千秋真一×野田恵
![]() その日はなんという事も無かったが、外でのだめと食事をした。 のだめの行きつけのイタリアン。 ピアノを弾いたら店長がワインを一本つけてくれた。なかなかうまくて本数がかさみ、帰 り道はタクシーを頼んだ。 「ほらーセンパイ起きてくだサイ、着きましたよ」 「おー…」 俺は車内で少し眠ってしまったらしい。 今日のワインは当りだった。 少し足元がふわふわするぞ。 そんなに飲んだつもりでも無かったが。 タクシーが走り去ると、よほど俺の様子がおぼつかないのか、のだめがけなげに、自分の 肩に俺の腕を掛けてささえ持ちながら、アパートの門のキーを開け、「よいショ、よいシ ョ、」と言いながら階段を上っていく。 俺は酔いのせいか妙にのだめに甘えたくなって、わざと体重をかけて歩いてやった。 気分が良い。 「もうーお、おもいデスー。千秋センパイー。はうーちゃんと歩いてー。」 「んー(*´ー`)」 部屋のドアをのだめが合鍵を使って開き、ふうふう言いながら、部屋に入ってすぐの、俺 のベットに座らせてくれた。 そのまま俺の肩口をつかむと、 「はーいセンパイばんざーい」 とか言いながらジャケットをぬがせる。 ガキか、俺は。 ジャケットの形を整えて椅子にかけると、ぱたぱたとキッチンに向かい足音か遠ざかって いく。 俺はベットを立つ気にならず、ぼんやり浮遊感を楽しんでいた。 「うーん、少し飲み過ぎたかな…」 「そんな風に自覚があるうちは大丈夫デスヨ。はいセンパイ、お水!」 キッチンからもどってきたのだめが、ボトルからグラスに水をそそいで、俺の前に差し出 した。受け取って一気に飲み干す。水がうまい。 のだめはニコニコしながら見ていたようだが、やがてさっき俺にかまけて床に放り投げて いた自分のハンドバックを取ると、ぺこりとおじぎをした。 「センパイ、今日はおつかれさまでした。じゃ、のだめは明日学校が早いから部屋にもど りますネ。おやすみなさい。」 スチャッと右手をあげて敬礼すると、身を翻してドアを開け出ていこうとする。 「あ、待てよ…」 「はい?」 のだめの背を見てふと思いついた事があった。 立ち上がりドアへ行こうとしたが…うー、ぐるぐるするぜ。 ドアを開けて廊下を出た所で、のだめはキョトンとした目で俺を待っている。 「何ですか千秋センパイ。」 俺は右腕を戸枠にかけると左手をあげ、指でチョイチョイと「近づけ」とジェスチャーす る。 ドアを開けて廊下を出た所で、のだめはキョトンとした目で俺を待っている。 「何ですか千秋センパイ。」 俺は右腕を戸枠にかけると左手をあげ、指でチョイチョイと「近づけ」とジェスチャーす る。 無邪気な顔で素直に一歩戻ったのだめの肩を、軽くつかんで引きつけ、戸枠に押しつけた 。 訳がわからず一瞬身構えたのだめに覆い被さると、室内灯の俺の影の中にのだめはすっぽ り収まった。 その少し上向いた、おさなげな唇に、軽くキスをする。音のしない、触れただけのキスだ った。 「おやすみだ」 「うきゃ、センパイ…!」 真っ赤な顔で、少し泣き笑いになってうれしそうなのだめに、 ちょっとテレくさい気分になって横を向いた。 「してやろうかな」 って気になった。 これも酔っているからだな。やめた。 「じゃあな」 とそっけなくドアを閉めようと、のだめの身体を外に押し出したが、急にのだめが俺の服 の袖をつかんだ。 「なんだ」 「センパイっ…もう一度シテくだサイ…」 「いまシタろう!」 振りほどこうとしたが、詰め寄って来て袖を離そうともしない。 「もいちど!センバイ!アンブー!」 と騒ぎだしたものだから、 「わかった!もう1度…だぞ」 と応じてしまった。 これも酔いのせいだ。 「ハイッ」 何がハイだ…ムードの無い。 だけど頬を紅潮させ、少し瞳をうるませたのだめが今はやけにかわいい。 これも酔いか? 今度は互いに向かいあって、顔をゆっくりと近付け合う。 さっきまではなんだか大胆なふるまいができたのだが、今度は少し気遅れがあった。 それでもごく自然に顔を傾け、唇を合わせた。 ゆっくり、2秒、3秒とおたがいの唇の弾力を確かめると、ふと離れた。 悪くない、いや気持ちいい感触だった。唇にしびれたような官能が残って俺はどきまぎし た。 二人で目線を離す事ができない。俺ものだめも、息づかいが変だ。 端から見たら、にらみ合いながら肩で呼吸をしている変な二人だ。 俺の袖をつかんだのだめの手に力がこもって、熱く感じる。 つい二人でもう一度、確かめ合う様に唇を合わせた。 磁石が吸い付きあうように唇と唇が合体する。 今度は二人とも、軽く口を開いて、無意識に舌が触れ合うキスになった。 俺の背筋にぞくりと電気のような感覚が走った。 舌が、甘い。 こういうキスは久しぶりなのだが、どう舌を動かせば官能的なのかは本能が知っているの かもしれない。 口の中に軟体動物を飼っているみたいだ。そいつが盛んに体液を分泌している様に、唾液 が驚くほど口中に溢れ出した。 絡めあう舌の動きに「んっ…んっ…」と漏らすのだめの声が、耳にぞくぞくと響く。 かわいい。 のだめの口の中を舌でさぐる。 前歯の裏側を強くこすると、のだめが「うっー」とうめき、身をのけ反らした。 いつのまにか俺は両腕でのだめを抱きしめて、自分に引きつけるように強く力を込め続け ていた。 「ン…ン……うンっ!…っ…」 のだめが腕の中でブルッとふるえた。 「あ、のだめも感じているんだ」 と頭の端で思った 途端、のだめの膝がガクッと折れてしまった。 俺は前のめりに引っぱられ、あやうくのだめの舌を噛みそうになり、顎の力を緩める。 ちゅぱっと派手に音を立てて口同士が離れた。 「わっ」 のだめが仰向けの姿勢でがっくりと脱力したのを、思わず一歩足を踏み出して身体を支え る。 自分の口からのだめの口の間に、唾液が長く糸を引いたのを見て、急に我に返った。 俺達は部屋のドアを開け放ったまま、廊下で抱き合っていた事に気が付いた。 慌ててのだめをひきずって室内に入り、さっきまで自分が座っていたベッドにのだめを放 り投げるように寝かせると、ドアに戻り、廊下に落ちていたのだめのハンドバックをすく い上げるように掴んで、強く音を立てて締め、指で弾く様に鍵をかけた。 「やりすぎた」と思いながら、ドアを背にして、ベッドの端で、落ちそうな姿勢で動かな いのだめの方を見つめた。 なんでこんな事になったんだ。 心臓の音が、ガンガンガンガン、今更ながら早鐘の如く、身体の中で響いていた。 今まで息をし忘れていたかのように呼吸が速くなり、俺までがっくりと力が抜けてしまっ た。 息苦しさと暑さに耐え難くなり、半ばゆるめたまま首にぶらさがっていたネクタイをほど いて床に捨て、シャツのボタンをはずして裾が出るほどひっぱり前を開いた。 のだめは身体を斜めにして横たわっていた。両足の膝下がベッドから落ち掛かかって、不 安定に宙に浮いている。 腕も片方ははみ出して投げ出されていた。 ちゃんと寝かせないと落ちると思い、のだめに近づくと、まず両足の靴をぬがせた。 ローヒールを好むのだめの靴は今日は黒のスリッポンシューズだった。 ベッドの下に揃えて置くと、両足首をつかみ足全体が寝台に乗るように引き上げて、ぐる りと向きを変えた。 ワンピースのスカートが少しまくれ上がり、太股が見えたが、けが人の介抱中だとうろた えない。さっと手でさげおろした。 身体の方もベッドの中央に来る様に、のだめ脇の下に俺の腕をくぐらせ、持ち上げてずら してやる。 「ふっ…ふっ…」 と小さな呼吸音が聞こえた 様子を見ていると、徐々にふーっ、ふーっと呼吸が深く、速くなってきた。 …おい、さっきまで息が止まっていたのか?俺ってそんなに力入れてたのか。 自分が、女に一方的にがっついて、けがをさせたかの様な気がしてきた。いや、そーいう 事をしたのか俺は。 のだめの前髪が乱れて顔が隠れたままなのを、指で漉いて額を出した。 のぼせたように紅潮している。 口が酸素を求めて、呼吸に合わせて開閉していて痛々しい。 「…ふっ…ちあ…せんぱ…ヒクッ」 「のだめ!」 俺はのだめが声を出した事に心底ほっとした。 「おい、大丈夫か?悪かったな、こんなにして…」 「せんぱい…はあっ…はあっ…」 さすがの俺も、詫びたい気持ちでいっぱいになり、のだめの頭を優しく撫でてやった。 涙でうるんだ目を薄く開けて、のだめは言った。 「イエ…のだめが、もいちどして、なんて言ったからイケなかったんです。」 それを聞いて俺は少し青ざめた。 「いや…そんな事は無い…。」 「…だから怒ってあんなに、のだめの事を絞めたんデスか?」 「!、そういう訳じゃない!お前悪くない!」 「え…じゃ、だっこしてくれてただけなんデスカ…はうん。」 …墓穴…いや、いいけど…。 うっとりとした口調でのだめは続けた。 「気持ち良くて…」 え? 「せんぱいの…凄く…良くて…それだけでも凄かったのに……だっこされレレ…のだめ嬉 し…」 「もういい、しゃべるな、のだめ!」 「それがだ…だんだん…ぎゅーっと…」 キスしてる相手に地獄絞めしてた俺…。ダサ…。 「最初は…からかわれてるのかとオモタですが…ぎゅーされて息ができなくなって…に… …頭の中が真っ白に…」 俺の頭の中は罪悪感で氷点下だ。 「…のだめ…」 「…天国みたいに気持ち良かったんデス…せんぱいってテクニシャンー…」 「バカのだめ…天国どころかあの世にイク所だったな…すまない、もう2度としねえ!」 「えええーーーっ!」 がばと起き上がるのだめ。かなり回復してきたようだ。 「千秋先輩、もうキスしてくれないんデスか?」 「……」 (もうお前をけがさせたくない) 「もう…帰れ。服がシワになるぞ。明日学校なんだろ。」 なおも何かいいたげなのだめだったが、やがてもそもそとベッドの上から降りると、靴を 履いて無言で部屋から出ていった。 シャワーをあびて、邪念を振りはらおうとした。 浴槽にも湯を張り、バスソルトを入れて肩までつかる。 深く息をついた。 「自分があんなに余裕が無いとはなー…」 かなりショックだった。 キスなんて、からかって、すぐ止めるつもりだったのが、いつのまにか、あののだめと大 人のキスをしてる自分。 しかも夢中になってむさぼりつくなんて。 鯖折りしてどうすんだ俺…。 …あそこでのだめが気絶しなかったらどうなったんだろう。 その先にすすんだのか?のだめと? …抱き締めた時、腕に感じられたのだめの身体の線は、意外に華奢で、やわらかく、力を 込めるとどこまでも細くたわんでいきそうな弾力があり、とてもかわいいと感じてしまっ た。 なんだか猫をだきしめているような、保護欲求に支配されて……あのていたらくだ! 子供の頃、この部屋で飼っていた子猫は、抱かれるのを嫌い、俺がかまいすぎて逃げてし まった。 のだめはどう思ったろう…。 結局、完全には気が晴れないままバスルームを出た。 「千秋せんぱい〜お疲れ様!はいタオル」 「?!…〜〜のだめっ?」 バスルームの前にのだめがタオルとガウンをささげもって立っていた。 すると「ぎゃぼっ!」と奇声をあげて視線が下。 「わあっ(見られた!)」 バシンとドアを締めてバスルームに戻る。 「なんでここに!部屋にもどって寝たんじゃ無かったのか?!」 「うーっ。のだめもシャワーはあびましたよ。着替えもしました。」 「はぁ?」 「だからせんぱい、しきりなおししまショ。