のだめが風邪を引いた
千秋真一×野田恵


のだめが風邪を引いた。

うつすといけないから看病はいりまセン、と呟くのだめを抱きかかえてオレの部屋につれてきた。
心配だから…なんて口が裂けても言わない。

「こんなゴミ箱にいたら、治るもんも治らねーだろ!」


最近のだめは、ちゃんと風呂に入るようになった。
…のはいいんだが、ちゃんと体を拭かずに出てくる。
しかも薄着で。
そのままピアノの練習に没頭する事もしばしば…。
そんなことを繰り返してたら風邪を引くにきまっている。

「ったく。お前、風呂入ったらちゃんと髪乾かせっていっただろ?」
「はうぅ…スミマセン…。」

珍しくしおらしいのだめ。
やっぱり風邪で弱ってるのか?

「ほら、粥を作ってやったから。食え。」
「ほわあ〜、あったかーい。」

のだめは器を包み込むように持って、出来たての卵粥をじっと見つめた。
熱のせいでか、瞳が潤んでいる。

「…?なんだよ。さっさと食え。…食器が片付かないだろう。」

するとのだめは甘えるようにオレを見上げて。

「せんぱい…食べさせてくだサイ。」

一瞬、オレはフリーズしてしまった。
いつもだったら間髪いれずに突っぱねる要求なのに。

「バッ…バカ、調子に乗んな!」
「まあまあ、そう言わずに。はう〜、のだめだるくて手があがりまセン〜。」

こいつ…ほんとに病人か?まったくいつも通りじゃねーか。
まあ、顔は赤いし、だるそうなのは本当なんだが。
もしかしたら、心配かけないように元気なフリをしてるのかも…。

「くっ…今回だけだぞ!!」
「もきゃー!言ってみるもんですねえ♪」

オレも熱にやられたのか…?
普段だったら絶対に受諾しないようなことだ。

のだめの手の中にある器から粥をそっとすくう。
するとのだめは口がくちを開く。

「ちゃんと、フーフーってしてくだサイね?」

・・・・。

「黙って食え!」
「もがー!あひゅい!あひゅいれス!!」

結局、強引に粥を押し込んで、食事終了。

「やっぱりカズオ…。」

食器を片付けて立ち上がったオレに、のだめが呟く。
そんなふてくされているのだめの前髪をかきあげてやった。

「オレは隣で勉強するから。…ちゃんと寝てろよ。」

そう言って部屋の電気を消した。

2、3時間経っただろうか。
様子を見に、寝室へ入った。

「せ…せんぱい…。」
「あ、ゴメン、起こした?」
「イエ、ちょうど起きちゃってました。」

のだめはチラリとこっちを見上げて、ちょっとだけ笑った。
潤んだ瞳、桜色の頬、苦しそうに半開きの唇が、妙に色っぽい。

なんというか、…アレの時を思い出してしまって…。
顔が熱くなるのをごまかすために口を開いた。

「まあ、なんだ。なんとかは風邪をひかないってのが迷信だって事が分かったな。」
「むきゃー!そんなこと言いにきたんデスか!・・・げほっげほっ」
「おい!起き上がるなって。」

のだめの額に手をあててみた。

「はうぅ…せんぱいの手、ひんやりして気持ちいいデス…。」
「大分熱が上がってきたな…待ってろ。タオル絞ってきてやるから。」

「あ、待ってくだサイ!」

立ち上がろうと、額から離した手をのだめはぎゅっと握り締めた。

「タオルはいいデスから…ちょっとだけ…そばにいてくだサイ…。」

その言葉に、またもやオレはフリーズしてしまった。
のだめがこんな風に、甘えてくることは滅多にない。

「じゅうでん…デス。」

そう言ってオレの手に、ちゅ、と口づけた。
熱くて、柔らかい、唇の感触にゾクリとした。

…ヤバいかも。

「…そんなんで…足りるの?」
「え…?」

あっけにとられてるのだめの口端に、そっと口づけた。

「だ、だめデス。うつっちゃいマスよ…」

顔をそらすのだめ。その頬に口付ける。

「…もういいよ。うつるならうつってる。」
「あ…。」

のだめの顔をこっちに向けて、今度はやわらかな唇に…。
最初は触れるように。
何度も離しては触れ、だんだん深く…。

「…ん…ふぅ」

のだめの吐息が漏れる。
…マズイ。これ以上やると、絶対止まんねー…。

名残惜しかったが、オレはのだめから体を離した。
のだめの瞳は、ぽーっと宙を見つめたままだ。

続きは、風邪が治ったら…
なんて考えている自分に気づき、急に恥ずかしくなる。

「…タオル、持ってきてやるから。」

そう言って立ち上がり、足早に部屋を出た。






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