千秋真一×野田恵
![]() 悪夢のクリスマスから三日。 年の瀬もさしせまったある夜、千秋真一はもう何度目かの溜め息をついた。 (のだめのやつ…何やってんだ?) 時をさかのぼること1時間前。いつものように食後のピアノをひきおえて、 クラシックのCDを聞き、気がつくと時計の針は十時をまわろうとしていた。 「それじゃ先輩、そろそろおいとましマス!」 と部屋に戻ろうとするのだめの腕を、千秋は咄嗟に掴んだ。 「ふぉっ?…なんですか?」 「あ…」 きょとんとした顔ののだめに、ハッとしたような顔の千秋。 思わずのだめの腕を掴んでしまったものの、うまい理由がおもい浮かばない。 …なぜ彼女の手を掴んでしまったのか、千秋自身はよくわかっているのだが。 「なんだ…その…お前明日学校は?」 「へ?ないですよ?さっき言ったじゃないデスか」 「…ふーん」 「…?のだめ、もう眠いので帰りマス」 「眠いって、まだこんな時間じゃねーか」 「だって先輩があんまり夜中までいるなっていったんじゃないですカ!」 のだめの言うとおり、千秋はいつものだめを早く帰すようにしていた。 夜遅くまで、好きな女が隣りにいたのでは 千秋の強固な理性も持ちそうになかったからだ。 ましてや相手はのだめである。天然無防備な彼女が、ソファの上で白い足を投げ出してくつろいでいる様は 昼間でも攻撃力が高いのだ… のだめを女として見てしまう自分に、まだ慣れない千秋だったのだが… ノエルのあの夜、のだめを抱きたいとはっきり感じてしまった。 いつも軽々と理解の範疇をこえてゆく彼女。 のだめが帰ってこないだけで不安になってしまう自分。 その時のだめを早く自分のものにしてしまいたいという気持ちにきづいてしまった。 もっとも、ノエルの夜はお互い体中にあざをつくったので 仲良く湿布をはって、別々の部屋で寝たのだが… あの夜から、日増しに強くなっていく気持ちをもういい加減に無視できなくなったこの夜。 千秋はのだめの手を掴んでしまった。 「せんぱい…?どしたんですか…?」 自分の手を掴んだまま黙り込む千秋にのだめがたずねる。 その覗きこむ大きな瞳に、ますます高鳴る心拍数を必死に隠して、彼はいった。 「今日、泊まっていけよ」 **** 「お風呂、お借りします…」 そういってバスルームに向かったのだめは、 耳まで真っ赤になってふらふらとしていた。 (千秋も負けないくらい赤い顔をしていたのだが) もっと、 ムキャーだのあへーだのといった反応を予想していた千秋にとって、そんなのだめの反応は新鮮で。 エロサイトとか見てるくせに、あいつもちゃんと女なんだなぁと妙に関心した。 「ぎゃぼっ」 バスルームのドアにでもつまづいたのだろう、 いつもの奇声が聞こえてきて、なんとなく安心してクスりと笑ってしまう千秋だった。 のだめが風呂からあがるのをまつ間、 これから変態…恋人を初めて抱くのだと思うと緊張する千秋だった。 だが、そのドキドキは、やがてイライラにかわる。 (遅い…。あいつ、いつまで俺様をまたせるんだ) ふと時計をみると、のだめがバスルームに入ってから、1時間をこしている。 女なら、いろいろと準備があるのかもしれないが、それにしたって… さっきからシャワーの音ひとつしない。 バスタブに湯をためてつかっているのだろうか。 その時嫌な想像が頭をかすめた。 (のだめのやつ…のぼせてんのか?) あの変態のことだ。あへーとか言いながら湯船に沈んでるかも。 いつだったか、キスをしただけで失神してしまったことを思い出す。 (のだめ…溺死!?) ひぃぃいいと真っ青になった千秋はいてもたってもいられなくなり、バスルームの扉をあけ、シャワーカーテンをひいた。 「のだめ!?」 「ぎゃ、ぎゃぼーーっ!!」 ビッシャァァアア 「ぶへっ!何やってんだーー!」 「せ、先輩がいきなり開けるから!!」 突然のことに戸惑ったのだめは浴槽にためたお湯を千秋にぶっかけたのだ。 「あーあ…お前、トイレのマットにまでみずが飛んでる」 「うぅ…ごめんなサイ… ムキャ!水も滴る良い先輩!」 「ふざけんじゃねー!!っくしゅ!」 上半身にまともにお湯を被った千秋は、すぐに冬の冷えた空気にひやされてしまった。 「はぅん…シャツが透けてお色気3割ましです…」 「おまえ…はぁ…心配して損した」 こんな会話を続けている間のだめはバスタブにぎゅっと体を押しつけて、顔と手だけをだしている。 (隠したって、どうせ後で見るのに…) そんなことを千秋は心の中で思っていた。 「お前なんでこんな遅かったんだよ」 のだめのふぉぉ…という奇声を無視しながら、千秋は濡れたシャツを脱いでゆく。 「んと…その…デスね」 「お前、俺とセックスしたくないの?」 「ぎゃぼっ…」 セックスという単語に顔を真っ赤して口をパクパクさせるのだめ。 「…先輩の部屋に泊まるって…やぱ、そゆことデスよね…」 「…お前が嫌なら、待つよ」 ほんとうは、湯気にほてるのだめの白い背中や、 甘い香りに理性が決壊しそうなのを必死に堪えている千秋なのだが、 余裕があるようなことをいう。 今すぐにでも襲ってしまいたいのだが、 嫌がる女を無理矢理やるような性癖はもっていないし、 何よりのだめを大切にしてやりたいと思っていた。 エロサイトばっか見ているくせに、うぶな反応をするこいつはもしかしたら… 「その…おはずしながら、のだめ初めてなんデス。 初めてってやっぱめんどくさいデスよね…。 この年になって、おかしいデスかね…。 のだめ…先輩が大好きです… 先輩と…しんいちくんと一つになりたいです…。 でも…何か粗相があったら… 先輩に嫌われたくないし…」 のだめはそう一気にまくしたてた。 大きな瞳は今にも泣きそうに潤んでいる。 「バーカ」 「うぎっ…へんぱい、いたひ…」 照れ隠しの為に、のだめの頬をつねった。 その柔らかい感触にますます歯止めがきかなくなって、 「んっ…」 のだめの唇を奪った。 「…ぁ…んぅ…」 口内を蹂躙していくたびに漏れる甘い声が バスルームに反響する。 力が抜けて、されるままになっているのだめは、 自分の体を隠すことすら忘れていて。 ふと目線を下にやると 真っ白な双丘が目にはいり、千秋は自分の血流が一点にむかっていくのを感じていた。 初めて?最高じゃないか。 こいつの最初の男になれるなんて。 …もう俺以外のやつに触らせる気はないが。 千秋は、まだ誰もふれたことのない柔らかい場所にてをのばした。 二人の夜は、まだはじまったばかり。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |