千秋真一×野田恵
![]() 清良のコンクール入賞祝いというかR☆Sオケのプチ同窓会というか、まあつまりは飲み会だが、 懐かしい顔が揃ったせいか結構遅い時間まで続いてからお開きになった。 三人を見送るために表に出ると、冷たい空気が酔いを醒ますにはちょうどいい。 「千秋君、今日はありがとう!本気で期待してるからね、マルレで共演」 清良は弾んだ声で言いながらオレの手を両手で握ってぶんぶんと振り回した。今日の彼女はよく飲み、 よく笑い、ずいぶんと上機嫌だった。 ウィーンで会った時は少しおとなしくて、あの時はオレ以外の三人の賑やかさに圧倒されてたのかと思ってたけど、 コンクールを前にした緊張感やホームシック(峰シック?)やらで、彼女なりに気持ちが沈んでいたのかもしれない。 見違えるほどに快活さを取り戻したのは、無論コンクールが上首尾に終わった安堵や解放感のせいだろうけれど、 どうやら久しぶりに峰と会えたというのも理由のひとつらしい。 こいつらを見てると、男と女って一体互いの何に惹かれ合うんだろうとつくづく不思議に思う。あの萌が木村に恋をして 木村が逃げ回ってるという話にも衝撃を受けたけど(いろんな意味で)、それ以前に峰と清良がデキてると知った時も かなり驚いたのを思い出す。 が、人のことを言えた義理じゃないんだろうな、オレは。 そして黒木君も――。 「千秋君、ご馳走様。片付け手伝えなくてごめん。恵ちゃんアパルトマンに帰るなら送っていこうか?」 黒木君の言葉に、隣にいたのだめがちらっとオレの顔を見た。 すると峰が黒木君を手招きして耳打ちするように言った。 「おい、くろきん、ちょっとは気を遣ってやれよ。やっと二人っきりになれるんだから。あのアパルトマンに行く口実が 欲しいのはわかるけどさ」 「え、ち、違っ!…ぼ、僕は口実なんてっ、別に、ただ……。あ、千秋君? 何でもないからっ、気にしないで」 黒木君は急に大声を上げたかと思うと、取り繕うようにオレ達を振り返った。顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくさせて まだ何事かを弁解するようにぶつぶつ言っている。 耳打ちといっても丸聞こえだから、黒木君が何を慌てているのかは察しがつく。相変わらず峰は余計なことを言う。 それはともかく、のだめが別に用事がないのなら向こうに帰す必要もない。親切はありがたいが丁重に礼を言って断った。 「ありがとう、黒木君。でも大丈夫だから」 「な、くろきん。言った通りだろ?」 「おい、何が言った通りなんだ、峰」 「いや、こっちの話。頑張れよ!」 そう言いながら意味ありげに片目をつぶってオレを見た峰は「いい加減にしなさいよ」と清良に耳を引っ張られながら、 そして黒木君はうつむき加減で「違う」とか「関係ない」とかつぶやきながら、帰って行った。 のだめはオレに寄り添うように立ってニコニコ笑いながら三人に手を振っていた。 オレも軽く手を上げて彼らを見送った後で、ポケットに片手を突っ込んだままぶっきらぼうに言った。 「泊まってくんだろ?」 「いいんデスか?」 「別に、オレはどっちでも」 「どっちでも……、そですか。じゃ、帰りマス」 のだめはちょっと口を尖らせて拗ねたような顔をしている。 ―その顔、やめろ 「待て、……後片付け手伝え」 「ぎゃぼっ!先輩お元気で……峰くん達〜、待ってくだサーイ」 「こら、逃げるな。お前もたまには労働しろ」 首根っこを捕まえてそのままずるずると引きずりながら部屋に帰った。 ******** 「先輩〜、コレ、もっとフリフリのついたのないんですか?」 食器を洗いながらのだめが文句を言っている。 コレ、とは服を汚さないように掛けさせたエプロンのことだ。 洗濯するのはオレなんだから、ワンピースに油染みなんかつけられた日には後が面倒だ。 もちろん普段オレが使っているものだからフリルなんぞついてるわけがない。シンプルで何の変哲もないエプロンで、 色だって地味なモスグリーンだ。 確かにのだめに似合ってるとは言えないが、だからといって――。 「おい、皿を洗うのになぜフリルが要る」 「だってー、新婚さんといえば、裸にフリルつきの白いエプロンが定番じゃないですかー」 「……はぁ?!ハダ……てゆーか(もう)新婚じゃねーっ!」 「じゃあ、倦怠期のご夫婦にも効果バツグンですヨ、試してみますかー?」 「(まだ)倦怠期でもねーっ!この、変態っ!」 ―いや、ツッコミどころはそこじゃないか…… そう、それ以前に――今の所は――夫婦でもないんだけど。 でもオレは「夫婦じゃねえっ」というツッコミをある時期からしてないな、とふと思った。 ウィーンで清良に会った時もそうだったけど、のだめは相変わらず「妻です」と自己紹介してる。清良に限らず それを聞いた相手もなぜか驚かない。冗談だと思っているのか言葉そのままに受け取っているのか、 実際はどうなのかわからないけど、不審がられることもないし、まあとにかくのだめがそれで喜んでいるならと、 だいぶ以前からいちいち訂正することはなくなっていた気がする。 抵抗するのに疲れたというか、何というか。 少なくともオレ自身、不思議なことに、のだめが「妻です」と口にするのを不快に感じたことはなかったから――。 そんなことより――。 マルレの公演があったり峰が来てたりでバタバタしてて、イタリアから帰った晩以降はちょっとご無沙汰だった せいだろうか。フリルのついた真っ白いエプロン――もちろん服の上から――を掛けたのだめを想像したら、 ちょっとドキっとした。 想像の中のその格好は、初々しくて愛らしくて何だか新鮮な衝動というか、後ろから抱きしめたくなるようで、 そして一瞬、ほんのちらりとだけど、素肌にエプロンしか身に着けていないのだめの後ろ姿まで頭に浮かんでしまった。 ―まずい…… 「わ、わけわかんないこと言ってないで、それ、とっとと食器棚にしまっとけよ。オレはフロ入る」 そんな想像を絶対に気取られたくなくて、逃げるようにシャワールームへ向かった。 ******** 先にベッドに入って本を読んでいると、フロから出たのだめが潜り込んできた。 「灯り、消すぞ」 「ハーイ」 ベッドサイドのスタンドを消すと、オレの背中にのだめがぴたりとくっついてくる。 この感触はよく知っている。柔らかくて弾力があって、その先端にポツンと小さく突き出した――つまりはノーブラだ。 パジャマごしに伝わってくる体温とその感触に、身体の一部が脈打ち出したような気がしたけど、そのままじっとしていた。 ―いや、今夜はちょっと…… しばらくするとオレが寝てしまったと思ったのか、のだめはオレの背中から離れ、寝返りを打つように反対側を向いた。 今夜はやめておこうと思っていたのに、オレの頭の中にはさっきのエプロン姿ののだめがちらついている。 口を尖らせながら文句を言う顔、からかうような目つきで裸エプロンを口にした後で屈託なく笑う顔。 そしてうっかり想像してしまった、素肌に純白のエプロンだけの肢体も再び脳裡に浮かぶ。 後ろから見ると、背中でクロスしているリボン以外ほとんど露出してる肌。あの果物のように瑞々しいヒップの上あたり、 ウエストに蝶結びされたリボンがまるでプレゼントのようだ。そして横から見るとフリルのついた胸当ての脇から胸の ふくらみがはみ出しそうにのぞいていて……。 ―バカのだめ、このまま眠れるわけないじゃないか エプロンの話も、さっきのアレも、あいつとしては誘っているつもりだったのか、それはわからない。 でもオレはゆっくりとのだめの方に向き直った。 「あれ、先輩起きてたんですか?」 「ん…」 「あの?」 「こうしてるだけ」 既に何も言わないまま、後ろから抱えるように腕を回していた。 今度は胸元にのだめの体温を感じる。フロ上がりの体はほどよく温くて、何て心地いいぬくもりなんだろう。 のだめの体に触れていると、不安ややるせなさを忘れられそうな気がする。もちろんいつだって、何かを紛らわすために 抱くわけじゃない。 のだめのことを大事に想ってるということや愛おしいと思ってることを、言葉で伝えるのは難しい。ましてやオレは それを試みて何度か失敗してる。だけど、こうやって抱き合うようになってからは肌で感じ合えることもあるんじゃないかと 思うようになった。 そう思っているのはオレだけだろうか。 とにかく――。 今のオレはただのだめを抱いていたいだけだ。 