千秋真一×野田恵
![]() 昨夜も、のだめは千秋の部屋に来なかった。 酒を呷ってやっとのことで眠りについた千秋が横たわるベッド。 のだめが足音を忍ばせてやってきて、キッチンのストッカーを漁って、熊肉の缶詰を取り上げる 「何か食べるものは、ねーがー。…先輩、輸入してるんデスか」 振り返ったシンクの脇にはりんごが3つ。どうぞと言わんばかりに赤い実が、のだめを誘惑している。 一番おいしそうなのを手に取るのだめ。 「ひとつ、いただきマスね」 ベッドの上の千秋は、相変わらず寝相が悪い。 上掛けは腰まではだけ、シャツからヘソがのぞいている。 そんなにも乱れた寝相なのに、きっちりベッドの片側が空けてある。 左腕は、まるで誰かの頭を乗せているかのように伸ばされて。 「最高の寝相デスね…」 のだめは、千秋の乱れた前髪をかきあげて、ぷちゅん、と額に唇を押し当てた。 ―のだめ? おでこに触れるやわらかい唇に、目を覚ます千秋。 ―やっと、来た?おせーよ、お前 ―しばらく寝たフリしてやるか 千秋は目を閉じたまま。 「何だー、先輩起きませんねー」 のだめがベッドの上に上がりこみ、空いていたスペースにすっぽりと潜り込む。 ジグソーパズルのピースのように、ピッタリとそこにはまった。 千秋の心臓のピッチはどんどん上がっていく。 ―バレるかな。……ん? 目を閉じているのでよくわからないが、のだめが何だかゴソゴソと動いている。 ―あ… のだめは、自分でワンピースの前ボタンを外して胸を露わにすると、その柔らかいふくらみを千秋の胸に押し当ててきた。 そして…、ワンピースの裾に手を入れて、自分の…、クリトリスを愛撫し始める。 見ていないけれど、千秋には、体に時々触れる腕の位置と動きでわかる。 自分の胸に押し付けられて形を変えているのだめの胸の真ん中が、だんだんと固くなっていくのを感じた。 ―こんなにドキドキしてるから絶対バレると思っていたのに、そんなに夢中なんだ…。 ―見たい…、触りたい…、声が聞きたい…、でも今俺が目を開けたらのだめは…。 夢にまで見るその白い乳房をてのひらこね、固く尖った頂を口の中でコリコリと転がしたい。 滑らかな肌の上に唇を滑らせ、柔らかい皮膚に俺のしるしをいくつも刻みたい。 でも…、このままのだめのなすがままに、触れられているのも捨て難いほど…、 ―キモチイイ… のだめが、熱い吐息を漏らしながら千秋の胸に指と唇を這わせる。もう一方の手はおそらく自分への愛撫を続けている。 朝っぱらから、いや、朝だからこそ硬く張りつめて存在を主張する千秋のモノに、のだめの指がたどり着いた。 長い指が、その輪郭に沿って下から上に撫で上げる。人差し指と中指と親指でその首をきゅっと掴む。 布の上からの刺激でも十分に感じるが、勃ちあがってしまったものを早く解放してやりたい。 ―胸をはだけてるのは…、俺が寝ぼけてやったと思い込んでるフリをすればいいし、自分でシてるのはここからじゃ 見えないから、気づかないフリをすればいいか…。 とにかく、もう限界だ… 「…の………?!」 のだめを抱き寄せようとした千秋の腕は空を切った。 目を開けた千秋の前にはベッドのシーツだけ。 「あ…」 下腹にベトつくような不快な感触をおぼえ、そこに視線を移すと、さっきまでの淫らな感覚の訳を知った。 ―最悪だ…、この歳になって夢精なんて。 千秋は片手で口を覆いながら、どうしようもない自己嫌悪と飢餓感に襲われた。 ―夢じゃなかったらよかったのに。…のだめ。 けれど、額に残る唇の感触だけは、その後のふわふわした感覚とは、明らかに違うリアリティーがあった。 起き上がって、キッチンをのぞくと、ストッカーをかき回した後と、…シンクの上にはリンゴが二つ。 ―1個、減ってる。 ―やっぱり、来たんだ。 起こしてくれればよかったのに。そしたらリンゴだって、むいてやったのに。 千秋が果物ナイフでクルクルと器用に皮をむくのを見て、「ほゎあ〜」と頬を上気させるのだめの顔が脳裏に浮かぶ。 ―こっちに来いよ、と何で言えないのかな… ぼんやりと考える千秋の耳に携帯が鳴り響く。 それは、さらなる受難の一日の開幕を告げるベルだった。 ―――ああ、神の小羊、あなたに罪はないのに―――(マタイ受難曲 第1曲より) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |