千秋真一×野田恵
![]() オレがパリを離れてからちょうど一週間。 出発前日の夜は、お互いに身体の温もりを確かめ合った。 ―しばらく触れられないその肌の感触を、体に刻みこむように。 いつもよりもじっくりと。 少しでも長く触れていたくて。繋がっていたくて。 「余計、寂しくなりマスよ…」 腕の中ののだめが小さく呟いた。 息はとっくに整っているのに、身体の熱はまだ冷めない。 「余計?」 「…いつもより一段と粘着デシた」 「…あっさりしてる方が良かった?」 「…それはもっと寂しいデスね」 どっちだよ、と言いながら更に強くのだめを抱きしめる。 「…泣くなよ、オレがいなくても」 「…うぬぼれやさんデスね、ダイジョブですヨ…のだめは」 「は、ってどういう意味だ」 わき腹をくすぐってやる。くすくすと笑いながら身をよじるが逃がさない。 天井を見つめていた目を横へ向けた。 オレの頭が動くのに気づいてのだめも顔を上げる。 無意識に、引き寄せられるようにキスを交わした。 「ん…もいっかい……」 「…ハイ…」 ---------- ベッドに横たわって、ぼんやり窓の外の月を見ていた。 疲れからか、力の抜けた手で冷たいシーツをなでる。 隣はからっぽで。いくら腕を動かしてみても、抱き寄せる身体はない。 ……余裕ねーな、オレ… 週単位ではない別れ。 たった一週間でここまで恋しくなるとは自分でも予想しなかった。 ……"恋しい"か………なんて情けない男だ、と自嘲する。 電話は着いてからも何度かした。 飯のこととか、ピアノのこととか。 こんなに声が近くで聞こえるのに、どうあがいても触れられない。 受話器の向こうには確かにのだめが居るのに。 物足りない。 欲しくてたまらない。 RRRRR.......RRRRR..... 仰向けの体をすこしひねって電話に手をのばした。 「Allo?」 「センパイ?」 「のだめ…」 「なんて声してんデスか。さては寂しくて泣いてましたカ?」 「泣くかよ」 「でも恋しいデショ、のだめのこと」 「別に」 ムキー、かわいくないデスねー!と言って怒る顔が目に浮かぶ。 「ちょうど一週間デスね…」 あの夜のことがはっと脳裏に映る。 「……うん」 「ぎゃは、今えっちのこと思い出しマシたね?」 「……………うん」 「ぎゃぼっ!そ、そんな素直に…」 …自分からイエスかノーかの質問しといて。 「お前は?」 「え?」 「お前は、…オレが欲しくなったりしないの?」 …何聞いてんだ…。 「…欲しい…デスよ」 …もどかしい。 目の前でこう言われたなら、望みどおりに。何度でも… 「…オレも……お前が欲しい」 そう言って、自分の身体が少し熱くなるのが分かる。 「のだめ」 「はい?」 「しよっか」 「え、な、何を…」 「今ベッドの上?」 「そデスけど…」 「脱いで」 ………わ…かなりやばいなオレ… 空いてる片手を自身にのばすと、すでに… ----------- 「…ん…っ」 「もっと声、出して…」 伝わるのは声と甘い吐息だけ…… 今、のだめはどんな表情をしているんだろうか。 頬は紅く染まって…首筋は熱を持っていて… 「下…触って…」 それから…のだめのそこはきっと… 「…濡れてる?」 「…ハイ…っはぁ…」 いつもより従順で…大胆なのだめ。 「熱い…デス……あっ………セ…ンパイも…?」 「ん……」 固くなったそれを握る手を、ゆっくりと上下させた。 「センパ…はぁ…あっ、んん……」 お互い息が荒くなっていく。もう言葉が出ない。 オレは目を閉じて、のだめの中に入れているときを思い出した。 切なげに眉をひそめて喘いで…乱れて… 結合部からは淫らな水音が部屋に響いて… 耳元の声が更に高ぶる。 ―――もうすぐ― 「…あの……の…だめ……も、う…っ…」 「…は……オレも…」 動かす手を速める。 きっと今のだめの指も激しく… だんだん階段を昇る感覚。 「あっ、あ、しん…いちく…!」 のだめが絶頂に達する小さな叫びを聞いて、オレもすぐに果てた。 ----------- 「ちゃんと飯食えよ」 「わかってマスよ」 始末を済ませて再びベッドに横になった。 ―――まだ身体は熱いまま―。 「…さっき…すごく近くにいるみたいデシた…」 「…良かった?」 「……ハイ…でも…」 「でも?」 「やっぱりセンパイのテクニックには勝てまセン」 さっきの最中の方がはるかに恥ずかしい会話なはずなのに、 この一言で赤くなるのが自分でも分かった。 「…また明日も、電話シマス」 「"また明日も"な」 「………ムッツリ」 「うるせ……。おやすみ…」 「おやすみナサイ…」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |