ギャップ
千秋真一×野田恵


レンガ造りの道、お洒落なカフェ、青々と生茂る木々たち。色鮮やかなパリの街並み。
いつもと同じ景色なのに、昨日までとは全く違うように見えた。
二人でゆっくりと過ごす休日。手をつないで街を歩く。
二人は何も話さない。昨日まで何でもなかった事が、なんだか恥ずかしくて、言葉が見つからない。
ただ、歩いている。それだけなのになんだかとても幸せで、胸があたたかい。
のだめは手をつないでいるのに、自分の半歩後ろを歩いている。
少し手を引っ張られ、のだめの方を振り向いた。
 
「のだめ?」

のだめは少しうつむいてひょこひょこと足を引きずるようにして歩いている。

「…もしかして、まだ痛いか…?」
「いえ、痛いっていうか、何かヘンな感じです。ダイジョブです。気にしないでくだサイ。」

のだめは少し頬を赤く染め、恥ずかしそうに答えて、またうつむいた。
昨夜の事を思い出し、つられて赤面してしまう。
のだめは初めてだったが、自分はそうじゃないのに、なぜ、こんなに動揺しているんだろう。
のだめがあんなにも色っぽいなんて思っていなかった。
あんなにも肌が綺麗で柔らかいなんて。
あんなにも乱れるなんて…―

ふだんののだめとのギャップに、完全にやられてしまった。こんなはずじゃなかったのに。
もっと自分の理性をコントロールできると思っていたのに。
のだめは少し小走りして、自分の横に並んだ。俺を見上げてはにかむように微笑む。
まあいいか。のだめのペースに巻き込まれるのはそんなに嫌じゃない。

「今日の晩飯、何にしようか?」
「やた!呪文料理デスね?」

いつの間にか太陽は西へ傾き、オレンジ色に照らされたアパルトマンが見えていた。






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