千秋真一×野田恵
![]() 外は寒くて雨が降っていた。 こういう夜は、離れ難い。 深夜をまわったところで千秋が帰ってきた。 「今日は打ち上げに顔出すから、おまえは先に寝てて」 と言われていたので、 のだめは遠慮なく先に休んでいた。……自分の部屋でなく、千秋のベッドで。 今更だから千秋も特に気にしないだろうと踏みつつも、 いつもは二人で眠るベッドは広く感じられて、なんだか少し気恥ずかしく思いながら。 寝室が玄関なので、帰宅にはすぐに気がつけた。 夜も遅いし眠いので、ベッドの中から 「おかえりなさい〜」 と声をかけると、 「なんだよ、おまえこっちに居るの」 と言う千秋の声が小さく聞こえた。 パタリ、とドアの閉まる音がして、外の雨音に重なってザアアと水音が聞こえてきた。 のだめへの返事もそこそこに、千秋はバスルームへ直行したようだ。 ざあざあと窓の外から、そして隣室から響いてくる二つの水の音を聞きながら、 のだめが再び眠りに引き込まれそうになっていると、やがてシャワーの音が止み、 ドアの音がしてすぐに千秋がベッドに入ってきた。 暖かい湿度を保っていたベッドに急に入り込んだ冷たい外気と千秋の大きな質量を 感じているのだめの頬に、ぽつりと水滴があたる。 驚いて目を開けると、うつぶせに伏した千秋の髪の毛はぞんざいに拭かれただけで、 寝巻きも何も身には付けていなかった。本当にバスルームから直行したようだ。 「……自分のベッドだからどんな使い方でもいいんですケド。先輩、まだ酔ってますネ?」 「んー」 顔を寄せると、千秋からはシャワーで消しきれなかったアルコールの匂いがしている。 少し身体が熱いのは、シャワーのせいだけではないようだ。 「……けっこう飲んできましたねー。でも……、いま、何時ですか?」 「……12時、くらい?」 くぐもった声で千秋が答える。 「先輩にしては、めずらしく早いデス。今日はポールと黒木くんもいたんでしょ? いつもの『もう一軒いくぞ〜』は無かったんですか?」 「……おまえ、いないんだもん」 のだめは千秋を見た。 「先輩、酔ってますね?」 「さっきも聞いただろ、それ……」 「そういうトコは冷静なんデスから……。 そうですか、先輩、のだめがいなくて寂しかったんデスね〜♪」 「うん……お前、いればよかったのに……」 日頃は思っていることをあまり口に出さない千秋の、こんな状態は珍しい。 のだめはあったかい気持ちになって、怖いくらいに素直になっている千秋の頭を、 いいこいいこ〜と撫でてあげた。 黒くて少し固い髪の毛はしっとりと湿っていて、いつもと違う手触りがした。 千秋は気持ちよさそうにして目を閉じている。 「いっつも、このくらい言ってくれると、のだめ安心なんですけどね〜」 「うん……」 髪をゆっくり撫でているのだめの腕を、千秋の手のひらが触れる。 「なあ」 酔いが覚めないせいか、もう眠くなっているのか。伝わる手のひらの温度が熱い。 「なんですかー、真一くん」 まるで赤ちゃんみたいですね、と思いながら、のんびりと答える。 「のだめ……」 「はい」 「わり…………すげー、したい」 「はい?」 「ちょっと、入れさせて」 「……は??」 何言ってんデスか?と言う間もなく腕を引っ張られて身体の下に組み敷かれた。 強引に唇で口を塞がれて、気付けばパジャマは足の指で引っ張られて脱がされていた。 「や、ちょっと待ってください先輩、そんな急に」 紐も引っ張られ下半身だけが露出させられて、代わりだというように千秋の手がそこを塞ぐ。 千秋の既にガチガチに固くなった熱い性器が太腿に押し付けられ、伝わる感触が生々しい。 「の、のだめまだ準備できてませんよ!」 「えー」 「何なんですかその不満げな声は」 「えぇー……のだめ、どうにかなんない?」 「なりませんよ!!のだめ今まで寝てたんデスヨ? 先輩こそソ……ソレ、どうにかなんないんですか!」 「おまえがどうにかしてくれよ……」 言いながら、千秋の指はのだめのクリトリスをさすり続けていた。 快楽を引き出そうとする、それだけの緩慢な動き。 そんなものに無理やりに興奮させられてしまう自分が、のだめはなんだか悔しくなる。 ……こんなにぞんざいな抱かれ方は初めてだ。 「……なんか、缶詰の日みたいデス」 「……?」 「おんなじ、食べ物なんですけど。のだめ、今までちょっと、贅沢だったかもしれまセン…」 乱れていく呼吸の合間に、途切れ途切れに言葉をつむぐ。 千秋の長くて筋張った指が無造作にのだめの膣口に潜り込んできて、 そこの暖かく湿った感触を確かめる。はぅん、とのだめの声が上がる。 「んーーーー、まだかなぁ……」 そう言うと千秋は濡れた指を引き抜き、自分の腰をぎゅっとのだめに押し付けた。 熱く勃起した性器でのだめのそこをまさぐるように、下半身を揺らす。 とたんに湿った粘液の音が聞こえてきて、千秋は嬉しそうに吐息を漏らした。 ちょうどのだめのセックスを自分の性器で持ち上げるようにして、 柔らかい太腿と濡れはじめた唇に挟ませた勃起を腰をつかって前後に動かし、擦り付ける。 俗に言う素股の状態だ。こういうのも、普段はあまりやらない。 待ち望んだ性感に、千秋の腰の動きがどんどん早く、激しくなっていく。 いつもは膣の内側で感じている動きを今は外側で受け止めて、 のだめはその激しさにすこし怖くなってくる。 「……いつも、のだめの中で、こんなに、激しく、動いてるんデスか…」 「ん……もうちょっと、はやい、かな……」 「えー、よくのだめ壊れませんネ〜……こんなにすごい、のに」 「うん……オレも実はちょっと不思議」 互いの性器をぐちゃぐちゃと擦りつけ合ってまるで二匹のケモノみたいなのに、 荒い呼吸に紛れて交わされる言葉はいつもどおりに呑気なのが、なんだか可笑しい。 何度かそのままのだめの奥に滑り込みそうになって、千秋は動きを止めて、 ベッドサイドに手を伸ばしてコンドームを取り出した。 自身に付けながらのだめとキスを交わしていると、 のだめがそっと、手を千秋の手に触れさせた。 「なに……なんか、不満?」 「……ちょっと、ドキドキしました」 「ばか、いくら酔ってても、ナシじゃ入れないから。安心しろ」 「………のだめ、そのままでもいいなって、思っちゃって……」 のだめの顔が真っ赤になっている。 「ダメなのだめデスね。でも、すごく、嬉しいデス。ありがとです、真一くん」 と言って、のだめは顔を千秋の肩に伏せた。 千秋もそれを受けてこれ以上ないくらいに赤面し、のだめを見やる。 のだめに自分の顔を見られていないのを内心ほっとしつつ、 今のでもう一瞬だって我慢できなくなって痛いほど張り詰めた器官を ず、とのだめの中に押し込んだ。 「―――っ!」 と、息を詰めて迎え入れるのだめ。 千秋は、ずずず、と進ませながら、吐息に声を混じらせて長く、喘いだ。 「あ―――――………」 千秋がはっきり声を出すなんて、すごく、珍しい。 のだめが思わず顔を見上げると、千秋はすごく気持ちよさそうな顔で、 目を細めて、のだめを見下ろしていた。 「すげー、気持ちいい……」 千秋はゆっくり目をつぶると、そのまま根元まで押し付けて、ぐっと腰を動かした。 「あ……先輩、ふかい、デス……あっ、あっ、ああ、あああっ」 のだめの全身にのしかかりながら、 千秋はさっきの愛撫の再開だとでもいうように、入れて間もないのに急激に、 激しく、強く腰を突きはじめる。 「ああっ、ん、はぁ、あっ、あっ、あっ、あぅ、あ………」 まるで千秋に押し出されるように、のだめの声が上がる。 いつもは一体感とか、一緒に気持ちよくなることを重視しているのが伝わる抱き方を するのに対し、今日の千秋は自分の快感を探っていくのに夢中になっている。 奥のほうまで押し込んで一気に入口まで引くのが、先輩好きなんデスね…… なんだかワイルドで、こんな先輩も素敵デス……と、ぼうっとした頭でのだめは思う。 さっきまで眠っていた体のうえにいつもと変わった抱かれ方をされて、 通常よりもいくぶん、身体が鈍感のようで。 とても感じているのだけれど、今日ののだめには千秋の様子を見る余裕があった。 ぎゅっと目をつぶって、のだめを抱きしめて一心不乱に腰を動かしている千秋。 熱い息と共に、時折ため息のような声があがる。なんだか苦しそうな顔にも見える。 ……もしかして、お酒が入っててイケないんですかね…… そういえば前にそんなことを言っていたような気がする。 酩酊状態の千秋に抱かれた記憶が無いのは、そういうことなのかもしれない。 ぷぷ、今日の先輩はほんとに赤ちゃんみたいデス…… のだめは千秋に突き上げられ揺れる身体を、千秋の背に手を回して固定し、 胸を千秋の胸板に密着させた。 振動で乳首が擦られ、固く勃ち上がったそこから甘い快感が伝わってくる。 「ぁは……先輩……きもちいいデスか……?」 首筋を舐めながら囁くと、ん……と、千秋が目を開けた。 深く繋がりながら、眼差しを交わしながら深くキスを交わす。 舌を絡め、腕をお互いの首に絡めて身体をぎゅっと密着させる。 粘液が擦れる音と、くちゅくちゅと咥内を貪る音と、 互いの激しい心臓の音だけしか聞こえなくなる。 「……真一くん……好きデス…好き…のだめ、しんいちくんが、すきです……」 「のだめ……」 ぎゅっと、千秋の腕に力が入る。 肩や背中を掴むように自分をその身体に押し付けてくる千秋に、 のだめは泣きだしたくなるような快感が背に走るのを感じて何も考えられなくなった。 「あ……は、……あ、もう、イケそ……」 そう呟くと、千秋はのだめの身体をベッドに押し付けて、 その身体をのだめの細い身体に全て預けるようにして―――― どくり、と射精した。 「………真一くん…………」 ぎりぎりと千秋自身を食い締める自分の身体が、ゆっくりと弛緩していく。 のだめは幸せそうな顔をして息を吐いている千秋を、そっと抱きしめた。 静かな室内には、降り続いている雨の音だけが響いている。 「……のだめ、起きてる?」 「……起きてますよ」 「ん…………」 千秋は握った手を、ぎゅっとつなぎ直す。 「………わるい。なんか、……酔っ払ってて」 「さっき聞きましたよ。二回も」 「…………、怒ってるか?」 「怒ってませんよー、先輩、のだめがいなくて寂しかったんでしょう?」 むきゃー、と千秋にくっついて笑うのだめ。 「……わるかったって……」 顔を赤くして、のだめの為すがままに身体を預ける千秋。 「で、どうしたんですか?あんまり、先輩らしくなかったですケド」 「…………」 少し考え込む、千秋。 「………真一くん?」 「……そと、寒かったから」 「……はい」 「雨も降ってたし」 「そうですね……」 「こういときって、……お前がいないと寂しいっていうか……」 「……真一くんは、甘えんぼデスね」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |