妊婦のだめ
千秋真一×野田恵


少し緊張しながら玄関のベルを鳴らして、ドアを開けた。
パタパタという足音がして、のだめが抱き着いてくる。
…以前のようにではなく、そっと腕を絡めて。オレは、ギュッと抱きしめたくなる衝動を抑えながら、華奢な背中に腕を回す。

「おかえりなさい」
「ただいま…」

ふと、視線身体にを落とすと、それに気付いてのだめがはにかんだように笑う。

「大きくなってきたデショ?」
「ああ…」

客演でしばらくパリを離れている間に、のだめの身体は明らかに変化していた。ゆったりしたワンピースごしに、お腹が膨らんでいるのがわかる。

「体調は、どう?」
「つわりはおさまったみたいで、ご飯食べられるようになりマシタ」
「そうか。じゃあ、今日はのだめの食べたいものを作ってやるよ。肉がいいのか?」
「むきゃー、うれしいデス。でも、のだめつわりがおさまってから、あっさりしたものが好きになってて…。果物とか野菜とか…。きっと…」
「きっと?」
「この子は真一くんに似てるんデス。最近、真一くんが好きな食べ物がおいしいんデス。納豆もダメになってマス…」
「納豆、ダメなのか?」

妊娠すると嗜好が変わる事があるそうだが、こんなに変わるのか?
それにしても……オレに似てる…?それは、くすぐったいような不思議な気持ちで、でも、悪くない。…本当は、かわいい女の子が希望なのだが…。
とにかく、のだめが元気そうな事に一安心しながら、オレは玄関のドアを閉めた。

その日の夜、バスルームから出ると、のだめはいつものようにベッドの左側に寄って座っていた。

「真ん中で寝ていいから」

そう言うと、のだめが驚いたように顔をあげた。

「でも、真一くんはどこで…」
「カウチがあるし。寝てる間に蹴っ飛ばしたらいけないだろ?」
「……先輩の寝相が悪いから、お店で1番大きいベッドに買い替えたんデスよ?だから、だいじょぶデスよ」
「いや、でも…」

寝相が悪い…というのは建前で、本当は久しぶりに一緒に寝るのにのだめに触れられない事が苦痛…とはとても言えず、言葉が止まる。

「やっぱり…」

のだめの声が小さく震えている。

「…お腹大きくなったのだめは…嫌デスか?」
「なっ、なんだよ。急に」

のだめの目には涙が浮かんでいる。

「…別に、そんなんじゃ…」
「じゃあ、一緒にいてくだサイ」
「いや、でも…」
「のだめに じゅうでん してくれないんですか?」
「なっ…、いや、だって」
「もう、安定期に入ってるから…だいじょぶ…デスよ?お医者さんもターニャもそういってました」
「ターニャって…」

たしかに、既に一児の母で、第二児妊娠中のターニャは先輩妊婦ではあるが…ロシア人だし、のだめとは体型も違う。

「妊娠初期に激しくしちゃうとダメだそですけど…」

オレは、旅先にかかってきたターニャの電話を思い出していた。

『妊娠中だからって急に態度がかわったら逆に妊婦が不安になるわよ!のだめが嫌がるなら別だけど、そうでないなら身体に負担がないようにしてした方がいいんだから。ヤスに教えてもらう?…嫌なら、サイトとかあるから、研究しときなさいよ』

なんでわざわざ…とは思ったけれど、のだめの不安そうな顔を見ていると、聞いておいて良かった気がした。

「本当に、いいのか?」
「ハイ…」
「身体、きつかったらすぐに言って?」
「わかりました。…真一くんは、充電…いらなかったですか?」
「……」
「黙ってたら、わかりませんヨ」
「そんな訳、ないだろ…」
「ムキャ!嬉しいデス」

オレは、のだめの横に腰を降ろして、そっと抱き寄せた。
少し渇いた唇にくちづける。そういえば、キスをするのも久しぶりだ…。
薄く開いた唇をついばむように味わい、舌でなぞるとのだめが待ちきれずに舌を絡ませてきた。それに引き寄せられるように深くくちづけ、咥内を味いつつ、パジャマの上から胸元へ手をのばす。

…違う……。

思わず探るように触れているとのだめが耳元で囁く。

「真一くんがお留守の間に大きくなりましたヨ」
「うん…」

思わず胸に顔を埋めると

「おっぱい星人…」

のだめがつぶやく。

「うるせー」

とりあえず、息子か娘が産まれるまではのだめは全部オレのものだ。つわりで妊娠に気付いてから、のだめの体調が悪く、禁欲生活を送っていた事もあって、
さっきのキスで既にスイッチが入っていた。
のだめのパジャマのボタンを外し、普段より豊かな膨らみをじかに確かめる。

「んっ…」

先端をつまみこねていくと、のだめが小さな吐息をもらす。
反応を伺うように、そっと身体に触れていく。こんな風にのだめに触れるのは初めての頃以来かもしれない。
触れ馴れているはずののだめの身体もいつもとは違って感じる。それはのだめも同じなのか、目立ちはじめたお腹に気をつけながらそこに触れると、すでに熱く驚くほど潤っていた。

ちゅぷ…

軽く指でなぞるだけで水音がする。

「あっ…」

のだめが頬を染めて俯いた。蜜をすくい、敏感な蕾になでつける。…そこはすでにぷっくりと膨らんでいて、今にも弾けそうだ。

「ひゃっ!ああっ!」

指が円を描き、揺らすたびに、のだめの唇から悲鳴のような喘ぎ声が溢れ出す。

「…いつもより、感じる?」

耳元で囁くと、のだめはこっくりと頷いた。

「久しぶり、だから…?」
「………わかりま…セン。…しん…いちくんの……手が、触れるだけ、で…ピリピリする…電気みたい…で……あんっっ!」

オレにしがみつくようにして、快感を受け止めているのだめの首すじや胸元に唇を這わせながらパジャマをぬがし、そっと身体を横たえる。

「のだめ…もう、いい?」

これ以上はない位に熱く蜜をしたたらせるそこを早く確かめたくて、オレは思わずそう言っていた。

ゴムを付けていると、のだめが不思議そうに見ている。

「な、何…?」
「なんで付けてるのかと思ったんデス…」
「…身体のために、その方がいいらしいぞ」
「ぎゃは…真一くん、なんでそんな事知ってるんデスか?」
「…」
「我慢してる間、研究してましたね?ふふ…真一くんのムッツリ…」
「なっ、うるせーよ!」
「はうぅっ!」

横だきにしたのだめに、オレは自身を沈めていく。
そこは、いつもよりもずっと熱く、絡み付いてくる

「…大丈夫か?」

のだめがだまって頷いた。
それを合図に、ゆっくりと動き始める。

「あっ…ん。真一…くん…なんだか…スゴイ…デス」

浅く中を擦り上げるたびに、のだめの甘い声が高く、激しくなっていく。その声に煽られるように、少しずつオレの動きも加速していく。

じゅぷ…ちゅぷ…

溢れ出す水音が室内に響き、オレたちの荒い息遣いと重なる。

「やっ…!も…だめ…あっ!のだめ…イッちゃい…そう…ああんっ」

のだめが、いつもより早く絶頂を迎えようとしていた。そして、オレも、絡みつき締め付けるのだめの中で限界が近づいているのを感じていた。

「はうっ、もう…だ…め。あっ、あああああっ」

のだめの中が、びくびくと震える。オレは、自身でのだめの感じる場所を擦り上げながら、欲情を吐き出していた。


「身体、平気?」

再びバスタブに身体を沈めながら聞いてみる。

「だいじょぶデスヨ。真一くんが、すごく優しくしてくれたし…」

そういうのだめは顔色もいいし、嘘を言っているようでもない。

「でも、真一くんは充電できましたか?」
「なっ、なんだよ…急に」
「だって、いつもはもっと粘着で、のだめがヘトヘトになるまで離してくれないじゃないですか?…今日は久しぶりなのに一回だけだし…」
「大丈夫だよ…」
「でも、欲求不満になると浮気するかもって」
「ターニャが?」
「ハイ…」

またターニャか?とは思うが、のだめは真剣そのものだ。

「別に、しばらくは一緒にいられるし、充電しなくてもいいよ」
「…やっぱり、マンタンじゃないんデスね!」
「いや、そういう意味じゃ…」

慌てて言うオレに、のだめの手が触れる。

「さっきは、のだめに遠慮して優しくしてくれたので、お返しデス」
「…いや、でも…」
「遠慮は無用です!妻ですから」
「…」
「バスタブに、座ってくだサイ!」

半ば強引に座らせられると、のだめの唇がオレを包む。
先端を口に含んだまま舌で刺激し、柔らかな掌で包む。次第に硬くなってくると、更に深くくわえ込んで顔を揺するように前後させる。舌全体が自身の裏側をなぞる感覚に、ぞくぞくするような快感が走る。

「っ…あっ」

思わず声が洩れるほど、のだめの動きは激しい。そんなオレの様子を見て、更にのだめの動きが加速する。
溢れる唾液があごを伝い、熱を帯びたようなのだめの表情を彩っている。

「の…だめ…、もう…」

自身を外そうとするが、のだめはオレの身体に腕をまわして離そうとしない。

…もう、限界だ……。

オレはのだめの咥内に欲情を吐き出していた。



翌日、遅目の朝食を済ませた頃、玄関のベルがなった。
ドアを開けると、黒木くんとターニャの姿。…ターニャはすでにこのアパルトマンを出ているのだが、頻繁にのだめに会いにやってくるのだ。
リビングに招きいれ、コーヒーをいれる。

「千秋くん、久しぶり。向こうでの公演、どうだった?」

黒木くんと公演の話しをしていると、ターニャが横から口を挟む。

「千秋、久しぶりに会ったのだめに優しくしてあげた?」
「なっ!」

オレは思わずコーヒーを噴いていた。

「やだ!変な意味じゃなくて…。まあ、上手くいってるならいいのよ!ほら、千秋が留守の間、のだめが元気なかったから心配だったし!妊娠すると、情緒不安定になるし!」

ターニャが慌てて取り繕う。

「…だから、もう少し日を置いてこようって言ったのに…」

黒木くんがため息をついた。

「…お邪魔だった?」
「そんなことないデスよ!ターニャにはホント、お世話になってマス。この間も色々教えてもらって…」
「そ、そうなんだ。なら、いいけど」
「そですよ。ターニャのアドハイスは参考になりマス!経験者は語る!ですから」
「えっ…?」

オレと同時に黒木くんが呟いた。のだめもターニャも、青ざめている。

「ターニャ…」
「な、なによ…」
「帰ってゆっくり話しを聞こうか?」
「べ、別に…そんな…」

慌てるターニャの腕を掴み、黒木くんが席を立つ。

「じゃあ、また」

そう言って帰っていった二人を見送るとのだめが大きなため息をついた。

「余計な事、言っちゃいましたかね…?」
「まあ…」
「…でも、参考になりましたよね?」

横目でちらりとのだめが見ている。…確かに、それは本当で。

「後で、黒木くんに電話しとくよ」

そう言って玄関のドアを閉めると、オレはのだめを抱き寄せた。






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