出てきてくだサイ…」 しきりなおし…。 やりなおせって事か。俺はバスルームのドアを開けて片手を出した。 腕にさっきのタオルとガウンが掛けられると引っ込めて、手早く身体を拭いて、ガウンを 羽織って、威厳を保つ為に精一杯、不機嫌な顔を作ってバスルームから出た。 のだめはかすかに頬を染めて、ベッドに腰掛けて待っていた。 こいつには、いくら不機嫌そうにしたって通じやしない。 このときの俺の気持ちをどう説明したらいいのか。 風呂にいたあいだ、暗澹としたままだったのに、出たとたんにリセットされたのだ。 戸惑いと、喜びと、安堵と…これって子供の頃母親に怒られたあと、不安に半日過ごして 、許された時の気持ちというか…何だそれ! 「それ…でいいのかよ」 「いいも何も、これでやめてたら、のだめとせんぱいのラブは、なかなか進まないでショ ー」 「調子にのるな!何がラブだっっ。」 「ええーーだって…さっきのキスは…先輩本気になりませんデシタ?」 「……( ̄□ ̄;)……」 「のだめは…本気でしたヨ。」 俯いて真っ赤になりながら、ベッドのシーツをいじるのだめ。 ああもうっ。 ベッドまで近づいて、のだめの前に立った。そのつもりじゃなかったが膝と膝が触れて、 俺ときたらもうその部分からも、じんじん電気のような感覚をおぼえていた。 「もう気絶しないでくれよ。」 「先輩がそうっとしてくれたら、のだめ大丈夫だと思うんデスヨ…」 そういって微笑むのだめは、膝が触れ合っている俺の足に片手を延ばして、すうっと上に なで上げた。 そのまま手が体の線を伝い、脇腹を触れ、胸と肩を繋げている位置まで達すると、腕を伸 ばす限界だというように、俺の胸筋に長い指を食い込ませた。 それに引かれて、俺は姿勢を低くする。 吸い寄せられるように、再び唇を合わせた。 また舌が触れ、今度は味わうように慎重に交流する。 ちゅっ…ちゅっ…と室内にキスっぽい音が響きわたって、なんだか恥ずかしい。 俺の胸の上にあったのだめの手が、肩を伝って首に巻き付いた。 空いていた方の腕も同じように巻き付いて、俺は引き込まれてのだめの上に覆い被さって ベットに沈み込んだ。 おそるおそるパジャマの上から、のだめの胸に手を置いてみる。 のだめは下着をつけておらず、布越しにすぐ小さな豆の様な感触がわかった。ゆっくりと 揉みながらそのしこりにだけ、指の腹で調子をつけて擦ってみた。 「ん……」 のだめは口を離して、甘い声をだした。 「感じる…?」 と耳もとでささやいた。 のだめは目を閉じて「はあっ…」と熱い息をもらしながらうなずいた。 「直にさわっていいか?」 また目をとじたままうなずくのだめ。 俺はパジャマの裾に手を忍び込ませる。指がのだめの腹部を駆け上がっていき、すぐくっ きりとした丘陵のようなふくらみを感じた。 その丘を手いっぱいに包み込むと、頂点にあるあのしこりを指の間に挟んで少し揺らすよ うに振動を与えてみた。 「あんっ…」 両腕ともパジャマの中に入れると少し窮屈だ。のだめの胸は意外なほど大きい。 するとのだめが自分から両手で胸のボタンをはずしはじめた。 赤い顔を恥ずかしそうに横にそむけて目をつむったまま、両手がぷちん、ぷちんとひとつ ずつボタンを取り、上から下へ下がっていくと、観音開きにはだける前身の間から、真っ 白な、黒子ひとつない胸部と、無骨な俺の両手がさらけだされた。 中指と薬指の間から、赤い突起が頭を見せている。 そっと両手をどかすと、白い美しい形のバストが現れた。 俺の指の跡がうっすらと縞もように残っていたが、すうっと消え、輝くような白さの双丘 が、俺の目の前に景色のように広がった………。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |