千秋真一×野田恵
![]() 「ほら、着いたぞ。のだめ。しっかり歩けって」 「ほえ……。もう飲めません……」 「ったく……。たったあれだけでよくそんなに酔えるな……」 千鳥足ののだめを半ば引きずるようにして、ホテルの部屋のドアを開けた。 荷物を置き、ベッドにのだめを放り投げる。 ブーツとコートを脱がせ、しわになりそうなワンピースも脱がせるべきか、一瞬躊躇したあと、 覆いかぶさるように背中のファスナーに手を回したところで、薄目を開けているのだめと目が合った。 「……ニャー」 招き猫のように、顔の横で手を丸めている。 「バーカ。起きてるんなら、自分で着替えろ」 見透かされたようで、急に照れくさくなり、そそくさと起きあがる。 「先輩、お水飲みたいデス……」 「ちょっと待ってろ」 自分もコートを脱ぎ、ミネラルウォーターを持ってベッドに戻ると、のだめは先ほどと同じ体勢で すうすうと寝息を立てていた。 「おいこら。のだめ」 鼻をつまむと、のだめはびっくりしたように目を開けた。 「水」 頭の後ろに手を差し入れて体を起こしてやり、ミネラルウォーターを一口含むと、 のだめの口の中にそれを流し込んだ。 ひとすじこぼれたしずくを唇ですくい、のだめの唇に戻してやる。 「はう……口移し……」 「いちいち言わなくていい……」 再びミネラルウォーターを口に含み、今度は少し乱暴にそれを口移し、飲み込ませると、 そのまま舌を絡め取り、口内を味わった。 ――どんなはずだったの? 清良の言葉を思い出す。 そうだよ。シュトレーゼマンの見舞いをして、この街を案内して、こいつの喜ぶ顔を見たかった。 そして……。 深い口づけを交わしながら、のだめをベッドに横たえ、胸をまさぐる。 ワンピースの中に手を滑り込ませ、厚手のタイツのウエストに手をかける。 のだめが、脱がせやすいようにか、ウエストをひねるようにして脚を折りたたむ。 ワンピースを脱がせ、ニットを脱がせ、自分も下着だけになり、体を重ねる。 「真一くん……」 のだめは嬉しそうにオレの首に絡みついた。 「今日、楽しかったデス」 「……うん」 ようやく直に触れあう肌の感触に、心がほぐれ、安心しきっている自分がいた。 白い肌に映えるローズピンクのブラを外し、ボリュームのある柔らかな胸を両手のひらで包み込む。 小さな蕾はすぐに赤く染まり、つんと硬くとがった。唇で、舌でつつくように、愛撫すると、 のだめは吐息混じりの声を上げた。 控えめながら、もどかしげにこすり合わされている両脚の間に、腿を割り込ませると、 ショーツの上からでも、そこがしっとりと潤んでいるのがわかった。 そのまま、腿を押しつけ、ゆるゆると鈍い快感を与えると、のだめはもっと、と言うように、 体を強く押しつけてきた。 「……のだめ」 耳元で呼びかける。 「俯せになって」 「……はい……」 オレは自分の下着を脱ぎ、のだめの体が描くカーブにぴたりと沿うように、自分の体を重ねた。 リボンをほどいてショーツを取り去ると、そこは潤みきっていた。 ヒップの割れ目を伝うように指を進め、その源にたどり着く。 蜜を絡ませながら、小さな敏感な部分をこすり上げると、のだめは泣き出しそうな声を上げた。 中に差し込んだ指の動きに反応し、あとからあとから溢れ出る甘い蜜をこぼさぬように、 そして自分自身にその蜜を絡ませるように、オレはのだめに体をあずけた。 白い背中に口づけながら、甘い蜜で包まれた自身を、なめらかな腿に、ヒップに押しつけ、 こすりつけるようにしてその硬さを彼女に伝える。 早く、ひとつになりたい。 けれど、少しでも長くこの時間を持ちたいから、今少し、このもどかしさを味わっていたい。 ふたつの矛盾した気持ちと、狂おしいような甘い快感とで、頭がぼうっとしている。 のだめの体の下に両手を差し入れ、つぶされた胸をすくい上げ、蕾を強くつまむ。 のだめはシーツをぎゅっとつかみながら、声を上げ、腰だけを持ち上げるようにして、 せつなげに動かし、その、硬いものに応えた。 いつの間にこんなことをするようになったんだ……。 言葉はない。けれど、彼女の体の奥底からの疼きは、きっと今のオレと同じ。 そう思えるこの安心感にオレはいつも救われている。 準備をしている間に、腕と膝をついてつながりやすいよう姿勢を立て直したのだめの中に 自身を沈めていく。 「あ……。や……ああっ」 「……っ」 強い快感に、我を忘れそうになるのを必死で堪えながら、ゆっくり中をかき分けるように進んだ。 もっとのだめが気持ちよくなるように。 動物のような姿勢で重なり合うふたりが立てるくちゅくちゅという水音。 それをかき消すような、のだめの甘い声、吐息。 ゆっくりと高め合いたくて、激しい動きはしていなかったつもりだったが、酔いのせいもあるのか、 のだめの体は熱く、ベッドにへたりと沈み込み、腕で体を支えるのがやっとのようだった。 少し動きを浅くしながら、俯いているのだめの髪を鼻先でかき分け、白いうなじを探し当てた。 汗でしっとりと肌にはりついた髪の束を唇で丁寧に外し、そこにかぷりと歯を立てた。 猫たちが愛し合うときのように。 「……っ」 のだめの体がぴくっと跳ねる。 「痛い?」 「んん……。なんか……変な感じ、です……。あっ」 うなじから背骨のひとつひとつを探るように、舌先を滑らせ、またうなじに戻り、再び、 今度は先ほどより強く吸い付き、歯を立てる。 「……あ、ん……んん」 「……知ってる? 猫がこうするとき……おとなしくさせるために……」 「……? あ……見たこと、あります……」 「ニャーニャー言ってたし。なんかおまえ、猫っぽいから……」 「……猫プレイですか」 「お返し。こないだの」 のだめの中がきゅっと小さく締まり、反応したのを感じると、オレは再び、自身を深く深く沈め、 熱くとろけそうな感触を、隅々まで探り、味わうように腰を動かし、ゆっくりとふたりの快感の頂点を 目指した。 ―――――― 「先輩」 腕の中ののだめが、小さな声でつぶやく。 「……うん?」 「また、連れてきてくださいネ。……今度は二人で」 「……うん」 「ふふ……」 「……ごめん」 「最近素直ですねー、真一くん。かわいいデス」 「うるせ……。もう、寝る!」 布団を奪い取るようにして、のだめに背中を向ける。 ……と、背中に、痛みを感じる。振り向くと、のだめがふくれっ面で爪を立てていた。 「……ニャー」 「まだやってんのか……」 全く、この天然にはかなわない。 素直にのだめのほうに向き直った。のだめは丸い瞳をきらきらさせながら、オレを見つめている。 のだめを寝かせたまま、オレは無言で、乱れたシーツや枕を整え、きちんと肩まで のだめに布団をかぶせてからベッドに潜り込み、素直に、自分の本能のまま、 猫のように自由気ままでしなやかなその体を、思いきり強く抱きしめ、深い眠りに落ちた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |