千秋真一×野田恵
![]() トン、トン、トン……。 キッチンからたどたどしい包丁の音が聞こえる。 「貸せ。オレがやる」 背後に回り、声をかけると、のだめは口をとがらせたまねぎのみじん切りに集中していた。 「いいデス! 先輩は疲れてるんデスから。今日はのだめが“正しいカレー”を作りマス!」 「……わかったよ。じゃあ、米だけといでおく」 「お願いしマス」 やれやれ……。何時間かかることやら。 炊飯器のタイマーをセットすると、オレはソファに沈むように座り、再び、 じゃがいもと格闘しているのだめの後ろ姿をぼんやりと眺めた。 のだめはふだん、キッチンに立つときにエプロンをしない。 ずぼらなせいもあるが、エプロン自体を持っていないのだ。 見かねて無理やりオレののエプロンをつけさせたこともある。 それが今日は、白い、フリル付きの新妻ふうエプロン姿。 「ヨーコが作って送ってきてくれました! どですか? 似合いますか?」 カレーの材料を抱えて、エプロンの裾を摘んでくるりと回ってみせた、つい先ほどの のだめの姿を思い出していた。 今日の黒い半袖シャツワンピースに合わせると、なんだかメイドコスプレみたいだな……。 そんなとりとめのないことに考えを巡らせている自分に気づき、おかしくなってひとり笑う。 こんなふうに時間を気にせず、のだめと二人、のんびりできるのは本当に久しぶりだ。 「先輩、眠っちゃったんですかー?」 いつの間にかうとうとしていたらしい。目を開けると、上からのだめが心配そうにのぞき込んでいた。 あわてて、ソファから体を起こそうとする。 「……悪い……寝てた。オレも手伝うよ」 「もう煮込むだけデスから、大丈夫デス。眠っててください。できたら起こしてあげマスから」 のだめは枕代わりにクッションを持ってきて、オレの頭の下に差し込みながら言った。 「……ん」 珍しくエプロンなんかつけているせいもあるんだろうか。 まるで母親のようなその仕草に身を任せながら、オレはくすぐったいような気持ちになり、 無性にのだめに甘えたくなった。 のだめの腕をつかみ、ソファに引っ張り込む。 いきなりのことに、のだめはよろけてオレの胸の上に倒れ込んだ。 「……びっくりするじゃないですか〜。危ないデスよ。先輩……」 顔を起こし、目を丸くしてのだめが抗議する。 息がかかるほどの距離、のだめの髪から、首筋から、やわらかな花のような香りが漂ってくる。 香水をつけているわけでもないのに。オレだけにわかるのか? もっとこの甘い香りを味わいたい。肺いっぱい満たしたい。 のだめの脇に手を差し入れ、体を引っ張り上げるようにして自分の体の上にのせ、抱きしめた。 「ダメですよ……先輩。カレー……」 「煮込むだけなんだろ?」 のだめの体の心地よい重みと体温を全身で感じながら、軽い口づけを繰り返す。 やわらかな両頬を手で挟むように包み込み、額をくっつけてのだめの瞳の中をのぞきこむ。 「……そデスね」 頬を染めながら、少し考えるように一瞬視線をそらすと、 「……のだめ、手、洗ってきますね」 オレの両手をやさしい手つきでそっと外させると、立ち上がってキッチンに向かった。 ソファから起きあがり、その後を追う。 「あ……先輩。ちょっ……」 「……」 「ダメですよ……。ちゃんとあっちに行ってから……」 答えずに、オレは黙ったままのだめを背後から抱きしめ、さらさらと揺れる髪を鼻先で かき分けるようにして、その甘い香りを吸い込み、うなじに首筋に耳に、今度は激しく、 何度も口づけた。 「ん……」 のだめの唇からため息混じりの声が漏れる。体の力が抜け、ぐったりとオレに体重を預けた状態だ。 「……真一……くん」 なおも無言で顎をつかんで、顔をこちらに向けさせ、貪るように唇を味わい、舌を絡ませ合う。 「しんいち、くん……。何か、しゃべって、ください」 激しい口づけをどうにか受け止めながら、のだめがうっすらと目を開け、とぎれとぎれに呟く。 「……したい」 「もう……、それだけですか?」 頬をふくらませ、唇をとがらせたのだめを見て、オレは吹き出しながら、 「手、ついて」 手首をつかんでシンクの縁に手をつかせると、ワンピースの裾をめくり上げた。 少し腰を突き出すような格好になったのだめの脚の間に、自分の膝を割り込ませるようにして、 のだめの体をシンクに押しつける。 白いレースの小さなショーツは外からでもわかるほどぐっしょりと濡れていた。 「あ……真一くん、待って……ここじゃ……」 「……こんなに濡れてるのに」 ショーツの中に滑り込ませた中指でなぞるように蜜をすくい取り、またそれを塗り込めるように、 いちばん敏感な突起をくるくると撫でる。 「だって……ん……あっ」 のだめの膝が崩れ落ちそうになるのを自分の膝で支えながら、空いている手でショーツを取り去る。 エプロンの肩をおとし、ワンピースの前ボタンを外して上半身をはだけさせ、ブラを上にずらすと、 真っ白でやわらかな胸は、ブラのアンダー部分に乱暴に押しつぶされるようになり、 小さなピンク色の蕾を余計に目立たせている。 先ほどの蜜が絡みついた指で、その突起を撫で、摘むと、のだめは高い声を上げ、 淡いピンクに色づいた肌を震わせた。 オレはたまらなくなり、ブラをはぎ取るようにして外し、のだめに正面を向かせ、 その柔らかい肌に夢中で吸い付いた。 気づけばワンピースはほとんど脱げ、エプロンの腰のリボンに押さえられてかろうじて留まっていた。 エプロンの肩を元に戻してから、裾を引っ張ってワンピースだけを床に落とす。 「えっ……」 びっくりしたようにオレを見上げるのだめ。 「……やらしい。のだめ」 再び、後ろ向きの姿勢をとらせると、のしかかるようにきつく体を抱きしめ、胸をまさぐる。 エプロンの薄い生地越しに、一層際立つ、つんととがった蕾の形を指先でなぞる。 「……っ……こんな格好させたの……真一くんなのに……。ひどい……」 後ろから見ると、エプロンの合わせから、ヒップがのぞいている状態だ。 そして、のだめはシンクに体重を預けているので、腰をこちらに突き出しており、 ひどくいやらしい姿になっている。 当然オレ自身はとっくに硬く張りつめていて、ずっと密着させていたのだめの腰にそれを伝えていた。 もうそろそろ、我慢の限界に来ていた。オレはその場にかがむと、のだめの脚を開かせた。 「……あ、いや……恥ずかしい……です」 顔だけでなく、体全体をピンク色に紅潮させて、のだめは顔を伏せた。 「すご……。ぐしょぐしょ……」 蜜があふれるその場所を仰ぎ見るような姿勢で、オレはのだめの中を指で探り、水音を立てるように かき混ぜ、敏感な突起に舌をはわせた。 「ん……ああっ……」 再び、のだめの膝ががくがくと揺れる。 「真一くん……お願い……のだめ、もう……」 「……うん……オレも」 準備をすませると、ぐったりとうつむいているのだめの顔をこちらに向けさせた。 「……のだめ、大丈夫? 立っていられるか?」 「……はい」 うっすらとかいた汗で額に張り付いた髪をはずし、やさしく口づけると、のだめは安心したように 目を閉じた。華奢な腰に両手を添え、自分のほうに引き寄せると、のだめは両腕を突っぱり、 ヒップを高く上げて、自らつながりやすい姿勢をとった。 そしてオレは、熱く潤んで誘い込むその場所に自身を沈めた。 「……っ……」 「あ……」 くらくらするような刺激と快感に、二人同時に声にならない声を上げる。 「真一くん……気持ちいい……です」 快楽の波に翻弄されながらも、オレに伝えようとするのだめを見て、たまらなく愛しい気持ちになった。 「……のだめ。もっと、つながりたい……」 のだめの上半身を抱えて起こし、顎をこちらに向けさせ、再び激しく口づけた。 そのまま、何も考えず、動物のように体が求めるまま、快楽を貪った。 「先輩ほんとにムッツリデスね……。キッチンで裸エプロンプレイなんて……。 のだめ、もうついていけません」 「なっ……たまたまそうなっただけだろ! お前だって楽しんでたじゃねーか」 よれよれのエプロンを身につけただけのひどい格好で、ソファに戻り、突っ伏すのだめを ブランケットでくるんでやる。 「……お腹すきましたね。カレー、もうおいしくなりましたかね?」 「結構煮込んだから、もう大丈夫だろ」 散乱した衣類をかき集め、ブランケットをかぶったままごそごそ身につけると、のだめはキッチンに向かった。 「あ!」 暗い表情でのだめがこちらに戻ってくる。 「どうした?」 「先輩……ごはん炊けてないデス……」 「え……」 タイマー設定をしたあと、炊飯スイッチを押すのを忘れた。オレとしたことが……。 「カレーはごはんじゃないと食べられないデスよー」 「ごめん……」 「あと30分以上もお預けデスか……」 「まあ、このままゴロゴロしてればすぐだろ」 「……またエッチなこと考えてマスね?」 もう、開き直ってやる。 「悪いかよ」 再び、のだめをソファに引きずり込む。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |