Your Butterfly
千秋真一×野田恵


捕まえて蝶ダイ、なんて暢気なことを言っていたのは自分だけれど
ひょっとしたらとんでもない男に捕まってしまったのかもしれない。
わたしは時々、そんな風に思う。
ひとつ年上の恋人は、格好良くて才能に溢れていて、その上料理や家事も超一級。

そりゃあ時々細かすぎるとか、言い方がキツすぎるとか、オレ様だとは思うけれど、そんなことも魅力のうちだし
音楽に没頭すると放っておかれるのは…まあ、わたしだってそういう人間だから仕方ない。
そういうところも含めて愛しいとすら思ってしまうのは、恋の魔力のなせる業。

それでも時々、勘弁してほしいと思うことはある。
―――主にセックスに関してだけれど。

「真一くん…」

夜中過ぎのバスルームに、わたしの声が響く。

「なんですか、この手は…」
「あー、右手。」
「じゃなくて!!」

そう言ってわたしは、さっきから自分の胸をやわやわと弄っていた恋人の手を掴んだ。
瞬間、先端の突起を腕が掠めてびくりとするが、気付かれるわけにはいかない。

「もう1時ですよ。のだめもう本日閉店です。」

そういうと、真一くんはあからさまにがっかりした表情を見せた。

彼が海外公演から帰ってきて、久しぶりのオフ。
わたし自身、色々と忙しくて寝不足の日々が続いていたけれど
自分の部屋に荷物だけ置いて、まっさきに自分の部屋へやってきた彼の気持ちが嬉しくて
こっちはこっちで離れていた寂しさや、愛しい気持ちが吹き零れるようになってしまって
会話もそぞろに、2回連続で愛を交わした後のバスタイムなのだ。

せめてお風呂は別々に入ればよかった、と思っても後の祭り。
とにかくこの場は、流されないように毅然とした態度を取らなくては。
決意を固めるとわたしは、真一くんから身体を離してお湯を被った。

ふん、とそっぽを向いたのに、彼は諦め悪くわたしの身体を触ってくる。
こっちの気持ちなんてお構いなしなのに、真一くんの手はわたしの弱いところをよく知っていて
いつのまにか理性は、欲望に対して白旗を揚げかけていた。

「先輩がこんなにスキモノだったなんて、計算違いもいいとこです。」
「誰がスキモノだ。」
「のだめの腰触りながら言わないで下さいよ。説得力皆無…あっ…。」

つい甘い声をあげたわたしに、彼は満足そうににやりとした。
しまった、と思う間もなく胸に手を伸ばされる。
慣れた手でソフトにマッサージされると、ベッドの上で散々高められた身体は
もう完全に臨戦モードに突入していて―――ああ、なんて未熟者なんだろう、わたしは。

「胸でかいと感度悪いっていうけど、お前は当てはまんないよな。」
「ひゃうっ…だーかーら、もう閉店…。」
「そんな誘うみたいな顔して言われても、説得力ない。」

―――誘ってる!?わたしが?
意外な台詞に、耳の先まで熱くなるのがわかった。

「誘ってないですよ!」
「いーや、誘ってる。」
「そんなの嘘です!もう、やー。」

抵抗空しく、どんどん快感が高められているのがわかる。
身体はだるいし喉はひりひり痛むけれど、太腿に伝うぬめりは石鹸のせいなんかじゃなくて。
すでに熱く立ち上がりかけている真一くんのそれが当たると、体中が期待にびくりとなるのがわかった。

「お前、本当に自覚ないのな。」

身体をお湯で流しながら耳元で低音で囁かれた時には、わたしはもう気持ちよさでへにゃへにゃになっていた。

「え…?」
「教えてやろうか?」

真一くんの言葉の意味が、よくわからない。
首を傾げて彼の顔を見遣ると、なぜか目だけで微笑んだ。

―――やらしいことを考えてるときの目だ。
そう思ったが最後、わたしの身体は彼にひょいと抱きかかえられた。
そのまま洗面所の鏡の前へ向かい、キスをしながら手近なタオルで水滴を拭われる。

唇を離すと、彼はわたしの身体を鏡のほうへ向けた。

「自分の顔、よく見て。」

後ろから抱きしめ、またしても耳元で低音。
それにぞくっと疼いた瞬間、鏡の中の自分と目が合った。

鏡の中の女は、頬を桜色に上気させている。
目はとろんと溶けて、しめった唇は半開きで…胸の先端は赤くしこって存在を主張してるみたいで。
男の人に抱かれる良さを知って、体中から期待を溢れさせてるみたいな顔と身体。

「やっ…」

目を逸らそうとするけれど、真一くんがぎゅっとしているから逃れられない。
鏡の中の彼の目は、やっぱりとろりと熱を帯びていて。

「お前、こんな顔してるんだもん。そそられるっての。」

鏡の中からは見えない、いちばん熱い場所に指が入ってくるのがわかった。

「ひゃあっ!あ…もう、いや…っ!」

水音がわたしの後ろから、ぴちゃぴちゃと聴こえてくる。
わたしの身体は洗面所の鏡の前に固定されて、動けずにいた。

「嫌か?」

長い指でそこを掻き回しながら耳朶を甘噛みしてくる彼の目が、鏡の中で笑っている。
だって、わたしの顔は嫌がってないから。
さっきよりずっとよさげに、頬をうっとりと上気させて喘いでいるわたしと、
そんなわたしを責めながら微笑む真一くん。

疲れているのにとか寝不足なのにとか、そういう「大人の判断」よりも
今の本能赴くままのわたしたちの姿は、ものすごくエッチで幸せそうで、これが正しいことみたい。

「のだめ…そろそろ、いい?」

彼の指がわたしのなかから引き抜かれる。
ひくひくしているそこから熱い液体が垂れて、ふとももを伝った。

「はい。…来て。」

ねだるように腰をゆらすと、手早くゴムを付けた彼自身が入ってきた。

―――やだ。すごく熱い。
気持ちよさに背中がしなって、自然に声が出てしまう。
どうしよう。もう我慢ができない。
やらしいことをいっぱいしてほしくて、めちゃくちゃになりたくて、
体中が「気持ちいい」を求めてぐつぐつと煮えてるみたい。
真一くんの手が、わたしの胸をぎゅっと掴んだ。

「あんっ!」

鏡の中のわたしが幸せそうな物欲しそうな顔をして、唇を振るわせるから
なんだか今日は自分で思っていたよりもずっと興奮した声が出る。

「のだめ、どうしてほしい?」

彼の声が掠れているのは、きっと気のせいじゃない。

「ああっ…手で、こりこりってして…。」
「どこ?」
「ひゃうっ、そこ。乳首、とか…」
「こうやって?」

もう駄目。そんな風に責めてこられたら陥落するしかないよ。

「あ、気持ちいい!イイの!あ…!」

びくびくと痙攣して頭の中は真っ白。
…こんなに早くいっちゃうなんて、なんだか今日のわたしはおかしい。

と、力が入らないわたしの腰を真一くんが抱えた。
まださっきの余韻が残っているわたしの中を、容赦なく突き上げてくる。
ぐちゃぐちゃという、さっきよりずっと激しい水音がわたしの中からは絶え間なく聞こえてくるし
すっかり乾いてしまった喉からは、あられもない声がどんどん漏れていく。
もう自分がイってるのか、それともまだ上があるのかもわからないくらい「気持ちイイ」が続いてる。
いつもは目を閉じてしまうのに、鏡の中の彼がじっと見てくるから目をそらせなくて。
溶けてしまいそうな頭で、かろうじてわかるものは
口をかすかに開けて、喘ぎ声とため息と水音に囲まれて、汗に濡れながら貪り合うわたしたちの姿。

「なあ、もうすぐ…」

切羽詰った声で、てっぺんが近いことを真一くんが知らせる。

「も、来て。真一くんっ!あっ。」

喘ぎ声を止められないから、言葉がきれぎれになって。
彼がわたしの一番奥を、強く強く貫いた。

―――ああ、どうしよう。壊れる。
身体が溶けてバラバラになって、めちゃくちゃにされて。
感じるのは彼の手と、熱くつながった部分と、悲鳴にも似た自分の声。
そしてわたしは、何もわからなくなった。

「ん…」

ぼんやりと目を開けると、ベッドルームの天井が目に入る。
肩には掛け布団がかけられていて、隣には心配そうな彼の顔。

「あー。目、覚めた?」
「ハイ。」

声を出したら、思ったよりも掠れていてびっくりした。
あ―――わたし、もしかしてあのまま…。

「のだめさん、すみません。ちょっとやりすぎました。」

寝そべったまま手を合わせ、真一くんが謝ってくる。
とたんにさっきまでの痴態を思い出して、わたしの顔はボっと熱くなった。

「いやー、もう!真一くんのバカ!スケベ!変態っ!」
「変態だけは言われたくねえ!」
「もう、どこであんなプレイを仕入れて来たんですか!」
「どこでって…つーかお前だって感じてたじゃねえかっ。」

それは否めないけれど、どう考えてもコレは真一くんが悪い…と思いたい。
目が合うと具体的に思い出してしまいそうだから、わたしは布団を頭から被った。

「のだめ明日はガコなんです。最近寝不足だし。」
「わかってます。」
「わかっててやるなんて、もう。鬼!カズオ!」
「今日はなんとでも言え。」

ぶっきらぼうな声には、ちょっとだけ嬉しさが混じってるみたい。
こういう関係になって少しして、初めて繋がったままイったときも、彼はこんな声を出したっけ。
絶対甘い言葉なんて吐かない人だけど、こういうところは素直ですよね。真一くん。

「で、ご感想は?」

恥ずかしいけど、傷つけたら嫌だから本当のことを言うことにした。

「すごーく恥ずかしかったけど、でも…良かったです。」
「うん、オレも。」
「でものだめとしては、ちょっと刺激が強すぎるというか…。」
「あ、やっぱり?」
「毎回こんなんだと、身体が持ちませんよ。」
「だよな。でもまあ…」

―――可愛かった。
囁くように言われて、心の中がほっこり暖かくなった。

「九州男児は言葉に出さんけんね。小さかことでも、言う側にとっては一大事なんよ。」
「だから女は、ちゃんと受け止めてちゃんと伝えんと。」

高校生くらいの頃、ヨーコがふざけて語った「九州男児との付き合い方」。
あの頃は九州で幼稚園の先生が夢だったから、後学のためにと一生懸命聞いたっけ。

夢は先生からピアニストに変わって、ここは大川から大陸を飛び越えてパリで。
隣で抱きしめてくれる人は九州男児どころかフランス生まれの指揮者だけど
ヨーコの教えはちゃんと活用できるような、ぶっきらぼうで可愛くて、素敵な人。

でも、あんな愛情表現だけじゃなくて、たまには「アイシテル」くらい言ってほしいもんですけどね。
そう思いながらわたしは、けだるい眠りに落ちていった。






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