酒と女神と男と女
千秋真一×野田恵


のだめが酔った松田に正拳突きを食らわせた翌日のR管。

休憩室のカウンターでコーヒーを飲む松田が、通りかかったのだめに声をかけた。

「指に怪我しなくて良かったな。何かあったらキミの彼氏に殺される。」
「ムキャ、これでおあいこ、デス!」
「は?!」

―アレのことか…千秋の部屋のバスルームで…。

酔っ払って妙に楽しかったあの水掛けごっこが脳裏に浮かぶ。
俺としたことが、初めてこいつに会った時から一番の弱点を晒してたわけか。敵う訳がないな。

「でも、のだめは触ってないですヨ。」
「わはははっ…触りたければ遠慮はいらんぞ。」
「Obsede(スケベ)…」

その単語に、その場にいた団員達が一斉に振り向いてささやき合う。

「マツダ、のだめに何を…」
「まさかあの痣は…」
「ご、誤解だ!未遂だし…じゃなくて、……俺は無実だーっ…」

**********************************

当日の昼、劇場の前で車を停めた俺は、『いってきまーす、愛してマス!』と手を振るのだめを呼び止めた。

「のだめ、ちょっと。」
「何デスかー?」
「ん…おまじないっていうか魔除っていうか…。」

運転席の窓に顔を近づけたのだめを引き寄せて、深く長いキスをした。

「頑張れよ、始まるまでには来れるから。」
「アヘー…」

前の日、俺は松田さんに呼び出され、特等席のチケットを手渡された。

「この前のこと…ならもういいですから。自分で買ったし(恥ずかしいから端の方だけど)。」
「フン、俺様がキミの彼女をかわいがるところをたっぷり見せてやるって言ってんだよ。」
「……」

いよいよのだめの番がやってくると、胃が痛くなりそうだ。
冒頭の和音がフォルテッシモでなかったことだけでも俺はほっとして、人知れず安堵のため息をついたが…。

―うわ、松田さん…、あの人は…。

元々ロマンティックな曲だが、オケの音も濃厚にピアノに絡み合うようで、聞いているこちらが赤面してしまいそうだ。
客席のあちこちから甘いため息が聞こえる…ような気がした。
いつの間にあんな風に弾けるようになったんだろう。ターニャ以上?色気がわからないなんて言ってたのに。
ステージでは、開き直ったらしい松田さんが全開でタクトを振る。その後ろ姿はこう言っているようだ。

『スケベで悪いか。タンホイザーだって死ぬまでスケベは治らなかったんだぞ。いや、死んでもきっと…。
エロいヴェーヌス(女神)様万歳!』

そして、クライマックスに向かって、陶酔したような表情でピアノを奏でるのだめを見ながら俺は…。
―まるでアノ時の顔みたいな?
気がつくと肘掛に置いた手を固く握り締めていた。口の中が乾いて…何だか苦い。

演奏が終わり、歓声と拍手と艶っぽいため息の嵐が湧き起こった。
のだめは演奏中とは打って変わって、いつもの調子でドタバタと椅子を立ってペコリと頭を下げる。
指揮台を降りた松田がのだめに近寄ると、挨拶のそれではなく本当に頬にキスをして何事かを耳元に囁いた。
のだめがぽっと頬を上気させながら、パタパタとステージから消えて行くのを、俺はぼんやり見ていた。

―のだめの初めてのステージが大成功だったっていうのに。
あいつのピアノは本当に素晴らしかった。オケと溶け合うコンチェルト、こんなことがのだめに出来る日が来るなんて
感無量のはずなのに。
―でも…、俺ならもっとのだめをのびのびと…
なんでこんなに胸の中がモヤモヤしてんだ?

控え室へ行くと、のだめがソファにうつぶせにぶっ倒れていた。

「あー、先輩!疲れマシたー。」
「着替えて…、皆に挨拶して来いよ。車で待ってるから。」

祝いの言葉も口にできずに背を向け、俺は松田さんの控え室に向かう。

「お、色男。どうだった?彼女のイキっぷりは」
「…いい演奏でした。」
「堪能したか?」
「ええ、色々と…。とにかく、のだめがお世話になりました。」

軽く頭を下げて踵を返す俺の背中に松田さんの声が投げかけられた。

「ふん、かわいくねー。」

うつらうつらしているのだめを抱えるようにして部屋に戻った俺は、そのままキッチンに向かった。
戸棚から取り出したロンリコを、瓶のまま一口呷る。もう一口呷って口に含むと、くたっとベッドに腰掛けている
のだめの顎を掴んで無理やり唇を割り、口移しに注ぎ込む。
突然、甘く濃厚な味わいに口を満たされ、思わず燕み込むのだめ。口あたりは甘いがこの酒は強い。
あまり強くはないのだめの体をすぐに火照らせ、頭の芯までくらくらと揺さぶるだろう。
ベッドに押し倒しながら、のだめの細い顎の先から口の端まで、薄い褐色の液体がこぼれた跡を舐め上げ、
そして薄く開いたままの唇に舌をねじ込むと、その口の中に残る酒の味と香りを乱暴に味わった。

「んんっむ…」

いきなり組み敷かれ唇を塞がれたのだめが苦しがってもがこうとするが、75度という強い酒のせいで、すでに
力は奪われ、赤く染まり始めた喉がのけぞる。

胸の下あたりまでのボタンをひきちぎるように外してワンピースの前を開き、ブラジャーを上にずりあげ、
プルンと弾け出した白い膨らみの真ん中を強く吸い上げる。そうしながら裾をまくりあげると、紐をひきざまに
その小さな布を剥ぎ取った。
俺の手には凶暴な熱だけがこもり、やさしさなど微塵もない。

―初めてのコンチェルトを俺以外の指揮者と…。あんなに俺と共演したいって言ってたのに。
―あんな表情して、…そんなに気持ちよかったのか?
―ステージで赤くなって…あの人に何を言われた?

身勝手でみっともなくて見当違いだとわかってる。わかっているから口にできない。口にできないからこそ
苛立ちが募り、ますます手の動きが荒々しくなる。

「ぃ…やっ…、ヤですっ!…真一君ってばっ…どうしたんデスか?」

抗議の声をあげて俺を押しのけようとするのだめの手首を掴んでベッドに押さえつけ、乳房を乱暴につかむ。
そして、固く閉じたままの腿を膝で割ると、のだめの敏感な花芯に指を伸ばした。

「イタいっ…やめっ……ぁっ、やっ!…」

でもそこには…何の潤いもなくて…。
俺はそれを確かめようとしてたんだ…

―あんな表情(かお)をするから…

ひそかに安心しながらも衝動はおさまらず、のだめの首筋の目立つところを選んで何箇所もきつく吸いつける。
眉根を寄せてぎゅっと閉じた目尻にはうすく涙がにじんでいる。
のだめが抵抗を止め、俺の髪に手をいれるようにして頭に触れた。
ふと顔をあげると、俺の視界に小さなルビーのネックレスが映った。

―――その瞬間

のだめがいきなり俺の顔を引き寄せ、自分の胸に押し付けた。(ばふッ)

「わっ、何をす…」

さらに力を込めたのだめに、俺の顔はぎゅうぎゅうと押さえつけられる。

―苦し……助け…

俺は、ベッドを叩いてギブアップした。

「ぶはっ…はぁ、はぁっ……殺す気かっ」
「お返しデス。これで貸し借りナシですネ」
「はぁ?」
「あのですネ……………、のだめの"初めて"は真一くんデスから」
「な、何の話だ」
「コンチェルト」
「あ…?あれは、オケじゃなくて…」

学園祭でシュトレーゼマンと俺が共演した後、のだめにせがまれて練習室で一緒に弾いたアレか?

「でもー、真一君のピアノ、本物のオケストラみたいで、スゴく気持ち良かったデスよ」

―見抜かれてた?

「…じゃぁ今日のは?」
「んー、楽しかったというか…」
「…のだめ、悪かった…、俺…」
「いいんデス。のだめは真一君の妻デスから、ゲハっ」
「…………」

なぜか『妻じゃねぇっ!』といつものように返せない。ふと松田さんの言葉がよぎる。

『亭主気取りするくらいなら、とっとと結婚しちまえってんだ』

「…のだめ…」

―何やってんだ、ほんとに俺は…
他の指揮者との演奏だったとしても、大成功だったんだから喜ぶべきなのに。
自分はのだめよりもどんどん先に行くつもりでいたくせに。
いや、むしろそれこそが思い上がりで、俺が不甲斐なくてまだペーペーだからのだめと共演ができなかったのかも
しれないじゃないか。
なのにそれをのだめにぶつけて…
どうしてこう俺は身内の事となるとこんなにも動揺して…、そう、親父の時も…

―情けない。
でも、のだめは…。

そうしているとのだめの胸の鼓動が聞こえて来て…、また松田さんの言葉が浮かぶ。

『俺だって救われたいんだよ』

―こういうこと、なのか?

のだめの唇に、今度はやさしくキスをした。

「ん…」

そしてきつく、けれどもやさしく抱きしめると、のだめも俺の背中に手をまわして抱きついてくる。互いにむさぼるように
舌を絡めながら、長い間抱きしめ合っていた。
やがて、のだめのむき出しの胸が俺のシャツにこすれて蕾が固く立ち上がってきているのを生地ごしに感じて唇を離すと、
息を詰めていたのだめの口から熱い吐息がもれる。

「ぁっ…は…」
「感じてるの?」
「ゃん、しんいちくんのエッチ」

露わになった細い肩。外さないまま押し上げられたブラジャーに縛められているような胸の上部。二つの膨らみと、
もう固く尖っているピンク色の小さな蕾。そして、腹の辺りまで捲り上げられたワンピースからのぞく薄い茂み。
俺が感情にまかせて乱した跡だけど…、何ていやらしい…。

「あの…、コレ脱がせてくだサイ。なんかこのカッコ…」

その声に我に返ると、俺にじっと見られて恥ずがり、もじもじしているのだめ。
また煽られて、体中が熱くなる。

「このままで…」

尖った蕾をコリコリと指でつまむ。

「あっ、ゃっ…。しんいちくんってば。」

抗議には耳を貸さず、弾力のある膨らみをそっと揉みながら、蕾を口に含んで舌先で転がしてやる。
両方の乳房にまんべんなく愛撫を続けると、もう抵抗をあきらめたのだめの甘ったるい声が耳に心地よい。

「ぁん、ぁっ…あ…」
「なぁ…、気持ちいいの?」

目を閉じたまま喘いで、こくんと頷く。
俺の手はのだめの胸を離れ、これもまた淫らに晒された茂みの下を目指した。
指先が辿りついたそこには、潤いを湛えて俺を迎える…俺だけのオアシス。
下半身だけ脱ぎ捨てて装着を済ませると、いつものようにのだめにことわりもせず、熱く昂ぶった自身をその泉に沈めた。

―あ…

指も挿れていなかったせいか普段よりもきつく狭く、潤いにあふれていても挿し込んだだけで強い刺激に見舞われた。
予告も無しに深く貫かれたのだめが、のけぞりながら喘ぐ。

「んんーっ…、ぁっ、ああっ!」

中はとろけるように熱く、挿し込む度にからみついてきて、入り口は断続的にびくびくと締め付ける。
押し寄せる快感と、のだめを愛おしく思う気持ちと、めちゃくちゃにしたいような気持ちがごちゃまぜになって、
のだめの高まりを気遣う余裕もなく、その表情や声や身体を味わうゆとりもなく、俺はまるで犯すように切迫した
抽送を繰り返した。
気がつくとのだめが喘ぎながら、何か言っている。

「し…んいち…くん、しんいちくん、手…」

のだめの手首を押さえつけたままだった。その縛めを解くと、のだめがふわりと首に腕を巻きつけてきて、
そして、宥めるようにゆっくりと腰を揺らす。

「ぁ…のだめ…、もう…、だから…」

その言葉で正気に戻った俺は、のだめの腰の揺らぎに合わせるように、ゆっくりと深く差し込み始めた。

「あ…、ぁっ!ぁっ!あんっ、あーっ」

喘ぎが長く尾を引いて、首に回された腕に力がこもる。全身をわななかせながら果てるのだめの、最後の締めつけに
応えるように腰を叩きつけ、そして放った。

―ごめん…、いつもみたいにやさしくして抱いてやれなくて

心の中で詫びながらのだめの隣に倒れこんだ。

「あの、胸…、松田さんにムギュって…。もしかして怒ってマス?」
「…怒ってないよ(お前には)。気にするな、あの人は…シュトレーゼマンみたいなモンだ。尊敬してるらしいし」
「スケベなトコを?」
「そうなんじゃない?」
「じゃぁ、真一君は兄弟子ですね。こっちはムッツリですケド」
「おい…」

俺たちは顔を見合わせて吹き出した。

―でも、もう他の誰にも……俺だけのヴェーヌス、そしてエリーザベト。

のだめが眠ってしまった後、俺はシャワーを浴びてパソコンを立ち上げ、当日のコンサートの早出しレビューを
掲載するサイトにアクセスした。


[R管企画公演即評(仏語)]

『今年のボジョレー・ヌーヴォー(学生達)は、近年稀に見る、いや、私の知る限り最高の当たり年かもしれない。
朗らかで大胆なソムリエと洗練された店の料理もまた、さわやかな新酒の味を引き立てた。
殊にピアノコンチェルトを演奏した"Nodame(Megumi Noda)"には驚かされた。
そう、彼女だけは若いワインではなく、まるでラム酒のように甘く、強い酔いもたらした。
アマチュアの学生とは思えぬその技術と大胆な表現力。
緊張と不安と生硬な決意を感じさせる若い娘(ピアノ)と、それを安心させるように包み込む手練手管の大人(オケ)。
その手によって高みへと導かれつつも、ただ流されるのではなく自らの翼で飛翔しようとして身悶え、
彼女を導いた当の相手でさえもたじろぐほどの意志とエネルギーを見せる。
ああ!邪な想いを抱く者は幸いなり。その瑞々しい官能に出会う時、清められそして救われるだろう。

彼女の濃厚で甘い香りの演奏と、あどけない容貌や仕草とのギャップも、聴衆の心をすっかりひきつけた。
私の耳に届いた、酔い客達がもう一度飲みたいと口々に語る銘柄のほとんどは"Nodame"であった。
これは新しき銘酒の誕生なのか、はたまた幻の酒となるのか…
とにかく!できるだけ早く、再びこの美酒を味わう機会が与えられんことを、酔客の一人として心より願う。』


(訳:今年の学生達はレベルが高かった。その中でも「のだめ」という学生のピアノは技術もあり、表現力も兼ね備えて
素晴らしい。ロマンチックなラフマニノフの二番をエロ指揮者のタクトに応え、実に色っぽく演奏した。
容姿もかわいらしく、早くもファンがつき、彼女の次の演奏を楽しみにする声が多かった。)


―何の話だ。ってゆーか、ふ、フランス版佐久間さん?!


『追記:もし彼女の恋人が客席にいたら、他の男によって(音楽の)エクスタシーにたゆたう彼女の姿を、
どんな気持ちで見守っていたことだろう。可哀想に、たとえ途中で席を立ってしまったとしても無理はない。
もしかしたら嫉妬のあまり今頃は、彼女が心変わりしていないかと疑ったり、あるいは情熱的に抱き締め、
その愛情を確認しているかもしれない…。
――失礼、酔いのせいで戯れ言が過ぎた。
それほどまでに、この曲の官能的とも言える濃厚なロマンチシズムが余すところなく表現されていたと言うことだ。
圧倒的で、久しぶりに揺さぶられた。

(訳:あまりの色っぽさにのだめの彼氏がヤキモチ焼いて、今頃はきっと大変かもね。いやホントにいい演奏だった。)


―……はぁ?!

「ほぉ〜、Obsede(スケベ)な酔っ払い〜」
「げ、起きたのか、お前。あ、み、見なくていいからっ、てゆーか、見るな!」

―俺のことかと思った…スケベな酔っ払いって…

「うきゅっ……センパイ、コレ図星?」
「…」
「あんっ!」

振り返りざまにのだめのウエストに手をかけて捕まえると、そのまま引き寄せて膝の上に乗せた。後ろから抱き締めて
うなじにキスをしながら囁く。

「ほめられてるぞ、色っぽい演奏だったってさ」
「ほわぁ〜。えっと…真一君の感想は?」
「うん、すごく良かった。……でも、まだ足りないかも…確認が」
「真一クンの……Obsede」
「『男はみんなそんなもんさ』なんてな。……早くシャワー、浴びて来いよ」
「ハーイ…」

見知らぬ記者に図星を指され、のだめにまでからかわれた腹いせに、俺は明け方までたっぷりとのだめをかわいがった。
―だって、ベッドののだめはステージよりも、もっと…
何と言われようが、それを味わえるのは世界中で俺様ただ一人だ。

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レビューサイトの一番下の方に書かれている言葉に気づいたのは、翌日、SオケやR☆Sオケのメンバー達から山ほど
メールやFAXが届いた後のことだった。

『なお、このレビューサイトは各国に提携しているクラシック音楽のサイトがあり、世界中に本サイトの翻訳版が
掲載されます。当サイトも、提携サイトからの提供により、世界中の最新クラシック情報をどこよりも早くお届けします。
以下提携サイト名とリンクのご案内。(中略)―――Japon:クラシック・ライフ――』

―佐久間さん、元気かな…。

遠い目をする千秋真一、まだまだのだめに翻弄されっぱなしの駆け出し指揮者…。






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