千秋真一×野田恵
![]() ちょうど二ヶ月半前。 「赤ちゃん、できてましたヨー。」 妊娠二ヵ月半で判明し、のだめは意外につわりが重く、昼間もベッドで寝ていることが多かった。 のだめのつわりがおさまった頃、ちょうど3週間前から仕事で千秋は外国に行っていたのだが、 今日パリに戻ってきた。 離れている間心配だったが、のだめはいつも電話で「順調デスよ」と元気な声で言っていた。 二人が住むアパートに帰ってきた千秋は、自宅のドアの前にたくさんの荷物を置き、鍵を開けた。 左手に持った3つの紙袋が、入り口でひっかかる。中身は全部、のだめへのお土産。 部屋は家政婦が週に2回通ってくれているせいかきれいだった。 ピアノの上には楽譜が何冊か開いたまま乗っかっている。 寝室のドアが開きのだめが現れた。 「せんぱい?」 いつものワンピース姿だが、タイツにあったかそうな靴下を履いている。 お腹は…、まだわからない。 「せんぱい・・・!おかえりなさい!じゅうでーん!」 のだめがかけ寄ってきて、千秋に抱きつく。 「こら、危ない」 のだめが千秋に抱きついた時、ほのかにシャンプーのにおいがした。 ちゃんと風呂に入っていたことに安堵した。 「ただいま…体は大丈夫か?」 「ハイ!…とってもとってもさびしかったデス…」 千秋はのだめの頭をなでた。さびしかったのは千秋も一緒だ。 だが千秋は「俺もさびしかった」とは言わない。 言わなくても、のだめはちゃんと千秋の心を感じ取っている。 のだめへのお土産がたくさん入った袋と鞄を置き、コートを脱いだ。 「ちょっとだけ、大きくなったんデスよ」 のだめがお腹をさすりながら言う。 「太っただけなんじゃないのか?」 千秋はのだめの腹部に手をやった。 「腹巻みたいなのしてるんデスけど、わかります?でてるの」 「うん…」 千秋は少し、照れたように笑った。のだめは、にっこりと微笑み返した。 あい変わらず少女のような、つやつやした桜色のほっぺた。 (こいつが母親になるのか・・・) 千秋は部屋着に着替えようと、寝室に入る。 「あのね、センパイ…」 「うん?…」 「お願いがあるんデス」 「何?」 千秋はクローゼットの扉を開けた。 「えと、その…」 「何だ?なにもじもじしてんだ?」 「さっそくですが、エチがしたいです…」 「…えええ?」 千秋はハンガーごとコートを落としてしまった。 「で、でも…おなかは…」 「もう安定期デスよ。問題ないです。 のだめ妊娠したら性欲増すタイプだったみたいで、つわりの時はさすがに思わなかったですけど、 …なんだか昨日、センパイとエチする夢みてしまいましたヨ。お願いしマス」 のだめは、千秋ににじり寄る。 「まっ…まだ夕方なのに…」 「夜まで待ちマス。のだめ晩御飯の用意しますね。カレーをつくってあるんデス!」 のだめは鼻息荒く部屋を出て行った。 ベッドに腰掛けて、色々考えてみた。 妊娠が発覚してから、つわりがひどかったし、一度もしてない。 のだめはつわりも終わってすっかり元気。セックスを医者にとめられているわけでもない。 のだめからはっきり求められるのもめったにないので、なんだか嬉しい。 そもそも安定期に入るまで我慢だと思っていたことだし、千秋も応えることにした。 (でも、なんか注意することがあったはず…) 征子とヨーコが送ってきた日本の育児雑誌を本棚から取り、読み漁る。 (けっこう禁忌があるもんだな…やっぱり) 胎児や良い体位のイラストなんかもじっくり目を通す。 (突いてる奥に、いるんだよな…) そのイメージを頭の中に描くと、ちょっと怖くなった。 (よその夫たちはどうしてんだろ…何も思わずやってんのか?誰にも聞けないし…) 普段と変わらず行っている…15パーセント 回数が減った…35パーセント 全くしていない…30パーセント 本にはそんなデータも掲載されていた。 (回数が半分になったとしても週に…回かよ。俺ってやっぱり…) 「せんぱーい!ゴハーン」 「あ、今行く」 千秋はまだスーツを着たままだった。 のだめが作ったカレー(味は普通だった)を食べ、千秋が洗い物をしている間にのだめはシャワーを浴びた。 続いて千秋もシャワーを浴びた。 長旅で疲れているはずなのに、のだめが身重なのに、一度のだめを抱けると思うと、 体の芯が熱かった。 (さっきはちょっと怖くなったのに…俺も俺だな) ふと爪が伸びているのに気づき、きれいに切りそろえ、寝室のドアを開けた。 ベッドに腰掛けたのだめは千秋に気づき、にっこり笑った。 ヘッドホンと楽譜をチェストにそっと置いた。 「ムキャー、センパイ上着てない、色っぽいデスー!」 夫・千秋真一の半裸をみて興奮する、妻、恵。 千秋はするりと布団にもぐりこみ、部屋の電気を消す。枕もとの小さな明かりを灯す。 「今日は激しいのは無しだからな」 「あっ、そデスね。わかってます。のだめも本読んでべんきょうしました。」 千秋はのだめのパジャマのボタンをはずしにかかった。 「寒くないか?」 「…大丈夫デス…」 以前の千秋は性急で粗暴なときもあったが、今日の千秋は、とても優しかった。 パジャマを脱がせ、上はキャミに、下はヒモパンになった。 いつもはおへそのの上まである妊婦用の下着を履いているが、 このときはセックスのためだけにヒモパンをはいたのだった。 のだめはゆっくりと、裸にされてゆく。のだめがいちばん、どきどきする瞬間。 キャミソールをずりあげ、胸の谷間に顔をうずめ乳房にほおずりする。 「のだめの胸、おっきくなってるでしょ?」 「…うん」 大きくなったというより、張りが増して硬くなっている感じがした。 「あと、残念ですが、センパイの大好きなのだめのおっぱい、 乳首が茶色くなってしまいました。だからあんまり見ないでくだサイ」 「…」 (センパイの大好きな、って…) 千秋はのだめの乳房を手で包み、乳首をそっと口に含んだ。 「ん…」 舌が動くとのだめが小さな喘ぎ声をあげる。 「う…あ、あん」 のだめのかわいい声を聞くのは久しぶりで、つい、快楽におぼれそうになる。 「…きもちいいか?」 「…はい、とっても…」 のだめはてれ笑いをして、千秋の髪をなでた。 しばらく見詰め合って、お互いの唇を求めた。 唇と唇が何度も重なっては離れ、そのたびにちゅっちゅっと音がする。 のだめと3週間以上会わなくて、寂しかった。しょっちゅう顔や声が浮かんだ。 セックスしているときの快感に耐える顔や、薄い背中や、胸の感触。 のだめはゆったりキスにおぼれながら、千秋の髪を撫でていた。 愛しい人の存在を確認するかのように、その手はうなじや肩や背中を這う。 千秋の首筋にも執拗に口付ける。 「あ、キスマークつけるなよ…」 「つけたい。だってセンパイはのだめのものデス…」 「首はやめろよ。見えないとこなら…」 のだめは千秋の左の鎖骨の下に吸いついた。 小さな赤いしるしがついたのを見て、満足した。 「センパイ…大好き」 赤いしるしをなぞりながら、うるんだ目で千秋を見る。 そんなのだめが愛しくて、また、キスをした。 唇が首筋を這い、舌がまたのだめの乳首を捉えた。 そっと乳房を揉む。弾力も肌理も大きさもやっぱり極上だ。 (のだめの言うとおり、おれこいつの胸大好きだな) 千秋は少し大きくなっているのだめのお腹にあたらないように動き、 そっとのだめの足を広げて、内ももをゆっくりなでて、下着のラインをなぞる。 下着の脇から指を入れ、秘所には触れず、薄い恥毛を弄ぶ。 千秋の指がそこを愛撫するのを避け、もう少し…のところでじらしている。 潤った部分の液体を、襞に塗りつけ、ひっぱったりしているが、なぜかそこに触れない。 「ヤダ…触ってくだサイ…」 たまらず、のだめがついに言ってしまった。 「…じらしてみた…」 千秋はのだめの耳に顔を近づけてそっと囁いた。 「いじわる…やだ、あっ」 のだめが言い終わる前に、千秋の指がそれをこすり始めた。 愛撫すると、すぐにぷっくり尖って、蜜が溢れてくる。 溢れた蜜を突起に塗り付けて、ゆっくりこすり続ける。 「センパイ…ああん…ん」 「…お腹が張ったりとか、してないよな?」 「だいじょぶデス…気にせず没頭してくだサイ…のだめが感じるのは胎教にいいんデス」 「え、そうなんだ」 「本にかいてありましたヨ…はあん」 のだめの中に指を入れ、動かすとそのたびにのだめの腰が揺れ、たっぷりと蜜が溢れるのが感じる。 千秋も限界になり、下着を脱ぎ、ゴムを付けようとした。 「あ、付けるんデスか」 「つけたほうがいいって書いてあったぞ」 「すご、マニュアル人間だったんデスね…まって…付ける前に少しだけのだめのお口にくだサイ…」 千秋は硬くなった自分のモノをのだめの口元にもっていった。 のだめのおなかの負担にならないように、横向きになる。 のだめは千秋のモノをそっと口に含み、舌を這わせる。表情を確認しながら、くっとのどの奥まで 押し入れる。 「…っ」 千秋の下腹部から頭の先に、ビリビリした感覚が走った。 頭を前後に何往復もし、そして口から出してアイスキャンデーのように舐め、また咥えた。 睾丸を手で揉んだり、根元をしごきながら裏筋を舐めたりすると、 すぐにイキそうになった。 「ごめん、もう…やばい」 のだめの顔を無理矢理離す。 「はう…」 のだめはものたりなさそうだった。 「入れるぞ。いい?」 「はい…」 ヒモパンを脱がせ、そこにあてがう。拭いとるように愛液を自分のモノにこすり付けた。 千秋自身に襞と突起を何度もこすられて、のだめは目を瞑って激しくよがった。 千秋はゆっくり、そっとのだめの中に沈ませた。 「は、ああああん…!」 「のだめ…大丈夫?」 「だ、ダイジョブデス…入れる瞬間が、あまりにも気持ち良くって…」 のだめの足を広げすぎずゆっくりと腰を動かした。 いつもはつい、ガツガツ動いてしまうのに、今日は波の上にいるようにゆったりと 揺れている。「挿入は浅く」と本に書いてあったからだった。 のだめは小さい喘ぎ声を上げ、千秋の腕をしっかり掴み、快感に酔っている。 「なんだか今日…すごく気持ちイイ…あ…ああん」 うっとりした表情ののだめを見て、声を聞くと、カッと胸が熱くなる。 のだめの足を開き、突起を親指の腹で刺激してやる。 それは、パンパンに膨らんでいて、のだめの愛液を塗りつけてこすりあげると さらにかわいそうなくらいに硬くなった。 「はあ…あっ!」 するとのだめが、体をのけぞらせて、苦しい表情をした。 「?のだめ?」 とたんに膣の中が何度も収縮する。 「ちょ、おまえ、もう?!イッたのか?」 「…あああ、あ、あ、…お腹が」 「どうした!」 「っぎゅーって…あ、大丈夫かな?ん、大丈夫デス…ああ、快感…」 「びっくりさせるなよ!!!」 千秋はため息をついて、頭を抱える。でも挿入したままだった。膣の中は強く締まっている。 「はうん…」 「お前…今日イクの早くないか?ふいうちだったぞ」 「だって…だって…たまってたんデス…のだめも。」 千秋はまた大きなため息をついた。 「じつは、入れた時にもう、イキそうだったんです…」 赤い顔をして、小さい声でのだめが言った。 「そっか…」 「センパイもいっちゃってくだサイ…」 「ホ、ホントに大丈夫か…?なんか怖い…」 「大丈夫デス、流産なんてしませんヨ。続けてくだサイ」 おそるおそる動き出したが、だんたん動きが早くなる。 「センパイ、気持ちいい?」 「…ん…お前は?」 「さっきは気持ちよくて、今は、幸せデス」 のだめのからだが揺れ始めた。同時に乳房がぷるぷると揺れる。 千秋は「センパイの好きな」のだめの乳房を、わしづかみにして、揉みしだいた。 久しぶりだったせいか、あっけなく千秋は頂点に達してしまった。 「はあ…」 のだめの後始末をしながら、お腹の子のことを考えた。 (のだめがイッた時、子宮が収縮したから、お腹の子は苦しかったのかな…) ちょっと大きくなったお腹にそっと耳をあててみる。 「?せんぱい何してるんデス?」 「いやべつに…」 (苦しそうな声とかするわけでもないのに…俺って?) 千秋が自分自身の後始末をし始めると、のだめがそれをじっくり見ていた。 ニタニタして嬉しそうだった。 「おい変態、体、なんともないか?」 「はい。全く。とってもとっても気持ちよかったデス。明日もしてくださいネ。」 「アホか!」 まだ夜の7時を回ったところだった。 千秋はだめの手を引き部屋をでて、ピアノに向かった。 「センパイ弾くんデスか?」 「ああ。お腹の子に聴かせてやるからここにいろ」 そういってピアノの上にCDと楽譜を置き、椅子に腰掛けた。 のだめは傍のソファに座り、クッションを抱えた。 「お腹の子は今日苦しい思いをしたもしれないので、お詫び」 ショパンのエチュード、25-1、エオリアンハープ。 のだめは千秋がこの曲を弾くのを初めて聞いた。 千秋のイメージとは違うし、音色も違うような気がした。柔らかい、あたたかい音色。 すこしスピードも遅めだ。 時々千秋がのだめのほうを見て、少し微笑む。 のだめは目をつぶって、お腹に手をあてた。 (なんてやさしい音…真っ白なショパン…) 何故だかほろほろと涙がこぼれてきた。 「はあーちょっと間違えたけど…」 弾き終わり、のだめを見ると、のだめが泣いているので千秋は慌てた。 「どうした?」 「何でもないデス…ちょっと感動しました」 「そ、そうか?」 「センパイ、赤ちゃんできて、センパイ自身もピアノもかわりましたネ」 千秋は少し照れながらのだめの横に座った。 「…離れている間に子供に何かと思って、楽譜買って合間で練習した」 ぼそっという千秋をのだめはじっと見つめた。目からは大粒の涙が溢れだした。 「なんとなくだけど、胎教によさそうな気がして。子供はお前のピアノ毎日ききいてんだから、 たまには父の弾くピアノも聴かせてやろうと…」 千秋はのだめの涙を手でぬぐいとってやった。 「センパイ、あの…」 のだめはさらに涙を流し始めた。 「なんだ?…どうかしたのか?」 少し様子が違う。何かいいたいことがあるのだと千秋は思った。 「のだめ、電話では元気です順調ですばっかり言ってたと思うんですけど…」 千秋はティッシュの箱を抱えて、のだめの涙と、鼻水も拭ってやった。 「赤ちゃんは順調なんですけど、のだめはホントはセンパイがいないと情緒不安定になっちゃって、 それは多分妊娠してるからなんですケド、センパイが浮気してないかとか、死んじゃったりしないかとか、 赤ちゃんが無事生まれないんじゃないかとか、そんなこと考えるようになって 考え出したらいっぱい涙出ちゃったりして」 「…うん」 「この間も怖い夢みて、センパイに電話しようと思ったけど、 夜中だったからやめたんデス。 センパイはお仕事必死でしてるから、忙しくてのだめの夜中のくだらない話 聞いてる場合じゃないだろうって。 のだめや赤ちゃんのこと考えてる暇ないくらいがんばってるって。 でも、違ってたんデスね。 忙しくても、離れてても、想ってくれてたんデスね…。」 千秋は、黙ってうなずき、のだめの頭を撫でた。 「当たり前だ、そんなの…」 「わかってるんデス、想ってくれてるって。でも、不安定だから、悪い方向で考えちゃったり するんデス…。」 そっとのだめを抱き寄せ、背中をさすってやる。 「夜中でもいいから、電話してこいよ…」 「センパイ、大すき、大すき。センパイの奥さんになれて、ほんとによかったデス… ずっとずっと、いっしょデス…」 のだめが鼻をすすりながら、千秋にしがみつき、泣いている。 お腹に命を抱えているのは、本当に大変なことなのだ。男には決して、わからない。 「寂しいかもしれないけど、お前が不安になるようなことは、ないから。 おれには、おまえだけだからな…」 ぱっとのだめが体を離し、千秋の顔をじっと見る。 「見んなよ!」 「もう一度、最後の言葉言ってくだサイ…」 「いわねえ」 「おねがい」 「うるさい!もう一曲ピアノ弾くから聴け!」 「むきゃ…いじわるデス…」 「お前のために弾くんだからな」 ピアノの椅子に腰掛け、千秋はエルガーの「愛の挨拶」を、少しゆっくりめで弾きはじめた。 音がきらきらしていて、とても澄んだ音色だった。 「しゅてき…」 メロディーにうっとりと酔っているのだめがふと、千秋がピアノの上に置いたエルガーのCDの ジャケットに目をやると、 『愛妻家として知られるエルガーが生涯愛し続けた妻にささげた作品』 と書いてあった。 千秋はのだめがCDを手にとって見ているのに気づき、『あっ』と言う顔をした。 そして眉間に皺をよせながら耳まで赤くして、ピアノを弾き続けた。 (のだめは幸せ者デスね…) またのだめの目に涙がにじむのだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |