入れてください
千秋真一×野田恵


「せんぱい、今夜はのだめに任せてくださいね」

そうして、のだめが俺とのセックスにおいて初めて主導権を握る宣言をした。
風呂上りに着た部屋着兼パジャマのTシャツとパンツ姿の俺は、
ベッドの上で読んでいた本をサイドテーブルに置きながらあいつの声を聞いていた。
同じく風呂上りでパジャマ姿ののだめは、部屋の電気を消して俺の体の横にすべるように入ってきた。俺の肩口に頭を乗せながら、

「ふわぁ、せんぱいいい匂い」

と、風呂上りの匂いを楽しんでいたのだめは、少し身を起こし俺の首筋にチュと音を立てながら何度かキスをしてきた。
俺は甘い刺激に目を細めながら、カーテン越しに外の月の光を感じていた。俺のTシャツはのだめの手でたくし上げられ、
あいつは俺の胸元に軽い口付けを落としながらベッドの下へと沈んでいった。


のだめは俺を跨ぐ形になりながら俺のTシャツを脱がすと、掛け布団の中に潜り込む。
手が俺の胸を何度かさすると、ちいさなひっかかりがでてきた。
右胸の上で、左の2と3の指を震わせるように動かしてくる。
のだめの唇は左の頂を捕らえ、軽くあいた唇の間からチロチロと刺激を与える。

こんな時は男は女性のように声を上げづらい。
時々快感の波がやってきて息をつめると、あえぎ声の変わりに強く息を吐き出す。
今夜はのだめに任せてと言ったがどこまで任せればいいのか?そろそろ俺も動いた方がいいのかな?などと、ぼんやり考えながら軽く目をつぶった。
しばらくの間、柔々とした刺激の中を漂っていた。

のだめの重さを感じなくなったのを不審に思って、のろのろと目を開けると、俺のことを見下ろしているらしいのだめの影が見えた。
俺の体から掛け布団ものだめの体も離れて、少し肌寒い。
カーテン越しに感じる月光のせいで、逆光となったのだめの表情が分からず、なぜか俺はほんの少し恐怖を感じた。
俺の視界から光を遮ぎるよう、のだめの影が近づいてきた。暗闇の中でのだめの唇と俺の唇が重なり合った。
2人とも動かずにいると触れ合っている部分からじんわりと温もりが伝わってきて、俺は数秒前と違って幸せな感覚に支配されていった。
暗闇の中で感じるのだめの唇はとてもグラマラスだった。
最初はふっくらとした唇の感触を感じる程度に俺の唇に押し付けていただけだったが、何度かイヤイヤをするように左右に頭を揺らしてきた。
俺からはこんなキスはしない。そのこそばゆい感覚に、つい笑ってしまった。

「ぅーせんぱい真面目に!」

笑いをこらえながら

「ん、ほら続けて」

と次のキスを促した。
表情は分からなかったが、ちょっと拗ねているんだろう。
せっかく、のだめが積極的に動いてくれてるんだから俺も協力してあげないとなと、
のだめがくれる刺激に没頭していった。

R☆Sオケの打ち上げで二次会から三次会への移動の途中、菊池君と俺と2人っきりになったことがある。
俺がやんわりと彼の女性関係に話を移した時、菊池君が

「日本女性を地域によって二つに分けるなら、群馬あたりから東西で随分違うと思うよ」

と言ってきた。
適当に相槌をうっていると、

「東の初回から激しいのもいいけど、西の特に九州沖縄のいつまでも恥ずかしがる姿もいいんだよねー」

と続けた。
その台詞が終わるころ、前を歩いていた集団に追いついてしまい、俺たち2人もその集団に吸収されていった。

確かにのだめは俺とこういう関係になってからも、随分と長いこと最初の頃と変わらない反応をすることが多かった。
俺のPCでエロサイトめぐりをしている割に、まさにウブと言わざるを得ない反応しか返してこなかった。
あいつは元々感情を素直に表すということに難があるような気がする。
感じるままに声を出して欲しいと思っていた時期もあったし、稀に予想外の反応があったときはすごくうれしかったそんなあいつが、最近変わってきたように感じる。
セックス自体になれたということもあるだろうが、一番の原因は初リサイタルの成功にあるんじゃないかと思っている。
あの夜、のだめはリサイタルの余韻、表現する喜び、認められる喜び、そんな感覚と共に俺に抱かれたんだと思う。
俺もいつもと違う反応をするあいつに煽られて、いつも以上の快感と幸福感で満たされた。

おずおずと俺の唇の隙間からチロッとのだめの舌が進入してきた。
あいつのキスのリズムに合わせて時々舌を動かす以外は、のだめからのキスを受ける側に徹した。しばらくすると、のだめの頭は俺の
左の頬の方に傾き再び仄かな光を感じたと思ったとたん、ピチャっと左耳に水音がして、その瞬間背筋にゾクゾクとした電気が走った。


音楽家らしくのだめの耳はかなり強い性感帯だ。だから俺はいつも執拗に攻める。そのお返しとばかりが、のだめも俺の耳への刺激を
繰り返す。
俺があいつにするように・・・まっさらだったのだめは、随分俺の色に染まったんだな、と考えている時

「せんぱい、水の中に居る気分のなりませんか?」

のだめが、耳へのキスの合間に囁いてきた。

「…ン…」

相槌とも嬌声とも取れる声が、俺の口から漏れる。
それと同時にガタッと何かが崩れ、暗く深い海に沈み込む錯覚が俺を包み、その先に恐怖が待ち受けていた。

ビックっと先輩の体が跳ねた。先輩の顔に目をやると、目を硬く閉じていてなんだかすごく幼い表情。この顔は何度かみたことがある。

飛行機の中や海辺で……いつも先輩の不安げな表情は、私の母性を思いっきり刺激した。腰の辺りでシーツをまさぐる先輩の右手が
空を掴もうとした瞬間、私の左手は反射的に動き、手首を握ると先輩の胸元に手繰り寄せた。先輩の指が私の指に必死でからみついて
きた。自身の発した言葉を思い出して、溺れた記憶の中でもがいているらしい先輩の耳元にこう囁く。

「しんいちくん、怖かったら、のだめが弾いた「水の戯れ」を思い出して…」

そう言いながらも、先輩の耳に私の舌が這い回る。自身が作る水音に私自身の官能も引き出されようとしていたからだ。

わずかな光のある方からのだめの声がした。のだめの初リサイタルの時の、俺が知らなかったラヴェル……そのキラキラした音が俺
の頭に鮮明に思い出された。暗闇の中でもがく俺の手に何かが引っかかった。助けを求めるように強く掴む。これはのだめの手…?…


先輩の口からはどんな声も漏れては来なかった。
ただひたすら、眉間にしわを寄せ不安げな表情で息を潜めているようだった。
そのうち先輩が息をしているのか心配になりかけたころ、先輩は潜水していて水面に顔を出した時のような、体が酸素を欲するかのような大きな息を一つした。

それからは、

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

と胸を上下させる息が何度も続いた。

どれくらいの時間が過ぎたのか、気がつくと俺はのだめの腕の中にいた。オレンジ色の
パジャマが僅かに上下して、生きている実感をくれる。短く息を吐き出すと、のだめの
声がした。

「せんぱい、大丈夫ですか…?」

俺は身を起こし両手で自分の顔を覆うと、少し冷静さを取り戻した。なおも心配そうに
のだめの声は続いた。

「ごめんなさい、のだめ調子に乗っちゃったデスネ…」

俺のそばに横たわる恋人に何と声をかけるか一瞬思案する。本来の自分の顔を取り戻し
た俺は、手を下ろしのだめの顔を見下ろしながら言った。

「ホント、お前、変態」

見合った二人の表情に笑みが宿る。

クスクスと笑うのだめに覆いかかぶさり、パジャマをずらして鎖骨のあたりに唇を落と
す。きつく吸い上げて、そこに所有の印を付ける。少し顔を離してそれをみた時、

「しんいちくん、その顔いやらしかぁ」

その声が俺の箍をはずす。吐き捨てるように

「俺がいやらしかったら困んのかよ」

と言って、のだめの唇に噛みつかんばかりのキスを送る。
互いの舌を絡め唾液を混ぜる、何度も角度を変えのだめの口内を犯す。その間に、左手
は忙しなくパジャマのボタンをはずし、ブラをつけていない白い胸を露にする。少し乱
暴に両手を抜き、オレンジの布をベッドの下に落とす。片手でのだめの下半身を覆う二
つの布を幾らか下げる。のだめも、もぞもぞと足を動かし脱ぐ手助けをすると、最後は
俺の足の指に引っ掛け取り去った。
唇の間からのだめの吐息がもれる。少し顔を離して、髪を乱し上気したのだめの顔に見
惚れる。俺を誘う女の顔に。
俺の腰に両手を掛けながら、

「せんぱいも脱いで」

というのだめ。目は俺の視線を捉えて離してはくれない。先ほどしたみたいに、二人で
俺を裸にしていった。一糸纏わぬ姿になった俺たちは、今度は互いの体に溺れるように
重なっていった。






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