千秋真一×野田恵
![]() 「……のだめ」 「ん……だめ、です。眠い……」 のろのろと背中を向けて拒否しようとするのだめを後ろから抱きしめ、 体ごとすっぽりと腕の中におさめる。 もぞもぞ動くのだめの頭に顎をのせると、まだ少し湿っていて、シャンプーの香りがした。 「寝てて、いいから」 ……触らせて。 言葉に出すかわりに、髪に口づけた。 アパルトマンに泊まり込んで数日。 ぎりぎりの時間までピアノを弾き、軽く食事をとってすぐにまたピアノ、そして 眠るまでの時間を使って譜読み、その生活が繰り返されている。 のだめはおそろしいほどの集中力を見せ、今日も3時を過ぎてようやく倒れ込むように ベッドについた。 そんな彼女をオレは身勝手にも求めようとしていた。 ……こんなに近くにいるのに、触れずに我慢できるわけがない。 オレがこの部屋を出てから、こうして二人で過ごせる時間は特別なものに変わった。 つい先程のキスを思い出していた。 あの状況で、彼女がピアノを弾かずにその続きをすることなどない。 わかってはいたが、ともすると恋人同士であることを忘れ、音楽に没頭しすぎる自分たち。 気づいたときには手遅れになるのではないか、そんな危機感が頭の片隅にあるオレは、 「恋人として過ごす」タイミングをのだめよりも気にしているのは確かだ。 もちろん、抱き合うことだけが恋人関係を持続させる条件ではないことは知っている。 けれど、言葉が足りない自分たちには、それが足りない部分を埋めてくれるのも知っていた。 そして何より、「触れたい」とお互いに欲する気持ちがあった。 眠いせいか、のだめの体は幼い子供のようにしっとりと熱をもっていた。 酷使している肩からひじをマッサージするように、そして手首から指先までを丁寧に ほぐすようにたどる。まだもぞもぞとオレの腕から逃れようとしていたが、 「こら。じっとしてろ」 後ろから体をぴたりと密着させ、耳元でささやくと、ようやくおとなしくなった。 部屋着を兼ねたネグリジェをカーディガンとともに肩から抜き、胸のふくらみに触れる。 こうして抱きしめているときは、自分だけのものになったような気がして安心する。 その安心感を得たいがために、彼女に声を上げさせ、泣き出しそうな顔をさせてしまう。 何度も何度も。 「あ……せんぱ……。そんなに……。のだめ、疲れて何もできないし……」 「いいから。……オレがしたいだけだから」 のだめが寒くないように、上半身には毛布を掛けたまま、オレは足元に跪き愛撫を続けた。 自分とは全く違う、なめらかな細い脚。足首をつかんで甲、くるぶしに口づけ、 さらに足の指を1本1本口に含んだ。 「ん…っ……真一くん……」 のだめは驚いたように、少し体を浮かせてこちらを見た。 「いや?」 「そんなわけ……ないじゃないですか……」 ふふ、と恥ずかしそうに微笑むのを確かめ、オレは再び彼女の脚に顔をうずめる。 ふくらはぎ、膝、膝の裏。 キスをしながら両脚を交互に進み、ひときわ白く薄い皮膚をした内腿にたどりつく。 唇全体で音を立てて吸いつくようにすると、そこには赤い印がついた。 「んっ……」 軽く膝を開き、ショーツ1枚になった足の付け根が、ひくり、と静かに震える。 内腿から舌でラインを描くようにそこに向かう。じらすような感覚に、のだめの腰が 僅かに逃げようとするのを制しながら、ショーツのリボンをほどき、潤んだその場所を そっと指でなぞるように触れる。 一瞬のだめが息を大きく吸う。オレはそのまま体を重ね、首筋、鎖骨、胸とキスをしながら 指でのだめの中を探り、感じやすい場所を刺激し、潤いで満たした。 準備をし、あたたかなのだめの中に自身をゆっくり進めていく。 頭がぼうっと痺れるような快感。 繋がった一点から心地よさが体の隅々まで伝わり、心がほぐれていくのをオレは感じていた。 強過ぎる刺激を与えたり、疲れさせることのないように、ゆっくり動く。 その動きにあわせ、ゆるやかに体を揺らしながら、のだめは濡れた唇をうっすらと開き、 声とも呼吸ともつかないかすかな音を漏らす。 普段の彼女からは想像もつかない悩ましい表情を見つめながら、オレは先ほどの ベートーヴェンを思い出していた。 こいつの才能は並じゃない。 いつか、オレや身近な人間だけでなく、多くの人をその音色で感動させる時がくるだろう。 おまえに出会ってオレの人生が変わったように、オレもおまえの人生を変えてしまったのかもしれない。 その先にあるものは何だろう? 「のだめ……」 彼女の快感の頂点が近いことを、自身への反応で感じる。 「……んっ……あ、ああ……」 迷うことなくしっかりと自分の首にまわされたのだめの腕の感触。 のだめは何も言わないのに、オレはなぜかいつもこの瞬間、彼女に許されているような安心感を抱く。 どこまでも一緒に快感の渦に巻き込まれていくような感覚。 のだめがひときわ高い声を上げ、オレは自分を解放した。 「真一くん……」 もう半分夢の中なのか、子供のように胸元にしがみつき、のだめがキスを求めてきた。 自分の胸に包み込むように、彼女をこちらに向けて抱き直し、唇に、額に、耳に、 閉じたまぶたにやさしく口づける。 髪が少しだけ汗ばんでいて、風邪を引かせてしまうのではないかと心配になり、 手でそれをぬぐってやる。 と、あまりの過保護にふと気づき、おかしくなる。 ……今日もよく頑張ったな。 でも、これには終わりはないんだ。おそらく。 もちろんおまえだけでなく、オレにも。 ゆっくり、ゆっくり、髪を梳くように撫でる。 「……のだめ」 腕の中で、規則正しい寝息をたて始めたのだめのぬくもりをもう一度確かめるように、 そっと額にキスをして抱きしめた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |