かわいい女の子
千秋真一×野田恵


「真一、のだめさん、今回の公演も大成功おめでとう」

竹叔父さんと善彦、母さんが楽屋を訪れた。時々こうして、オレたちの公演を聴きに来てくれる。

「やっぱりのだめさんとの時が、1番いいんじゃないかな?」
「ムキャー、善彦くん、ほんとデスか?」
「のだめさん、いい歳して抱きついてこないでよ」

クールに退けられて、のだめは不満そうだ。

「あれ、そういえば由衣子ちゃんはどしたんデスか?」

…そう、オレも気になっていた。いつもなら真っ先に飛び込んでくる由衣子がいない。

「それは…」

三人とも口ごもる。…何なんだ?

「あの…由衣子ちゃんは、途中まで一緒だったんだけど、お友達のリサイタルがあるからって…」

母さんが、遠慮がちに答える。

「友達?パリに…?」
「…あっ」

のだめはピンときたらしく、母さんとアイコンタクトしている。

「で…誰?友達って…」

オレの声音にマズイと思ったのか、母さんが再び口を開いた。

「リュカ・ボドリーさんって言って…。真一も知ってるでしょ?」
「リュカ…?」

リュカって、あのリュカ?
振り返ると、のだめはフィっと視線を逸らした。

「おまえ、知ってたわけ?」

部屋に戻り、風呂からあがってきたのだめに聞いた。

「由衣子ちゃんデスか?えと…去年、公演に来てくれた時に楽屋であったんですよ。それで、二人とも歳も近いし気があったみたいで…。由衣子ちゃんだけでパリに来た時に、会ったりしてたみたいデスよ?」
「………」
「先輩…そんな、まだ、お嫁に行く訳じゃないんデスから」
「嫁って…由衣子はまだ……」

そこまで口にして、ため息をついた。結婚には早いかもしれないが、恋人がいたっておかしくはない。

「先輩…」
「何?」
「のだめが産んであげますヨ。かわいい女の子」

き、急に何をいいだすんだ!?たしかに子供がいてもいいが、ピアニストとして順調に活動を続けるのだめの事を考えて、避妊には細心の注意を払っているのに。

「先輩に似たら、綺麗な女の子になります。征子ママに似れば、かわいい子に」

…こいつ、本気か?

「……おまえに似るかもしれないぞ?」
「ムキャ…それは……」

真剣に考えている様子がおかしくて、思わず笑みがもれる。

「大丈夫…おまえに似てても…」
「先輩…?」

オレは、風呂あがりでほんのり色づいたのだめの頬に手をのばし、唇を重ねた。

公演前…特に二人でコンチェルトをする前は、馴れ合いと睡眠不足を防ぐために一緒に寝ない…。それが暗黙のルールになっていた。
だから、こうしてのだめに触れるのは久しぶりだ。
白くて、柔らかくて、吸いつくような感触を確かめながら、身体中に手をのばしキスの雨を降らせた。その度に、艶を帯び泣いたような声をもらすのだめが、熱く蜜を滴らせる。

「のだめにも…させて下サイ」

荒い息をしながら、のだめが呟き身体を起こした。
ふっくらとした唇を開いて、オレ自身に舌を這わせ、口に含んだ。

「……っ」

すっかりオレのツボを心得たのだめの動きは絶妙で、それでも時折気まぐれな動きをして、それがまた、オレの欲情を高めていく。
「おい…のだ、め……」
「…なんデスか?…あっ」

顔を上げたのだめの腕を掴んで引き寄せ、そのまま仰向けにする。

「もう…十分…」
「え…?」
「…ほんとに…いいのか…………子供…」
「…ハイ」

少し頬を赤らめうなずくのだめは、初めての頃と変わらない。
変態で………誰にも出せない音を出し、誰よりオレに音楽の喜びを与えてくれて、どんな女より魅力的な……。
こんな風に思っている事は、どうやっても伝えられないし、気恥ずかしくて伝える事もできないけれど…。

腕の下でオレを見つめるのだめにキスをして、舌を絡めとる。

「んっ、ふぅ……ん。んんっ!」

咥内を味わいながら、オレは自身をゆっくりのだめの中へ沈めていく。

「んんん…っ」

背中に回された手に力がこもる。
勢いに任せて…という事がなかった訳ではないが、こんな風にのだめと繋がることは…のだめがピアニストとしてデビューしてからはない事で…。直に感じるのだめの中が、熱くしめつけるようにオレを包み込み、それだけで堪らない快感がある。

抽送をくりかえす度に、絡み付き締め付けるのだめの中に、ゾクゾクと背筋に快感が走る。

「先輩…なんだか、スゴ…イ…です」

熱を帯びたのだめの声は、たまらなく色っぽい。
中をすりあげ突き上げるたび、吐息がもれいやらしい音が部屋に響く。

「先ぱ…い…あっ、ああっ…ん」
「のだめ……先輩、じゃ…ないだろ?」
「ハイ…あっ、んっ…しん、いちくん……ああっ」

身体のぶつかる音が、溢れる水音が、激しくなっていく。

「真一…くん、のだめ…も……ダメ…」
「あっ…ホントに…あああああっ!」

びくびくと、のだめがオレを締め付ける。
全身で愛しさを感じながら、オレものぼりつめていた。


息がととのうと、のだめがポツリと呟いた。

「先輩…赤ちゃんできましたかね…」
「…そんな簡単じゃないだろ…」
「そですか…」
「それよりおまえ、いいのか…?……ピアノ」
「子供がいても、ピアノは弾けますよ?」
「………まあ…そうだけど。…それから」
「何デスか?」
「いい加減、”先輩”はやめろ…」

…子供が”お父さん”じゃなく、”先輩”って覚えたらどうするんだ?とは言えず、それだけ言ったが、のだめは不満気だ。

「何だよ?」
「じゃあ、先輩も”めぐみ”って呼んで下さい」
「なっ、おまえはのだめでいーんだよ!」
「ムキャー、それはおかしいデスよ!」
「うるせー!」

オレは、まだ何かいいたそうなのだめを抱き寄せ、生意気な唇をふさいだ。


「真兄ちゃま、昨日はごめんなさい」

翌日、由衣子が訪ねて来た…リュカも連れて。

「由衣子ちゃん、リュカのリサイタルはどでしたか?」
「とってもステキだった。真兄ちゃまとものだめちゃんとも違うけど、由衣子は大好き」
「そですかー。良かったデスね、リュカ」
「うん。今回は同じ日になったけど、今度はのだめのリサイタルに行けるからね」
「待ってマス」
「のだめちゃんとリュカは仲良しだよね」

無邪気に由衣子が言う。

「同級生で先生ですから」

…のだめは、リュカが自分を好きだった事に気付いてないんだよな…。それがいいのか悪いのか…。オレは小さくため息をついた。
「むむ?先輩、由衣子ちゃんがリュカと仲良しで寂しいのは分かりますけど…先輩には、のだめがかわいい女の子を産んであげますから」
「おいっ!のだめ…」

思わず見ると、リュカが青ざめている。…結婚して数年たってもこれだから……。

「真兄ちゃまとのだめちゃんの赤ちゃん、由衣子楽しみ!ねっ、リュカ」
「そうだね…」

由衣子が気付いていないのが救いか…。
由衣子をとられるのは気に入らないが、変態の森の先輩として、リュカにも幸せが訪れるといい…のだめは渡さないが…オレは、本気でそう思っていた。






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