千秋真一×野田恵
![]() 先輩が、近頃疲れてるように見えるのは、きっと気のせいじゃない。 こないだの公演でも、先輩曰く“決壊”だったらしいから。 のだめは、先輩でもうまくいかないことがあるんだなぁって微笑ましかったけど 完ぺき主義の先輩からすれば、当然納得いかないことが多いわけで。 でも、そうやって必死になってマルレの為に頑張ってる姿見ると、 なぜかホンワカした気持ちになるのって、おかしいかな? “自転車の輪ッパを初めて外して練習してるのを見守ってるような気持ちデス!”って言ったら ものすごい勢いで首絞められたから、もうあんまり触れないようにしてるけど…。 今日の夕食は、のだめがロレンツォさんのお店で焼いてもらったピザをテイクアウトして、 おまけにナポリのワインも貰って、先輩の好きなイタリアンを用意したのに 食べ終わったらまた楽譜に集中してる。 よく見たら、ヒゲもちょびちょび生えてるし…。ハリセンセンセみたいになっちゃいマスよ? ソファに体を沈めて、旋律を指で追ってる姿を見たら、声を掛けづらくて、 こうして同じ部屋にいるのに、本当、ただの空気みたいな存在になってる。 いちお、のだめ、千秋先輩の妻デスよ?なんて、アピールしてみようと思ったけど…やめた。 ここはパリなんだもん。 のだめだって、やらなきゃいけないこと、いっぱいあるし、 それと同じくらい先輩にもやらなきゃいけないことがきっとあるんだ。 遊びに来てるわけじゃないんだし。 のだめもバッハのクラヴィーア、明日までに6番まで仕上げなきゃいけないんだった。 のだめだって、いつまでも日本にいた時と同じだと思ったら大間違いデスよ? 一生懸命楽譜と闘ってる先輩に向けて、戦友の証のブイサインを向けたら、 もう今日は部屋に帰って練習の時間にしよう。 「じゃあ、先輩、のだめ、もうお部屋に帰りマスね。お風呂は入ってくだサイね!ヒゲも!」 って、いつもと反対の立場で言ってみたら、片手をあげて、おー、だって。 えっらっそーー!に言われてムカッとくるのと、気安さにトキメクのと、 半々の複雑な気持ちになった。 のだめが部屋を出て行ったら、急に疲れてきて、楽譜を置いて一服した。 最後、あいつなんて言ってったっけ?風呂入れとかなんとか…。 あいつに言われるなんて、よっぽどのことだな。 苦笑いをして、タバコを消すと、重い腰を上げてシャワーに向かった。 3日振りの風呂に入りながら、やっぱり考えるのはオケのこと。 別に次回の公演なんてまだまだ先の話で、曲でさえ決まっていないのに どうやって建て直そうかと考えると、結局勉強することしか出来ないなんて 視野が狭すぎるのかな、俺って…。 一度コンマスと飲みにでも行けば、もっと建設的な考え方も浮かぶかもしれないのに あの馬鹿にしきった態度を思い出すと、どうしても張り合ってしまいたくなるなんて、子供発想かも。 きっと、あの人はあの人で、考えもあるんだろうに、そこを理解しようとすると いつもなんかが引っ掛かって、“決壊”…。 くっそーーー…。 長めの風呂から出て、あいつの言葉を思い出してヒゲを剃る。 鏡を見るのも3日振りか…。剃り残しが無いか確かめようとして顎を撫でていると 視界に白い影がぼんやり浮かび上がって消えた。 反射的に体を硬直させ、振り向くと、…誰もいない。 気のせいか…。 シャワールームから出て、水を取りにリビングに向かっている時だった。 視界を掠めるベッド…の上に、なにか……。 「のだめか…!?」 「のだめデス…戸締り用心…」 なぜかホタル状態ののだめが、ベッドの上で体育座りをしていた。 …って言っても、部屋に帰ってまだ30分程しか経ってないのに、なぜいきなりホタル? 「なんか、あったのか?」 本能的に聞かない方がいいと思ったが、放っておくわけにもいかず、 タオルで髪の毛を拭きながら声を掛ける。…と、突然ワッと泣き出した。 「先輩〜〜!楽譜…楽譜ガコに忘れてきちゃったデス!一緒に取りに行ってくだサイ〜!」 はぁ…。思わずタオルを手から取り落とした…。 「そんなの、明日朝早く行けばいいじゃねーか!大体、こんな時間に学校が開いてる訳ねーだろ!」 「明日のレッスンで見てもらう曲なんデス!それに、この時間ってまだ8時デスよ!?」 のだめは俺をキッと睨んだ。 お前、もう少し申し訳無さそうにしろよ、それが人に物を頼む態度か? つーか、正直面倒臭い!あ〜〜!もう! 「…分かったよ…。行きゃいいんだろ?」 ため息を吐いて、タオルを拾うと、のだめが逆切れし始めた。 「やっぱ、一人で行てきマス…。も、いいデス。邪魔してごめんなさい!」 はぁ?じゃあ最初から言うんじゃねーよ! 聞いた後で一人で行かせるなんて、男として許されるのか? こいつ、俺の性格知った上でこんなぐちゃぐちゃと…面倒くせー女だな! しおらしく頼めばこっちだってもう少し快くOKするんだよ!この変態女! いつもだったら些細なやり取りで終わるようなことなのに、なぜか今日は感情のブレーキが利かない。 オケのことで神経が疲れてるからなのか? いつもののだめの失敗なのに、妙にムカついてくる。 「……じゃあ最初から一人で行けよ。大体お前、いつも練習で10時くらいまでいる時あんじゃん」 「そ、それは、黒木君やポールと一緒の時だけでしょ!?」 なんで、今黒木君の名前出すんだよ!馬鹿のだめ! 「………お願いしますって頼んだら付いてってやるよ」 あ…ヤバイ、泣く…かな? のだめの目はみるみる涙を溜めてボヤけ始めた。 次の瞬間、泣き顔を見られないように顔をプイッと背けた様子が、俺を焦らせた。 「あ……のだめ?あの…」 ごめん、と言おうとして近づいたが、俺の動線をよけるように玄関に向かったのだめは ドアを開けると、大きくバンッと音を立てながら出て行った。 自分の部屋に帰ってマフラーとコートを着けると、そのまま外に飛び出した。 悔し涙がどんどん零れて、そこに冷たい風が吹くから顔が痛くて堪らない。 のだめだって、先輩がお風呂もご飯作りも忘れて音楽に集中してるの、邪魔したく無かった。 だから、今日は声も少ししか掛けずにすぐに部屋に帰ったし、 ちゃんとピアノ、自分のことやろうと思ってたのに! 結局、のだめが先輩のこと考えてるの、全然伝わってないし、分かろうともしてくれてないんだ! のだめが気ぃ使っても、先輩にとっては当たり前のことで、こっちが困ってる時に 助けを求めるのは先輩にとっては邪魔臭いだけなんだ! もう、先輩のこと心配したり、考えたり、そういうの、もうやめてやる。 もう自分のことは自分でやって、関わらないようにすればいいんでショ! 一人で早歩きでメトロまで向かうと、ブーツからズンズンと音が出そうなくらいだった。 すごい泣き顔で、こんな勢い良く歩く変な日本人。いいもん、変で。うるさい、だまれデスよ! 先輩も、ジロジロ見てくる人たちも、みんなウルサイ! RERのA線。 ジプシーが多くて、一番治安が悪いって評判のA線。 先輩だってこれ乗るの、知ってるはずなのに…。 のだめ、観光客じゃないからお金なんて持ってないけど、現地の人にしてみたら そんな事情関係なしに、日本人だけって言う理由で狙われるって、先輩だって言ってたデショ? 微かに周りを警戒しながらも、座席に座って俯いていると、また涙が溢れた。 妙な発車のメロディと共に電車が動くと、ポケットから携帯を取り出して開いても、当然着信は無し。 しばらくそのまま画面を見つめていたけど、鳴らなかったから、もういい。一人で行く、関係ない。 気が付くと、隣にお腹の出た男の人が座った。少し窓際に身を寄せて、そのままシートに体を預けていると… 気のせいかな…?ううん、やっぱり…視線を感じる…。 顔、上げる勇気が出ない…へ、変な人だったりして…。ど、どしよ、さりげなく立って別の席に移ろうにも 隣の人が思い切り足を投げ出してるから、それをまたがなきゃ通路には出られないし 第一そんな不自然なことして刺激しない方がいいのかも…。 体が固まったまま、頭の中で色んなこと考えてたら、突然その男の人が堪えきれないように笑い出した。 「…ぶっ…くくく…あはは…」 ……!ほ、ほんとに変な人だったーー! ぎゃぼ、ど、どうしよ…。 頭が真っ白になって、やっぱり体を硬直させていることしか出来なくて。 でも、その人が口にしたのは、日本語だった。 「め、恵ちゃん、だよね?千秋の…。君、反応が分かり易すぎて…くくくっ、そんな怯えた態度 よ、余計危ないって…ぶっ…ははは!」 「もきゃーー!田代さん!?」 見上げた相手は、こないだ千秋先輩の家で見た酔っ払い。 先輩の先輩だから、一応指揮者らしいけど…、かなりのど変態って先輩言ってた。 「松田だし…。松田幸久。君、記憶喪失なのか、馬鹿なのか、どっち…?」 あ…お風呂覗かれた印象が強すぎて、田代でインプットされてたみたいデス…って言おうと 思ったけど、相手が既に不愉快な顔してたから、やめといた。 「だって、変な人かと思ったから、怖かったんデスよ!のだめの勘は大当たりでシタ! もーー、なんでこんなガラガラなのに隣来るんデスか?心臓ばくばくだったデスよ!」 「おい…誰が変な人だって?こんな遅くに女の子一人で乗ってるから、誰かの代わりにナイト役 引き受けようとしたげたのに。…って、ほんとに一人?」 そう言って松田さんは周りをぐるりと見回して、…先輩の姿を探してるみたい。 「のだめ、一人デスよ。もーー平気デスから向こう行ってくだサイ!胞子が飛びマス!」 「おい、おれは菌糸か!?ほんとにど変態女だな!」 そう言いながらも、席を立とうとしない松田さんに、正直少し…ううん、たくさんホッとしてる。 だって、また隣に変な人が座ったら、今度こそどうしていいか分からないから。 多分…のだめが泣いてたのもどっかで見てたのかな…。 「で、喧嘩の原因は?」 ニヤニヤしながら聞いてくる松田さんに、隠そうとしたけど、きっと見抜く人だと思った。 でも、喧嘩の原因なんて些細過ぎて、わざわざ話す気にもなれなくて、小さいことデス、 って言ったら、あっそ、とだけ言って、それから何も聞かれなかったから。 ささくれ立ってた心の棘が、ほんの少ーしだけ(強調!)柔らかくなった気がしたんだ。 その後無言で電車に体を預けてたら、のだめが降りる駅に到着した。 あ…そいえば、松田さん、どこ行くつもりなんだろ? 座席から立ち上がりながら、お礼を言おうとしたら、なぜか松田さんも一緒に立った。 「あの…どこ行くんデスか?」 「別に君に関係無いでしょー。たまたま僕もここで降りるの。 いるんだよなー自意識過剰な女。たまたま道が一緒なだけなのに、後ろを歩いてるだけで 高速ダッシュで走って逃げる奴。誰もお前なんかストーキングしてねぇって言いたくなるよ」 「あのー、のだめただ聞いただけデスし、それに、逃げられるのはその人が 見るからに怪しいからだと思いマスよ?」 そう言ったら、グッと、喉の奥の方で鳴らして握った拳を震わせてたから、思わず笑っちゃった。 駅から学校までは歩いて10分位。 街灯が無い通りとかもあるけど、松田さんはなぜか校門まで一緒に来てくれた。 流石に馬鹿なのだめでも、付き添ってくれてるのが分かって。 お礼を言おうとしたけど、なんか今更、なんて言っていいか分かんない。 「あの…」 そこまで言ったら、なぜか照れ臭くなって、黙ってしまった。 「学校に、なんか用事なの?」 松田さんが聞いてくれて、楽譜のこと話したら、俺も一緒に行こうかって、言ってくれた。 甘えても…いいのかな。ううん、今は甘えさせてほしい。 そう思って、お願いしますって言おうとしたら、急に遠くを見つめだして、のだめのこともう見てなかった。 「あの…」 もっかい言ったら、急に背中を向けて 「あー、ごめん、今日は急用があったんだった。気を付けて帰りなさいね。」 って、そのまますたすたと歩いて行ってしまった。 別に、松田さんなんて、今日で会うの二回目だし、冷たくされてもなんとも思わない…はずなのに 先輩と喧嘩した後だから、余計…。 あちゃ、また泣きそう…、世界でのだめ一人置いてきぼりにされたみたい。 もう、いいもん。のだめ自分で自分のことやるし、出来るし。 松田さんの姿が見えなくなるまでそのままぼけっとしてたけど、涙がぽろっと出たら 誰も見てないはずだけど、恥ずかしくて、早足で校舎の方に歩き始めた。 ドアの閉まる激しい音が耳の中で反響して止まなかった。 急いで追いかけようとしたけど…。 くそっ、なんでこんなプライドが高いんだ、俺は。 のだめがもう一度、やっぱり付いてきてくだサイ、っていつものように頼みに来るのを 馬鹿みたいに期待してる。 いつでも出れるように、コートだけは身に付けてベッドの上でじっとしてるけど チャイムも鳴らなきゃ携帯も鳴らない。 まさか…本当に一人で行ったのか!? もし、そうだとしたら、今更メトロに乗って追いかけても…遅すぎる。 夜のA線に…一人で…。 くそっ、なんでこんなに負けず嫌いなんだよ俺は!馬鹿か? 携帯を鳴らしたけど、地下鉄に乗ってるであろうのだめの携帯には電波が届かない。 無機質な留守電の音声が流れるだけだった。 急いで外に出ると、通りまで出てタクシーを拾った。 「中央音楽院まで急いで」 それだけ運転手に告げると、目を閉じてシートにもたれた。 今日は…、夕食もあいつが支度してくれて、俺が全然構ってやれないのに いつもみたいに、ちょっかいかけて邪魔してくることも無くて…。 そう言えば、珍しくすぐに部屋に帰ったよな。 風呂とか、ヒゲ剃れとか、おせっかいなことも言ったけど、それは俺のこと考えてくれたからで。 楽譜、きっと今日どうしても要るやつだったんだよな。 それで、ちゃんとピアノ練習するはずで…。 俺に気を使ってすぐに部屋に帰ったのに、それでも学校まで付いてきて、なんて、 あいつだってきっと言い出しにくかったはずなのに…。 俺って…ほんとにカズオかも…。 タクシーを降りると、小走りで校門の方に向かった。 ちくしょー、あの運転手、一方通行嫌がりやがって、結局こうして歩くんじゃねーか! 眉間に皺を寄せながら歩くと、丁度、早足で小さくなっていくのだめが見えた。 良かった…!無事に着いたんだな。 心の底から安心して、眉がハの字になるのが、自分でも分かって自然に笑みが零れた。 「のだめ!」 後ろから、大声で声を掛けられて、びっくりして足が止まった。 聞き覚えのある声。分かってるけど、振り向くのは絶対嫌だった。 だって、のだめ、怒ってるんデスけど! 無視してダッシュで走り出そうとしたら、それよりも更に早い足音が近づいてくるのが分かって 正直…ちょっと怖かった。 あの、鬼ごっこで、追い詰められる時の恐怖感。大人になって同じの味わうとは思わなかったけど。 どうやら逃げても無駄みたい。 息を切らしながら諦めて振り向くと、カーキのコートがもう目の前にあった。 あ…今のだめ先輩の腕の中にいるんだ。 少しづつ情報を整理して、先輩の顔を見上げようと思ったけど、見上げようと…見上げ…。 「あの、センパイ、くる、苦しいデス…」 全く身動きできまセン。立位マウントポジションですか? 「…っの、馬鹿!」 馬鹿って、なんでのだめが馬鹿なんデスか!?腹が立って、悲しくて…でも口で怒る代わりに 目から涙が次々零れて、それじゃあ言いたいことの1%も伝わらないのに。 「あんま心配させんなよ…ったく…」 腕をゆるめて覗いたセンパイの額に汗。冬なのに…。 それを見たら、言いたいこと、怒りたいこといっぱいあったはずなのに なぜか子供みたいにうわーーんって泣きたい気分だった。 さっきまで、ほんとに一人ぼっちの気分で、寂しくて惨めで消えちゃいそうだったんデスよ? 「ほれ、楽譜だろ?早く行くぞ。まだ電気点いてて良かったな」 そう言ってコツンと頭に拳骨を落とすと、のだめの手を引いて歩き始めた。 多分、センパイの顔、照れた顔してるハズ。 握られた手をぎゅっと返すと、更に強く握られて。 第二ラウンドデスか?って聞いたら、ため息を吐いて、まるで可哀想なものを見る目で見てきた。 「…………な」 センパイが何か小さく呟いたけど、よく聞こえなかった。 なんて言ったんデスか?って聞き返そうとしたら、 なぜか事務のお姉さんに鍵をもらう手続きし始めてて。 ちょっと、なんで学生になりきってんデスか? のだめが学生証出そうとしたけど、なぜか二人ともノーコンで校舎に入れるみたい。 見ると、事務のお姉さん、センパイのこと見て顔を赤くしてるし…! 手管…! 昔カムイ伝で読んだ手管って言葉、まさか先輩の為に使うとは思わなかったデス! 結局そのまま二人で校舎に入ると、目的の練習室まで向かった。 先輩は、初めて見る音楽院の内部に興味津々で、いつの間にか二人の手がほどけてるのも 全然気にしてないみたい。 「おー、あの額に入ってるのって、ロードフリードの直筆譜面か?」 なんて、そんなことのだめでさえ知りませんケド! 初めて入る音楽院の内部。 そりゃ、物珍しいものが色々あって、音楽馬鹿を自負する俺の食指が動くのも まぁ仕方ないと自分でも諦めてる。 でも、なんていうか…のだめと二人で暗い校舎の中を歩くのが、妙に緊張して なぜか、心臓がドキドキいい始めて、近くにいたらのだめに聞こえそうで、少し離れただけなのに。 ぶーたれて口を尖らせてる姿を見たら、さっきまで喧嘩してたのが嘘みたいに心が暖かくなって。 さっき、ごめんなって謝ったけど…聞こえてなかったみたいだし。 かと言って改めてもう一度謝るのも…タイミングが取りづらい…って、 俺、こういうとこがほんとに素直じゃないんだって…!学習能力無いのか俺は! 「あ、あそこデス!」 のだめがそう言って20Aと書かれた部屋に向かって小走りで走り出した。 俺もその後に続いて、のだめに追いつくと、電気を点けようとしている腕をつかんで阻止し 後ろから抱きしめた。 後ろ手にドアを閉めると、多分まだどっかの練習室で演奏しているであろう弦の音が小さく部屋に響くだけ。 あとは、二人が呼吸する音だけ、異様にデカク聞こえて。 「ひぎゃっ、せ、先輩?楽譜…」 「うん…あー…あのー…のだめさん」 「はぁ!?」 いや、そんな変な声出すなよ!呼び捨てしにくかっただけなんだよ、馬鹿! 咳払いを一つ。 「あの…今日は……ごめんなさい」 「………………」 やべ、声が上ずったし……。な、何も言ってくれないし…。う…。 「あー…あの…お前が気ぃ使ってくれてるの分かってたけど、なんか、 自分のことだけ考えてて、ほんと、ご、ごめんなさい…」 「……………」 「のだめ…?」 反応の無さにどうしていいか分からない。 のだめをこっちに向かせると、案の上、泣いてて…。 無意識に、許しを請うように、その涙を舌先で吸っても、止め処なく零れてくる。 しゃくりあげるとか、鼻をすするとか全然無くて、ただ涙だけが泉のように…。 「頼む…何か言って…」 それだけ言うのがやっとだった。 部屋に入るなり、いきなり抱きしめられて…あ、謝ってくれて…。 それで、のだめもごめんなさいしなきゃって思ったのに、うまく言葉にならなかった。 ただ、馬鹿みたいに涙が出て。 もっとサバサバと解決させたい。 こんなしみったれた、うざったいのだめ、自分で嫌になる。 あぁ、先輩、困ってる…。 全然、もうなんとも無いデスよって言葉で言う代わりに、頬をなぞる唇を捉えて 軽くちゅっとキスをすると、静かな部屋にやけに大きく響いて、恥ずかしくて俯いた。 次の瞬間、先輩の節ばった男の人の手が眼前に迫ってきて、 気付いたら顎を?まれて上を向かされた。 それから、またキスされて、段々、先輩の舌が私の中に入ってきて…。 あぁ……ちょっと、先輩…! のだめの口の奥の方まで、……かき回されるって…こんな感じかも…。 ねちゃねちゃ…お、音が…。 そっと目を開けて見たら、眉間に皺を寄せて、切なそうな顔をしてるのが間近で見えた。 のだめも、息が…苦しい…頭が真っ白になりそうデス…。 舌と舌を絡ませて、鼻から、んん…って自然に声が抜けて。 先輩はそれでも全然やめてくれる気配は無くってそれどころか、段々激しくなってきた。 のだめのベロ吸ったり、噛んだり…こ、ここは学校デスよ!って言おうとして顔を仰け反らして 離れたけど、すぐに追っかけてきて、またキスされて…。 んん…って喉の奥で自然に鳴った。 エッチなサイトとかで、“ちゅぱちゅぱれろれろ”って変な擬音語見たことある。 ほ、ほんとにそんなエッチな音の出るキスがあるんだ…って、もう正気を保ってられまセン…! のだめが俺の唇にそっとキスをして、その音が部屋に響いたら、 止められなくってそのままキスを返した。 舌でのだめの口の中を探ると、鼻にかかった声が聞こえて…。 つい、もっと激しくしてしまう。逃げようとするのだめを追いかけて更に続けるもんだから のだめの背中が段々反り返ってきて、ワンピース越しの胸が主張し始めて…。 無意識にエロいポーズ取ってんじゃねーよ、と思いながらも… やばい、た、立ってきた。 って言っても、ここは学校だし…とりあえず、帰って続きするか…? 考えてる内に、ますます膨張してくるのが分かった。 のだめも気付いたのか、反射的に唇を離すと、先輩…って呆れるように見てきたから。 あーーー…恥ずかしすぎる…。発情期の孔雀だな…。 でも、もうこの際だし…今更…。 のだめをぐっと抱きしめて、したい、って耳元で呟いた。 「だ、駄目デスよ、ここガコ…」 分かってるんだよ!んなこと…でも…! のだめを更に強く抱きしめて、そこを押し付けるようにしてキスをすると 諦めたのか俺にもたれかかってきた。 そのまましばらくキスを続けて、じりじりとピアノのところまで行くと のだめを椅子にまたがるように座らせた。 そして、俺も同じようにして向かい合うように座ると、 キスをしたままワンピースの後ろのファスナーを一気に外して背中をなで上げた。 「あ…先輩…ほんとに…?」 返事の代わりに上半身を一気に剥くと、いきなり露になった肌が粟立ってて、思わず強く抱きしめた。 首筋に強く吸い付いて、段々唇を下に移動させていく。 視界の端ではのだめが目をぎゅっとつぶって顔を反らせて震えていた。 む、無理やりじゃないよな…?よしっ。 こちらに向いた耳を舐め上げながら、ブラのホックを外すと、暗闇の中でも異様に白くて… 両方の乳房を強く揉み上げた。 息がはぁはぁ言ってるのが自分でも分かって…。 重みを確かめながら、夢中で揉みほぐしていると乳首が段々立ってきた。 寒いせいもあって、いつもよりとがっているように見えてますます興奮してきた。 指の腹で両方の先っぽを、ゆっくりとただ撫で続けると、のだめが息をゴクンと飲み込む音が聞こえた。 「こうして、ゆっくり…触られるのって…嫌…?」 耳元で囁いたら、のだめが眉間に皺を寄せて顔を反らしたから 今度は指先で摘んで、またゆっくりと先っちょをよじったら、あ、と小さく聞こえてきた。 先輩が、のだめの胸をゆっくりゆっくりいじってて… なんか、今日の先輩すごい焦らしてくるからどうしていいか分からなかった。 それに、二人ともいちお、音楽家の卵なのに、こんなピアノの前で…なんて、のだめ嫌だったのに、 なのに、なんでかいつもよりドキドキして、奥の方が熱くなってきて…。 ぼんやり考えてたら、急に先っぽを摘まれたから、我慢してたのに、小さく声を上げてしまった。 先輩、すっごいやらしー顔…。耳元で、はぁはぁ息が荒くって、その熱い息がのだめの耳にかかって お、おかしくなっちゃいそう…。 急に熱くて柔らかいのが乳首に触れて、先輩が舐めたり吸ったりしてるのが分かった。 周りが寒いから、余計その舌の感触がリアルに感じて、ぬめぬめしてるのがすごい感じて… だめデス、こ、声出したくないのに!って思っても、やめてって言えなかった。 こんな言葉使うの恥ずかしいから嫌だけど、すごい感じてる…んだと思う。 止めようと思っても、あっあっ…ってどうしても零れちゃって、もう、どうにでもしてくだサイ…。 ワンピの裾から先輩の手が滑り込んできて、あっという間に紐を両方とも解かれた。 今パンツ外したら、椅子が、あの、ぬ、濡れちゃうんデスけど! 制止しようとした腕を捕まれたら、やっぱり進入は止められなくて…。 指が2本一気にのだめの中に入ってきた。 自分でも、全然抵抗無くスルリと飲み込んだのが分かったから、恥ずかしくて死にそうだった。 先輩は2本の指を中で開いたり閉じたりして、音が響きまくって…。 力が入らなくなって倒れそうになったら先輩が背中に手を添えてのだめを押し倒した。 つまり、今椅子の上に仰向けになってる状態で…。 先輩の為すがままに膝を体の上に持ち上げて押さえられると、剥き出しになったところに 先輩が更に激しく指を突っ込んでかき回し始めた。 あっあっ…ってなんか、体の中のパラメーターが一気に上がって振り切れる直前。 急に指を抜かれて、イク準備をして力の入った腹筋が一気に弛緩した。 その後、指の腹で、あの…なんていうか、そこの所を小刻みに撫で始めたから またお腹に力が入ってきて…。 のだめのクリトリスを振動させるように撫でると、段々高まってきたのか足が突っ張り始めた。 同じペースで続けると、大きく口を開けて息を吐き出した。 と、同時に硬直した体が一気に緩まって、びくんびくんと揺れ始めた。 ズボンと下着を一気に下ろし、のだめの上に覆いかぶさる。 人って、こんなに痛くなるほど勃起するもんなんだな…なんてアホなこと思いつつ。 「なんで声…我慢してたの…?」 そう言って再度乳首を撫で始めた。 「あ…だ、だって…もう…やだぁ…」 のだめは泣き出しそうな顔で顔を背けた。っていうか、実際泣いてる…。 今日泣かせてばっかだな…。と思いつつも、今更止めようが無い。 「立って…」 戸惑うのだめを起こし、ピアノに手を付かせる。 振り返ったのだめの不安そうな顔を尻目に割れ目に指を這わせると糸を引くくらい濡れていた。 背中から覆いかぶさり、のだめの手を包むように手を置くと、位置を調節しながらゆっくりと挿入した。 のだめが、あぁ!と声を上げて背中を仰け反らせたから、背骨に反って一気に舐め上げると 今度はピアノの上に上半身を預けてぐったりしている。 正直、気持ちよすぎる、動いてないのに…。 「のだめ、動くぞ…」 そう言って、ゆっくりと出し入れし始めるとそれに合わせてのだめが声を上げた。 次第に俺もコントロールが効かなくなり、段々激しく打ち付けると、ピアノの足がぎっぎっと 音を立て始めた。 のだめの尻がぷるぷると揺れて、つぶれてはみ出した横乳…。 レイプしてる気になってくる…。 あ…駄目だ、いきそう…。 更に動きを早め、のだめの尻をつかんでぎゅっと押し付けると、そのまま全部吐き出した。 マンションのドアを開けると、部屋は真っ暗で当然誰もいるはずが無くて。 一人暗い部屋でソファに腰を下ろしてタバコに火を点けた。 「なんで、泣かすんだよ、馬鹿千秋…」 そう一人呟いて、考えるのはさっきの彼女の泣き顔だった。 元々R管からの仕事帰り。まっすぐ家に帰ってカトリーヌでも呼ぼうかと思っていただけなのに。 ふと電車に乗り込んできた見覚えのある日本人の女の子は、とっても悲しそうな顔で 席に着くなり堪えきれずにポロポロ泣き出すから。 こんな時間に、一人でA線で。危険な要素がいっぱいあって、しかも相手はあの千秋の彼女。 からかう気持ちで隣に座ったはずなのに。いつの間にか、離れがたくなったのは俺の方だった。 正直、あの程度の容姿はゴロゴロいるし、俺はもっといい女と沢山付き合ってきた。 それも当然俺はもう36だ。あんなお子ちゃま、ミルク臭くて相手にしてられるか! でも、俺の前では強がって、憎まれ口叩いて、相手の気遣いや気持ちに敏感な子なのかもしれない。 あんなんで少しでも気が紛れたなら嬉しいけど。 彼女の目的地までエスコートするのは、欧米でのマナーだし、なんなら家まで送ることも出来たけど 校門で足早に近づいてくる長身に気付いてしまったら、俺の出番はどうやら終わりだったみたいだね。 あの後仲直りできたか、それとも、別れたりなんかしたら面白いけど。 今度会ったらからかうネタが出来たなぁなんて一人で笑ってみても空しいだけだった。 「を…」 あぁ嫌だ嫌だ。俺も彼女に劣らず変態かもな…。 まだ二回しか会ってないのに、しかも今日はとってもネガティブな彼女を見ただけなのに 風呂で見損なった彼女の裸体がチラチラと脳裏に浮かんで体が反応し始めてきた。 幸い部屋は暗いままだし、妄想がはかどりそうだなぁ、なんて、ほんと、いい年して情けないけど こうなったら吐き出さなきゃ解決しない。 千秋君には悪いけど、オカズにさせてもらうね(ノーギャラで) ファスナーを下ろし、固くなり始めた自身を出すと、少し頼り無さそうに上向いた。 右手で握り、泡に包まれた谷間を思い出してゆっくりと擦り始めると、すぐに固さが増してきた。 「はぁ…」 亀頭の周りだけを握って浅くピストンすると、背骨を這い上がるような痺れが襲ってくる。 俺が、彼女の上に覆いかぶさって、無理やりしようとすると、きっと今日見たような泣き顔で 嫌がるに違いない。 あの、デカイ胸を揉みしだいて、乳首は、きっと薄いピンクだな。 俺ぐらいになると、肌の色から大体乳首の形まで分かるようになってくるんだ。 小さくて感度のいい乳首を舐め回して、甘噛みすると可愛い声で… 「ぎゃぼーー!」 ……萎えた。気を取り直そう。 再度幹の部分を擦り上げると、裏筋も一緒に撫で上げる。 あぁ…いい感じだ…。 きっと締りが良くて、薄い陰毛の奥の小さな…あ…来そう…はぁ… 手の動きを早めると、同時に息も荒くなってくる。 くっ…正常位で挿入… 「ろっく・おん♪デスね。松田さん…」 な…!あんな顔でイキたくない…!くそっ!変態! うっ………! はぁ……。オナニーの後始末をしつつ、ため息を吐く。 どうせならもっと艶かしい姿でフィニッシュしたかったのに…。こんな後味が悪いのは初めてだ…。 って言っても情報の絶対量が不足してるから仕方無いけど。 ま、ますます疲れた…。寝よ…。 「ち・あ・き・君♪」 相手がひぃっと声を上げて身を交わした。 失礼な奴だなぁ。一応君の先輩なんだけど。 「な…何か用ですか…」 か、可愛い後輩じゃないか…。パンでも買いに行かせようかな。 いやいや、用事はちゃんとあるんだった。 「のだめちゃん、元気?」 「はぁ?」 「のだめちゃんげんき?」 もう一度はっきり言ってやると、千秋は小さくため息を吐いて、普通です、と答えた。 出たよ、“普通です”攻撃! ひょっとして、のだめちゃん、あの日のこと千秋に話してないのかな…。 「いやぁ、あの日ののだめちゃん可愛かったなぁ」 「はぁ?あなた酔っ払ってて覚えてないって言ったじゃないですか」 あははははははは!ばーーーか! 「実はその後もこっそり会ってるんだよね〜」 「は、はぁ?のだめとですか?」 明らかに表情が変わった。ぷっ。 「あぁ、秘密だったっけ、今の嘘だからね、それよりマダム征子は元気?今度のR☆Sの協賛スポンサー…」 「おい…!なんでのだめとあんたが…?」 あんたって言った? 「なんでって、出されたお菓子を庭に捨てたら、その辺の野良犬が食っちゃうだろ?これ、宇宙の真理。」 「ふざけんなよ!いつ?」 あちゃー、目がマジになっちゃった…。 でも俺も切羽詰まってンだよね。 いい加減二回会っただけじゃ、妄想も限界だからさ。 だからなんとしてものだめちゃんに会いたいんだよね。 「とりあえず、今日千秋君ちで、みんなで反省会しよう!」 「は、はぁ?馬鹿か?のだめはんなフラフラするような女じゃないんで反省も要りませんから。」 「いいからいいから……あー、2月24日!」 「はぁ?」 「あー言ってみただけ。それじゃあ。買い物にでも行こうか」 「ぜってーヤダ!」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |