千秋真一×野田恵
![]() …その夜。 のだめは「お風呂、お借りします」と、やたらかしこまった表情で部屋にやってきた。 学校で何かあったんだろうか?とふと心配になったりもしたが、あえて何も聞かず 「どうぞ」とだけ答えた。 『変態の森』に踏み込んだものの…どうも先に進めない。 焦る必要もないんだろうけど、一緒に過ごす時間は以前と様子が少し違い… のだめは今までと同じ調子でいるが、それでも、ふと緊張している表情を浮かべることがある。 キスだけで…気を失ってしまうような女だしな。 恋人になってしまったら、どんな変態行為に見舞われるかと思っていたけど… 意外にも、異常なほどに純情で初々しい反応を示すのだめに、こっちが変なことをしてるんじゃないかという気分になる。 「…はぁ…」 俺は今まで、女でこんなに悩んだことはない…。 深いため息をついたその時、のだめがバスルームから出てきた。 ************* 普通の、いつもと同じパジャマを持ってきてしまった。 本当は…もっとせくしーな格好をしなくちゃいけないのに。 …って、ターニャが言ってた。 先輩はきっと、のだめと…したいと思ってる…ハズ。 のだめだって、もっと先輩のこと知りたい。 やっと先輩が振り向いてくれて…。恥ずかしいから時々だけど、「しんいちくん」と呼べるようにもなって。 なのに、なのにいつも力が入らなくなっちゃって、あんなことに…あう〜。 のだめだって、大好きな先輩とキスもできるようになって、頭の中はムラムラのモンモンなのに。 「先輩!」 「…なに?」 「きょ、今日はここに泊まっていいですか?」 …先輩の表情が一瞬固まる。 「…いいけど。」 「あ…ハイ。じゃあヨロシクお願いします。」 ここで目をそらしちゃいけない。お色気ムンムンな表情をつくらなくちゃ。 「おまえ…本当に泊まっていくの?」 「ハイ。」 「泊まるって…ただ一緒に寝るだけ?」 「やる気マンマンですが、何か?」 「ぶっ…」 先輩がふき出す。 「鼻息荒いぞ。」 「そ…そんなことないデス!」 う〜大失敗…。 でも、いつもと同じ先輩の笑顔。この顔大好き…はぅん。 ************* 真っ赤になって口をパクパクさせているのだめの腕を掴んで、グイっと引き寄せる。 「おまえ、本当に大丈夫か?」 「何がデスか?」 「だって…いつもぶっ倒れちゃうし」 「今日は、たぶん大丈夫です」 「なんで?」 「気合い入れて来ましたから。だって、いつもは先輩の不意打ちじゃないデスか。だからのだめ、緊張しすぎちゃって…」 気合いって…ついまたふき出しそうになってしまう。 「ふーん…じゃあ」 のだめの背中に手をまわして、ゆっくり…と唇を重ねる。 やわらかいキスを繰り返して、様子を窺う。 のだめはギュッと目を瞑って、懸命にキスに応えている。 徐々に深いキスに変わっていくけれど、この前のように、気を失う気配はない。 …もしかして、今夜は本当にこのまま…? 鼓動が早くなるのが、自分でもわかる。 どんどん激しくなるキス。 やわらかなのだめを抱きしめながら、その唇を吸い上げ… 唇だけじゃなく、この体を、肌を味わいたいと思う。 真っ赤な顔をしているのだめの頬に手を添え、顔を離す。 まだ乾ききっていない髪をそっと掻き揚げて耳にかけてやると、ピクッと肩が震える。 そのピンクに染まった耳に口付けをして、ふっと息を吹きかける。 舌を耳に挿し込み、くちゅり…と音をたてると 「んっ…」 と、聞いたことのないのだめの…甘い声が聞こえる。 もっと聞きたい…もっと。 そのまま首筋に、唇を移動させたその時。 「あへ〜…」 「おいっ、のだめ?」 ふにゃふにゃと、のだめが崩れ落ちる。 そして、ゆでダコみたいな顔で… 「せんぱい…やらしか〜」 と言った。 前回よりは進歩したのか? いや、そうでもないような… 「…結局、ただ一緒に寝るだけじゃねぇか」 ポカーンと口を開けて眠るのだめの寝顔を見ながら、何度目かわからない深いため息をついて 白いおでこにそっと口づけをして、俺も眠りについた。 …温もりに幸せを感じながら。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |