俺たちの春は…
千秋真一×野田恵


3回目のチャレンジも、のだめの失神で、流れてしまった。
あれから、なんとなく、そっちの雰囲気は出せないまま…。
別に普通な事してるだけなんだけどなー。
…手を抜けばいいのか?
つーか、手を抜くっていったい…
とりとめのないことを考えていたら。

「センパイ!聞いてマスか?」

ピアノに向かっていたのだめが、口をとがらせて睨む。

「ごめん。ちゃんと聞くから、もう一度ひいてよ。」
「も〜…カズオッ」

ふてくされながらも、ピアノを再び引きはじめたのだめの体がメロディーに合わせて揺れる。
強く鍵盤を叩くと、髪が合わせてゆれて。
白いうなじがのぞく。

「…のだめのくせに。」

俺は、理性の人間だから、別に我慢するのは平気のはずだったのに。
今日ののだめは、白地のコットンワンピースがとても似合っていた。

「よーこの新作デス!」

そう言ってふわりとまわったのだめは中々かわいかったり。
俺が白好きなのを、よーこが狙ったんだろうか。
後ろのボタンが、いつか大川に行ったときのよーこのセリフを彷彿とさせた。

「千秋くん、開けるのここね!」

…やばい。むっつりと言われても仕方がない。
フラフラと誘われるように、のだめに近付くと、後ろから抱き締めた。

「しぇっ、しぇんぱい?」
「…のだめ。」
「ふゎぃ。」

緊張で固くなる背中を感じて、ふっと顔がゆるむ。
こいつ、こういうとこかわいいよな。
そのまま、引き寄せられるように、うなじに唇を寄せた。

「しぇんぱい…ムラムラデスか?の、のだめは心の準備が」
「準備なんかいいよ…てか黙れ。」
「…ぎゃぼん」

そうつぶやくと、顔を赤く染めて、小さくなった。
そのままのだめを立たせると、肩に手をまわし、少しかがむと、横抱きに抱き上げた。

「今日こそ、ちゃんと頑張れよ」

そう囁くと。

「ふぉ、お姫サマだこ…」

そう言って、俺の胸に顔を埋める。
か、かわいい…
そのまま寝室に向かおうとした時。

「すとっぷ!すとっぷデスよ」

のだめがすっとんきょーな声で叫ぶ。

「…はぁ…なんだよ」
「しんいちくん!デジカメ!デジカメ!」
「はぁ?」
「お姫サマだこ!カメラにとってくだサイ!」
「…」
「しんいちくんの初めてのだこ、保存版デス!次の、コンサトのパンフにしマス〜」

むは〜っと叫ぶのだめ…

ぷちっ

ぶち壊しかよ〜!

ブリザード。

思わず、抱き上げていた手を離す。

―ドスン。

「ぎゃぼー!DV〜!暴力夫〜!」

のだめの叫び声を聞きながら、俺の選択は間違っていたのかと…思わず考えてしまった。

俺たちの春は…まだ遠い…






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