ふかふかの毛布の中
千秋真一×野田恵


「せんぱ……い、ちょっと寒いデス……」
「あ、ゴメン」

先輩は、体からずり落ちて丸まっている毛布を引き上げた。
室内の気温はそれほど低くないけれど、眠るときに暖房をかけすぎるのは良くないから、と先輩は控えめに温度設定をする。
肌と肌がくっつき合っているときは外気をそんなに感じないけれど、そういう場合でないときも……まああるわけで。
現に今、伸ばされた私の足は先輩のお腹や胸についていて、肩の向こう側では足先ががゆらゆらと揺れている。

こういう時の格好はひとつじゃないし。
……そんな事、私に教えたのは先輩だけど。
それなりに、その格好にもいろいろな意味があるのも……全部、先輩の教えてくれた事。

引き上げた毛布を肩と腕に掛けると、先輩はそのまま体を私に倒してきた。

「やっ……だ、苦しいっ……ん」

窮屈に折り曲げられた私の体。それを覆うような、先輩の体と、毛布。

「痛い?」
「……痛くは、無いですけど……」

奥……を探られるようで……。
その部分に、じんわりと別の熱がともって、それがだんだんと私の体を変えていく……感じ?
あ、ヤダ……。

「だ、め……」
「なんで……?」

先輩は毛布で、折り重なった私たちの体を包み込んだ。
そして、私を揺さぶり始める。

「だめぇ……あっ、ああん」
「ダメっぽくないけど……イイって言えば?」

ベッドのスプリングが悲鳴みたいな大きな音をたて、先輩が私の奥へと一際深く潜り込んでくる。
その瞬間……一番奥を強く突付かれた瞬間、私は何かとても恥ずかしい事を口走ったみたいで……。
足の間の先輩の顔が、満足そうに笑っている。
とても意地悪な顔。
……やらしい。
だから、くやしくて、毛布を引っ張って、頭から二人の全部を覆い隠した。

「こら、やめろ……見えないぞ?」
目の詰まった、ふかふかの毛布の中は、私たちの熱がこもっているのかいつも以上にほっこり暖かい。
「あった、かぁい……」

ベッドサイドのランプの明かりも届かなくて、真っ暗で何も見えない。
けれど、吐息で、漏れる声で、その存在をすぐそばに感じる。

そっと、わき腹を撫でると、うめくような、掠れた声が聞こえた。
ねだるように掌を這わせると、先輩は切なそうな声で私の名前を呼んだ。
そして、私の内側は……。

「あ、しんいちく……んっ」
「ん……いいの?」

甘く渦巻く感覚がどうしようもなく体に溢れてくる。
そして多分、それは体のどこかで実際に溢れてる。
暗い暗い闇の中、鋭くなった耳に届く営みの音。
静かに漏れる先輩のうわずった荒い息。
どこからでてるんだろう、と思うくらい高くて甘い自分の声。
湿った肌のぶつかる音と……濡れて溢れた中をかき混ぜている音。
そんな音たちが、恥ずかしいほど毛布の中で聞こえている。

閉じた瞼の裏に、フラッシュがたかれているような光が見え始めた。
息がうまくできなくて、まるで溺れてしまいそう。
大きな波が、もうすぐそこまで来てる。
でも、私は大きく頷いていつものサインを送るのに、開放されなくて……。
間近に迫るのに、寸前で引いていってしまう。

「いじ、わる……おねがい、もう……」
「のだめ、もう……?」
「……そう、言ってる、のに」

だって、見えないから……そう言うと、先輩は動きを速く大きくしてきた。
先輩を受け入れるために熱く濡れた私の、恥ずかしくてでもとてもきもちがいい場所。
抜かれそうになると切なくて、奥まで届くと嬉しくて喜ぶ私の体。

言葉に出るのはイヤ、とダメ、ばかりだけど、本当は……違う。

折り曲げて押し付けられている自分の足のせいもあって、いつもよりも息が苦しい。
ベッドと先輩との体の間で私の体はバウンドし、ベッドを強くきしませている。

気持ちよすぎて……おかしく、なりそう……。

小刻みになった浅い呼吸の中に、私は何度も先輩の名前を呼んで……。

私、今、体、浮いてる?
あ、きちゃう……ダメ、もう……

真っ白─────


○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 


「ふあ……」

二人して毛布から顔を出して、新鮮なひんやりとした空気を吸い込んだ。
自分で先輩の肩から足を下ろすと、先輩が私の中から出ていくのが見えた。

「あっ、やんっ」

その、抜け出た瞬間の刺激と切なさに、私はまた声を上げてしまった。
先輩はティッシュを用意して、自分だけでなく私の後始末までしてくれている。
かなりの範囲を拭われたのは……それだけ私が、って事で、ひどく恥ずかしかったけれど。

はう……ああ、まだ余韻が残って、ぎゅっと閉じた脚の間で、自分がひくんと動いているのがわかる。

「シーツ、大丈夫でした……?」
「え? 途中でタオルひいたから」
「ええっ、いつ!?」
「……気づいてなかったのか?」

全然。
知らなかった……。

「最近すごいからな、おまえ」
「す、すごいって何がですか!?」
「いやー、いろいろと……」

煙草をくわえて私を見下ろした顔が、何かを思い出したのかにやにやと笑い始めた。

「むきゃー、何思い出してんですか!! 先輩やらしいデス!!」
「よっぽどおまえの方がえろいぞ、最近」
「そんな事ないデスよ!!」
「じゃー、おまえがさっきなんていったのか教えてやろうか?」
「え……」

先輩は私の耳元に唇を寄せて、してる最中に口走ったらしい私の言葉を囁いた。
…………。

「……な?」
「……む、むきゃ。……い、言ってないですよ、そんなこと」
「いや、確かに聞いたし」
「言ってまセン!!」
「言った!」

言った、言わない、を二人で繰り返して、毛布を被って隠れようとすると剥ぎ取られ、もみ合ううちに私は先輩にしっかりと組み敷かれていた。

「じゃ、もう一回言わしてやる」
「言いまセン」
「言わす……」

先輩はまた意地悪そうに笑って、私の喉元に噛みつくようなキスを落とした。
私は先輩の硬い黒髪を撫でて抱きしめ、目を閉じた。






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