ノエル未満
千秋真一×野田恵


楽譜を広げ、イヤホンに流れる音楽に耳を傾ける。
ラフマのピアコンか…あいつと一緒に弾いたんだよな…。あの時は、こんな風になるとは思ってもみなかったな…
音楽の中に入っていくはずが、気付けばのだめの事を考えているオレがいた。

初めてキスした時は”ボヘー”で、デビューコンサートの後は卒倒するし、この前トンネルの中でキスした時は”アヘー”だったよな。
まったく、何だあいつは。変態なのは分かっていたけど、あんな反応ってアリか?
オレはひとつ、ため息をついた。

……でも、キスするだけでああなんだから、それ以上なら…もっと…?

ふっくらとした唇、華奢な腕、抱きしめると実感する、柔らかな大きな胸…。もっと触れて、いろいろなのだめを見てみたい−。女に対して、こんな風に思ったのは初めてだ。
今まで付き合って来た彼女たちとも、それなりの関係はあったが、特別な感慨はなかったし、逆に関係が深くなる事でベタベタされるのが嫌だと思う位で。

…それにしても、あいつってやっぱり”初めて”かな。初めての時って、どうしたらいいんだ?経験のないのだめに無茶をして今の関係が壊れるのは嫌だし、だからといってこのままでもいられない…オレ的に…。
オレは再び、ため息をついた。

「先輩、どしたんデスか?」
「えっ!?」

突然、のだめが目の前に現れて、オレは本当に、飛び上がりそうな位驚いていた。

「…い、いや、別に…」
「何度呼んでも返事ありませんでしたヨ」
「何度も?」
「そですよー。ため息ばっかりついてましたヨ」

のだめはそう言って、オレの隣に腰掛ける。

「次のコンサトのお勉強ですか?」
「いや…息抜き」
「あっ、ラフマニノフ聴いてたんですか?先輩とミルヒーのラフマニノフ、素敵でしたー」

のだめはうっとりと目を閉じている。

…おいおい、そんな昔のオレかよ…

そう思いつつ、のだめの肩を抱き寄せた。

「ムキャ?…あっ」

唇を奪い、舌を滑り込ませると、のだめの身体が硬くなるのがわかる。遠慮がちな舌をからめとり、咥内の隅々を味わっていくうちに、次第に身体から力が抜けていく…。

「っん…」

そっと、ワンピースの上からのだめの胸に触れてみる。そこはとても柔らかで、手に余るほどだ。

…やっぱり大きいな…Dか…。

唇を重ねたまま、すくいあげるようにしながら、やわらかな膨らみを確かめる。…のだめの身体が、再び緊張して硬くなる。
オレは、胸への愛撫を続けながら、首筋や耳元に舌を滑らせていく。

「はぁ…んっ」

のだめの唇から、いつもとは違う、甘い吐息がもれたのを知って、オレは思わず顔を上げてのだめを見ていた。と、同時に、目を丸くしているのだめと目が合う。
のだめは、みるみるうちに真っ赤になると、オレの腕から逃れようとした。

「ま、まてって…」

慌てて再び抱き寄せた。

「なにも、逃げなくても」
「……だって…」
「何?」
「…あんな風になって…恥ずかしいデス…」

別に、恥ずかしい事じゃないだろ…。いや、逆に嬉しいのだが…。しかし、のだめはうっすら涙ぐんでいて。
オレは、抱きしめると腕に力をこめた。

「今日は、もうしないから」
「…今日は、デスか?」
「…ずっとが、いいのか?」
「そうじゃないデスけど…」

のだめはそれ以上何も言わず、黙って腕の中におさまっている。そんな様子も愛しくて、膨れたような唇に、軽くキスをした。

「ムキャ!今日はもうしないって…」
「キスくらい、いいだろ?」
「……ハイ」

…まったく。エロサイトを覗いているかと思えば、実地になるとコレだ。”初めて”が初めてのオレは、これから先の事を考えて、またひとつ、ため息をついた。






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