千秋真一×野田恵
![]() 意識は、してた。 この変態女を「選ぶ」と決めた時から。 いいかげんコドモじゃないし、これだけ共に過ごす時間があれば 当然のなりゆきなんだけど。 いつもなら「じゅうで〜ん」とか言いながら引っ付いてくるはずなのに、 今のあいつはちょっと離れたソファで楽譜を眺めながら指をトントンと鳴らしている。 オレの視線に気づくと、ほんのりと頬を赤らめた。 さっきのキスが尾を引いているのか。 「せ、先輩、コーヒーでも飲みマスか?のだめ淹れますヨ。」 少し慌てたように立ち上がった。 晩飯も食ったし、風呂にも、入らせた。のだめもうすうす感づいているのかもしれない。 オレ達が今夜、どうなろうとしているのか。 でも、意外だな。あいつの事だからそんな雰囲気になろうものなら、それこそ こっちが引くくらい迫ってきそうなのに・・・。 ガチャン! 「むきゃー!!」 コーヒーカップを落としたらしい。 「オイ!大丈夫か?!」 「大シッパイ。。カップ割っちゃいました。」 「そんなことより、ケガないか?!ヤケドしてねーか?!見せてみろ!」 腕を掴もうとすると、のだめはサッと手を引っ込めた。 「大丈夫デスヨ〜。コーヒーいれる前だし、ちょっとかすっただけデスから」 「何ィ!」 なおも隠そうとする右手を無理矢理引っ張りだすと、甲のあたりに赤いスジがついていた。 わずかに血が流れ出している。 良かった。大したことはないな、この程度なら。 「ったく、ピアニストが手ぇケガしてどーすんだ。ちょっと待ってろ・・・コラ!触るな!!」 割れたかけらを拾おうとしたのだめを制止して、オレは消毒薬と絆創膏を取り出してくる。 もう一度キズを確かめようと手を伸ばすと、のだめがぴくっと震えた。 「おまえ・・・、さっきから、もしかして、緊張してる?」 のだめはうつむいて、 「そんなこと、ないデスヨ」 と目をそらした。 (こいつが、緊張・・・。) なんだかひどく可愛く見えて、オレは薬をぬる代わりにケガした手の甲に唇を寄せた。 「な、センパッ・・・」 のだめは一瞬絶句してから、ひとこと、 「あへぇ」 と言った。 ぶ・・・、やっぱり、のだめだ。 ◆◆◆◆ 血はもう止まっていた。いちおう消毒して絆創膏を貼ってやった。 オレが割れたカップを片づけている間、のだめはおとなしくソファに座り 貼られたばかりの絆創膏を眺めている。 「痛む?」 淹れ直したコーヒーをのだめに渡しながら、オレは隣に腰掛けた。 「全然!だってすっごい効き目の薬付けてもらっちゃいましたから」 「!!」 ・・・今度はオレが赤くなる番だった。考えたらなんつーはずかしーことを・・・。 のだめはしてやったり、とばかりに赤くなったオレの顔をのぞき込んでくる。 (少しは緊張が解けたみたいだな) テーブルにカップを置くと、オレはケガした場所を包むようにしてのだめの手を取った。 「手の甲にするキスは、尊敬を表す、っていうな・・・。」 「そうなんですか?」 「掌は懇願を、額なら友情、頬は厚意、瞼は憧憬、くび・・・、・・・・・唇は、愛情・・・・だ」 まだ、感心した時の「へぇ〜」の形のままに開かれたのだめの唇を、自分の唇でそっと塞いだ。 「んっ・・・はぁ・・・」 少しずつ深く舌を差し入れていくと、のだめの口から甘い吐息がもれる。 まだ慣れないながらもオレに応えようと、ぎこちなく舌を絡ませてくるのが可愛くて、 抱きしめる腕に力が入る。 のだめが苦しそうに身じろぎするのを感じて、きつく抱きしめすぎていたことに気づいた。 「ごめん、痛かった?」 「へ、平気デス。・・・でもお手柔らかにお願い、致しマス。」 妙に堅いその答え。 (そうだよな、こいつどう考えても「初めて」だよな・・。・・・優しくして、やんなきゃ・・・) 「あっち、行くか」 「ハイ・・・」 オレはのだめの手を引くとベッドルームへと促した。 月明かりと街灯に照らされた部屋。今度は、出来るだけ優しく、優しく抱きしめる。 掌、額、頬、瞼・・・ソファで説いた意味にそれ以上の想いを込めて、口づける。 ゆっくりとベッドに倒れ込む。首すじにキスを落としながら、まくりあげたネグリジェの裾から、 内股をなぞるようにしてウエスト、背中へと手を這わせてゆく。 オレの手が、唇が、滑らかな稜線を辿る度に、腕の中の恋人は甘やかなため息を漏らす。 彼女の体からは今まで嗅いだことのない淫靡な香りが立ち上り、否応なくオレの鼻腔をくすぐる。 ヤバイ、あやうく理性が吹き飛びそうになる・・・。 首すじへのキスは「欲望」。さっき言いかけたけど、言えなかった。生々しすぎる気がして。 でも、今夜、オレはこのまま優しくいられるのだろうか。今しているキスの意味を、抑えたままで。 ◆◆◆◆ 甘く誘うようなその香りに、頭がクラクラする。暴走しそうになるのを抑えるのに、必死だ。 なんだよ、こいつ。。。いつも、ほっぽっといたら異臭を放つくせに。 「・・・反則だ、このニオイ・・・」 オレは思わずつぶやいた。 途端に、ガバッとのだめが起きあがった。 「わっ、何?!」 「のだめくさいですかっ?!ちゃんとっ、洗ったつもり、なん・・・です・・・ケド」 はだけかけた胸元を両手でかき合わせるようにして、心配そうにオレを見上げている。 夜目でもわかる、真剣な瞳・・・。 「・・・プッ。・・・くっくっく」 「なんで笑うんデスかー!!」 「ハハ、ごめ、ちげーよ。なんか、おまえ、珍しくいいニオイすっから。なんかつけてる?」 「むぅ、珍しく、って。・・・でも別になにも?シャンプーだって、今日は先輩と同じのデス」 「今日"も"だろ」 (いつも人の勝手に使ってるくせして) 「も〜、のだめスゴイ頑張ってるのに、ムードぶち壊しデス!」 「急に起きあがったのおまえだろ」 「先輩がヘンな事言うからデス!」 のだめはそっぽを向いてしまった。 ほっ・・・、なんか、いつものペースだ。・・・なんでオレ、ほっとしてンだ? 「悪かったよ」 「・・・、も、いいデス。でも、良かったかも」 「?」 「いつもの先輩に戻った感じしますから」 「え・・・」 「今夜の先輩、優しいんデスケド、なんか不自然、っていうか、ぎこちないっていうか、 うまく言えないけど、なんかヘンだったんデス。だから、なんかのだめもヘンになっちゃって」 「そんな、オレ、変だった?」 「ハイ・・・あ、でも、ぜんぜん嫌じゃないデスよ。優しくって、嬉しかったから、こやって 頑張ってるんデス。最初触れられたとき、先輩の手、すごく冷たかったけど、 声あげたら驚くと思って、我慢して」 (手・・・?) そう言われて、自分の耳元に触れてみると、本当にひどく冷たかった。 (・・・まさか、緊張してたのって、オレのほう?のだめを抱くのに?) 「ぶふっ。。ははっ、あっはっは」 「ムキャー!なんでまた笑うんですかー!可笑しいこと言ってないのに」 「ち、ちげー、おかしいのは、オ、オレのほう・・・ひっひっ、・・・腹いて」 「???むぅ〜、わけ分かりマセン!」 (なんだよ、オレ。童貞坊主じゃあるまいし。女と寝るのに緊張するようなトシかよ。) ひとしきり笑うと、指先に熱が戻っていくのがわかった。本当に緊張してたんだ。。オレ。 「冷たくて、辛かった?」 「え・・・、えっと、ゾクゾクして、気持ち、よかった・・・デス。・・・はうん・・・」 「くくっ、おまえ、やっぱり変態・・・」 「うぎっ、おかしなヒトに言われたくないデス! 普通デス!先輩が、焦らす・・・から・・・・・あっ」 ぐいっとのだめを引き寄せると、その華奢な体は容易くオレの腕の中に収まった。 (こんな女初めてだ。ペース乱されて、翻弄されて。 リードしてやんなきゃなんて、思うほうが間違ってたのかも・・・) 「声、出していいんだぞ。今度はちょっと本気で行くから」 ◆◆◆◆ 「あっ、んん」 唇から頬、首すじから胸元へと軽く口付けながら、ネグリジェの肩口をずらしていく。 するり、と柔らかな布地がずれて、白いブラが現われた。 吸い込まれるような深い谷間がその豊かさを物語っていて、少し、気が急く。 背中に手を回してホックを外すのに、ちょっと手間取った。 (焦ることない、け、ど・・・) 息を、飲んだ。 十分な張りと滑らかな丸みを帯びた、2つのふくらみ。 月明かりに照らされて、青白くさえ感じるほどに、白く。 その双丘の頂には、桜の花弁にも似た桃色の突起。 それまでの愛撫に応えるかのように上気して・・・ (きれいだ・・・すごく。) 手を触れるのさえ、ためらわれるくらいに。 「千秋先輩・・・?」 動きを止めたのを不思議に思ったのか、のだめが薄く瞳を開く。 放心したようなオレと目が合う。と、にっこり微笑んで・・・ ふわり、とオレの首元に抱きついた。 「大丈夫ですよ・・・」 初めての自分を気遣っての躊躇(ちゅうちょ)、と受け取ったのかもしれない。 でもなんでだろう。こいつに大丈夫って言われると、何でも出来る気がする・・・。 頭を抱かれて、温かい胸に頬を当てていると 自分が赤ん坊に戻ったような気がした。 柔らかく吸い付くような感触。。。いっそこのまま、眠ってしまおうか。 なんてことを考えていると、頭の上で声がした。 「ダメですよ、眠っちゃ。。ムラムラのもんもんはもう勘弁してくだサイ」 ふ、そうだよな。ここで止めては男がすたるってもんだ。 「わかってるよ、ホラ」「ひゃうっ、は、んっ」 左手で抱えこむように身体を引き寄せて柔らかな乳房を口に含むと、 揉みしだきながら舌と指で丹念に舐りあげる。 右手は緩やかにカーブを描くラインをなぞり、半身に掛かる残りの衣服を撫で落とす。 そして、自分の上着も脱ぎ捨てる。 「くふぅ、んん」 触れるたびに漏れる甘い吐息。 いつもの奇声とはやっぱり違って、艶っぽい熱を帯びている。そろそろ大丈夫か? 今まで触れたことのない核心。確かめても・・・? 手を伸ばすと、汗ばんだ白い肌に薄く張り付くショーツ。ほんとにヒモなんだな。。。 妙な事に感心しかけたけど、そんな事より・・・。 くちゅ・・・ 「は・・・ぅ」 恥じらうように閉じかけた脚をやんわりと抑え、指をそっと下着の中に差し入れてみると、 熱く潤った場所に行き着いた。ちゃんと濡れてる・・・。 もう抵抗はしなかった。伸ばした手でショーツをずらしつつ、脇のヒモを緩める。 最後のそのわずかな布地は、ベッドサイドにはらりと落ちた。 ◆◆◆◆ 「・・・のだめ、もうちょっと力、抜けよ」(入んねぇ・・・) 「ぬ、抜いてるはずなんですけど・・・イ、痛たぁ」 下準備して覆い被さって、はや10分。 オレの下ののだめは、言葉とはうらはらにガチガチで。 正直、指一本でもキツかったのに、どうしたもんか・・・。 「無理しなくていいから」 「・・・嫌デス、ちゃんと・・・」 「な、時間かけて、ゆっくり・・・」 「・・・でも、せっかく、ここまで・・・」 「・・・のだめ・・・」 「・・・ハイ・・・」 「プリごろ太」 「へ?」 「くっ」 「ピギャッ」 「・・・入った。」 「ホント・・・も〜〜〜・・・真一くん、フイ打ち過ぎ〜〜〜・・・」 「ハハ、オレの勝ち」 「ごろ太使うなんてズルイ・・・、バカ・・・」 「でも、力抜けたろ?」 「・・・うん、フフフ」 2人で忍び逢うように微笑んで、どちらからともなく、口づけた。 軽くて優しい「愛してるよ」のキス。 ・・・それにしても、マジでキツイ。 まだ動いてないのに、きゅうきゅうと、締め付けが・・・くっ・・・ これ、ヤバイぞ。久しぶりなせいか?!しまった!先にちょっとヌイとけばよかった。。 「真一くん?」 「ん、いや・・・おまえ、大丈夫?」 「・・・痛いのは・・・、痛いデスけど・・・頑張り、マス・・・」 「無理しなくても・・・、しばらくこのままで・・・」 (いや、もう、じゅうぶんにキテるし) 「真一くん・・・、のだめの中・・・、気持ちイイデスか?」 「・・・うん」 (なんかもう、余裕、ねー・・・) 「素直デスね・・・なんだか、かわいい・・・はうん・・・」 瞳を潤ませて、ぎゅっ、とのだめが抱きついてきた。すげー可愛い・・・でも。。。 頼むから、今は、動かないでくれ・・・。 「だんだん、あ、、平気になってきたみたい・・・、あ、んん・・・動いても・・・」 だから、動くなって〜〜〜〜〜〜(泣) あ。 ◆◆◆◆ 「先輩〜、そんな、落ち込まないでくだサイ・・・。きっと体調がイマイチだったんですよ。 のだめ、初めてだったし、早い、とかよくわからないし。」 「早い、ゆーな」 「でも、すごく、あの、き、キモチ良かったデス・・・、だから・・・また」 「のだめ、おまえ・・・」 「確かにネットで見たのとはなんか、雰囲気が違いマシたケド・・・」 「エロサイトと比べるな〜〜〜!!!」 「ぎゃぼー!」 ちきしょー!こんなんオレのプライドが許さねぇ。 だいいち、オレひとりで終わってるなんて・・・ムカつく。 「リベンジする!!来い!!!」 「でも、のだめ、まだ、イタ・・・きゃひっ」 逃げようとするのだめを無理矢理ベッドに引きずり込む。 「ムキャー、真一くんのスケベ!鬼畜!カズオ〜!」 「どうとでも言え。てか、ほんとに嫌・・・?」 「・・・・しょうがないデスねぇ、甘えんぼさん♪」 この〜・・人を小バカにして。 余裕の表情ののだめを押さえつけて、思いっきり首すじに吸い付いてやった。 跡が残る、と気にしてたけど、もう、容赦しねぇ。 このキスの意味、今からきっちり解らせてやる・・・! ××× Kiss on the neck = I want you. ××× ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |