千秋真一×野田恵
![]() 出かけると言っておいたのに、なかなか支度を終えないのだめにたまりかねて、千秋は車を降りた。階段を上がり、アパルトマンのかつての自室のドアを開ける。 「のだめ、何やってるんだ?」 「も、もうちょっとなんデスけど…」 のだめの声だけが返ってくる。 「何がだよ…」 千秋はリビングに続くドアを開ける。 のだめは…カウチに座って背を向けている。 「おまえ…なにやってんの?」 半ば呆れて千秋が覗き込む。 のだめは…テーブルの上に小さな赤い小瓶を置き、刷毛で必死にマニキュアを塗っている。 ピアノを弾く指ではなく、白い足の爪に…。 「ターニャにもらったんですケド、なかなか使う機会がなくて」 「せっかく新しい靴を見に行くなら、塗ってみようかなと…はぎゃ、はみ出した!」 独り言のように言い訳するのだめは真剣そのものだが、赤いおニューのワンピース姿と、体を屈めて悪戦苦闘する姿はあまりにもアンバランスだ。 「ぶ…」 思わず吹き出した千秋を不機嫌そうなのだめが睨んでいる。 「なんですか?」 「いや…。しょーがねーから、俺がやってやるよ」 千秋はピアノ用の椅子を引き寄せ、自分の脚にのだめの足を乗せた。 「むは〜、真一くんが…」 「おまえが塗り終わるの待ってたら、店が閉まる」 「ムキャ〜!そんな事言っていいんですか?」 (しまった…) いつもの調子で言葉を返してしまい、慌てて千秋は話題を変える。 「でも、なんで急に靴を買いたいとか言い出した訳?」 「ロベールさんが、”のだめ様はステキなドレスに合ういい靴を履かれたらもっとすばらしいですよ”って言ったんデス」 起用にのだめの小さな爪を染めていた千秋の手がピタリと止まった。 「…ふ〜ん。………………で、ロベールって誰?」 「ランベール婦人の家の執事さんデス。サロンコンサトでは凄くお世話になったんデスよ」 「へぇ〜」 (ブラがどうとかって言ってたんだよな…確か) 千秋は再び手を動かし始める。 綺麗に足の爪は赤く染まり、なかなかの出来栄えにのだめも嬉しそうだ。 「ほわ〜、できましたね。ありがとございます。じゃ、行きましょうか」 「おい、待てよ」 立ち上がろうとするのだめを、千秋が押し止める。 「…きちんと乾かないと、靴の跡がつくぞ」 「むきゃっ、そなんですか?」 千秋は、所在なく足をぱたぱたさせているのだめの足首を掴むと、ふぅっと息を吹きかけた。 「な、何するんですか!」 のだめが頬を赤くして千秋をみた。脚を持ち上げられた拍子に、ワンピースの裾はめくれ上がり、ふとももまであらわになっている。 「早く乾いた方がいいんだろ」 「それはそうですけど……。はぎゃっ、また…」 千秋の息が足先をくすぐる。 「じゃあ、今度はこっち側…」 「や、もう…いいデス」 のだめは抵抗するけれど、カウチに座り足首を掴まれていてはどうにもならない。 「ほ、ほんとに…。くすぐったいデス」 「…それだけ?」 頬を赤くし瞳を潤ませているのだめに、千秋がいじわるく聞いた。 「ムキャー!カズオ!!もう、知りません。…ふぎゃっ!?」 膨れているのだめを抱き寄せ、千秋が強引に唇を奪う。 割り込ませた舌で歯列を歯茎をなぞり、絡めとった舌を吸う。 「はぅ…ふぅ……んっ」 重なった唇から熱い吐息が漏れ始めると、長い指はワンピースの上から柔らかな膨らみを弄び始めた。 「んっ、ダメ…」 小さな抵抗の声を無視して、千秋の手は胸元のボタンを外し、ふんわりとしていて…けれど質感のある場所を直にこね回す。 「や…あん…っ」 ブラの隙間に挟み込まれた手は、窮屈な中でも的確にのだめの欲情を煽っていく。 薄く紅をひいた唇から、甘い声がとぎれとぎれにもれる。 千秋は、少し汗ばんだのだめの様子を伺いながら、空いている方の手をワンピースの裾から滑り込ませた。 「やっ…」 「なんで…?もう、こんななのに」 「………」 のだめには反論する余地はない。そこは、布越しからでも千秋に気付かれてしまうほど、熱く潤んでいたから。 「でも、ワンピースにシワが…。お店も……はんっ」 「まだ、乾かないし…」 「そんな…んんっ」 千秋の指がショーツの脇から滑りこみ、敏感な場所を行き来する。 ちゅぷ、くちゅっ。 そのたびに、嫌らしい音がして…恥ずかしいのに、さらに蜜が溢れ出す。 「ふぁ…や…あんっ…んっ…」 執拗な指の動きに、快感の波が押し寄せてくる。 …と、千秋の動きがピタリと止まる。 「…?」 上気した顔で千秋を見ると、千秋は小さな包みを取り出していた。 (え…ほんとにしちゃうんですか…?) ベルトを外しただけの千秋が、慣れた手つきで細いリボンを解くと、濡れたショーツが引き抜かれる。 「真一くんあの……あっ、ああ…ん」 千秋はカウチにのだめを仰向けにすると、自身を一気に沈めて行った。 「真一くん、これはどうしてくれるんデスか!?」 気がつけば、のだめのワンピースはシワだらけで…とても出掛けられそうもない。 「……アイロン、かけさせていただきます」 「だからダメって言ったんデスよ」 アイロンをかける千秋の背中に、のだめが言う。 「お嬢様、これでいかがでしょう?」 千秋が、綺麗にアイロンをかけたワンピースを披露する。 「ジイ、ご苦労」 「ジイだぁ?」 「何か問題でも?」 「…いえ。では、出掛けましょうか?」 (こいつ、調子に乗りやがって…) そうは思うが、しばらくは頭があがらないな…とも思う千秋だった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |