千秋真一×野田恵
![]() もうどれくらい千秋に会っていないだろうか。 のだめは布団を目の下までかぶり、溜息をついた。 あの二人一緒に過ごした日々のが嘘のような、一人きりの生活。 ピアノに集中している間はそんなこと考えなくても済むけれど、ふと日常生活の一瞬に、 千秋がそばにいないという事実を思い知る。 一人の食事、一人で起きる朝、一人で眠る夜。 ことさら、こんな風に寝付きが悪い夜は、ベッドの広さを感じる。 そして、いけないと思いつつも手が伸びてしまう……自分を慰めることに。 のだめは目を閉じて、千秋の手のひらの熱さを思い出しながら同じように胸を包み込んだ。 その中心はすでに芯を持っていて、転がすようにしているとさらに尖ってくるのが、 自分でもよくわかる。 「んっ……ふ……」 そろそろ、会いに行きたい。チケットを受け取らなくちゃいけないのだし、 明日あたりマンションに行こうか。 会いたい、会いたい……。 「あっ、ん……」 そう思うと、自分の胸をまさぐる指は強さを増していった。 皮膚がぞくぞくするのを感じながら、気づけば自然と足をすり寄せている。 体の奥がカッと熱くなるのを覚えながら、のだめはパジャマズボンのゴムを かいくぐって、指をそこへ忍ばせた。 千秋がいつもしてくれることをそのままに、その時のことを思い出しながら手指を動かしていく。 すう、っと息を強く吸い込むと、記憶の中にある千秋の香りが感じられた。 その途端、ショーツ越しの指先が急に濡れ、滑りがよくなる。 「せん……ぱい……」 指先のタッチに次第に熱がこもっていく。 繊細な動きの千秋の指先を思い出しながら、ショーツの中へ手を入れようとしたその瞬間。 「……!」 階段をのぼってくる足音が聞こえ、のだめをはっとして指を止めて息を押し殺した。 誰だろう?こんな夜遅くに……学生仲間たちではないはず。ムッシュだろうか? でも、この靴の音はまさか……。 のだめががばりとベッドの上に起き上がるのと、ドアがノックされるのと同時だった。 そのまま黙っているとがちゃりと鍵が開けられ、ドアが開き……。 「あ……起きてた?」 「先輩……!?」 「チケット、持ってきた……」 「えっ……明日そちらに伺おうかと思って……」 ジャケットをベッドエンドに乱雑にかけ、千秋はそのままのだめに覆い被さってきた。 のだめが言い終わる前にいきなり唇を割られ、深く舌を絡め取られる。 のだめは心で戸惑いながらも、熱の籠もったままの体は無意識にそれに応えていた。 合わされた千秋の舌をそっと舌で押し返してみると、深い息継ぎの後でさらに強く 舌を絡め取られる。 ……セックスを強く想像させる、官能的なキスだ。 「っ、は……先輩、飲んでるデショ……」 「……飲んでねーよ」 「え、だってこんな……あっ、やん」 千秋は両手にのだめの乳房を包み込み、揉みしだいた。 ぴくりと反応するのだめにあわせ、指先を尖りに当てて微かに震わせる。 息を乱して白い喉元をさらけ出したその姿に微かな満足感を感じながら、 ボタンを外すのももどかしくパジャマをまくり上げた。 「はう……っ!」 布に阻まれて見えない向こうで、敏感な突端を濡らし、舐める音がしている。 もう片方は指の間に挟まれ、きゅっと持ち上げられるとその先端と指先が顔を覗かせる。 千秋のこんな性急な行為は初めてのことで、のだめの頭にははてなマークが 消えないでいるが、体は違うようだ。 「のだめ……いや?」 「……」 とまどいの表情が見て取れて、千秋は行為の手を止めた。 「あー、あの……」 いきなり、こんな風にするつもりはなかった。 けれど、顔を見たら何かがはじけてしまったような感覚を覚えて……。 「嫌じゃないですよ……ただ、びっくりして……」 「……ごめん」 千秋は涙目ののだめを引き寄せ、今度は優しく包み込むように腕の中に抱いた。 柔らかく温かい体は自分が覚えているそのままで、千秋は目を閉じて大きく溜息をついた。 背中に回り込む腕の強さが、ただそれだけのことなのに心を駆り立てていく。 しがみつく体のしなやかさ、触れた部分がじんわり熱を持っていくような感覚……。 何度、夢の中にこの体が……のだめが出てきたか。 夢の中で、何度抱いたか……そんなこと、言えるはずがない。 千秋はそのまま黙っている。 吸う息の中に、千秋の香りがしている。大好きな、求め焦がれていた香り。 のだめは、ますます自分の体の奥が熱くなっていくのを感じていた。 「せんぱい……続き、無しデスか?」 「え……」 「のだめは、したいデス……」 「……いいの?」 顔を紅くして、恥ずかしそうにこっくりと頷いたのだめに、千秋は再び覆い被さっていった。 今度は優しく唇をはみ、体の側面を確かめるように何度も上へ下へ往復させる。 だが、そのゆっくりとした愛撫の手を、のだめは止めさせた。 自分で胸元を開き、千秋の手を乳房へ導く。 誘うように耳元で甘く声をこぼし、うわごとのように「もっと」と……。 積極的なのだめを不思議に思いながら、それならばと早々にパジャマズボンを引き下げた。 緩んだ膝をさらに開き、布越しにそこへ触れる。 「のだめ、もうこんなに?」 そこは指先をすぐにぬるませるほどに愛液が滲み、千秋が驚いてのだめの顔を覗き込むほどだった。 のだめは目を伏せてイヤイヤと首を振り、千秋の胸にしがみつくように顔を隠した。 言えない……自分で慰めようとしていたなんて、言えない。 そう、こんな風に、ショーツの中に指が入り、自分の大事なところを優しく 撫ででいくのを想像して……。 「あっ、あぁん……」 少しだけ入った指先が入り口をくすぐると、それだけで大きな音がした。 既に愛液にまみれた襞を左右丁寧に指先で挟むようになぞられていると、 痺れるような感覚が腰のあたりに満ちてくる。 敏感な蕾の根元を掬い上げられるように嬲られ、天地がひっくり返るかのような鋭い快楽に、 のだめは千秋のシャツをぎゅっと握りしめた。 優しい、けれど的確なタッチ。 自分の指先よりも少し固い、紛れもなく千秋の指先だ。 それが改めてわかると、自分の入り口から彼を求める淫液がとろりと溢れるのを感じた。 「すごい……濡れて、溢れて……」 奥へと入り込むようなそぶりを見せて、けれどまだ入り口だけをくすぐられる。 もどかしさに、息がつまりそうだ。 のだめはさらに千秋を誘うように、自らサイドのリボンをほどき、ショーツを取り去った。 それに応えるように、千秋の長い指が自分の中へ奥深く入ってくる。 「やっ、やっ……」 がくがくと腰を震わせるのだめの上半身を何とか押さえつけて、千秋はのだめの中で 指を曲げては伸ばしを繰り返した。 柔らかくとろけている内部の、つぶつぶとした粘膜がからみつくのを感じながら、 手首を回し、角度を変え、触れられるところすべてに指を這わせていく。 所々を指の腹で強く押し、反応を見ながら胸への愛撫も忘れない。 ちゅっとピンク色の蕾を吸い上げてやると、入り口がぴくんと締め付けられる。 そんな反応がかわいく、愛しい。 次第にのだめの豊かな雫はあふれかえり、指を伝ってシーツへ滴っていた。 親指の付け根にはこりこりとした陰核が触れ、ふっくらとした恥丘ごと揉み込むように してやると、膣奥がぎゅっと狭くなる。 そして奥からまたとろりとした蜜が溢れ、千秋の指にまとわりついてくる。 「すごい……もう、中までとろとろ」 「いやぁん……あぁ」 抑えきれない声を何とか押し殺して小さくとどまらせ、のだめはさらに千秋へしがみついてきた。 柔らかい粘膜はまるで生き物のようにうごめいて、のだめのいいところにヒットするたびに 肉壁がきゅっと奥へ引き込まれる。 切ないときに胸がきゅっとするとよく言うが、この「きゅっ」はそれに似ている気がする。 感じているときののだめの顔は、切なそうに見える。だからだろうか。 「ここ……わかる?」 のだめの中のぷっくり膨らんだスポットを執拗に指の腹で押し、撫で、 耳元でゆっくり囁きながら何度も耳朶を甘噛みする。 吹きかかる温かい息はまるで皮膚の内部へ入り込んで体中に回っていくようだ。 ぞくぞくとした感覚が、耳から首筋を通り、背筋を走っていく。 「だめ……だめぇ」 甘くねだるような声を漏らしてぷるぷると震え始めたのだめの、半開きの唇に舌をねじ込みながら、 千秋は指のスイングを強めた。 浮いた腰は悩ましげに前後し、唇をふさがれて鼻に抜けていく吐息は甘ったるい。 のだめの中は規則的だった動きを乱し、奥と入り口が互い違いに激しく蠢きはじめた。 「あっ、やっ、やっ!」 控えめに何度か飛沫が飛び、それをもかき混ぜるような千秋の指戯に耐えきれず、 のだめは快楽の高みへ上り詰めていく。 「あっ、ああ……っ!!やっ、あぁあん!!」 一瞬ゆるまった膣内が一際きつくなった後、ぴくぴくと蠢きながら今までよりも強くきゅっと、 何度も指を締め付けてきた。 「はう、あぁん……」 「潮、出ちゃったな」 「やだ、もう……」 蠢く内部をまだ指で味わいたいと思いながらも、千秋は名残惜しくのだめの中からゆっくりと指を抜いた。 横になっても流れることのない形のいい胸を上下させながらのだめが息を 整えている間に、千秋は着ているものをすべて脱いだ。 のだめがじっと見ているのに気づいていたが、背を向けるという余裕もないほどに、 自分のものは張り詰めていた。 もう、早く入れてしまいたい。 あのとろけて柔らかい感覚を、もっと強く感じたい。 引き出しを開け、いつものものを取り出し、のだめの視線を感じながらゴムをつけていく。 「見んなよ、そんなに……」 「だって……」 極限に近いほど張り詰めたものに、少々手こずりながらも準備を済ませた。 そして額に、頬に、こめかみにキスを落としながら、のだめの上に体を重ねる。 千秋の先端がその場所に触れると、のだめがゴクリをつばを飲んだ。 期待されている、とわかると、焦らしてやろうなんて考えは吹っ飛んでしまい、 千秋は体の求めるまま腰を進めた。 「ふあ……!」 のだめは小刻みに息継ぎをしながら、千秋を受け入れていく。 「ああ……す、ごいデス……」 「何が……」 「な、んか……あぁ、ん、おっき……い、デス……」 熱に浮かされたような顔でそんな淫らなことを口走られ、千秋は我慢できずに そのまま行き止まりへと自身を押し込んだ。 ただ繋がっているだけでのだめの内部はせわしなく収縮し、千秋を愛撫してくる。 そのまま左右に揺らしてみるだけで、のだめはイヤイヤと頭を振った。 「や、うごいちゃ……ダメ……っ」 入っている、ということだけでもう……それだけで内部が自然に反応してしまう。 自分の中が彼のその形に開かれ、そして、意識しているわけではないのに、 その形を確かめるように締め付けてしまう。 「無理……」 「やぁっ……あっ、あぁっ」 千秋がウエストを支えるようにして、ゆっくりとしたストロークで律動をし始めた。 のだめはもう自分を抑えることが出来ず、その動きに合わせて押し出されるように 声を漏らすだけだ。 繋がった部分からは押し込む度に新しい蜜が溢れ、千秋の恥毛は風呂上がりで あるかのように濡れそぼっている。 「あっ、あぁん……あっ、あぁ」 上下に大きく揺れる胸を押さえるように手のひらに掴んで、やわやわと揉みしだくと 奥がくくっと狭くなる。 のだめも自分でそれを感じていた。 自分の体が反応する度、入っているものの大きさを感じてしまう。 そうすると千秋のものの段差が良くわかり、それが自分の内部をこそぐように押し上げ、 引き抜き、またさらに締め付けてしまって……。 「おまえも、すごい……」 「あっ、あぁん、しんいちく……あぁ!」 「自分でわかるだろ、中、動いてるの」 「そんなっ、やっ、やぁ……」 のだめの喘ぎがすすり泣くような声に変わると、千秋は体を倒し、のだめの体を 抱え込むように抱きしめた。 奥へ奥へと打ち付け、止めては腰を回す。 のだめもまたそれを求めるように、膝を曲げて足首を千秋の腿の後ろへと絡ませてきた。 自分の腰の動きに合わせて、もっと飲み込みたいというようにのだめも腰を前後させている。 体がセックスに慣れていやらしくなった、のではなく、より強く自分が求められている。 そう感じる。 自分も同じだから……というのは、体のいい言い訳だろうか。 いきなり会いに来て、体を求められて、のだめはどう思っているのか。 濡れた瞳をのぞき込んでみても、その答えは今得られない。 ただ救いなのは、のだめ自身が今この行為に抗うことなく没頭しているということだ。 「のだめ……のだめ……」 「あ、あっ、真一く、ん……」 何度も「真一くん」と名前を呼ばれ、それに応えるように耳元で名前を囁くと うれしそうに内部が収縮する。 二人の間からは絶え間なくぐちゅぐちゅと淫音がたち、のだめはやだ、とだめ、を うわごとのように繰り返し呟きながら、千秋にぎゅっとしがみついた。 切ないような塊が、打ち付けるそのものに合わせて内臓をぎゅっと持ち上げてくる。 何度もその瞬間を知っているけれど、いつでもそれを受け入れるのが怖いような……。 とてもとても気持ちがいいものに違いないのに。 ……ずっとこうしたかったって言ったら、呆れられるだろうか。 会いたいのはもちろんで、でもそれだけではなく触れあいたくて。 こんな風に体に、肌に触れて、一つの場所を求め合って……。 いつの間にか涙がこぼれていたのか、千秋が頬に張りついた髪を取り除きながら 目尻を拭ってくれた。 腰の動きはそのまま、ぐいぐいと押し上げられ……。 「あ、あ、あぁ、もうっ……あぁっ、だめ、だめ……っ!!」 頬に優しいキスを受けながら、のだめは弾けた大きな塊に飲み込まれていった。 下腹部の奥の方から生まれてくるあたたかく心地よいしびれのようなものが、 体の中へ波紋のように広がっていく。 「っ……あぁ……っく……」 自分の中の千秋が一際大きくなる感じがし、その後大きく何度も跳ねた。 目の前の千秋の顔が恍惚に震え、深く息を吸って吐いたその息の中に、 艶めかしくかすれた声が混じる。 「……は……ぁ……」 「しんいち、く…ん……」 「……」 無言で力なく自分へと覆い被さってくる千秋の体。 背中に腕を回せば、汗ばんでしっとり濡れている。 心臓がその場所に移動したのかと思うほど、二人が一つとなっている箇所が どくんどくんと鼓動を刻んでいる。 それが収まるまでしばらくの間、二人はお互いを抱きしめ合った。 放心状態で動けないのだめの後始末を丁寧に終えたあと、体をベッドの汚れていない 片側へと移動させてやった。 激しく絡み合った事後のシーツは汗といろいろなものでぐちゃぐちゃだ。 「先輩……帰らない、デスよね?」 シャツを羽織り直している千秋の背中にのだめが問いかける。 「……おまえ、怒ってないのか?」 「どうして?」 「久しぶりに顔見て、すぐセックスって……」 「それだけ会いたかったって事、デスよね?」 「まあ……」 会いたかった。 事務所で仮眠中にのだめを抱く夢を見て、しばらく立ち上がれなかったほど。 このアパルトマンを出て一人で暮らし始めて、会う機会が減ってもこんな事はなかったのに。 「のだめに、会いたかったですか?」 「……会いたかった」 むきゃぁあ!!と奇声が聞こえて、背中にドンッと柔らかいものがぶつかってきた。 「お、おい……」 「のだめも一緒デスよ……会いたかったデス!」 「オレ自身はバツ悪いんだよ……悪かったな」 「もうっ、のだめは怒ってないのに……一緒デスってば」 背中にぶつかっていた二つの山が移動して、のだめの顔が近づいてきた気配がした。 耳元に吐息が当たり、その場所でくすりと笑った後、そっと囁かれる。 「会いたかったのも、したかったのも、のだめも同じですから……」 「……おまえ……エロい」 「どっちがデスか、むっつりの首位打者……」 「それやめろ」 千秋がふり返ったのでのだめは千秋の首に腕を絡め、不機嫌そうな唇にちゅっと吸い付いた。 そしていつものように深呼吸をしながら襟元にかじりつく。 深く深く千秋の香りを吸い込むと、またお腹の奥深いところにキュン、としたものを感じた。 「会いたいなら会いに来いよ」 「先輩こそ」 「……そうだな」 「ふおー、素直ですね!」 「うるさい」 千秋はのだめの唇をキスで塞ぎ、そのまま抱え上げてバスルームに向かう。 「そういえば、なんかおまえすごく濡れてたけど……」 「……うひっ」 「なんかしてた?」 「な、なにもー?」 「……素直になれ、おまえも」 ま、シャワー浴びながらじっくり聞いてやる。 という千秋の呟きに、のだめは半分のドキドキと半分のどうしようを抱えながら肩をすくめた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |