千秋真一×野田恵
![]() 意を決して店内へと入った...薬局。 マルレからの帰り。先日から何度も買おうと思っていたが...その度に勇気が わかず素通りしていた。 今日こそは。 店内へと入る。くそ、店番がいつものヤツじゃねー! だが入ってしまったから には今日こそはと目的の物がある棚へと行く...素通り。やっぱだめだ... 歯ブラシ、シェービングなど雑貨類を山ほど買いあさり、再度目的の棚に行く。 掴んでそのままレジへ。えーい、やると決めたんだ!文句あっか! 別に店番は商品に注目するでもなく。言われた金額を払って品物を袋へと入れて もらう。ちきしょう、剥き出しのままかよ! どことなく恥ずかしくて楽譜の入ったホルダーへとしまう。別に恥ずかしがるこ とはないんだよな...けじめだし。でも、失敗したらどうしよう...とても のだめには言えない。やっぱり始めは隠れてこそこそ? いや 言わなきゃいい だけのことだ。 部屋に戻る。案の定のだめは部屋にいた。 「おかえりなさい!じゅっうでーん!!」 とりあえず買ってきたものの袋、楽譜入れを下に落とし、彼女を受け入れる。抱 きつくがままに、匂いを嗅がれるがままに。気が済むまで嗅がれたあと、彼女は 下に落とされた袋に目を留める。 「あ、新しいシャンプー買ってきたんですネ? くんくんくん、のだめ、この匂 い好きなんですヨ、このシリーズでバスボムありませんでしたカ?今度はそれ買っ て下さいね!」 ふー、移しておいて良かった! さりげなく雑貨を片付ける振り をしつつ問題のブツは書斎の机の、鍵のかかる引出しへとしま...おうとした。 「あーっ!なんですかそれ!」 うわ!なんで気がつくんだよ!! 「いや、なんでもないから!」 「なんですか、のだめに言えない物なんですか??」 「いや、あの、」 あわてて閉めようとするが、タッチの差で鍵を奪われた。 「しんいちくん? なにを隠そうとしたんですか?」 ......言いたくない。 さり気なく視線を外しながら、 「いや、ヴァイオリンの松脂が切れてたのを思い出して。」 「ヴァイオリンはクローゼットの中じゃないですか、一緒にしなくていいんです か?」 案の定突っ込んできた。どうするか、中身を見せるのは簡単だが...見せたく ない。こういうときは...話をそらすに限る。 しばらく練習してないし、ちょっと練習しようと思って。クローゼットの中のヴァ イオリンもこっちに持ってくるつもりだ、とかなんとか言い訳しつつ、のだめを 抱き寄せる。さっき充電しましたケド、という言葉を唇半ばでふさぎつつ、背中 へと手を回す。最初から気を散らせるのが目的なので手加減はしない。あっとい う間にのだめは目つきがとろんと怪しくなり、息が荒くなってくる。良いのか, 千秋真一?まだ帰ってきたばかりじゃないか!! 自問自答しつつもしかしキスをすればそれ以上のことをしたくなるのが人情と いうもの、気がつけばカーディガンは肩から抜け、ワンピースのファスナーに手 がかかっていた...ま、いっか。 ******************** 気を散らせるのが目的、いつもよりもかなり、いや激しく乱れたあとに。 のだめが眠ってしまったあとに。 こっそりとさっきの書斎の机の引出しへと行く。しまったものを取り出す。 ニコチンパッチ。 禁煙をしようと思いつつもしかし失敗したらみっともないと、なかなか決断でき ずにいた。本数こそ少ないものの、しかし欲しいと思う瞬間も多い。本番の直前、 楽譜との格闘のあと、彼女との情事のあとに。 止めようとは何度も思っている。実のところ禁煙も何度かしている。...しか し、成功していない。今度こそ、確実を期して。でもなんとなく言うのが恥ずか しくて隠してしまった。 のだめ、すまん。成功してから、言うから。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |