千秋デビュー後、キス1回目
千秋真一×野田恵


のだめのピアノが止まった。
オレは、色鮮やかなのだめの世界から引き戻される。

「もう弾かないのか?」
「え〜?だってのだめお腹空きましたよ。先輩ゴハンは〜?」
「さっき食ったばかりだろ!」

いいつつも、時計を見るとかなりの時間が経ってた。…それだけ、のだめワールドに浸っていた訳だ。


「おい!何やってる…」
「ぎゃは。先輩、ゴハンを作っている姿もステキです」
「盗み撮りはやめろ!この変態」
「うきゅっ…、ばれてましたか…」
「当たり前だ!することないなら風呂にでも入ってろ!!」
「……わかりマシタ」

残念そうに、のだめがバスルームに消えていく。オレは、自分の言葉に自分で焦っていた。
今までだって、いや、今までのほうがもっと普通にのだめに接していられたのに…。『変態の森』に足を踏み入れてから、微妙なラインで緊張してしまうオレがいた。

(何やってんだ?オレ…)

”風呂に入れ”なんて今までも何度も言って来た言葉だし、意識する方がおかしい…。
悶々と考えていると、ドアが開きのだめが顔を出す。シャンプーの香りが、鼻先をくすぐる…。
それだけで、体温が上がる気がした。

(オレは…中学生か?)

自嘲気味に食卓について、のだめと夕食をとる。
のだめは…

「ムホー、今日のゴハンも最高です!」

腹が立つくらい、いつも通りだ。だいたい、なんでオレがのだめの事でこんなふうに………。

「このワインも美味しいデス」
「え、おい…飲み過ぎるなよ!」
「むむ、ケチケチしなくても〜」
「なっ、すぐ酔っ払うだろ」
「そんな事ないですヨ。はい、先輩も飲んで〜」
「あっ、おい!」

ワインボトルがグラスを倒す。

「ふ、拭きます!」
「まったく…」

慌ててテーブルを拭くのだめは、腕の中に納められる距離にいる。甘いシャンプーの香りと体温を感じる距離…。

「先輩は、濡れませんでしたか?」

いきなり見上げられて、心臓が…ドクンっ!と鳴るのがわかる。

ワインのせいでほんのり染まった頬に潤んだ瞳。ふっくらとした唇…。オレは思わず、見入ってしまっていた。
見つめられて、ふぃっとのだめが目を逸らす。

「おい…」
「なんデスか?」
「なぜ目を逸らす…」
「べ、別に…」

オレは、席に戻ろうとするのだめを、腕の中に絡めとる。

「せ、先輩…?」

のだめの身体が、強張るのが分かる。

(まったく、何なんだよ…)

変態のくせに、変なところで恥ずかしがったり…。お陰でどう扱っていいか分からなくなる。
でも、もういいよな?

「あっ?んっ…」

オレはのだめの顔を自分の方に向かせると、掬い上げるように唇を奪う。やっと、3回目のキス。
おずおずと薄く開いたのだめの唇を味わい、逃げる舌を絡めとる。唇を吸い舌をはみ、これ以上ないくらい深く、繋がる。

体温が…上がる。
たぶんのだめも………。

オレは抱きしめていた腕をゆるめ、滑らかな背中をまさぐる。
手の平が動くたび、のだめが身じろぎするけれど、唇が繋がったままでは抵抗などできる訳もなかった。

(柔らかい…)

頬も唇も腕も…オレに押し付けられるふたつの膨らみも、理性を奪うのに十分な柔らかさと質感がある。

静かな部屋には、息遣いと唇が紡ぐ音が響いていた。
オレは、再びのだめを抱きしめるときつく舌を吸い、甘噛みした。

「はふっ、んんんっ」
「…?」

のだめの身体が、腕の中で弛緩して重さを増していく。

「おい…またかよ」

ずるずると崩れていくのだめの身体を抱きとめ、カウチに運ぶ。寝息をたてる濡れた唇を見ながらオレはため息を着いた。






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