千秋真一×野田恵
![]() 日本より緯度の高いパリであってもやはり8月は暑い。 日が暮れた分、日中より過ごしやすくはなっているが、冷房より暖房を重視する土地柄、クーラーなどあるはずもなく、 窓を大きく開け放ちなんとかわずかな涼を得ていた。 千秋は夕食の後片付けを終えると、近々行われるマルレ・オケのオーディションの資料を手にソファに深く腰を下ろした。 目の前ではのだめが気持ちよさそうにピアノを弾いている。 試験やリサイタルから解放されたからだろうか、まさに勝手気まま、自由奔放といった様子である。 しかし、出会った頃の様でありながらそれとは全く異なる彼女の奏でる旋律は心地よく、千秋は自然と耳を傾けてしまう。 (今度はモーツァルト…この間のやつか) 千秋はこの夏のサン・マロでの教会リサイタルを思い出した。 モーツァルトだらけの城にモーツァルトマニアの城主。プレッシャーに襲われ不安がるのだめが求めたものは例の書簡の朗読という羞恥プレイ。 『この本 読んでください』 千秋はベッドの上にちょこんと正座したのだめの姿に一瞬でも期待してしまった愚かなあの夜の自分を思い出し、苦々しく眉をひそめた。 (あれは、ひでーよな…) しかし、同時に無防備なのだめの寝姿まで思い出してしまい、生殺しにされた行き場のない悶々とした感情が生々しく蘇ってきてしまった。 (やばっ…) 千秋は慌てて下半身に集中しそうな血液を散らそうとした。 するとその時、突然、アパルトマン中に大声が響き渡った。 「のだめーーー!!!!」 声の主はターニャらしい。 その声に我に帰ったのだめは急に演奏を止めた。 「もう止めるのか?」 ターニャのおかげでなんとか事なきを得た千秋は平静を装う。 「この時間に弾くなってターニャに言われてたんデスヨ。忘れてマシタ。今日は見たいドラマがあるらしくて」 窓、閉めると暑いし…と口をとがらせブツブツとぼやきながらのだめは千秋の横に腰をおろした。 その勢いにソファが軋む。バランスを崩したのだめは千秋に寄り掛かった。 「暑い。くっつくな」 先程までの邪な頭の中を覗かれてしまいそうで、千秋はわざと少し冷たく嫌がる素振りをしたのだが、 そんな彼の言葉など気にもとめず、のだめは彼の手元を覗き込んだ。 「あっ今度のオディションのデスカ?」 「関係者以外お断り」 いくらのだめがマルレに頻繁に出入りしているからといっても部外者に変わりない。 千秋は興味津々なのだめの頭をポンっと書類で叩くと立ち上がった。 鞄に仕舞い、振り返るとのだめは拗ねるようにソファに横向きに寝転んでいた。 その姿にあの日の夜が重なる。 開いた胸元から腕に押され強調された谷間が、少し捲れたスカートの裾からは健康的で程よい肉付きの太ももがちらりと覗いている。 普通に考えれば誘っているかのようにも見えるのだが、どうやらのだめ本人にはそんな気はないらしい。 実際、邪気のない笑顔でプリごろ太のオープニングを口ずさんでいる。 そして、そんなことは千秋も経験上分かりすぎるくらい分かってるのである。 千秋とのだめが『恋人』になってから今日まで何か月たっただろう。 一線を越えるチャンスは何度もあった。しかし、それっぽい雰囲気になるとのだめにかわされるのである。 一度や二度ではない。あるときは自然にまたある時は不自然に。 最初の頃は「まだ時期尚早か」などとも思ったがが、半年が過ぎたころには彼女の自分への愛について考えてしまったりもした。 しかし、彼女の日頃の行動を思うとそんな疑念を持つことさえバカバカしく、 結局のところ「変態だから」ということで自分自身を納得させていた。 だからといって今、この恋人の魅力的な姿に欲情するなと言う方が無理な話である。 抑え込んだはずの欲望がまたふつふつと湧き上がった。 千秋はソファに戻るとのだめの頭を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。 「せんぱい?」 不思議そうでいて嬉しそうに自分を見上げたのだめに千秋は前触れもなくキスをした。 不意を突かれたのだめは一瞬、硬直してしまったが、一度離した唇をもう一度重ねた時には答えるように柔らかく受け止めた。 もしかしたらと淡い期待を抱きつつ、千秋はのだめの気持ちを探ろうと、ノックをするようにキスの強さを変えてみる。 優しく強く唇を吸い上げる。次第に千秋のシャツを握るのだめの手に力がこもる。 千秋は薄眼を開け彼女の様子を窺った。 頬を赤らめているものの嫌がってはいない。それどころか積極的にさえ見えた。 試しに舌を侵入させてみると意外な程あっさり受け入れられ、期待は確信に変わった。 逸る気持ちを抑えつつ、千秋が胸元からそっと手を滑り込ませたその時、のだめは力一杯千秋を押し戻し、素早く起き上った。 「やらしかー!!」 千秋はとっさに状況が飲み込めず、茫然とした。諦めの2文字が頭をよぎる。 しかし、今日こそははっきりさせてやると思い直し、強い決意でのだめに相対した。 「…そんなにイヤなのか?」 真っ直ぐに自分を見詰める千秋を見つめ返したままのだめは押し黙っていた。 千秋は問い詰めたい気持ちを堪え、辛抱強くのだめの返答を待つ。 やがてのだめは意を決したのか、恥ずかしそうに重い口をあけた。 「だって…今日は上下セットじゃないんデス」 「はぁ?なにが?」 「だから、下着が上下セットじゃないんデスヨ!」 千秋は呆気にとられた。 「…今までも?」 「そうデスヨ!のだめがせっかく上下セットにした日には先輩、決まって酔っ払って先に寝ちゃうし…」 そんなことで、たかがそれだけのことで…。 「プ…クックック…」 あの悩んだ日々が馬鹿らしく、千秋は思わず笑いだす。 しかし、その笑いの意味が分からないのだめは、自分が笑われた様で面白くない。 「笑うとこじゃなかと!」 大川弁で怒りをぶつけると自室に帰ろうと立ち上がった。 「おい、ちょっ…」 千秋は慌てて追いかける。ドアの手前でのだめを掴まえると強引に抱きしめた。 のだめはムキャっと奇声を発し抵抗するように体を硬くする。 「先輩とは一生そゆことしまセン!」 変態のだめの言うことだ。このチャンスを逃すと、今度は本当にいつになるか分からない。追い詰められた千秋は卑怯ながらも奥の手を使った。 「…俺が悪かった」 小声ではあるが珍しく素直に自分の非を認める千秋にのだめは「ふおぉ」と驚嘆の声を漏らし、彼を許すように体の力を抜いた。 ほっと胸を撫で下ろした千秋は腕の力を緩めると続いて耳元で囁いた。 「そういうの気にすることないから…」 (そんなもん脱げば一緒だ)という続きは胸の内に仕舞い込み、深く長くくちづける。のだめはすっかり従順になり、千秋に促されるままベッドへと向かった。 ―――――― 千秋は以前から思っていた。 おそらくのだめは初めてなのだろう。ならばその時には順序よく、優しく丁寧に愛してやりたい。 がっつかず、あくまでも紳士的に。 しかし、理想など現実の前には儚いものである。 ベッドに座り上気した顔で潤んだ瞳で自分を見つめるのだめに、千秋のリミッターはあっけなく切れた。 紳士なんてモノは何処かに吹き飛び、ただ若さと劣情のの塊になる。 千秋は覆いかぶさるようにのだめをベッドに押し倒すと開いた胸元から手を差し込んだ。 しかし、どうしても服が邪魔をして思うように弄れない。 苛立つ千秋はワンピースの襟ぐりを無理やり伸ばし、二の腕まで引き下ろした。 「せ、せんぱい、服、破けちゃいマス…」 今の千秋にとっては服などどうでもいいことだ。 のだめの抗議など意に介さぬ様子で彼女の豊かな乳房を引きずり出し撫でまわし揉みしだく。 ようやく味わえた待ち望んだ感触に千秋はより一層昂った。弾けるように自己主張をしている豊かなバストに顔を埋めると、 それとは対照的なかわいらしい小さな乳首を舌で吸い転がし舐めまわす。 「…ん…んん…ン…」 声を殺し初めての快感を身を捩り表すのだめが無性にかわいく思え、全てが欲しくなる。 スカートの中に手を入れるとショーツの上から恥丘に指を這わせ、割れ目を辿る。 そして指でショーツの端を軽く持ち上げると惹きつけられるように花弁へと進めた。 蜜が溢れ出した秘園は柔らかく、指にねっとりと絡みついた。 「…ぁ…イャ…ん…」 のだめは恥ずかしがりぎゅっと強く足を閉じようとしたが、千秋はそれを許さず、すかさず膝を割りいれる。 のだめは抵抗するように腰をくねらした。 「…ダメ…あ…ぁ…せ、せんぱい…恥ずかしいデス…」 「なんで?」 「…だって…まど開いてマ…ス…」 「じゃあ声出すな」 そう言いつつも千秋はわざと声を上げさせようと大きく突起した蕾に蜜を塗り込み執拗に攻め立てる。 「お前、すげー濡れてる」 「…はあっ…あ…んん…真一くん…ヒド…イ…」 千秋は唇でのだめの声を吸い取るように塞いだ。 くちゅくちゅと音を立て舌を絡ませ、とろとろになった秘所を指ですくい擦り弄る。 「ん、ん、ん――……」 やがてのだめは白い喉を仰け反らせ、小さく震えながら絶頂に達した。 千秋が唇を離すとのだめは大きく息を弾ませ、ぐったりとベッドに沈んだ。 「おい、のだめ生きてるか?」 動かないのだめに刺激が強すぎたかと千秋は心配になる。 「…ハイ。生きてマス…」 息絶え絶えではあるが、意識ははっきりしてるのだめに千秋は安心し、気づかれないように小さく息を一つ吐くと彼女の服を脱がそうとファスナーを探した。 ―――――― 全てを脱ぎ捨てた千秋はベッドに座りこみ、のだめに背を向け先に進む準備を始めた。 やっと呼吸の落ち着いたのだめはもぞもぞと這っていき、興味深そうに千秋の下半身を覗きこむ。 まじまじと見られるのは千秋も流石に恥ずかしいらしい。彼女の視線から逃れるように体を捩った。 しかしのだめはそそり立つ彼自身に触れてみようと手を伸ばす。 「お、おい、こらっ」 のだめが恐る恐る触れるとピクピクッと動き、さらに反り上がった。 「ふおぉぉ…」 好奇心から、のだめが先端に指を伸ばしてみると、粘液が糸となってのだめの指と彼とを繋いだ。のだめは面白くなり、何度も繰り返し糸を手繰ってはこすりつける。 (うっ…変態め) ぬるぬるとした感触がとてつもなく気持ちよく、触って欲しくないといえばウソにはなるのだが、これではのだめに主導権を握られている様で気に入らない。 気持ち良くさせるのは俺の方だといわんばかりに、のだめを退けると素早く紺色のパッケージを破く。 エロサイトを見ている為だろうか、のだめは余計な知識は豊富らしく、すかさずそこに書かれたOKマークに気づいた。 「せんぱい、それ…日本から輸入?」 「…悪いか」 開き直りつつもバツの悪い千秋は誤魔化す様にのだめをくみしだくと、乳房に吸い付きながら、残しておいた布切れの紐を解いた。 愛密に濡れそぼった恥毛をかき分け、指で花びらを開き彼自身を擦りつける。 そしてそのままゆっくりと挿入するが、のだめの中は異物を拒むかのようにキツく、なかなか奥に進めない。 少し挿れては押し戻される。 千秋は苛立ちを覚え、思い切って自身を突き立てる。 その衝撃にのだめの体はずり上がり、小さく悲鳴を漏らすと顔を苦痛で歪ませた。 「痛い?」 千秋は辛うじて僅かに残った理性でのだめのことを気遣った。 「…大丈夫デスヨ…嬉しいデス」 健気に答えるのだめに千秋の胸に甘く酢っぱいものがこみ上げる。 唇、耳、頬、首筋、胸とキスの雨を降らせながら夢中になって、しかし緩やかに腰を揺り動かした。 汗と体液が混ざり合い、繋ぎ目がくちゅくちゅといやらしい音を立てる。熱い。全てが、頭の中までもが一緒に溶けてしまいそうだ。 「…しんいちくん…しんいちくん…」 のだめは千秋にしがみつき、うわ言のように彼の名を呼ぶ。 (のだめ…) 千秋が心の中でそれに答えた時、電気の走る前兆を感じた。 (やば…早すぎる) 久し振りの行為に千秋は危うく昇り詰めそうになる。 少しでも引き延ばしたく、気を散らせようと辺りを見回した。 すると、のだめの持ち込んだプリごろ太グッズが目に入る。それと同時にプリごろ太のテーマが頭に流れ出した。 消そうとすればするほどに、のだめが口ずさんでいたまま、プリごろ太はより軽快にリズムを刻む。 (…呪われてる…) 逆の意味でやばくなった千秋は慌ててのだめに視線を戻した。 のだめはそれに気付き、息を弾ませ痛みに顔を歪ませながらもにっこりと笑った。 「…真一くん…大好きデス」 一瞬にして頭の中から全てのものが消えた。硬度は戻り、それどころか抑えが利かないほどの快感に襲われる。 抵抗できない。もう果てるしかなかった。 「…のだめ…っ!」 千秋は溢れんばかりの精を吐き出した。 ――――― 暑い。とにかく暑い。 最中には夢中で気にも留めなかったが、事が済んでみると体中が汗でべとついて気持ち悪い。 本当だったらじゃれ合って余韻を楽しみたいところだが、フロにも入りたい。 千秋は暑さと疲労で鈍くなった頭をなんとか働かせ妥協案を探し出す。 「…のだめ、フロ入るぞ」 千秋は余韻を楽しむ代わりにさりげなく一緒に入ろうと誘ってみた。 しかし、のだめは目を瞑ったまま動こうとはしなかった。 「のだめ、まだこうしてマス。先輩お先にどうぞ」 僅かに口元が上がっているものの眼を瞑ったその表情からはのだめの今の気持ちを窺い知ることができず、 床に投げ捨てられた無残に伸びたのだめの服と相まって、千秋は妙な罪悪感に襲われる。 千秋はのだめの体にシーツを掛けてやると、額に掛かった前髪を指先で愛おしそうに撫でた。 のだめの口元から笑みがこぼれる。千秋は救われた気がして、素直に心から懺悔した。 「のだめ…なんか…いろいろ…ゴメン」 のだめは最初、何のことか分からない様子できょとんとしていたが、間もなく慈しむように、彼の手に自分の手を重ねた。 「のだめは嬉しかったデスよ。それに…」 「それに…?」 「先輩の身勝手さは今に始まったことじゃないデスから」 きつい事を朗らかに言い放つのだめに、千秋は少々癪に障ったが、自分の所業を思うと、今夜はもう何を言われても反論する気にはなれない。 「…そのまま寝るなよ」 とだけを言い残し、バスルームに向かった。 ――――― シャワーを浴びながら、千秋は考えていた。 (明日、外に出て服でも買ってやるか。それから何処かで美味いものでも食べて…) 美味しいものを食べ、嬉しそうな顔をするのだめを想像すると自然と顔が綻ぶ。 早く伝えてやりたくて、千秋はシャワーをさっさと切り上げた。 「おい、のだめ、明日…」 千秋がバスルームを出ると、のだめはシーツを体に巻き、背中を丸めゴソゴソとごみ箱を漁っていた。 何かを真剣に探しているようで、千秋の存在に全く気付いていない。 「お前は何を…」 背後の千秋の声に、のだめはぎゃぼっと体をびくつかせた。手に見覚えのある紺色のパッケージを持っている。 「せっかくなので、取って置こうかと…」 皆まで聞かず、千秋はのだめに枕を投げつけた。 「この変態!」 「ぎゃぼ――!」 その拍子にシーツが緩みのだめの裸体が露わになった。 (ったく、そんなのいちいち集めてたらキリがないぞ) 本体じゃないんデスからーというのだめの嘆きを聞きつつ、千秋は再び彼女に手を伸ばした。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |