たんじょおび
千秋真一×野田恵


今日はのだめの誕生日。
センパイに、一ヶ月も前から、それとなぁく、しつこくアピールしたのに。
今日はマルレへ普通に行っちゃって連絡すらありまセン!
夫失格デス!
もう夜の8時。今日がもう終わっちゃいマスよ〜…ここはメールしてみマスかね。

sb:SHINNICHIKUN
text:OTUKARESAMADESU.KYOUWAOSOKUNARIMASUKA?

“会いたいデス”そう書きかけて、消した。
センパイが、音楽をなにより大事にしてるのは分かってる。私もそうだから。
遅くなりますか?までで、送信ボタンを押して携帯を放り投げてベッドに横たわった。
のだめ馬鹿みたい。ターニャの誘いも断って。部屋も掃除して。いい香りの入浴剤を入れたお風呂にも入ってお洒落もしたのに。
あ〜ぁ。今年は何にもない誕生日。
でもセンパイとこうして恋人になれて、同じパリにいて、お互いの音を楽しめてることだけで、幸せだって思おう。
だけどなんでかな。すぐ貪欲になっちゃう。

「しんいちくんのバカー」

そう叫ぶと…


「人をバカよばわりすんな」

低い声がしてドアがあいた。
慌てて体を起こした私の目は、涙でにじんだ。
そこにいたのは、おっきな花束を持って、壁に寄りかかる、待ちこがれたあなた。

「カギかけろよ。危ないぞ」

そう言って、私の好きな、優しい顔で、笑いかけてくれた。

センパイ…しんいちくん…

「し、いち、く」

「…ん?」

涙で声にならなかった。
平気なはずだったのに。
顔を見て、おさまらなかった感情が一気に溢れだして。

そのまま、玄関に立ったままのセンパイに抱きついた。

「きて、くれないかと、思った」

「ごめん」

「忘れちゃ、ったのか、と思った、」

私らしくない泣き言に、センパイは長い腕を優しく体にまわして抱き締めてくれた。

「驚かせたかったんだ」

「しんいちくんの、バカ。かずおー…」

言いかける私の頬に優しく、細い指がかかる。
クイッと持ち上げられて、
微笑むセンパイの顔が近付いて。
軽いキスの雨が降ってきた。
まぶたに、まだ涙の乾かぬ目尻に、頬に、おでこに、あごに、そして唇に。
さらに、愛しい気持ちがこみあげて。もっともっとセンパイに触れたくて、触れてほしくて。
衝動につきたてられて一度離れた唇を、自分から追い掛けた。
噛みつくように、口付けた私にセンパイは戸惑い気味で。

「…のだ、め?」

唇を離すと、ちょっと戸惑うセンパイの胸に顔をうずめた。

「センパイが欲しいデス。プレゼントに、くだサイ」

そうつぶやいた。






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