千秋真一×野田恵
![]() パリ1年目の冬 ノエルの日から数日、千秋は自室でニューイヤーの計画を練っていた。 (シャンパンとワインはあるから、あいつの喜ぶものでも作って… コンサートに誘うのもいいか…?) あの夜から数日、のだめの態度はよそよそしく、千秋の部屋に来ても すぐに自宅へ引き上げていく。 (やっぱり、急ぎすぎたのか…?) 思いをめぐらせると同時に、あの時ののだめの感触や声や表情や… いろいろなものが鮮明によみがえって来て、千秋は、身体がカッと 熱くなるのを感じた。 (オレは、やりたい盛りのガキか…) 千秋は、思わず大きなため息をついていた。 気分転換にコーヒーをいれ、ぼんやりと窓の外を見ていたとき、玄関の ドアがガチャリと開いた。 「せんぱーい!」 以前と変わらない(気がする)のだめの声にホッとしながら、振り返る。 のだめは、手に何か小さな包みを抱えていた。 「あの…さっき先輩がお留守のときに、黒木君が来たんデス。それで、 実家から送ってきたものをお裾分けにって」 やはり少しぎこちない表情で、のだめは千秋に包みを差し出した。 「何?」 「栗きんとんだって言ってマシタ」 「栗きんとん…?」 「お正月のおせち料理デスよ?先輩のお家は食べないんデスか?」 「ああ…」 肯定とも否定ともつかない微妙な返事に、のだめの表情はいよいよぎこちない。 差し出された手に、包みを渡すとき指と指が少しだけ重なった。 たったそれだけのことなのに、千秋が驚くくらいのだめはビクリと身体を 震わせ、慌てて部屋を出て行こうとする。 「おい、ちょっと待てよ…」 離れていこうとする手をつかみなおし、ぐいと引き寄せた。 それでものだめは千秋を見ようとしない。 「…どうしたんだよ」 「何でもないデスよ…」 「それがなんでもない態度かよ」 「…」 「怒ってるのか?」 「そんなことないデスよ」 「じゃあなんだよ?」 「………」 千秋の手の中で、のだめの手はかわいそうなくらい冷たくなっている。 千秋はひとつ息を吸った。小さく尋ねる。 「嫌だった?」 「…違いマスよ……」 「じゃあ、なんで避けてるんだよ…」 「………」 のだめは答えない。 「…なにか言えよ…」 「………だって」 のだめがやっと、小さな震える声で話し始める。 「せ、先輩は慣れてるかもしれないデスけど、 のだめは初めてだったし、すごく痛くて…。それに途中からいっぱいいっぱいに なっててなんだかよく憶えていなくて、だから… 何か変な事したんじゃないかとか、がっかりしたんじゃないかとか… それに、よく考えると凄く恥ずかしいし……それに…」 やっと満足に話し始めたと思うと、今度は一気にまくしたてる。しかも、 言っていることは支離滅裂で。 「のだめ…」 自分でも驚くくらい優しい声だった。 のだめもはっとして顔を上げた。瞳いっぱいに浮かんだ涙が、一滴落ちた。 千秋の長い指が、頬に伝う涙をぬぐう。 「よかった…」 「何がデスか…?」 のだめの目は、“ちっともよくないデスよ”と訴えているようだ。 思わず、くすりと笑みがもれる。 「1回目で嫌われたのかと思って…」 「そんなこと…ないデス…」 「うん…」 頬に置かれたままの手が熱をおびてくる。 (こいつに触れるのは、あの日以来だな…) まだ少し膨れ気味の唇に千秋がそっと唇をよせる。 「せ、先輩…」 「何…?」 「あの、のだめ、頑張って掃除をしたんです」 「…?うん」 「それで、あの、お正月…のだめの部屋でどうですか?」 「うん…」 のだめの頭に回された手に、力がこもり、千秋の唇がさらに近づく。 「そ、それから…」 「今度は何?」 「じつは、掃除が大変で3日お風呂に入ってないんですけど…。いいデスか?」 「…………いいわけ無いだろ!」 「ぎゃぼん…愛があれば、お風呂入って無くても大丈夫とか…?」 「そんなわけあるかー!」 “それじゃ、あとから来てくださいね” のだめがそう言って部屋に戻ってから子一時間。 (そろそろいいかな…) 千秋は片手にシャンパンとワインを抱えて、のだめの部屋に向かう。 実際、パリに来てからのだめの部屋に入ることはほとんど無く、少し緊張 するくらいだ。 呼び鈴を鳴らし、ドアを開けた。 「ハーイ!」 ニットのワンピースにカーディガンを羽織ってのだめが出迎える。 「へえ…」 「頑張って掃除しました!」 得意げになっているのだめの髪からは、甘いシャンプーの香りがする。 そして、のだめ部屋には大学時代と変らないコタツも。 「えへ、輸入しちゃいました…」 魔のコタツ…と思いつつ、板張りの部屋でのだめとコタツに入りながら 鍋をつつく。 ほんの少し前までの、ぎこちない雰囲気がウソのようだった。 「はう〜のだめはもう飲めません」 のだめが先に根をあげた。 「なんだ、もう飲まないのか?せっかく持ってきたのに」 千秋がさらにワインを注ぐ。 「のだめはもうフラフラです。おやすみなさいデス…」 「おい…」 コタツにうずもれていくのだめに思わず千秋は手を伸ばす。 「もう、なんデスか〜。のだめ、眠いです〜」 「…」 コタツに深くもぐりこんだのだめの足が、千秋の足に触れる。 千秋はついついのだめの足に手を伸ばしていた。 「ひゃ…。もう、しんいちくん……」 酔っ払っているのだめの反応は緩慢だ。 千秋自身もすでにかなりのワインを飲んでいて、その態度はかなり大胆になっていた。 のだめの柔らかな太ももをゆっくりとなでさすってみる。 「ん…んん…」 のだめはくすぐったそうにしているが、瞳は閉じたままだ。 千秋の手は、徐々に大胆に動き始める。 太ももから少しずつ足の付け根へ進んでいく。 「っ!だめ…デスよ…」 びっくりした顔でやっとのだめが千秋を見た。 すでに千秋の指はやわらかなのだめの、一番柔らかい部分をショーツの上からゆっくり なぞっている。 「ん…んんん…」 のだめはコタツ布団に顔をうずめて、声を押し殺しているようだ。 薄い布越しでも、のだめの潤みを感じることが出来た。…敏感な突起はすでに大きく 膨らんでいる。 「気持ちいい…?」 「っや…」 ワインと羞恥でのだめは真っ赤になっている。 「ここ…気持ちよくない…?」 千秋の指はショーツの上から敏感な突起をやわやわと撫で上げる。 「ぁあ、あん…」 のだめの唇からは甘い吐息が漏れる。 千秋は空いた手でのだめの頭を自分に引き寄せ、口付ける。下唇も上唇も、存分に 味わうと今度は舌を咥内に割りいれ、歯列をなぞる。 与えられる感覚に思わず身をよじるのだめを逃さず、千秋の舌はのだめの咥内を 蹂躙していく。唾液を飲み干し舌を絡めとる。 「んんん、ううんんっ…」 千秋に出口を奪われた声は、くぐもったあえぎだけを発していた。 のだめの咥内を味わいながら千秋の指は絶え間なくのだめの敏感な突起を刺激してる。 円を描くように、すくいあげるように…ショーツの上から、ゆっくりゆっくりと 愛撫を続けていた。 すでにその部分は、溢れた潤みを受けていて、熱く、ひくついている。 与えられる快感に息を荒くしているのだめの様子を伺いながら、千秋の指が ゆっくりと…ショーツの隙間からのだめ自身に触れた。 「ひゃ!」 思わず、のだめの唇から小さな声があがる。 「…嫌…?」 のだめは答えず、小さく首を横に振った。 くちゅ…… 千秋の指が襞の間を動くと水音が漏れる。 「…気持ち、イイ?」 「……」 あいかわらず、のだめは答えない。ただ、耳まで赤くなって声を押し殺している。 (十分だ…) 千秋の指は、襞をやわやわともてあそんでいたが、のだめの入り口の蜜をすくいとると 敏感な突起になでつけるように愛撫を始める。 「ゃ…あ、あああ…ん。はぅぅ…」 千秋の指が突起を撫で上げ、刺激するたびにのだめの唇から甘いあえぎがもれる。 千秋はその声に煽られるように、執拗に愛撫を繰り返す。 「ゃ、もう…せんぱい…もう…のだめ、おかしくなっちゃいマス…もう…だめです…」 消え入りそうな喘ぎ声が漏れるたび、千秋は自分自身も高まっていくのを感じていた。 「のだめ…」 千秋は、こたつにもぐりこんだのだめを抱きかかえると、ベッドに降ろした。 のだめは、不安そうに千秋を見つめている。 千秋は、のだめのワンピースをゆっくりと脱がしていく。 ワンピースの下から、淡いピンク色のブラとショーツが姿を現した。 「今日も、紐なんだ…」 「ソデスヨ…。のだめはいつも紐って決めてるんです…」 何時かも聞いたセリフをのだめが言っている。 「あの、先輩…」 「なに…?」 「電気、消してください…」 「この部屋、どこにスイッチあるのか分からないしな…」 「…むきゃ…こんなときもカズオですか…?」 「…」 千秋は答えず、ふっくらとした胸に手を伸ばす。 唇で耳たぶに、首筋にキスの雨を降らせながら。 しばらくはブラの上を行き来していた手が、するりと入り込みこぼれそうになっていた 胸に直に触れた。 「っや…」 「嫌…?」 千秋はわざと、手を止めてのだめの表情を伺う。 見つめられ、ふいと目おそらすと、ほんとうに小さな声でのだめは答える。 「…いやじゃ、ない デス」 「よくできました」 ごぼうび代わりの軽いキスをすると、のだめの頬が緩む。 千秋がブラを外すと、きれいな丸みを帯びたふくらみが姿を現した。 「恥ずかしい…デス」 明かりの下で身をよじり千秋の視線から逃げようとするのだめをさえぎり、 両手ですくい上げ、やわやわとこねてみる。時折、先端を指ではさみもてあそぶ。 千秋の愛撫を受けるたび、のだめの唇からは遠慮がちな吐息がもれる。 敏感な突起はすぐに、硬くとがり主張を始めた。 それを待っていたかのように口に含むと舌先で転がしたり、根元から唇で 締め上げてみたり思いつく限りの方法で、愛撫していく。 「ん…ぅんん…」 のだめの唇からは、絶え間なく小さな吐息がもれている。 白い胸に、たくさんの赤い痣を残し、存分に味わいながら千秋の指は新たな場所を目指して のだめの身体を移動していく。 ベッドの上で、千秋に上半身を預けるようにして座り込んでいるのだめの太ももから、 足の付け根までゆっくりと撫で上げる。 「あ…」 一番敏感なところに触れるのか…と思うと離れていく…そんな動きを千秋の指は 繰り返している。 「あ…あの…」 何度目かの往復の後、思わずのだめが声をあげる。 「…なに?」 「………」 「どうかした…?」 「……なんでも ありまセン…」 「…ちゃんと言えよ」 「なんでも ないデス」 「ほんとに…?」 「ほんとデス…」 「……ふ〜ん。でも、言わないとこのまま放置だな」 そんなことできるはずもないけれど。 「むきゃ、またカズオですか…?」 すがるような目で見つめられて、憎まれ口を叩く唇をさえぎると、細い紐をほどき、 引き抜く。すでに十分に潤っている場所に指を這わせていく。 くちゅっくちゅ… お互いの耳にはっきりと届くほどの水音がその部分から聞こえてくる。 千秋の胸に顔をうずめているのだめを、そっと横たえると、左腕でだきかかえるように しながら右手で刺激を繰り返す。 潤みをすくい取り、すでに大きく膨らんでいる突起にぬりつけるようにしてやると のだめのからだがびくんと跳ねる。 「ここ、気持ちいいんだ…?」 相変わらず、のだめは答えられない。硬く目を閉じ、吐息をもらすだけだ。 千秋は円を描くように撫で上げ、突起をこねてやる。 「はぅ、はぁあああん」 のだめの吐息がはっきりとしたあえぎ声に変る。艶を帯びたその声はふだんの のだめからは想像がつかない甘い声だ。 「せんぱい、そんな…もう…や、め…」 荒い息をしながら千秋に翻弄されているのだめをだきしめながら、刺激を繰り返す。 すでに、のだめ自身から溢れる蜜はシーツまで濡らしていた。 「ね、せんぱ…い。のだめ、変になり…マス…だから、もう…あ、ああん、あっ…」 それでも、千秋は刺激を繰り返す。 「はぅ、あ、やぁ…あ、ああああぁあんん」 執拗な刺激をうけて、のだめの身体はびくびくと震え、ゆっくりと弛緩していく。 荒い息の下、はじめての感覚に驚いたようにのだめは千秋を見ていた。 「…どう?」 「………なんだか、よく分かりマセン…」 「………」 「…びっくり しました…」 「気持ち、良かった?」 のだめは、恥ずかしそうに目をそらし小さくうなずいた。 千秋は、のだめの息が整うのを待つと、すっかり潤んだその場所に長い指を差し入れていく。 「うっ…」 のだめの表情が曇る。 細い肩を抱きかかえるようにしながら、やさしく唇を食み、舌をとらえつつ、 やわやわと指を動かし、内壁を刺激してみる。 のだめの表情は曇ったままで、千秋の動きに合わせ吐息をもらすだけだ。 中に入った指の動きを続けながら、親指で突起を刺激する。 「はぅ…う」 甘い声と共に、刺激を受けるとのだめ自身が千秋の指を締め付けてくる。 新たな潤いが生まれて、中をまさぐる指もスムーズに動くようになる。 千秋は、そっと、指を増やしていく。 「んんっ…」 のだめの声は、苦痛を訴えている。それを裏付けるように、千秋の指は驚 くほどの強さで圧迫されている。 (きついな…) 初めてのとき、自分自身がここに入っていたことが信じられないくらいの締め付けを感じ、 苦しそうに表情を歪めるのだめが、とてつもなく愛しいものに思えた。 “ダイジョブ です。のだめ、先輩と ひとつになりたい…デス” あの時、のだめは何度もそう言って、今日はもうやめようという千秋を抱きしめた。 (よく憶えていないらしいけどな…) のだめの意識からは飛んでいるが、千秋にとっては忘れられない時間だ。 (この様子じゃ、あの日の再現になるんじゃないか…?) 一抹の不安を感じ、のだめの中をまさぐっている指の動きも鈍くなる。 「…ダイジョブ ですよ。そんなに…痛くない…ですから」 ふいにのだめが千秋に囁きかける。 (…痛いんじゃねーか) 千秋の返答が無いことに不安を感じるのか、のだめが続けて囁く。 「のだめ、先輩と ひとつになりたいん デス ヨ…」 千秋はまだ、躊躇している。 「ヘーキ です」 のだめは千秋の頭に腕を回し、ゆっくりと囁く。 「先輩は…のだめを感じたくない、ですか?のだめは、千秋先輩を身体全部で、 感じたい、デス。だから、痛くたって、いいんデス…」 「だから…早く、のだめをイッパイに、して下さい…」 甘い声と息遣いが千秋の耳元をくすぐり、欲情をたかめていく。 快感を感じるだけが、この行為の目的ではなくて、ぬくもりを感じて、誰よりも深く つながっていることが、千秋を満足させる。 他の、誰にも見せたことの無い表情を、声を、身体すべてを独占している瞬間が、 たまらないものだと…。 …のだめもまた、それを感じているのだろうか? 千秋は、のだめの中でうごめいていた指をゆっくりと引き抜いた。 そして、自分の衣服を剥ぎ取るように脱ぐと、手早く準備をし自身をのだめ自身に押し当てる。 「ん…」 ほんの少し、先端が入りこんだだけでのだめの表情が曇る。けれど。 千秋の理性を総動員しても、これ以上我慢はできなかった。 熱く潤んだのだめの中へもっと入りたい…。それでも、精一杯気持ちを抑え ゆっくりと、のだめの中へ入っていく。 のだめ自身は十分な潤いがあるとはいえ、まだまだきつく、千秋自身を締め付けている。 「あ、うぅ…」 「大丈夫か…?」 「……ハイ…」 (全然、大丈夫じゃなさそうだな…) 痛みと圧迫感できつく目を閉じているのだめにそっと口付ける。 「はぁ…」 唇を、敏感な耳を柔らかくかまれ、のだめの唇から甘い吐息がもれた。 とたんに、中の潤いが増すのが分かる気がして、そっと自身を動かしてみる。 ぐちゅっ…ぐちゅっ ゆっくり、ゆっくりと動き始める千秋にあわせ、いやらしい水音とのだめの吐息が 重なる。高まる快感を抑えながら、千秋はゆっくりと動いている。 そんな時… 「ゃ…あん」 少し前とは明らかに違う声がもれた。 千秋も、のだめ自身も驚いているようだった。 「…おまえ…」 のだめの中は、明らかに先ほどよりも熱さを増している気がした。 遠慮がちにしていた動きを、少し強めてみる。 「っはぁ…」 千秋自身がのだめの内壁をこするたびに、のだめの唇からは甘い吐息がもれる。 「や…せんぱ…い。変…です…」 「大丈夫…だから」 かすれた声で囁くと、千秋は動きを早めていった。 つながる部分から、蜜が溢れ出す。まだ残る痛みと、快感にのだめは翻弄されている ようだった。 「ひゃぁ、ああ!!」 ふいに、敏感な突起に指を這わせると、そこはすでにはちきれそうになっていて、 千秋が軽く触れるだけで、のだめは千秋自身をきつく締め付けた。 (やば…) なんとか保っていたものが、一気に高まっていくのを感じた。 千秋は、のだめの足を両腕にかけ、激しくのだめの中へつきたてていく。 「ぁ、あああああああん」 のだめの声も、一際高くなる。その声に煽られるように千秋は強く、深く突き上げていく。 千秋の腕の下で、のだめの身体が揺れ、動きに合わせて甘い声が、細く、高く… 途切れることなく発せられる。 千秋は、自身の快感にまかせて激しい動きを繰り返し…。 「っ…」 鋭い快感に、自身を解放し、ゆっくりとのだめから引き抜いた。 「あ…っ」 千秋が離れていくのを名残惜しむかのように、のだめの唇から吐息がもれた。 「大丈夫か…?」 いたわるようにのだめを抱きしめながら、千秋が囁く。 「ハイ…」 のだめは、この間と同じように千秋の胸に顔をうずめている。 「…千秋先輩の、においがしマス…」 「お、おまえ…!」 思わず身体を離そうとする千秋に、のだめは抱きついてはなれない。 「幸せ…デス」 満足そうに微笑んでいるのだめを見て、抵抗を止めのだめの好きなようにさせることにした。 のだめはただ、胸に顔をうずめているだけだ。 「…先輩…キモチよかったデスか?」 「な…何を急に…」 「キモチよく、無いんですか…?やっぱりのだめじゃ…」 「……」 「ダメですか…?」 上目遣いでのだめが見つめる。 「いや…。十分…」 ようやくそれだけ答えると、千秋はのだめの頭に手を回し、腕枕をしてやる。 「はぅ〜、腕枕〜」 のだめは幸せそうに微笑んでいる。 まぶたにそっと口付けると、千秋もゆっくりと目を閉じた。 翌朝 「の、のだめ…?」 目覚めると、のだめの姿が無い。ワンルームの部屋に他にいる場所があるはずも無い。 「どうしたんだ…あいつ?」 とりあえず、服を着て自分の部屋のドアを開けてみる。 そこには、千秋のベッドの半分ですやすやと眠るのだめの姿があった。 「おまえ、何してんだ…?」 思わず尋ねると、のだめが目を覚ました。 「むきゃ、先輩…おはようございマス…」 「おはようって、何でおまえ、ここで寝てるんだよ!」 「…先輩、覚えてないんですか…?」 不機嫌そうなのだめの顔を見て、心当たりのない千秋は必死に昨夜の記憶をたどるが、 どうしてもあの後のことは思い出せない。 「オレ…何かしたわけ?」 おそるおそる尋ねると、のだめは膨れ顔でちろりと千秋を見た。 「昨日、あの後…」 千秋は思わずごくりと唾を飲んだ。 (一体オレが、何をしたっていうんだ!) 「先輩、のだめを羽交い絞めにして、離さなかったんデス。それで、やっと離してくれて 眠れるかなと思ったら、今度は肘鉄と膝蹴りが…」 「なっ」 「それだけですむかと思ったら、のだめを蹴飛ばして。のだめ、ベッドから追い出され たんデスよ!」 「………」 「のだめ、もう自分の部屋に先輩招待するのは…やめマス」 「ごめん…」 ベッドの上でふてくされているのだめの頭をなで、抱き寄せる。 「蹴ったの…どこ?」 「ここです…」 のだめは身をよじり、小ぶりだけれどまるいヒップを突き出す。 千秋はだまって、のだめの指差す場所をそっとさすってやる。 「他は…?」 「あとは…」 答えようとするのだめの口は、千秋によってふさがれてしまっていた。 千秋の部屋のベッドは、のだめの部屋のベッドよりも大きい。 かろうじて追い出されずにすんだのだめと千秋は安らかな眠りの中だ。 “ピンポーン” 来客を告げる合図に、千秋はのろのろと服を着るとドアを開けた。 ドアの向こうには、アパートの面々が… 「何…?」 「いや、ニューイヤーの挨拶に……来たんだけれど」 フランクが赤くなって口篭もる。ターニャも、目が点になっている。 「なんだ、一体…」 と口に出してから、ようやく千秋は置かれている状況を把握した。 「あ、後で挨拶にいくよ…」 千秋がようやく答える。 「そ、そうだね…うん。お邪魔しました……」 「じゃ…ね…」 フランクとターニャの視線をさえぎるようにドアを閉め、千秋はため息をついた。 のだめはまだ、眠りの中だ。 (布団、掛かっててよかったな…) 最悪の事態は免れたものの、この後どうするかを考えると新年早々、憂鬱になる 千秋なのだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |