邪魔はさせない
千秋真一×野田恵


「はい…わかりました」

涙を浮かべつつもきっぱりとそう言ったのだめに、俺は驚いて一瞬息をのんだ。

多分、のだめだってたくさん言いたいことはあると思う。
俺だって、全て言葉にできた訳じゃない。
それなのに。
涙ぐみながらも黙って俺を見つめるのだめの姿に、
変態の森に入ってからも辛うじて保っていた俺の中の理性が
ガラガラと音を立ててくずれていくのがわかった。

ーもう、我慢できないー
のだめだって、きっと同じことを考えている。


近寄って、そっと唇を寄せた。

「せんぱい……」

目に溜まっていた涙が、すっと流れる。

「泣くなって……」

思わず舌で涙の筋をなぞる。

「んっ……」

その舌を追うかのように、のだめの舌がからみつく。
柔らかい舌に、自分の舌をからめて貪る。
普段は軽いキスの方が好きなのだめが、めずらしい。
でも、からかう余裕もない。同じってことか。俺も。
白くて細い首筋にも、荒々しく口付けをする。

「やぁっんっ」

大きく息を吸い込むようにして、喉が上下した。

ーもっと触れたい。その甘い声を聞きたい。

半ばベッド押し倒すようにして、のだめのセーターとシャツの中に手を差し入れた。
ワンピースじゃないのだめはめずらしい。
好都合だ。普段より脱がせやすい。
服をまくりあげるようにしてすべすべの背中に手を這わせ、その感触を味わう 。

「くすぐっ…たい…あっ……」
「んー…?」

開いたその唇にまた舌を差込み、口の中を嘗め回す。

「んく……んんっ」

くぐもった声とともに、俺の行為に答えようとのだめの舌が優しく動く。
服を脱ぐのももどかしいって、こういう気持ちを言うのだろう。
もっと、のだめの肌にふれたい。
肌で感じたい。
どうして自分は、服を着てるんだろう。
そう思って自分のシャツのボタンに手をかけた。

「お前も……脱げ」
「…ハイ……」

その瞬間。

2人の耳に優しくノクターンが響いてきた。

「やべ…忘れてた…」
「セ・センパイっ、のだめはどうしたら…」

服がまくれあがりDカップのブラジャーがのぞいたたまま、
のだめはアタフタとうろたえた。

「お・お前いいから帰れ!」
「帰れって!こんなカッコで廊下でてターニャとかフランクとかに見つかったら」
「あ…と、とにかく行けって!」
「ぎゃぼー!!!」

ドンっとのだめをとりあえずバスルームに押し込んだ。

「ごめん…もう帰っていいから」(←調律師へ)

調律師をひとまずドアの外へ見送った。
マズイ(?)ところを見られてしまった…
これからも付き合いを続けていかなきゃいけない相手だけに、尚更バツが悪い。
ため息をつきつつも、のだめの様子が気になってバスルームを開けた。

「のだめ?」

押し込んだあられもない姿のままののだめが、うらめしそうに千秋を見上げた。

「センパイ…ひどいデス!」
「…お前…その姿のまま出て行く訳にも行かないだろ」
「そりゃそうですけど…2人の久しぶりのラブなひと時が台無しデスよ…」

ぐすっと涙ぐむのを見ていると、少し申し訳ない気持ちになった。

「悪かったよ」

しゃがみこんでチュッと軽くキスをする。

「………」
「続き、するか?」

真っ赤になって目を逸らすのだめを見ていると、
一度萎えたはずの気持ちが高ぶってくるのがわかった。

「しないの?」

返事は、聞かなくてもわかっているのにもう一度そう言って
首筋を舌でなぞった。

「んっ……こ・ここじゃヤです…」

すかさずのだめを抱きかかえて、ベッドに運んだ。
恥ずかしさもあり、わざと少し乱暴にベッドにのだめを落とす。
柔らかいベッドに、のだめの体が軽くバウンドする。

「はぅ…せっかくのお姫様抱っこが」
「…うるせーよ」

今度は誰にも邪魔はさせない。






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