千秋真一×野田恵
![]() 夜半、目を覚ました。 気が付けば、のだめを抱きしめるような形で眠っていたようだ。 のだめは、千秋の腕の中ですやすやと眠っている。 (涙のあと…?) 安らかな眠りの中ののだめの眦に、うっすらと涙が残るのを見た気が した。 色々と煮詰まって、逃げ出すように引越しを決めた。 どうやって伝えようかと悩むまもなく、のだめに知られて…。 千秋の頭の中に、ショパンのノクターンが流れ出す。 思わず顔が赤くなるのを感じた。 (あんなに自分を見失うなうなんて…な) 傍らで眠るのだめの横顔を見ながら、千秋は数時間前を思い出していた。 「…わかりました」 のだめの瞳には涙が光っている。フローリングの床に座り込んで、ただ まっすぐに千秋を見つめていた。 (なんでこいつ、こんなに素直なんだ…) 言葉に詰まる千秋の瞳には、予想もしなかったのだめの姿があった。 思わず、ほんとうに、無意識に千秋の手はのだめの肩に伸びていた。 そのまま、座り込むのだめにあわせるように千秋自身も膝をついた。 空いたほうの手で細い薄茶の髪をなで、紅潮したのだめの頬にふれる。 のだめは、何も言わず、じっと千秋を見つめている。 コート越しに、柔らかなのだめの体と体温を感じる。 (こいつ、どこもかしこも…やわらかいんだよな…) その思考が、千秋の欲情に火をつける。 「っ…せんぱ…い」 両手でのだめの頭を抱え込むと激しく口付ける千秋がいた。 ふっくらとした唇を吸い、歯列に舌を割り込ませる。…少し、だのめの 抵抗するそぶりもあったが、すでに千秋の舌を受け入れ、その動きに 身を任せるのだめの姿が目に映る。 千秋の手は、のだめの背中をまさぐり、ゆっくりと…素肌に触れる場所 を探していた。 ブラウスをたくし上げ、長い指を滑らかな肌へ伸ばす。ほどよく引き締 まったウエストや背中を味わいつつ、器用にブラジャーのホックを外し た。 「だ…め…デス…」 荒い息遣いの下、消え入りそうな声でのだめが訴えている。 ベッドサイドに座り込んでいるのだめに覆い被さるようにして 千秋は唇にも頬にも首筋にも執拗なまでに口付ける。手は服の下で素 肌を愛撫する。 「あ、あっ…ん」 ふっくらと丸みを帯びた乳房をもみしだき、時折先端をきつくひねると のだめの唇からかわいい悲鳴がもれる。 片方の手はスカートの裾をまくり、太ももから足の付け根へとゆっくり 進んでいく。 その場所がしっとりと潤っているのが、レースの布越しからも感じ取れる。 「っん!だ…め…デス……よ…」 のだめの制止を聞かず、千秋の指がショーツの上でゆっくりと動き始める。 のだめは、顔を真っ赤にして千秋の胸に顔をうずめている。その様子を 見ながら千秋は性急に自分のシャツのボタンに手をかけた。 その時……… 少しだけ開いたドアの向こうからピアノの音が…。 一瞬、千秋は何が起こったのか把握できずにいた。 (…しまった!!) ようやく自分の置かれている状況を理解して、けれど、目の前には取り繕い ようもないのだめの姿が…。 「っ、おまえ…」 千秋はとっさにのだめを抱えあげると、バスルームのドアをあけ、のだめを 放り込む。 「むぎゃ!」 のだめが悲鳴をあげているが、それどころではない。 なんとか気持ちを建て直し、ピアノを弾いている調律師を送り出した。 バスルームのドアを開けると、膨れ顔ののだめがいた。 「先輩、ひどいデス…。だからのだめ、何度もダメって言ったのに」 「な、おまえ…分かってたんならちゃんと止めろよ!」 「だから、何度もダメって言ったじゃないですか!」 「………。だけど、おまえ普段だってすぐに“だめ”って言うから…」 千秋の言葉に、のだめが真っ赤になる。 「でも、今日はホントにダメって…でも、しんいちくんがあんまり 激しいから………」 今度は、のだめの言葉に千秋が真っ赤になる。 確かに、バスルームに座り込んだのだめの姿は、服も髪も乱れていて 先ほどまでの千秋の激しさを十分に現していた。 膨れ顔ののだめを抱き上げ、ベッドサイドに座らせる。 まぶたに軽くキスをして乱れた髪を直してやる。 「とりあえず、メシ…にするか」 「ハイ…」 (ほんと、どうかしてたな…) 人生最大の大失態を思い出し、千秋が何度目かのため息をついた。 調律師を送り出し二人で久しぶりに夕食をとり…それから先は、もちろん 先ほどの続きだったわけで…。久しぶりに触れて、感じるのだめのすべてに 再び理性を手放していた自分を思い出す。 (こんなんで、大丈夫か…俺…) 捕まえたと思っても、すぐにどこかへ飛んでいってしまうのだめに振り回さ れている自分がいる。 離れて暮らす事への期待と不安が胸をよぎる。 『待ち合わせデートできますね!』 嬉しそうに言っていたのだめを思い出す。 「…それもいいかもな」 つぶやいて、眠っているのだめの寝顔を見つめる。 その安らかな寝顔を見つめるだけで、満たされてくるものがある。 しばらくのだめの寝顔を見つめていた千秋だったが、のだめの規則正しい 寝息に誘われるようにトロトロとまどろみ始める。 夜は、ゆっくりと明けようとしていた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |