母来たる
千秋真一×野田恵


演奏旅行から帰った千秋がのだめの部屋に泊まった翌朝。
夕方だけでなく、夜更け過ぎまで何度も愛し合ったせいでぐっすりと眠っている二人。
半分開いたピアノ部屋のドアから、ベッドルームにもやんわりと朝の光がこぼれている。

ベッドサイドの小さなテーブルの上でモーツァルトの着メロが響く。
テーブルに近いほうに寝ていた千秋がねぼけながら手を伸ばした。

「アロー?」
「もしもし、…これ、のだめちゃんの携帯じゃ…?」
「げ…母さん?!(ったく…あいつが着メロ同じにするから!)」
「あら、真一なのね?よかった。のだめちゃんは?」
「まだ眠って…、いや、そのっ…」

ふと隣に目をやると、そこには裸のまま眠っているのだめがいて、自分の言葉の意味を、たぶん母親が捉えるのよりも過剰に意識して
しまって千秋は狼狽する。

「そう…。で、そっち真一の部屋?」
「いや、のだめの方、三善のアパルトマンだけど。なんで?」
「のだめちゃんにお話があって。午後にでも行こうと思ってたんだけど、…お邪魔かしら。
真一にも聞いてもらいたかったから、あなたがそこにいてくれて、こちらとしては好都合なんだけど。」
「邪魔って別に…。っていうか本人に聞いてくれよ。」
「だからのだめちゃんに電話したんだけど…」
「う…。のだめ、のだめ!起きろって。お前に電話。」
「ほぁぉ?おはようございまス〜、電話って誰からデスかぁ?」
「…母さん」
「誰のママン?」
「…俺の…」
「ふぇっ?お義母様っ?!」

「おはようございます、のだめデス!」

のだめは飛び起きると、正座というか女の子座りとでもいうのか、内股でペタンと座って話し始めた。

―あ、やべ…

その首筋には夕べの名残の花びらが散っていた。
征子からはとっくに公認で、むしろ奨励されている仲ではあるが、母親にその手の雰囲気を悟られるのはこの上もなく照れくさい。
というか、これではあまりにも露骨だ。

―しかし、それよりも…。
視線がのだめに釘付けになる。生まれたままの姿を隠そうともせずに座っているのだ。
―まぁ、確かに。今さら取り繕っても仕方ないよな…うん。
ごくり、と生唾を飲み込み、半ばヤケ気味に自己弁護しながら体を起こすと、そっとのだめの背後に回った。
のだめは能天気に話し続け、俺の気配にも気づかない。
いつもいつも、俺ばかりあたふたさせられているようで何となくおもしろくない。

―ちょっといたずらしてやるか…

のだめの背中に、ツーっ…と舌を這わせる。

「ぎゃぼ………。あ、いえっ、何でもないデス」

振り向いて目を丸くするのだめ。
俺は知らん顔をして、背後から両方の胸をつかむ。やんわりと揉みしだき、今度は首筋に舌を滑らせた。
のだめはみるみる間に顔を紅潮させていく。

乳房の真ん中の蕾を、指の間に挟んだり摘み上げたりして弄び、体を傾けて、のだめの腋から腰まで唇でなぞる。
身をよじり、その手から、唇から、逃れようとするのを、後ろから抱きかかえるようにして動きを封じた。
唇をかみしめながら肩で息をしているのだめ。

「そう、デスか…。ええ、ハイ…」

電話を握る手も全身もかすかにわななき、それでもかろうじて喘ぎだけは堪えている。

―これ以上はヤバいか、でも…

声を封じられ、それでも愛撫に抗うこともできず身悶えているのだめの肢体が、とてつもなく刺激的で手を止められない。
片手を腰の真ん中辺りに移動して、背骨から尾骨、つまりヒップの割れ目に向かって滑らせてみる。
もう片方は、胸からそのまま太ももまで滑らせ、指先で内腿を探るようになぶる。もちろん、肝心なところに触れるのは
避けているが、今にも俺の指がそこに辿りついてしまうのではないかと、のだめがどれだけおののいていることか。
それを思うと俺の息も乱れてしまう。その呼吸の荒さも、のだめに伝わっているに違いない。

「…っっ!…」

必死になって耐えていたのだめが、声をかみ殺しながらぴくん、と跳ね上がった。
あまりにも悩ましげなのだめの姿と少しサディスティックな気分のせいで、いつのまにか俺自身がむくむくと勃ちあがり、
のだめのヒップをこすりあげたのだ。
もちろん、のだめにも何の感触かはわかっているはずだ。
のだめはもう涙目で、やっとのことで返事をしている。

「…ハイ、3時に。…お待ち、してマス。」

ちょっと掠れ気味の声とおかしなタイミングの受け答えを、電話の向こうでは、「寝起きのせい」だと思って…
…くれればいいのだが。

電話が終わるやいなや、内股をさまよっていた指先で、花びらをかきわけるようにして敏感な花芯までこすり上げた。

「あっ…ぁああっん!!」

解放された反動か、普大きな声を上げながら、のだめは少し腰を浮かせるようにして千秋にもたれかかった。
はぁはぁと肩で息をしながら、顔を後ろに向けて抗議する。

「はぅっ…、何てこと…、するんデスかぁっ、真一クンっ」

そして、奇声をあげながら今さら両手で胸と内腿のあたりを隠そうとしている。

「バーカ、今ごろ隠しても遅いんだよ」
「お義母サマと、電話してたのに…、ひどっ…」
「うるさい、お前が悪い」
「何でのだめがっ…んんっ…」

なおも抗議しようとするその唇を乱暴にふさぐ。
自分の格好が、仕草が、どれだけ俺を煽ってるか。本当にわかってないのか?それともわかっててボケてンのか?
小悪魔みたいに自分を溺れさせるのだめに仕返ししてやりたくて。
唇を離すと、体をひねるようにしてのだめの乳房の先端をついばんだ。

「んっ…ぁん。し…んいち…くんってば…、ダメ、ですよぉ。これからお義母サマが来るのにぃ…」

逆らいながら漏らす甘い声にますますそそられる。

「まだ8時…」
「だって…、掃除して、洗濯して、ピアノも…れんしゅ…ぁっあんっ!」
「十分片付いてるって、おまえにしては」
「もぉっ…」
「じゃ、お前がピアノ練習してる間に俺がやっといてやるから。」
「…ゴハンもお願いしマス」
「ぶ……」

―やっぱり、こいつとつき合えるのはオレ様ぐらいだ…

「なぁのだめ、いたずら者のティルは最後にどうなるんだっけ?」

まだ少しサディスティックな気分が残っているらしい。
腰のあたりを掴み、膝立ちになりながらのだめの体を前へ倒した。もう抗うこともせず、体を折るようにしてのだめはうつぶせる。
腰は支えられたまま、俺に向かって突き出されているので、持ち上げたヒップの割れ目の奥までもが露わになった。

「はぅっ…ティル…、捕まえられて、こ、殺される?」
「まぁ、俺のティルにはお仕置きくらいで勘弁してやるよ」
「おしおき?……っあっ!…ぁあっん…、ぁ、ぁあ…ん」

左手は腰を抱え、右手の指で花芯をまさぐる。
さんざん体を弄られ、しかも快感を堪えていたせいで、もうどこに触れられてもピリピリするほど感じやすくなっているのに、
一番敏感なところを責められてはのだめも堪るまい。

「しん…いちく…ん、ぁ…はぁ…、ゆるして、くだサイ…」
「ダメ、まだまだこんなもんじゃないだろ?」

花芯をこね上げていた指を、とっくの昔にたっぷりと蜜を溢れさせているその入り口に差し入れて、動かすと、

くちゅっ…ちゅぷ…

朝の光には似つかわしくない淫靡な音が響いた。

「んぅっ…ぁあっ!のだめ…も…、ダメ…」
「…そっか」

ぷちゅん…

「ぁっ…はぅん……しんいち…くん?」

昇りつめる寸前で指を引き抜かれ、のだめは何とも言えない声を漏らす。

「ダメなんだろ?」
「…何だか、いつも以上にイジワルですヨ?」
「どーせカズオだからな」
「はぅぅ…」

セックスの最中にアニメキャラの名前を平気で口に出す自分も、相当のだめ菌に毒されてるよな、とつくづく思う。
このやり取りで萎えないのだから、慣れというものは恐ろしい。

もちろん、ヒップを高々をあげて濡れた秘所を晒している、そんな姿ののだめを前にこれで止められるわけはない。
俺はのだめの腰の下にもぐりこみ、割れ目を仰ぎ見るように寝転がった。
指を突き入れていた入り口も、その周りの花びらも、ぷくっと膨らんだ花芯も、何もかもがぬらぬらと蜜にまみれて光っている。

「ん…、いい眺め」
「なっ…!なにやってンですか?!」

慌てて逃れようとしたヒップを、がっしりと両手で捕えて顔の間近まで引き下げた。

「ぁっ、やんっ!」
「何って、お仕置きの続き。…して、ほしいんだろ?」

頭をもたげ、蜜に濡れた花園の中心に舌を差し込んだ。

「あぅっ…!」

花びらを、花弁を、硬くコリコリとしている芯を、こぼれた蜜を味わうように舌で愛撫し、唇をつけて吸い上げると、

「ふ…ぁあっ、ぁあああっ…!」

伏せた体がびくんと跳ねて、ふにゃっと力が抜け落ちてしまった。
のだめの腰を支えながらその下から抜け出すと、はちきれそうに昂ぶった自分自身に準備をした。

「のだめ…、大丈夫?」

背中にキスしながら聞くと、半ば意識を飛ばしていたのだめが、くぐもった声で大丈夫と答えた。
もう一度腰を引き上げ、後ろから蜜口に向かって、硬く張りつめたものをぐいっと押し込む。

「ん、ん…っ・・・はぁっ」

のだめの体はとろけきっているが、中はちっとも弛緩していない。
―んっ…。さんざんいたぶったバチが当たったかな。これじゃこっちがもたない。

奥深く差し込むと、のだめがびくんと背を反らし、その度に腰が千秋の方に押しつけられる。倍増して与えられる快感に、
千秋の方もクラクラと頭の芯まで痺れてくるようだ。
ヒップを抱え込み、激しく突き上げながらその速度を上げて攻め立てると、だめが顔を上げて身をよじり、ほとんど意味をなさない
叫び声をあげる。

「…しん…い…、のだめ、も、…、んぁぁあっ、あっ、……っ!」

声が途切れると同時に、のだめの入り口で強烈な収縮に襲われ、思わず呻き声をもらしながら己自身を解放する。

「くぅっ…!」

ばったりとうつぶせるのだめを抱き起こして仰向かせ、頬にキスをした。

―ちょっとやり過ぎたか…

「のだめ…?」
「…」
「大丈夫か?」
「だいじょぶ、デスけど…」
「けど…?」
「ずっと後ろからなんてヒキョーじゃないデスか?」
「あ…」

―背後からだったからあんなにサディスティックになれたのか?
正面から顔を見ながらだったら、愛おしさに負けて確かにこんなやり方はできないかもしれない。もちろん、いたぶられて顔を
歪めるのだめの表情にもそそられるけれど、そしたら今度は、のだめが達する前に自分自身がギブアップしてしまうに違いない。

「ごめん…」

―あれ?お仕置きだったのに、何で俺が謝るんだ…?

「ぎゃぼっ!もう10時ですヨ、お腹空きました…」

―これだからこいつは…

「先にフロ入って来いっ!」

約束の時間に征子がやって来た。

「のだめちゃんの好きなケーキ、買ってきたわよ♪」
「ほわぉ…、のだめ、お茶入れますね」

パタパタとキッチンへ向かうのだめ。

「ねぇ真一、のだめちゃん少しやつれてない?あなたも顔色悪いし。やっぱり別居がよくないんじゃないかしら」
「……(白目)」

―いや、たぶん、それは別居のせいじゃなくて…。

「あら、虫刺され?のだめちゃん。」
「あ…、ハイ。のだめフランスにも蚊がいるなんて知りませんでしたー」
「いるわよ〜、パリにだって。きっと大きな蚊がね」
「ふぉ…、大きな蚊、見たいデス」
「ぶほっ…」

思わず茶を吹いた俺が顔を上げると、母の目が俺を見て笑っている。

―この人は、まったく…。

「ぎゃぼー!のだめ、苺のケーキにすればよかったデス」
「しょうがないやつだなー。ほら、俺のやるから」

いつものようにのだめを甘やかしていると、再び母の視線が突き刺さる…。
今度は『あらあら』とでも言っているようだ。

「…」

―くそっ、のだめのやつ。絶対またお仕置きしてやる。

『母来たる
 また俺だけが生き地獄』―千秋真一桃色百句 より






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