ジュラシック千秋
千秋真一×野田恵


「のだめ待ってー!」

名前を呼ばれて立ち止まり、
振り返ると、リュカが息を切らして走ってやってくるのが見えた。

「リュカ〜、どうしたんデスか?そんなに慌てて」
「もう帰っちゃうの?僕、今日、お小遣いをもらったから、
のだめにカフェでお茶をごちそうしたいと思って!」

ハーハーと、乱れた息も整えずサラサラとした髪を金色に輝かせて
リュカは一息に言った。

今日はこれから千秋の新居を訪れる予定だった。
明日は多忙な二人が時間のやり繰りをしてやっと合わせた休み。
久しぶりに味わう千秋の作る食事と、甘い時間を心待ちにしていた。
のだめは車で学校まで迎えに来ると言う千秋と待ち合わせる為に
近くの大通りまでやって来た所だった。

「のだめは今から大事な用があるんデス。お茶は今度ごちそうしてくだサイ、ゲハッ」

のだめはハートを飛ばしながらそう答える。
10も年下の少年にごちそうされる事には何の抵抗もない。
頭の中は千秋一色でリュカのムッとした表情に気を配る余裕はなかった。

「大事な用ってもしかして千秋??千秋とは別れたんじゃないの!?」
「ムッキャーー!いったい誰がそんなデマを!!」
「ターニャとフランクが千秋の引っ越しパーティーをやったって言ってたよ!」

別れたから引っ越したんでしょう?と、リュカは詰め寄る。

「引っ越しパーティーは事実デスけど……」

引っ越しを初めて知らされた時の衝撃を思い出してのだめは鬱になった。
その表情をリュカは勘違いしたのか、のだめの両手を取り

「恋人を置いて引っ越しなんて普通する?僕だったら考えられないよ!」
「そ、それは…、千秋先輩が勉強に集中したいってい……」
「僕だったら!」

リュカはのだめの言葉を遮り、ぎゅうっとハグをする。

「僕だったらもっと恋人を大事にするよ!」

才能溢れる早熟なこの少年をのだめはとても好きだった
もちろんその気持ちが恋に変わる事はないけれど。
身長が自分とそう変わらなく成長した今もリュカは幼くかわいいままのリュカで、
少し過剰なスキンシップもついつい許してしまうのだ。

「リュカ……」
「だからさ、今日は僕とカフェへ行こうよ」

僕にのだめを大事にする権利を与えて欲しい
のだめを抱く腕の力にそんな気持ちを込める。
のだめも笑顔でリュカの背に手を回し

「リュカ……、よっぽど喉が乾いているんデスね」

と、まるで母親が子供をあやす時の様にポンポンと背中を叩く。

「でもまあ、とにかく今日は千秋先輩が……」

当然リュカは面白くない。鈍感なのにも程がある!
おまけにサラリと親愛のハグを返され、ついカっとなって声を荒げてしまう。

「千秋、千秋って!!千秋なんてもうオッサンじゃん!!」


「……オイ、誰がオッサンだ」
「!」
「あ、千秋センパーイ」

見覚えのあるルノーに寄りかかり千秋が腕を組んで立っていた。
いつからそこにいたのだろう、リュカとの会話に夢中で
千秋の到着に気が付かなかった。
一瞬背中に炎を背負ってる様に見えたのは目の錯覚だろうか。

千秋は質問の答えを待たずに、助手席側へ周りのだめの為にドアを開けてやる。

「いつまでもひっついてないで、乗るのか乗らないのかハッキリしろ!」
「ギャボッ!乗りマス!乗りマス!」

のだめは慌ててリュカを引き剥がし

「リュカ!お茶はまた今度ごちそうになりマス」

笑顔で敬礼した。そして乗り込もうとしたその時……

「!」

ドアの脇に立っていた千秋が、のだめの肩を抱き寄せいきなり唇を奪う。
噛みつく様なキス。

「アヘー」

千秋は放心状態ののだめを放り込む様に助手席へ座らせると
大きな音を立ててドアを閉めた。
運転席側へつかつかと歩き、ドアを開ける手を止め、
背後でこれまた呆然と立ちすくむリュカに、地を這う様な低い声で

「別れてないから」

と一言呟き、車に乗り込んだ。

「ま、負けないからなーーーーー!!」

リュカは風の様に走り去る車に向かって叫んだ。
子供にさえ容赦ないあの男に、いつの日かリベンジできる事を願いながら。

部屋に入るなり千秋はドサっとのだめをベッドに放り投げる
スプリングが軋んで大きな音を立てたがかまわなかった。

「ムキャーー 先輩! なにする……んっ」

千秋は着ていたジャケットをソファーへ放ると、のだめの上に覆い被さり
のだめの苦情と唇を奪った。

「んんっ……」

お互いの歯と歯がカチリと音を立てる程、激しく口づけ舌をからませる。
首を振って逃れようとするのだめの後頭部を片手で押さえ
歯列を割って更にキスを深めて行く。
角度を変えては逃げる舌を追いかけ、無理矢理絡め取る。千秋らしくない乱暴なキス。
けれど……、乱暴ではあるけれど、のだめの呼吸は段々甘く色づいて行く。

「はぁっ……、せんぱ……ん、んむっ…」

何度も離れては深まり、千秋も時折熱い吐息を漏らした。
いつの間にかのだめは千秋の肩に腕を回し、千秋の甘い吐息を全て飲み込もうと
激しいキスに夢中で答えていた。
求められてる……?こんなに激しく……。
そう考えるだけで身体の奥から熱いものが溢れるのを感じた。


キスに応えるのに精一杯でのだめは自分の服がはだけている事に気が付かなかった。
耳や首筋に舌を這わせながら千秋が器用にボタンやブラジャーを外して行く。

プルっと零れ落ちる胸を千秋はいきなり握りしめた。

「んっ……」

跡さえ付きそうなその激しさにのだめは息を呑んだ。
指の間から覗くのだめの乳房は、透けそうな程真っ白な肌に
幾筋もの青い静脈が走っていて、
決して傷を付けてはいけないと千秋をいつも恐れさせたはずだったのに。

胸の頂きを舌で湿らせ強く歯を立てると、のだめが短い悲鳴を上げた。
苦しいからなのか、それとも悦び故か判断はつかなかったけれど
千秋はかまわず先を急いだ。

「んっ、あぁ……っ いやっ…」

のだめは片手で枕を抱き締めそこへ顔を埋め悲鳴を殺した。
それは壁が薄い部屋で愛し合う時の二人の知恵だったが
この部屋なら、のだめの嬌声を誰かに盗まれる心配はない。

「声、出していいから……」

千秋は枕を取り上げてしまう。

何かに掴まっていなければこのまま深く沈んでしまいそうになる。
たとえそれが、ただの柔らかい羽の塊だったとしても。
のだめは必死に枕を取り返そうとしたが、千秋がそれを許さなかった。

両方の乳房を鷲掴みにして、手繰り寄せ二つの先端を一度に口に含む。
そこが赤く染まる程吸い続けると、のだめは彷徨わせていた腕を
千秋の背中に回すしかなかった。

「センパ……、イ……、今日は激しすぎ…るっ…んんっ!」
「そう?…いつもと同じだろ」

言葉こそ冷静だったが、荒い息と額から顎へとすべる汗が
普段の千秋とは違う事を証明している。

「同じじゃないデスよ!いつもよりカズオですよ!」
「いつもと違うのはオマエだろ?…ほら、これ」

……まだ触わってもいないのに、もうこんなに感じてんの?
と、千秋は泉の入り口を指でかき混ぜ、わざと大きな音を立てる。
くちゅくちゅと響く卑猥な水音にのだめの羞恥心が煽られる。

「しらな…いっ、ずるいっ、先輩はイジワルですっ」
「なら、やめる?」
「ムキャー、ムッツリカズオ!」

止めて欲しい訳じゃない。
それどころか指じゃない違う物が欲しいと言ってしまいそうになる。
けれどちっとも優しくない、強引で自分勝手な千秋にすら
愛おしい、と反応してしまった自分が恥ずかしい。
こんなに千秋が欲しいのに、千秋は冷淡に自分を見下ろしている。
どんなに頑張っても勝てない。音楽だけじゃない、この想いさえ。
こんな風に無理に身体を開かされても拒む事ができない。
千秋が好きだから……
自分ばかり千秋を欲している気がしてのだめは切なくなる。

「……だって言えよっ」
「え?」
「オレを好きだって100回言えよ……、そしたら入れてやる」

そう言ってのだめを強く抱き寄せたから千秋の表情は見えなかった。
けれど、催促された筈が、実はとんでもない愛の告白をされた気がして
のだめはまた溢れてしまう。
100回言い終わるまでにどれだけ焦らされるのか……
気が遠くなる思いだったがのだめは覚悟を決めた。
千秋の肩に頭を押しつけ縋る様に口を開く。

「……好きデス、好きっ、……デスっ」

のだめを抱きしめながら、千秋はもう片方の手でベッドサイドのチェストを漁る。
慌てたのかCDや小物が落ち、床で大きな音を立てたが今は構っている余裕はない。
目的の物を手探りで見つけだすと口で封を切って手早く装着する。

「す、好きデスっ、好きデスっ、好きっ、好きっ、んあっ、あっ、ああんっ!」

100回どころか10回も聞き終わらない内に千秋はのだめの入り口へ昂りを突き立て
奥へ向かって一気に腰を進めた。

「せんぱっ…、100回…、まだ、あん、んんっ!」
「…そんなに待てるか」
「ムキャっ!なんてカ…」
「カズオなんだろ…どうせっ」

いつもの様なネチネチとした執拗な前戯もないまま、激しい抽送を始めた。
のだめは身体をガクガクとおもちゃの様に揺さぶられ、たまらず声をあげた。
千秋はのだめの片足を抱え上げ、自分の肩に乗せ更に奥を責め続ける。

「やぁっ、だめっ、センパイ、のだめこわれちゃいマスっ……!!」

のだめの訴えは切実だった。
骨が軋む程の律動に必死に抵抗したが、反面そこは千秋を誘うように収縮し続ける。
溢れ出す蜜が白く泡立ち潤滑油になり、より奥への侵入を許してしまう。

「ん……っ、壊れるとこ、みせてっ」

千秋も眉間にきつくシワを寄せ苦しげな息の下でのだめを急かす。
弓なりに反ったのだめの肩をきつく抱き締め、
熱く尖った肉芽を擦り上げる様に激しく腰を打ち付ける。

「んあっ!だめっ、せんぱ…いっ、もうっ、いっちゃうっ!いっちゃう!いっちゃう!」
「くっ……、オレもっ、……イクっ!」
「んあぁっっ!……あんっ、あぁぁっ!!」

ビクビクと痙攣するのだめの肉壁に締め上げられ、
千秋は真っ白になりながら全てを解き放った……

「オイ……、のだめ……」

あれから、一度だけでは足りず更に回数を重ね、
数回目の絶頂後、のだめは意識を手放してしまった。

……悪かったな、乱暴にして。

簡単な部屋着を身につけベッドに腰掛けながら、
千秋はぐったりと横たわるのだめの頬を指でそっと撫でた。
乱暴に扱った自覚はある。けれど傷つけたかった訳じゃない。

煩わしい雑音から開放される為に選んだこの部屋は、
夜になると一層静けさに包まれる。
望んでいたはずの静寂に千秋は少し戸惑っていた。
誰かが訪れる予定の無い静寂、それを孤独と呼ぶのだと気付いた時、
のだめの存在が自分に取ってどれだけ大きかったか思い知らされた。

……結局、ホームシックならぬ、のだめシックだったって事か。
日常のたわいもない会話を交わす、そんな些細な事ができなくなって
気付かぬ内に自分の心は脆くなっていたのかもしれない。

そんな時、自分以外の人間と楽しそうに笑うのだめの姿を見て、
コールタールの様なドロドロとどす黒い嫉妬心が芽生えてしまった。
オレがいなくてもあいつは平気なのか……

挙げ句、激しくのだめを奪って、何度も何度も自分を欲しいと言わせたら
さっきまでの心の闇は嘘のように晴れてしまった。
なんて現金なんだ……、千秋は自嘲する様にふっと微笑む。
これがこいつの言う、充電なのかもしれないな……

「なに、笑ってるんデスかー、カズオー」

いつの間に目を覚ましていたのか、のだめが掠れた声で千秋を責める。

「起きてたのか……」
「先輩は鬼デス!のだめはあちこち痛くて身体が動かせマセン!ムキー」

「……悪かったな、乱暴にして」

思っていた言葉を口にする。
奪ってばかりではいつか本当に傷つけてしまうから。
会わなくても大丈夫なんて間違ってる。言わなくても分かり合える、なんて嘘だ。
たまには素直になる事も必要だと気が付いたから……

そんな千秋にのだめは驚いた様に目を丸くして、そしてにっこり微笑む。

「……もう、いいんデスよ。……先輩、よっぽどしたかったんデスよね?」
「はぁ!?」
「男の人はそういう生き物だって知ってマス!」

夫の欲望を満たすのも妻の役目デスから!フーン!と鼻息も荒い。

「夫じゃねえっ!……って言うか、違うっ!変な妄想ばっかすんな!変態!」
「獣の真一くんに壊れる位責められるのも、たまになら素敵デス。ムキャ!」

……やっぱりこいつとは分かり合えなくていい!
寂しさからあんな子供に嫉妬したあげく、理性を失ったなんて事を知られたら
こいつをますますつけ上がらせるだけだ……
同じ過ちを犯さない為にも、これからはもう少し頻繁に充電とやらをしなければ。
……こいつはオレの天使らしいから、壊したらさすがに罰が当たるだろ。

千秋は天使の顔に枕を投げつけると、
空腹を充たしてやる食事を用意する為に立ち上がった。






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