音出てましたよ。」
「練習であれだけダメ出されりゃね!」
「今日は客入りも良くて…定期でもあれくらい埋まればいいんですけど。」
「そうだなー、ま、僕らは自分の仕事をきっちりやるだけさ。
じゃ、これで。あっ千秋、そんなカワイイ彼女ほっといちゃ駄目だぞ!」

今までニコニコ話を聞いていたのに、二人になると急に無表情になる。

「…ほら、食えよ。」
「いりまセン。」ぷいと横を向く。
「いいから食え!」
「いらナイって言って」

―――ベチャ。

無理矢理差し出された皿にのだめの手がクリーンヒット。
皿の中身は、無残にも床と千秋に飛び散り…自分の腹の辺りを見て呆然とする白目千秋。

「ふぎゃー!!!」
「おーまーえー!!!よくも…!!」
「もったいないヨーのだめのゴハン!!」

床に屈み込む。

「ってそっちかよオイ!大体食わないんじゃなかったのか?」
「それは言葉の綾デス!(意味不明)
ぎゃぼ!!せ、先輩、服にゴハンが!あわわ、ゴメンナサイ…」
「ったく…」
「ど、どうしましょうカ。」
「今日…上に部屋とってあるから。」
「えっ…?」
「とりあえず汚れ落として、駄目なら着替える。フォーマルはないけど、仕方ないな。」
「あ、そゆ意味デスね…のだめもお手伝いしマス。」

言いながら早速部屋に向かうのだめ。なぜかその耳は赤く…
後ろを歩きながらそれに気付いた千秋は、頬が緩むのを止められないのだった。

部屋にはキングサイズのダブルベッドが一つ。アメニティは全て二つずつ。
勘違いではなく、千秋が自分と過ごすために予め用意していたのだと気付いたのだめは、
ますます顔が赤くなる。

「…さぁさ、脱いで下サイ!早く汚れを落とさないと。」

誤魔化すように上着を脱がせるが何となく千秋の顔が見れない。

「…今日、悪かったな…」
「へ?」

あまりにも唐突だったが、千秋は千秋でずっとこのタイミングを計っていた。

「なんか、お前との関係を人に悟られるのが恥ずかしいっつーか…」
「のだめと一緒じゃ恥ずかしいんデスか。」思い出しややムッとする。
「ちっ違……なんかその、照れ臭くて…ガキみたいだけど。」
「好きなコにわざと意地悪するってやつデスか?」
「それはあんまりだろ!…でも、人前だと思ってもない事言ったり…だからそうかも。」

何も言わずにふふっと笑うのだめ。

「ゴメン。ほんとは今日のお前、すげぇ可愛いって思った。綺麗だって…」
「むきゃ!今のもっかい言って下サイ!!」

そう言われてハッと我に返る。

(俺としたことが、つい雰囲気に流されて―――ま、たまにはいいか…お詫びも兼ねて。)

「可愛い…連れて歩きたい…いや、やっぱ誰にも見せたくない…」

抱き締めながら耳元で囁く。

「アヘー。先輩が優しいデス…なんか、ヘン。」
「人がいなきゃこれくらい…」
「ホントに素直じゃないデスねー…」

のだめが背中に手を回したのを合図に、唇を重ねる。
チュッ、チュッ、と甘いキスを繰り返す。

「あ、そだ。先輩、着替えて、早く洗わないと…」
「ん…脱がせて……?」
「もう…甘えんぼー」

シュルル…

ネクタイを床に落とし、白いシャツのボタンを一つずつはずしていく。
千秋の逞しい胸が露わになると、のだめは体がカァッと熱くなった。
お互いの事情…仕事やら、勉強やら、生理やらで、約三週間ぶりに見る体だった。
シャツを腕から抜き取りながら、思わずその胸に唇を寄せた。
はじめは軽いキスだったが、その内に舌を使い、吸い付き、その動きは激しくなる。
のだめの積極的な愛撫に千秋は驚いたが、快感に身を委ねる。
乳首をチロチロと舐めると、千秋の口から掠れた声が漏れた。

「あぁ…」
「真一くん…」

のだめは手と口を器用に使って至る所を刺激し、遂にズボンの上から千秋自身に触れた。
既に興奮を帯びているそれを取り出すと、慌てて千秋が体を離す。

「お、おい、無理しなくていいから…なんかテンポ速くないか?今日…」
「だめ…だめ、我慢できないんデス…のだめが…だから…お願い」

そう言うと音を立てながら何度も何度もキスをした。
どんどん堅さを増していくそれと、千秋の喘ぎが嬉しくて、更に刺激を加える。
袋を優しく揉みながら手で幹をこすっては、裏側に舌を這わせる。

「のだめ…気持ちい…」

十分に濡らした舌で亀頭をチロチロと舐め回す。
その先には先汁が滲み出ていた。
小さな口でパンパンに膨れ上がったモノを咥え込んだ。

「あああ!!」
「ンッンッンッ…」

フォーマルなドレスに身を包んだのだめが、今、自分に跪き奉仕している…
それだけで千秋の満足感は高まった。
背中を反らし、必死に耐える千秋。

「あ、あぁ、ダメだ…」

綺麗に結上げたのだめの頭を持ち、寸前にその色っぽい顔を見つめ、絶頂を迎えた。

「の・だめ・・ッ!!!」
「!!!!!」

口の中に放出され、咽そうになるのを堪えてトイレに駆け込んだ。

「ごめん…出すつもりなかったのに…」
「気にしないで下サイ…のだめこそ、あゆトキ飲み込んだ方がイイって知ってたのに…」
「バカ…!そういう恥ずかしい事言うな。それより…」
「なんデスか?」
「今度はお前の番。」

「むきゃ!」

のだめを軽々と抱き上げるとベッドへ移動した。
アップにしていた髪を下ろし、それらを耳にかけつつ、大きな手で頭を撫でる。

「…でもなんか、脱がすの勿体無いな。」
「のだめ、着替えなんて持って来てませんヨ…お泊りになるなんて思わなかったし…
だから脱ぎマス!」
「脱ぎますってお前……じゃあ遠慮なく。」

のだめの顔中にキスの雨を降らせながら、ドレスを剥いでいく。

「真一くん、大好き…」
「知ってる」

二人微笑みながら自然と唇を重ねる。この上なく幸せな瞬間。
そして徐々に深く、互いの口内を貪るようなキスへと変化する。
千秋の唇は耳や首筋へと移り、その手は豊かな乳房を揉んでいた。
のだめからは溜息が漏れる。
堅く立ち上がった蕾を舌で弄ぶと、痺れたようにピクピクと震えた。

「ンン…」

その声に興奮した千秋は、乳首を指で転がしながら腹の上を舐め回る。

(もっと悦ばせたい…。)

次第にそれは肝心な部分へと降りていき、のだめも覚悟を決めたその瞬間、
予想に反して千秋はのだめの足の指を咥えていた。

(くすぐったいけど気持ちイイ…ほわぁ…これが噂の…クレオパトラの気分デス。)

「あぁ…ん…」

明らかに感じている様子ののだめを見て、嬉しくなる千秋。
足の裏を十分に刺激したのち、ふくらはぎや膝小僧を通って、太ももを丹念に愛撫する。
のだめの秘所にそっと手を伸ばすと、下着の意味を成さない程に濡れていたため、
両脇の紐を解いた。

「のだめ、いい…?」
「ン…きて…早く…」

泣くような声で訴える。こういう時だけタメ口になるのも可愛くて…
既に復活しているペニスにゴムを被せ、一気に侵入した。
初めて体を重ねた時と違い、千秋のモノにすっかり慣れたのだめの膣内は、
挿入だけでは強烈な締め付けはない。
しかしひと度動くと、お互いを離さんばかりの密着が得られるのだった。

「あぁ…すげ……」

本能のままに激しくピストンを繰り返すと、それに合わせてのだめが鳴く。
イキそうになったその時、さらにクリトリスを刺激した。

「ほわぁ!!!」

のだめが絶頂を迎えた瞬間、その中へギュッと咥え込まれ、千秋もまた達した。

「はぁっ、はぁっ…」

「…真一くん…なんか、久しぶりだから…」
「ん…そうだな…」
「すごく恥ずかしいケド、すごく嬉しいデス…」
「俺も…ずっと欲しかった…ちょっと疲れたけど。」
「のだめも!…ぷぷ…」
「はは…風呂入って寝るかー、あ、やっぱシャワーでいい?」
「大賛成デス!」

ベッドにごろんと横になる二人。

「はふースッキリしましたねー」
「ああ…久々に、すげぇ気持ちよく眠れそ…(幸せだー…)」
「…真一くん。」
「ん?」
「ウソですよ。」
「…何の事?」
「今日、楽屋で…勝手にチャイコ苦手とか…指揮よりヴァイオリンの方が上手いとか…」

ククッと千秋が笑う。

「真一くん?」
「お前当たってるよ。お前の言う通り!図星だから悔しいんだよ。」
「苦手…デスか?」
「だーかーらー、お前わかってんだろ?確かにちょっと勉強不足だったかも…
しかも、自分でそれに気付かない程、最近思い上がってた。恥ずかしいよ、ほんと。」
「でも戴冠式祝典行進曲しゅてきでしたヨ!ワクワクしました!」
「…あれは…短いし。」
「それからロメオとジュリエット(幻想序曲)、すごくカッコよかったデスよ!
あれ振ってる時の真一くんが一番好き…」
「…バーカ。でも…サンキュ。」
「のだめの本気の本心デスから!」
「必ずリベンジする。…お前とも、ピアコン1番とかやりたいしな?」
「むきゃ!やります、絶対やります!!約束ですヨ?」
「あぁ、約束。」

指切りの代わりにのだめの鼻先に人指し指で触れる。

「ふふ…」

お互いの鼻をこすり合わせる。右から…左から…
そして最後に唇に、甘い甘い口付け。

「お疲れサマ、真一くん…ゆっくり休んで…」

(どうか今夜だけは、この人が何物にも縛られずに、安らかに眠れますように…)

千秋の黒髪を愛しそうに撫でる。

「ん、おやすみ…」






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