だけど、触れるだけ、と言いながら、やっぱりどうしてもそれ以上欲しくなってしまう。オレだって健康な男だし、 ましてや腕の中にいるのはこの世で一番……。 今夜はそんな気分にはなれないと思ってたのは……、そう、あの曲のせいだ。 夕方、飛び跳ねるようにして帰ってきたのだめが、開口一番、瞳をキラキラさせながら告げた曲のことが胸に 引っかかってたから。 でも――。 もう、手が勝手に動いてる。 このふわふわで温かく愛らしい存在の誘惑にオレは抗うことができない。 無意識のうちに、後ろから回した手で、パジャマの上からさわさわと胸を撫でていた。 「あの……?」 またのだめがいぶかしげな声を出した。オレの気持ちをはかりかねてるんだろう。その気なのかそうじゃないのか、 どっちつかずの微妙な手つきだから。 「眠い?……なら寝ててもいいけど」 「いえ……」 オレの手は、のだめに確かめもせずパジャマのボタンを外しにかかっていた。 「あ……」 ボタンを外したそばから手を胸元に滑り込ませ、そっと、直に柔らかいふくらみを包む。 「……先輩?」 シャワーを浴びてあまり時間が経ってない肌はしっとりとしていて、同時に指先に弾むような瑞々しさが伝わる。 この肌がいつもオレの理性を奪っていく。もっと触れていたい、ずっと抱いていたい、と思わせる。 「やっ…、ん」 色っぽいというよりも可愛らしい声がして、腕の中ののだめが身を捩る。手のひらの感触が少しくすぐったいらしい。 しっとりとすべすべとふわふわを味わいつくすように、オレの手はのだめの胸の上をゆっくり這い回り、 そしてやわやわとそのふくらみを揉んでいる。 そうしながら耳のふちを唇で食むと、吐息混じりの声が聞こえてきた。どこをどんな風に触れればどう感じるか、 そんなことはもう、わかり過ぎるほどわかってる。 「んふ…、ん…」 甘く鼻にかかる声を合図に、後ろから剥がすようにパジャマを脱がせて背中に唇を押しあてる。 「は…ぅっ…ん」 のだめはぴくっと体を震わせながら背中を少し反らし、オレの手のひらにふくらみを押し付けてくる。 胸の愛撫を続けながら背中に何度もキスをした。 その度にのだめは身を捩って切なげな吐息を漏らす。 最近じゃ体中どこに触れてもこんな反応だからついあちこち触りたくなってしまう。 ヒップを撫でまわし、太ももの間に手を差し入れてほどよく筋肉がついたすらりとした脚をまさぐる。くすぐったがる 膝の裏も、すべすべの向う脛やきゅっと締まった足首も。 そして今度はヒップから背中まで撫で上げて。そう、体中に手を這わせる。 それだけなのに聞こえてくる甘い声と弾む息遣い。 「何で、そんな声?」 「だって、先輩の手、やらし……ん、あっ…んっ」 ―お前の声の方がよっぽど…… 自分が着ているものを脱ぐために後ろから抱えていた腕を離すと、のだめがゆっくりとこちらを向いた。 オレの顔の真ん前に、のだめの二つのふくらみがある。 迷わず顔を押しつけると、のだめはオレの頭を抱いてくれた。 温かくてしっとりとして、かすかな石鹸の香りに混ざってのだめの肌の匂いがする。 たぶん、オレだけが知ってるこの匂い、感触、圧迫感。それはこの上なく幸福な息苦しさだった。 ******** 「あ……そだ、先輩?挟んであげましょうか?」 唐突な言葉に顔を上げると、のだめは自分の手のひらで両脇から挟むように胸を寄せた。はちきれそうに 盛り上がったその真ん中に深い谷間ができている。 「挟むって……、な、何を」 「先輩の…その…」 「はぁ?!またエロサイトでも見たのか」 「最近は見てませんケド……そゆの、嫌いですか?」 「き、嫌いってゆーか……」 今まで誰にも、そんなことをされたこともさせたこともない。そういうプレイがあるのを知らないわけじゃないけど、 行為の最中に思いついたことはなかった。 いや、正直に言えばのだめと出会うまでは――だったかもしれない。でもそんなことオレから言い出せるはずもなく、 やっぱり試したことはなかった。 「さぁさぁ、遠慮しなくていいですからー。萌ちゃんや薫ちゃんみたいには大きくないデスけど、のだめだって ちゃんと挟めると思います。気持ちイイらしいデスよ?」 「い、いいよ、今は……」 「じゃあ、また今度?してあげますね」 屈託なくにっこりしながらのだめが言う。 まったく、天然なのかわざとなのか。でも、オレは願望を見透かされたみたいでどぎまぎしてしまった。 このスフレのようにふんわりとした胸でオレ自身を――。 想像しただけで、その、のだめが挟もうかと言った場所にどっと血液が流れ込んでいくような気がした。 でも、すぐにうなずくのは何だか恥ずかしくて、答えないまま、ただふくらみに顔をこすりつけた。 少し惜しいような気がしながら、「また今度」というのだめの言葉に少し期待して……。 心ゆくまで柔らかい感触を味わった後でその先端の蕾をくわえ、ちゅ、ちゅ、と吸ってやる度に、のだめはさえずるように 声を上げている。普段とのギャップにはもう慣れっこのつもりだったけど、ついさっきまで冗談みたいな会話を 交わしてたのにもう別人のように艶っぽい声を出すのが、やっぱりたまらない。 舌の先で胸の蕾が固く張りつめていくのを感じながら、太ももを膝で割り、その間に指を滑り込ませる。 その感触に、のだめが短く小さい声をあげた。 いつもと同じような手順で愛撫していてもこの敏感な反応は変わらない。むしろ以前よりも感じやすくなっているくらいだ。 前と違うのは快感を素直に訴えてくれるようになったこと。オレはそれがうれしくて、ますますしつこいくらい念入りに のだめをかわいがってしまう。 指先で花びらのような襞をくすぐるようにこする。花びらは既にしっとりと濡れていたけど、触れているうちに、 さらに内側から潤ってくる。 膝で押えていた脚は、放っておいてもさっきよりも大きく開き、胸と秘所、二つの場所に与えられる刺激に、 のだめは体を震わせながら甘い声で喘ぎ始めた。 左右に大きく開かせた脚の間にゆっくりと顔を埋める。 「やっ…ん」 のだめはかすかに困惑と羞恥が入り混じった声をあげながらオレの髪の中に指をくぐらせた。 初めは弱く掠めるように舌先で弄る。そして、腰から太ももにかけてふるふると小刻みに震え始めた頃、花びらを唇で 挟んで吸ってやったり、中心に捻じ込むように舌を挿し込む。 舌の動きに合わせて切れ切れに喘ぐ声が聞こえてくる。 ひくひくと蠢く花びらの中心から滲んでくる蜜をこぼれてしまわないように舐め上げてやった後で、顔を上げた。 「のだめ、もっと?」 「え……」 「してほしいならちゃんと言えよ」 「イジワル……ですね」 「どうする?」 「あの…もっと…して……」 もっと敏感な場所を目指して再び顔を埋める。 花びらの上の、小さな莢に包まれた芽のような部分。 莢の上からでもわかるほどふくらんでいるのを、指先でそっとめくって唇を押しあてる。 やさしいキスを繰り返すだけでみるみるうちに張りつめていき、余計に敏感になったその場所を舌で舐め上げる。 何度も何度も。 その度にのだめの体はびくりびくりと跳ねようとする。 「ん…っふ…、やっ…、あぁんっ…」 尖らせた舌先でつつくと、体を捩りながら声を上げる。 「あっ、あぁっ……ピリピリして……しびれちゃっ……」 のだめが腰をくねらせながら壊れたように乱れていくのがうれしくて、夢中で唇で吸ってやる。 「あぁんっ、ダメっ…、だめっ……やぁっ、あっ、あっ、あぁっ」 悲鳴のような声が途切れるのと同時にのだめの腰が大きく跳ねた後、その体がシーツに沈むように力が抜けて いくのがわかる。 頭の上からはただ乱れた息遣いだけが聞こえていた。 ******** 「はっ…ぅぅ…、先輩?ちょっと待って…ください」 「何?」 「先輩、今日、変……。なんか……」 のだめの言いたいことはわかる。今夜のオレは一方的すぎる。 「ちょっと、休みませんか?」 「お前、何もしてないだろ」 のだめがちょっと睨むような目つきでオレを見た。 もちろんわざと嘯いてる。 指と舌だけでもう何回のだめは達しただろう。 かわいそうなくらい息を弾ませて、身体を震わせて、その度にぐったりと弛緩して。 なのにオレは休む暇もほとんど与えずにまた体中を愛撫して、繰り返しのだめを昇りつめさせていた。 「わかったよ」 脚の間から顔をあげて隣に横たわると、のだめが横向きになって寄り添ってきた。 その腰を包むように抱く。まだ胸の鼓動が少し早い。 「先輩。脚が少し冷たいですよ、のだめがあっためてあげますね」 「ん…」 のだめの脚が絡みついてきた。 「今日は、もうやめる?」 「どして、ですか?」 「疲れたんだろ?」 「だいじょぶです」 今夜、触れるだけでまだ交わってなかったのは、少し恐かったからだ。 途中でのだめがあの曲のことを口にしたりしたら萎えてしまうんじゃないかと心のどこかで思っていた。 昂ぶってはいたものの、迷いというか、オレ自身の状態はオレの気持ちを素直に反映していた。 でも――。 腕の中ののだめが愛おしくてかわいくて、ぎゅっと抱きしめてるうちに、少し頼りなかったオレ自身にも力が漲ってきていた。 「じゃあ、ちょっと待って」 オレの準備が済む頃、のだめがゆっくりと体を起こしながら言った。 「のだめが上になってもいいですか?」 「いいけど、何で?」 「先輩、なんか疲れてるみたいだから」 「そんなことないけど、お前がそっちがいいなら」 膝立ちでオレの腰の上に跨っているのだめを見上げながらベッドサイドのスタンドのスイッチを入れた。 「やんっ、電気、ダメです……」 「暗くてわかんないだろ」 「……わかりますよ…そのくらい」 ―本当はオレがのだめを見たいから 「いいから」 促されてのだめは目を伏せながらオレ自身に手を添えて、入口にそっとあてがった。 あんなに何度も達してたのに、初めに貫くときはいつだってキツい。 のだめはオレの腰の両脇に手をついて背中を少し曲げ、息を詰めるような呻きを漏らしながら、 押し広げられる衝撃を受け止めている。 先端だけ飲み込み、体の上にゆっくりと沈み込んでから、背を伸ばす。 ブルっと体を震わせて、それに呼応するように中もきゅっとすぼまる。 深いところまで届くと、オレの感触を味わうように腰を押しつけたまま顔をのけぞらせて、吐息のような喘ぎを漏らした。 「あっ……は…ぁっ」 揺するようにのだめが前後に腰を動かし始めた。 「ちゃんと動けよ」 「もぉっ…、相変わらず注文の多いマエストロ……」 腰の動きに合わせてスフレのような柔らかいふくらみがふるふると揺れているのが、薄灯りに照らされて より一層エロティックに見える。 手を伸ばしてそれを掴むと、のだめは喉をのけぞらせながら声を上げた。 「やんっ」 「何だよ、やんって」 「だって、そんなにあちこち触られたら……」 ―そのために触ってんだろ……、お前がもっととろけるところが見たいから 腰の動きは次第に大きくリズミカルになり、それにつれてのだめは息を弾ませていく。 目を伏せたまま一生懸命という風情で、頬にかぶさった髪が汗で張り付いていた。 ******** 「のだめ、ちょっと……。ハーフタイム……」 「え、何ですか、それ」 のだめは動きを止め、オレの言葉にきょとんとした顔で答えた。 「疲れたろ?……エンドを変えるっていうか、攻守交替っていうか」 つまりオレが上になるということだけど。 ―だってこのままじゃ…… 体を起こし、向かい合わせになってのだめを抱きかかえた。もちろん繋がったままで。 体勢が変化する度に感じてしまうところがあるのか、のだめは何度か声を出さないまま軽く眉をしかめた。 「…じゃあ前半はどっちが勝ったんですか?のだめですよね?」 「いや、ドローだな」 「えー」 笑いながら、ちょっと不服そうに口を尖らせるたのだめの髪をかき上げてやる。 チェリーのように艶々と濡れ輝いてる唇に引き込まれるようにキスをしてから気づいた。 ―あれ、これ今日初めてのキスか?オレって…… 首筋に唇を這わせるとのだめは仔猫のような声で鳴き、それに反応したオレ自身が中で跳ねた。 「あん…、反則です。ハーフタイムなのに」 「しょうがないだろ……、じゃ、そろそろ後半」 背中を抱えながらのだめの上に覆いかぶさった。 さっきまでのだめが自分で動いていたのよりも深く貫いてやると、のだめの中がきゅっと引き絞るように応えた。 脚を抱え込んで、何度も何度も、一番奥まで突いてやる度に、首を左右に振って大きな声で喘ぐ。 オレはまた夢中になって……、ああ、溺れそうだ、いや、もうとっくに溺れてるんだろう。 堪えるような切ない顔をしてオレに全部委ねて、オレを求めて。こんなに繋がってるのに、もっと、と欲しがるのだめが たまらなくかわいい。いくらでも与えてやりたくなる。 ―でも、オレも、もう…… のだめは、しゃくり上げるように喘ぎながら繰り返しオレの名前を呼び始めた。いつの間にか「先輩」から「真一」に 変わっている。 「しんいちく…、しんい…ち…く…ん、しん…いち…っ…」 ―もっと、呼べよ…… 「んっ、あっ…、あぁんっ、しんいち…くんっ!…やっ…あっ、あぁっ」 叫ぶような声とともに一瞬強張った体がすぐにわななき出して、のだめが昇りつめていく。 「のだめ、オレも……」 かすかにうなずいたその頭を抱えながら、まだひくひくと震えているのだめの中で、堪えていたものを爆発させる。 くらくらするような快感とふわりと浮くような解放感に酔い痴れながらオレも体を震わせた。 ******** 体を離そうとすると軽く腕を掴みながらのだめがそれを止めた。 「あ、もうちょっと……」 「え、もしかして、まだ……?」 「違いマス、でも」 「ん?」 「も少しだけくっついて……」 「片付けてからまた…こうしててやるから…」 のだめは、しがみつくように抱きつきながら、まだ何か話し足りないという様子だったけど、ちょっとだけ飲ませたワインが 効いてきたのか、疲れたのか、ほどなく眠ってしまった。 ―何であの曲なんだ オレは、寝息を立てているのだめの髪を撫でながら、夕方のだめが弾いたコンチェルトを思い出していた。 例によって耳だけでおぼえた通り、最初から最後まで楽譜もなしに弾き切った。もちろん自分でも言ってたように、 大体というかあちこち音が多かったり少なかったりしたけれど。 意志を持った鈴が自在に転がっていくようなピアノの音色。それだけじゃなく、悪戯小僧の口笛のようなピッコロ、 軽快なトランペットに飄々としたオーボエや洒脱なクラリネットのパートまで、のだめの指はいっときも休むことなく 自由奔放に鍵盤の上を跳ね回った。 瞳を輝かせながら弾くのだめそのままの、流星群の夜空のように星屑がはじけ飛ぶプロコフィエフ。 そしてそれは――今度オレがウィルトールで演奏する曲で、つまり弾くのはRuiだ。 それでなくても鬼門のRuiなのに、よりによって……。 昼間、のだめが曲の名を口にした時、それを隠すつもりはなかったんだ。でも、結局言わなかった、いや言えなかった。 峰が「言わないと他のやつと弾いちゃうかもよ」なんて余計なことを言ったせいで言い出しにくくなったのもある。 ただ、ずるいと言われようと意気地がないと言われようと、炒りたてのポップコーンのようにはじけるのだめの笑顔を 曇らせたくなかったんだ。後から知ったら傷つくかもしれないとわかっていても、いっぱいに膨らんだ風船にピンを突き刺して 破裂させるような真似はできなかったんだ。 まあ、オレじゃなくてもあの時ののだめの勢いを止めるのは難しいだろうけど。 たとえRuiと共演したとしても、仕事の一つでしかないし、この先のだめとこの曲を演れなくなるわけじゃない――そう言って しまえればよかったんだろうけど。 のだめがこのことを知ったら、もちろん平気じゃないだろうし、どれほどがっかりするだろう。 考えただけでも身の毛がよだつ――じゃなくて、胸が痛む。 でも、気まぐれなミューズを少しだけ恨みながらも、オレは、のだめの生命力というか、音楽への情熱を信じていたい。 もし傷ついて、あいつの音楽への情熱が眠りについてしまったとしても――。 そしたら、童話の中のお姫様を探し出してキスをする王子のように、どんなことをしてもみつけだして、オレが目を 覚まさせてやるから。絶対に――。 腕の中ののだめは、何か楽しい夢でも見ているように幸せそうな顔で眠っている。 オレはひとつため息をついてからスタンドの灯りを消して、目を閉じた。 ******** とりあえずのだめ用にエプロンを買ってやることにした。 リクエスト通り白のフリル付きにしてやるつもりだが、もちろんそれは家事に使うためであって、何とかエプロンと か何とかプレイのためでは――断じて、ない。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |