吸湿シート
千秋真一×野田恵


「あ、あの……先輩?」
「ん?」

いつもと違う指の動きに、のだめは戸惑っていた。
快感はわきあがってくるけれど、何かどこか違う。

「痛い?」

首を横に振ると、千秋は大丈夫だから、と言ってのだめの頬に軽くキスをしてきた。

入り口を優しくほぐすとか、奥から沸き出るものをかき混ぜて、まんべんなく内部を潤すとか。
そういう、いつもの行為ではない。
さっきからずっと、中のおなかの方を、何かを探すように指を押し付けられている。
本当に触って欲しいところは放置のままで、自分でそこが時々ぴくぴく動くのがわかり、のだめはますます赤面する。

千秋はのだめの中で指を往復させたり、二本の指を開いてみたりして、その場所を探していた。
この間、のだめが『そこ、なんか変です』と言ったところ……おそらく、アレだと思うんだけど……。
ぎゅっと目をつぶっているのだめの顔が、だんだん赤く染まってきた。
耐えるように短く息を吐き、時々甘い声を漏らす。
脇を締めて、胸の横でぎゅっと手を結んでいる仕草が、なんともかわいい。
それで押し上げられている胸の上で、ぷっくり膨らんでいる桃色の乳首。
そっと口に含んで舌で転がすと、のだめはさらに高く、甘えた声を出した。

「いやあん……」

唇をすり合わせるようにしてこりこりとしている突起を嬲ると、それに反応してかのだめの中がきゅっと締まる。

「やん、やぁん、せんぱぁい……」
「なに?」

千秋が舌を伸ばしてくりくりとそこをいじりながら顔を上げると、何かを訴えたいような顔でのだめが見つめていた。

「あのー……」
「なに」
「えと……」
「ん?」

のだめは泣きそうな、恥ずかしそうな顔になって、目をぎゅっと閉じた。
なんだ?と千秋が思っていると、のだめが自分の手で千秋の手に触れてきた。
のだめの中に指を入れている手の親指を指先ですくい、その先端をある場所に押し当てる。

「は……ぁ、ん」

ぷくっと丸く膨らんだ突起。
女の、一番敏感で感じるところ。

「ここ……」
「さわって欲しい?」
「ん……」
「……のだめ、やらしい」
「やっ、そんな……」
「でも、ダメ。ここは、あとで」

鼻に抜ける切なそうな声を上げて、のだめは軽く抗議する。
そこをかわいがってあげれば、すぐにでもいかせることが出来るけれど。
でも今日は、また別ののだめのいい場所を探してやりたい。
そんな思いで、千秋はさらにのだめの内部を探った。

潤いが満ち、熱い内部が少しずつ蠢き始めると、千秋は指の腹に膨らんでいる部分を感じた。
指の向きや位置、入り口からの距離を考えてもここに間違いなさそうだ。
なぜ自分がこんな知識を持っているのかも不思議だが……。
千秋はそこに少し強めに指を押し当てて、左右に震わせてみた。

「あ……やあっ!?」
「ここ、どう?」
「やっ……んん……いやぁー」

のだめは頭を振って、体をびくんと揺らす。
反射的に閉じようとする膝を押さえつつ、千秋はさらに指を動かした。
シーツを強く握り、のだめは『待って』と何度も口にする。
でも、千秋はやめなかった。
可愛らしい顔が官能にゆがみ、高らかに鳴く姿が、いつもより淫らでそれが愛しい。
しかし、目尻から涙がいくつかこぼれるのがわかると、はっとして静かに手を緩めた。

「ごめん……やりすぎた?」
「……」
「痛いか?」

のだめははあはあと肩で息をしながら、首を横に振った。

「ゆっくりするから」
「そこ、変……なんデス」
「気持ちいいんだろ?」
「でも、あの……は、あぁん」

くちゅくちゅと粘性のあった音が、いつのまにかぱしゃぱしゃという音に変わっていた。
入れていない指を伝って、雫がポタポタと落ちるのがわかる。
千秋がのだめの脚の間に目をやると、シーツにはシミが広がっていた。

「どう変?」
「あ、あっ……漏れ、ちゃいそう……」
「いいよ、漏らしても」
「ばっ、ばかあっ、なんてこと……ひゃ!!」

曲げた指でそこを強くさすり上げる。
のだめはうなるような声を上げつつ、腰を自然と持ち上げた。

「だめ、だめ、いやっ、やっやぁっ」
「のだめ……」

千秋は覆いかぶさるように上半身をのだめに密着させ、絶え間なく声を上げ続けるのだめの唇を優しく啄ばんだ。
のだめはそれに応える余裕もなく、ただ口を開き、あえぎ、自分の中に迫り来る強い快楽の波を感じている。

さっきまで欲しかった気持ちよさとはまた別のもの。
敏感な突起を愛撫されているのとも、一つになって体を揺らしあう快感ともまた違う。
そんなものに、自分の体が飲み込まれていってしまうような漠然とした恐怖。

「こわっ、こわいっ……」
「だいじょーぶ」

怖い、けど気持ちいい……。
相反する心と体が、のだめをさらに追い立てていく。

「あ……やっ、んんんん!!!!」
「あ……」

のだめが千秋の背中にぎゅっとしがみつき、腰がさらに浮いた。
内部はうねるようにしまり、指は熱い肉に窮屈に挟まれて、思うように動かせないほどだ。
そして、痙攣のようにびくびくと蠢き、襞が絡みつく。

千秋はかなり興奮した面持ちで、のだめにいくつものキスを落とした。
のだめが高まりを受け入れた瞬間。
手のひらにかすかに感じたものがあった。
それはほんのわずかだけれど、温かなもの。
目にすることは出来なかったけれど、初めてのだめが潮を吹いたことに、千秋は興奮していた。

「はあ……はぁ……はぅん……」
「のだめ……かわい」
「も、もう……こんなときばっかり……はう、ズルイ……」
「ほんとだから」
「……うー……ばか」

吸引されているような抵抗感を感じながら、ゆっくりと指を抜いていく。
のだめはまた体を震わせて、小さくああっ、と叫んだ。
泡立って白くなった蜜がとろとろとこぼれ、千秋の指にもそれがまとわりついている。
千秋はそれをぺろりと舐めながら、のだめにの中にもぐる準備をしていった。

「いい?」

のだめがこくん、と頷くのを待って、千秋は自分の腰を進めた。
なんだかいつもよりすごく……。

「とろとろ……」
「はううぅ……」

柔らかく、優しく包まれている感触がする。
時々きゅうっ、と蠢くけれど、いつものきつきつ感ではなく、とても優しくまとわりついてくる。
それが何故かやばいくらいに千秋を高まらせていた。

「せんぱい……?」

気がつくと、のだめが心配そうに千秋を見上げていた。

「うごかない、んデスか……」
「……ごめん、なんかやばい」
「え……」

のだめは千秋のその言葉の意味を理解して、赤い顔をさらに赤くした。

「あ、おまえ、だから……」
「へ……?」
「あ、また……動くなよ……」
「動いてませんよ?」
「中……!」

千秋は息を静かに吐きながら、少しずつ腰を前後させた。
歯を食いしばり、眉根は辛そうに寄っている。
無駄のないようにのだめの感じるところを刺激してくるけれど、あの一度いった衝撃の余韻か、
のだめの体の反応は自分でもわかるほど緩やか、というより、鈍っているようにも感じた。
そこの部分の感覚が、ぼんやりと霞がかっているような感じがするのだ。

苦しそうな表情。
のだめは自分の体ではなく、心が切なくなった。
自分を思ってくれているその行為が、嬉しくも切ない。

「……ね、真一くん」
「なんだよ」
「のだめのことはいいから、気持ちよくなってください……」
「え……でも、それじゃおまえが」
「のだめ、さっきのでじゅーぶん……」

自分が気持ちよくなりたいからだけでなく、むしろ相手に気持ちよくなって欲しい。
彼はそういう気持ちで自分を抱いている、というのをのだめは良くわかっていた。
たった今も、自分がいくためではなく、のだめをいかせるために、自制しながら腰を揺らしているのだ。
初めてのときから、ずっとそう。とても大事に自分を扱ってくれる。
そして、中でいけるようになってからは特に……毎回ちゃんと天国へ連れて行ってくれる。

「あいしてマス……だいすき……」

のだめは腕を伸ばして千秋の首に絡め、キスをねだった。
そして、脚も千秋の腰へ絡ませ、自分から腰を前後させる。

「いいの……?」
「いいに決まってるじゃないですか……」
「ほんとうに?」
「ほんとうに……」

のだめは自分から舌を絡ませて、千秋の唇をふさいだ。
千秋の腰の動きがだんだん激しくなり、もれる吐息も多くなってくる。
そして、千秋が言った様に、その瞬間は思ったより早くやってきた。

千秋は体をすこし起こし、のだめの体に自分を打ち付けていく。
もう目指すのは唯一つ。

「う……いく……っ」
「ほわ……!」

自分の中で、千秋のものが一瞬一回り大きくなったように感じられた。
そしてそのあと、何度もびくびくと跳ね上がる。
切なそうに歪んでいた顔が、恍惚に緩み、跳ねるのにあわせて睫毛が揺れていた。

「は、あ……」
「あ、しんいちくん……」

千秋のものが、自分の中で精液を吐き出している。
いつもなら、自分の方もびくびくとしているからわからないけれど、今日はそれがなんとなくわかる気がした。
肩で息をしている千秋が、崩れ落ちるように覆いかぶさってくる。
のだめはそれを受け止めて、汗ばんだ体をぎゅっと抱きしめた。

「……いっぱい、出ましたね」
「……わかんのかよ、そんなの」
「今日はなんとなく……出てるな、ってわかった気がして」

突然千秋がはっ、とした顔になり、慌てて体を起こした。
そして、ゆっくりと自分を引き抜いていく。
まさか破れたなんてこと……。
あ、大丈夫か……。
脅かすなよ。失敗したかと思った……。
ちゃんと無事にかぶさっていたのを確認し、千秋は自身から用済みになったゴムをゆっくりとはずした。

「ぎゃぼっ、も、漏れてたんですかっ」
「え?」
「だ、だって白い……」

千秋が結ぼうとしている事後のゴムを見て、のだめは顔をさあっと青ざめた。
透明の薄いゴムの中には千秋のそれがあり、その外側にも似た様な白いものが付着している。

「あー」

勘違いしてるのか……。
いつもはぐったりしすぎて、事後の何もかもは千秋任せだから、のだめ自身は知らないのだろう。

「これ、おまえの」
「……へ?」
「はじめは透明だけど、いろいろしてるとこんな風になる」
「ぎゃぼっ!」

やらしいな、と千秋がわざと耳元で囁くと、顔を真っ赤にしてうろたえている。
うそですそんな、いろいろって何ですか、とブツブツ言いながら。
千秋はそんなのだめに「自分で確かめたら」とティッシュを渡してベッドを抜け出た。

「ぎゃぼー!!これってこれって……」
「あー、それもおまえ」
「ひーっ?」
「シーツ替えないと……まあ、気にすんな」
「……いやーん!」

だから、漏れそうだって言ったじゃないですか、ひどいです、鬼です、と抗議し、
仕舞いには泣き出しそうになるのだめをなだめすかして、バスルームへ送った。
シャワーの音を聞きながら、汚れたシーツを外す。
まあ確かに恥ずかしい。
そうさせた自分もなんとなく恥ずかしい。
ちゃんと説明して、安心させてやらなきゃ駄目だよな……。
そんな事を考えつつ、最後のだめをいかせてやれなかったリベンジのことを考える。

取りあえず、吸湿シートをひいておいたのは正解だ。
新しい吸湿シートとシーツをひきなおし、千秋もバスルームへ向かった。






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