千秋真一×野田恵
![]() 「先に入るから……後で来れば?」 「あ、ハイ」 のだめはベッドに腰掛けたまま、バスルームへ消えていく千秋を見送った。 辺りをぐるっと見回して、長く溜息をつく。 ワンルームのステュディオ。 作り付けの本棚にぎっしりと並んでいる本や楽譜。 部屋の一番奥にはちょっと広めのキッチン。 グランドピアノのすぐそばにあるベッド。 この部屋で見るものはすべてがとても新鮮にうつる。 千秋がいなければ、まるで違う人の部屋のようだ。 そのままベッドへ寝転がり、シーツに顔をうずめてみる。 ……大好きなにおいがする。 これだけは、変わらずにどこでも一緒……。 嬉しいような恥ずかしいような感覚を覚えて、のだめは目を閉じた。 ふと、キスの余韻がこみ上げる。 さっきまでされていた、うっとりと優しいキス。 そっと人差し指で自分の唇に触れてみた。 熱い。 キスされた、唇が熱い。 そして、体の奥もじんじんと火照っているような感じがしている。 目を開けると、見慣れない天井がある。 横を向けば、床が近い。 初めて訪れた彼の部屋の、新しい彼のベッドで今夜……。 「……」 どうしようもない恥ずかしさがこみ上げてきて、のだめは枕に顔をうずめてぶんぶんと顔を振った。 なぜだろう。 もう、何度も愛し合ってるのに。 「……何やってんだおまえ」 「はぎゃ……!」 いきなり声がして体を起こすと、腰にタオルを巻いただけの千秋がベッドの脇に立っていた。 髪からは雫が滴り、裸の肌の上を転げ落ちていく。 「一緒が嫌なら別に後でもいーけど」 「あ、入ります、入ります!!」 今度は千秋の背中を追いかけて、のだめも一緒にバスルームへと入っていった。 ***** 「結構広いデスね」 「同じくらいだろ」 「……もしかして、こーいう事見越してバスタブつきの部屋にしたんですか?」 「んなわけねーだろ!ほら、シャワー取れ」 シャワーを出し、背後で髪を洗ってくれていた千秋に手渡して、のだめは目を閉じた。 温かい湯が頭頂から流れ、泡が自分の体を滑り落ちていく。 優しく髪をゆすぐ指先が微妙に頭皮をマッサージして、気持ちがいい。 のだめはさらにうっとりと、体の力を緩めた。 ゆすぎが終わると、自分でコンディショナーを手にして髪につけていく。 と、両腕をあげ無防備になった脇腹から、千秋がそっと手のひらを這わせてきた。 「あ、先輩、待って……」 「洗ってやる。動くな」 千秋の片方の手にはいつの間にかソープが握られていた。 くるくると優しくそのソープをのだめの肌へと滑らせていく。 背中、そして脇腹から胸を残して前前面へ。 乙女座りをした足の部分をなぞり、内股をゆっくりと中へと戻ってくる。 右、左、交互に。 たったそれだけの事に、のだめは何度も声交じりの息を上げはじめていた。 まだ、胸だって触れてないのに……? 反応の良すぎるのだめに少し驚きを感じつつ、千秋は胸をそっと手のひらに包んでみた。 「あン……」 裾野を丸く円を描くように撫で、それをだんだんと中心部へのぼらせる。 けれど、立ち上がりつつある突端にはふれず、また遠ざかる……。 腰をくねらせて胸への愛撫を受け入れているのだめが、指が遠ざかる度に何度も溜息をつく。 それに千秋のほうがかえって堪らなくなり、つんと尖った乳首を指に挟み込んだ。 濡れた首筋に唇を押し付けながら、くいくいとリズミカルに引っ張ると、 小刻みに「あ、あ」と漏れる声が湯気の立ち込めるバスルームにこだまする。 柔らかなふくらみをぬるつく手のひらと指で、いつもより強めに愛撫していく。 何度も硬くなった乳首をはじき、つまみ、揺らし、引っ張っては指を離し、乳房の中へ その蕾を押し込めるように指を強めても、のだめからはもう、感じている声しか漏れてこない。 確かめてみたくなる。 どんなに、ほころんでいるのかを。 千秋は片手の泡をさっと拭うとのだめの背筋を伝い、尻の谷間へ指を滑り込ませた。 「あ……!えっ……あ、ああ……!」 水源にたどり着いたかと思うと指はそのまま滑っていき、熱い肉の中へと飲み込まれていた。 「いきなり……入った、指」 「や、あん、やぁ……」 その突然入り込んだ異物を吐き出したいのか、もっと奥へと飲み込みたいのか、中の襞が蠢き始める。 抵抗もなく受け入れた入り口が、たった一本の千秋の指をぎゅっと締めつける。 それをこじ開けるように指を増やすと、いきなり空気を含んだ淫音が響いた。 こんなにすぐに乱れ始めるのだめは珍しい。 「どーした、今日」 「わ、わかんな……ああっ」 じゅくじゅくと立つ音が、のだめをさらに快楽へと押しやる。 入り口をくすぐるような動きがもどかしく、もっと奥を探って欲しくて腰が持ち上がってしまう。 それに気づいた千秋は胸への愛撫をやめ、もう片方の手は前からのだめの秘部を目指した。 かき分けた指先はすぐにその部分を捉えて、円を描き出す。 のだめは仰け反って、とうとう膝立ちになってしまった。 窮屈にしていた指の動きは自由になって、千秋はぐるりと指を回転させて中で開いた。 「のだめ、もっと腰を後ろに突き出して」 「ふっ、う、ああ……」 従うまでもなく、根元からクリトリスをすくい上げられた衝撃でのだめは体を力なく前に倒し、やっとの事でバスタブの縁に腕をかけた。 目の前はすぐに壁で、そこへ体を押し付けて何とか自分を支える。 冷たいタイルの感触。 その継ぎ目のわずかな段差が敏感に尖りすぎた乳首にあたり、のだめは甘い吐息をもらす。 絶え間なく聞こえる水を揺らす音。 水のある場所に今二人はいるのに、聞こえている水音はのだめの体からのものだけだ。 千秋は指を中で曲げ、ぷくっと膨らんだ中の丘をせめたてていく。 強く強く押し撫で、せき止めて溜めた愛液を膣内で泡立てるように動かした。 「ふあああ!!」 なんとか大きい声を抑えていたのだめも、限界に近い。 強い快楽の衝撃に押し出される様に声をあげてしまう。 いつの間にか千秋に見つけられ、育てられたその場所を、今日は容赦なく愛撫されている。 指で探って欲しいから腰を振り、でも指の動きを封じ込めたくてそこを締め付けていく。 ……でも、それはかえってのだめ自身を高ぶらせてしまう。 「せんぱい、だめっ……だめ!!」 頭の中が白み、感覚がそこへ集中していく。 体が、快感に反発しようと硬くなる。 「我慢するな……ここ、風呂場だから平気」 じゅぶじゅぶとそこを刺激しながら、千秋はもう片方の腕でのだめの太腿を抱えつつ、手のひらに恥丘を包み込んだ。 ぐっと手のひらに力を入れると、のだめの中で動かしている自分の指の振動が伝わる。 指で器用に肉さやをまくり、振動を利用してその膨らみきった陰核を震わせた。 「い……っ、や……!!」 のだめが頭を振り乱す。 「大丈夫……」 もう一度言い聞かせるようにつぶやいて、千秋は白くわななく内股へ吸い付き、そのまま尻へ向けて舐め上げた。 ……ふと、のだめの中の締め付けがふわっとゆるんだ。 千秋はそれを逃さずにぐっと力を込めて、その部分を更にぐいっと押し下げた。 「い、っく……あはぁ!!」 「わ……」 ぱしゃぱしゃと、のだめの赤く充血した秘部からしぶきが上がる。 指は痛いくらいに締め付けられて、ひねる様な動きを伴いながら収縮している。 体はびくんびくんと揺れ、のだめの背中はこれ以上なくしなっていた。 淫らに腰を突き出し、指の動きに合わせて何度も潮を噴出させる。 その雫が顔にかかったが、千秋は構わずにぴくぴくと震えている白いヒップにキスをした。 愛しげに優しく甘くかぷりと噛みつつ、音を立てて何度も、何度も。 そして力をなくしたのだめの体を支えながら、千秋はゆっくりと指を抜いていった。 「は、ああ……」 ちゅぷんと音を立てて異物を吐き出した穴は、その指の存在をなくすと何もなかったかのように閉じた。 そのあと一瞬おいてから、白濁して泡だった愛液がぷくっと溢れ、一つの筋になってのだめの太腿へとたれていく。 千秋はそれを見て急激に自分の熱が一箇所に集まっていくのを感じた。 見下ろせば、自分のものが上向きに揺れている。 ……はやく……挿入れたい……。 「せん、ぱい……」 「ん?」 「もしかして、顔に……」 「あ、うん……しょっぱ」 濡れた頬を拭い、ぺろりと舐めると微かに塩味がする。 「ぎゃぼ……も、もう、ななな何やってんですか」 のだめはそんな恥ずかしいことをする千秋から目を逸らし、覚束ない手付きでシャワーのコックをひねった。 自分の体の中心がじんじんとしていて、その余韻は体全体に渦巻いてどうにもうまく動けない。 時々、びくんと腰が揺れてしまうのだ。 「かせ。じっとしてろ」 千秋はのだめの手からシャワーを奪うと、まずのだめの体に残る泡を流した。 そのまま続けてトリートメントのついたままの髪を丁寧に流す。 唇の端を舐めると、まだのだめのしょっぱい味がしていた。 のだめは千秋の方を向いて、また乙女座りをして、千秋のされるままにしている。 白い肌はピンク色に染まり、なだらかな丘陵に水が流れていく様は本当に美しい。 いつもこうだ。 千秋はのだめのその匂い立つ様な美しさの生まれたままの姿を、 のだめが目を閉じているのをいいことに、じっと見つめて焼き付けているのだ。 のだめの髪のぬめりが取れると、今度は千秋も頭からシャワーをかぶった。 ふとのだめと視線を合わせると、その白目が充血してるのが見える。 「……泣いてんのか」 「だって……あれ、恥ずかしいデス……」 「じゃあ、もうしないほうがいいか?」 「……」 「どっち」 「……ずるい……答えられません、そんなの」 千秋は腕を伸ばし、シャワーを低い位置にかけた。 湯はのだめの背中を包み込み、少し冷えた体も温めてくれる。 「……なら」 「え?」 抱き合おうと腕を伸ばしたのは、二人同時だった。 「お、お風呂場……で、なら……」 「わかった。ほんとにイヤなときはそう言って」 「……いやじゃないデスよ……死にそうにはずかしいだけ……」 シャワーの中でキスをして、千秋は覆い被さる様にのだめを抱きすくめた。 密着する体に、はう……っ、とのだめは溜息を漏らす。 自分の太股に当たる千秋の固さを感じて、またじんわりと自分が溢れてくるのがわかる。 コンコンと自分をつついてくる千秋のそれを、のだめは掌でそっと包み込んだ。 その熱さに、のだめの体の中心がどくんと強く波打った。 ……欲しい。 そんな風に思う様になるなんて、自分はなんてイヤらしくなったんだろう。 指先で亀頭の段差をなぞると、耳元で千秋の溜息たっぷりの呻く声が聞こえた。 ……入れて、欲しい。 でも、抱かれるなら……。 洗面台からコンドームを手に取った千秋の手を止めて、のだめは顔を横に振った。 「ベッドで、して欲し……デス」 「……わかった」 のだめを支えながら千秋は立ち上がって、もう一度自分たちの体をシャワーで流した。 ***** 見慣れない天井を見上げながら、のだめはその瞬間を待った。 準備を終えた千秋が、自分の足を開きながら覆い被さりキスを落としてくる。 舌を絡ませあっていると、自分のそこにあてがわれたのがわかった。 「んん……」 苦ちゅくちゅと馴染ませている音が響く。 期待して声が鼻へ抜ける。 「ん、んん……あぁぁ」 のだめは我慢できず、唇の端から声をもらした。 ゆっくり、ゆっくりと熱い塊が自分の中へ入ってくる。 壁をこすられる感覚に、皮膚が総毛立つ。 キスをといた千秋の唇は、のだめの首筋を何度も往復をして、耳へと舐め上げながら何度も吸い付いてくる。 触れられること全てに、のだめの感覚は鋭くさせられていく。 「は、あう……」 待ちこがれていた一番奥へと、千秋がぶつかった。 甘美な喜びが体に満ちる。 のだめはのけぞり、その気持ちよさを伝えたくて千秋の腰に足を絡みつかせた。 「はぁ……ん」 「……」 「……真一くん?」 そっと足を動かしてみるけれど、千秋は腰を動かそうとしない。 黙ってそのまま上半身を起こし、枕カバーを掴んでいたのだめの手を取って指を絡ませてきた。 眩しそうな目をして、千秋がのだめを見下ろしている。 静かな、だけど速くなった呼吸をお互いに漏らしあいながら、二人はそのまま見つめ合った。 「さっき指で強くしたから、今日はもう激しくしない」 「あ……」 その優しげな声だけで、のだめの中はきゅっと反応する。 それにあわせるかのように、千秋もまた自分を硬化させていった。 「なに、見てる」 「……てんじょう……しらない、から」 知らない場所でしてるみたいで、とてもドキドキする。 「なんか……変……」 のだめはそう言って、きゅっと目を閉じた。 部屋に入ってからはそわそわしっぱなしで、落ち着きの無かったのだめ。 少しキスしただけで胸の鼓動は早鐘の様になっていた。 そして、バスルームではあんなに……。 「知らない場所、興奮するのか……?」 「え……そんな……」 「……サンマロでも、おまえすっごく乱れてた」 「そんなこと……」 「すぐ、慣れる、ここも……でも、今日みたいなおまえ、また見たい」 バツが悪そうに、千秋が目を逸らす。 頬は、それまでよりも赤みが差していた。 「……アオカンはいやデス」 「ふざけんな、バカ」 「車……?」 「狭くて無理っぽいかな……」 「あ、考えたことはあるんデスね?」 「うるさい」 指を外した千秋の手が、のだめの乳房に伸びた。 乳首をぴんとはじくその刺激に、のだめは会話を一瞬忘れてしまう。 のけぞった喉の白さに、千秋はますます眩しそうな目をした。 「……サロンコンサート、なに弾く?」 「ん……ナイショ、です、んん」 「は、あ……ちゃんと、メシは……」 「……た……べて、ま……はぁん」 ぎゅっと指を握りあえばその刺激で。 強い脈動を感じただけのその刺激で。 じっと動かないままでも、甘くとろける様な快感が体を満たしていく。 「しんい、ちくん、電話……あ、あ……もっと」 「おまえも、もっと……してこい、よ」 「……だ、あって、電話だ、い……ん、ふ」 「バカ……」 普段している様な他愛もない会話を交わしながら、段々と言葉が途切れてきた。 ぎゅうっとのだめの膣内が締まると、それを押しのける様に千秋が動く。 びくびくと脈動に揺れた千秋が壁を刺激すると、それを包み込む様にのだめが蠢く。 体は揺らしていないのに。お互いの性器が、お互いをまるで自分の意志で愛撫しているかの様な。 そんなふうに静かに、静かに、二人は登りつめていく。 「あん、せんぱい、もおっ……」 「ん、いきたい?」 のだめがこくこくと頷いて哀願する。 少しの刺激があればすぐにでも達しそうなところで浮遊して、二人とも限界が近づいていた。 「……く……して」 「ん、なに……」 「おく、こつこつ、って、して……」 掠れた様な小さな囁く声に、千秋はわかったと答えている様なキスをした。 唇を合わせ、舌を絡め、お互いの吐息を送り込む。 そして、のだめの体を押し上げる様に突いた。 「あ、あ……!」 ぎゅっと閉じたのだめの目尻から、すうっと涙がこぼれていく。 千秋はのだめの奥をつきながら、その甘露の涙を吸った。 のだめの体がそこへ登りつめようとしている……たまらずに腰を押しつけたまま回した、刹那。 「は、あう!!ああ……!!」 のだめの体が絶頂にびくんと跳ね上がり、今日一番の高く甘い声を放った。 子宮口の吸い付く様な動き。 たまらず千秋も駆け上がっていく。 「う、っく……出る……!」 のだめの中で千秋が大きく跳ね上がる。 悩ましげに眉根を寄せ、千秋の顔がびくっと震えるのをのだめはぼんやりと見つめていた。 千秋は無意識に、まるで精液を絞り出す様に腰を前後させる。 「はあ、ン……しんいちくぅん……」 そして、力無くのだめの上に体重を預けた。 いつも思う。 人の重みが、こんなに愛しいなんて。 のだめは汗ばんだ千秋の背中に腕を回して、堪らない愛しさにぎゅっと抱きしめた。 ***** 「……はよ」 「おはよございマス」 ちゅっ、とかわいい音を立てて、のだめは寝起きの千秋にキスをした。 まだ眠そうな顔で、千秋はのだめを引き寄せて抱きしめてくる。 そして、今度はゆっくりと深いキスをした。 「……眩しいですね、この部屋」 「窓がでかいからな」 ベランダもあるこの部屋は、三善のアパルトマンよりも日当たりがいい。 レースのカーテンを通して、明るい光が部屋の中へ差し込んできている。 「な、なんか、眩しくてー」 「……恥ずかしい?」 シーツを頭からかぶる様にしているのだめが、頷いて顔を手で覆う。 ……変態のくせに妙に恥ずかしがるのだめが、変だが楽しい。 のだめは、きっとこういうヤツなのだ。 「蓑虫みたいになってんじゃねーよ」 「ぎゃぼー」 千秋はシーツを引きはがし、柔肌露わなのだめをベッドに組み敷いた。 明るい朝日に照らされたのだめの肌は、夜とはまた違う質感を持っていた。 三善のアパルトマンの朝のシーンでは見ることの無かった輝き。 太陽に光の元に晒されている、瑞々しく艶のある肌。 皮下に温かな血の通いを感じるアイボリーに、うっすらとピンクに色づいたまだ柔らかな乳首がふるんと揺れる。 「あ……」 「なんですか?」 「おまえの言うことよくわかった。いつもと違って見えるから興奮するんだろ?」 「へっ……あ、ちょっ、せんぱいー」 「……興奮した、オレも」 何とも言えない恥ずかしそうな、ちょっと嬉しそうな、でも困ったような顔。 のだめがもじもじと何か言葉を発しそうな前に、千秋は喉の奥で笑いながらキスで口を塞いだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |