L88より
千秋真一×野田恵


午前三時――。

弦セクションを全部一日でやるという、まるで荒行みたいなオーディションの後、
なんやかんやと雑事を終えてアパルトマンに辿りつくとこんな時間になっていた。
さすがに日中より幾分ましではあるが、じわっとした熱をまとったままパリの夜は更けていく。
汗に濡れて湯気が立ちそうなジャケットを脱ぎ捨ててベッドの上に放る。つまりベッドは無人だ。

―あれ?

扇風機の立てる軽やかな音に奥の部屋へ目を向けると、投げ出された足が見えた。

「のだめ!?」
「はい……、つまみ食いなんかしとらんよ……よっくんじゃなかと?」

寝言だ。
床の上でクッションを枕にのだめが眠りこけていた。
開け放った窓からはカーテンを揺らす程度に風が入ってくる。おまけに足元には扇風機が置いてある。
部屋の中の一番涼しいところで寝ているのだ。まるで猫のように。
明け方には少し涼しくなるからタオル地のブランケットを掛けてやった。
思わず頬が緩んだのは能天気な寝言のせいもあるけど、安心しきって眠ってるこいつの姿が
この部屋にあったせいかもしれない。

シャワーを浴びてさっぱりしたものの、また汗をかくのがいやでシャツを着るのは
少し涼んでからにしようと思い直した。
のだめが起きてたら騒ぎ出すので厄介だが、幸いなことによく寝ている。
この暑さの中、そのくらいの行儀の悪さは大目に見てもいいだろう。
明日の、といってももう今日だけど、木管セクションのオーディションの事を考えながら
ミネラルウォーターを呷る。

「ほわ……せんぱい?お帰んなサイ」
「悪い、起こしたか……」
「あれ、いつの間に寝ちゃったんだろ」
「待ってなくていいって言ったのに。……ついでだからちゃんと着替えてベッドで寝ろよ。腹壊すぞ」
「はぅ……でも、このワンピース、ボタンが背中だから面倒くさいんです。いっぱいあるし」
「ってそれで待ってたのかよっ」
「せっかくですから手伝って下サイ」
「しょうがねーな、ホラ起きろ

のだめは寝ぼけまなこをこすりながら起き直り、ペタンと座った。
着られたんだから脱げないわけはないんだけど、起きて待ってた口実のつもりかもしれない。

背後に屈み込んで、何でオレがこんなこと、とぼやきながら、ひとつ、ふたつ。

のだめの肌なんか見慣れてるんだから別に欲情したりはしな…………、あれ?
動悸がする……いや、これはきっと暑さのせいだ。

『先輩好みにちょっと色っぽく丈を短くしてもらいましたー』
『千秋君、ボタン8コもあって大変かけど、頑張ってね』

不意にヨーコとのだめの会話が頭の中によぎったのは、寝言に混じっていた大川弁のせいだろうか。
あの時は思わず赤面したけど、それは単に気恥ずかしい会話だったからで、
自分がのだめの背中のボタンを外すのを想像して赤くなったわけじゃなかったはずだ。なのに今は――。

そんなことを思いながら、みっつ、よっつ。

ブラが見えた。
その留め金もついでのようにぷちんと片手で外す。前から手を回して外すのよりは、当たり前だけど簡単だ。

「ふえっ!?そ、それは外さなくても……」

その声が聞こえなかったかのように黙ったまま、いつつ、むっつ。

そして半ばあらわになった背中に唇を落とす。

「せん…ぱい?」

うなじに唇を滑らせ、髪をかき上げ、耳の後ろを舌でくすぐる。
シャンプーとボディソープの匂いがした。
フロ嫌いののだめも、さすがにこの暑さのせいかちゃんとシャワーを浴びたらしい。
珍しく髪がちゃんと乾いてるのは、ずっと扇風機の前に陣取っていたからだろう。

「ひゃっ」

ミネラルウォーターで冷えた舌が冷たかったのか首をすくめて驚いて、そして次の瞬間にはもう声が艶めく。

「ぁ、ん……のだめ、眠いんデス…よ」
「ふーん」

指先で耳の縁をいらう。
胸をかばう腕をこじあけるようにして前にまわした片手でふくらみをつかむ。

「……何す……はぅっ」

空いている手で、ななつ、やっつ。これで全部。

さなぎが背中から割れるように、ワンピースはのだめの腰まで落ちた。
隣の部屋から漏れる灯だけの中、滑らかな背中に視線がひきつけられる。

「パジャマに……着替え……」

ふくらみをつかんだ指に少し力をいれる。

「せ、先輩?遅くまで仕事で疲れてるんじゃ……」

今は真夜中というか夜更け。昼間から夜までこのクソ暑い中で山ほどの応募書類に目を通し、
めいっぱいオーディションをして、疲れていないわけはない。

でも――。

「別に」
「だって朝も……」
「朝したら夜しちゃいけないって誰が決めたんだ」
「えと、フランスの法律に」
「あるわけねーだろ」
「ジオン公国の憲法で」
「違う星の話だ」
「ラストニアの条例が」
「どこだそれ」
「……」
「イヤなのか?」

イヤかどうか、見てればわかる。大体、本当にダメだったらのだめがこんなに大人しくしているわけがない。

「でも……、先輩疲れちゃいますよ?」
「大丈夫」

やっぱり、のだめなりにオレを気遣ってるらしい。
まあ、疲れはするだろうが、我慢しろと言われる方が辛い。
それに疲れてるからこそってことも男にはある。もちろん、そればかりじゃないけど。

床の上に座り、のだめをかかえ込むように背後から両腕を回す。
二つのふくらみを手のひらで覆い、といっても全部は覆いきれないが、
手のひらを乗せたままゆっくりと円を描く。
マッサージのようなその動きに、のだめが、ふぅっと息を吐き出した。
のだめの腕は押さえられていてオレの手を制止することはできないが、どうやら抗う気もなさそうだ。
ふくらみを掴んでじわじわと揉むように指を動かす。
のだめは腰まわりに落ちた自分のワンピースをぎゅっと握って肩を小刻みに震わせている。
手を止めて耳元で囁く。

「やめとく?」
「え……」
「眠いんだろ?」
「……イジワル……」
「どうする?」
「続けて……下サイ」
「しょうがないな、してやるよ」
「な……先輩が……あ、やっ」

ふくらみの上の小さな蕾を指先でくるりと撫でる。
のだめはびくんと体を震わせた後で、首を後ろに捻り、口を尖らせながらちょっと睨むような目をした。
そしらぬふりで蕾を摘み、捏ねるように弄る。
顔をのけぞらせて身を捩り、甘い声を上げ始める。
指をアルペジオのように動かしてふくらみをもてあそんでいるうちに、ふにゃっと柔らかかった蕾が
コリコリとした感触に変わってくる。

「ぁっ、あんっ」

胸にもたれかかりながら顔を仰向けてオレを見上げる。

「せん……ぱい?」
「ん?」
「やらしーのはいいんデスけど、先に、ただいまのキスくらいして下サイ」
「ん……」

押えていた体を解放すると、のだめはこっちに向き直って首にしがみついた。
して下さいと言ったくせに自分から唇を寄せてくる。
待ち構えて受け止めて軽めにひとつ。

「ただいま」
「おかえりなさい、ん、口がスースーしますヨ」

歯磨き粉に入ってるミントの香りだろう。
もう一度捕まえて濃厚なやつをひとつ。
舌で唇を割り、頬の内側、上あご、歯の裏側までなぞってから、のだめの舌に絡ませる。
オレの裸の胸にのだめのふくらみがぎゅうっと押し付けられて、もちっとした柔らかさと弾力と、
先端の感触が欲望を煽る。
浮かせた腰を抱えながらまだ下半身に絡んでいるワンピースを剥がすように脱がせ、
腰にかかる紐まであっさりとほどいて生まれたままの姿にしてしまう。
まだ寝ぼけてるのか案外のだめは逆らわなかった。

「んっ……、もぉ、器用デスね、先輩は」
「別に」

唇をもう一度ふさぎながらヒップを撫で回すと、喉の奥から甘い声。

「ここでいい?向こうより涼しいし」
「でも……窓」
「もう誰も起きてないだろ、どこも灯りついてなかったし」
「先輩がいいならいいですケド……」
「ちょっと待って」

立ち上がって持ってきたのはブランケットをもう一枚と小さなパッケージ。
我ながらどうかしてると思うけど、のだめとこういう関係になってからはどうにも自制が利かない。
振り返ると、のだめはぺたんと座ったまま、言われた通りにオレを待っていた。
それを見たら、何だかひどく不埒なことをしているような気がした。
すっかり慣れたのだめの肌も、普段ならベッドの上、せいぜいカウチかバスルームでしか見ることはない。
床の上に置き去りにされた裸身はいたいけで、それを汚そうとしているような罪悪感が湧いてきて、
奇妙な興奮と倒錯的な欲望をかきたてられた。
つまり、俗な言い方をすればものすごくそそられている。
パリに来て初めてのだめを抱いて以来、たぶんオレにとってはかつてないほどの頻度でセックスをしている。
マンネリなんてとんでもない、去年の冬には長田さんに、そしてついこの間もターニャに「孔雀」扱いされたほどだ。
何も特別な仕掛けなんてなくたってのだめと二人きりになれば抱き寄せたくなる。孔雀どころかパブロフの犬だ。

「下、固いから、これ」

二つ折のブランケットをもう一枚重ねて敷いた上に腰を下ろしてからのだめを促す。
立ち膝のままにじり寄ってきた体を抱き寄せて、髪をかきあげながらキスをする。
しなやかに反った背中から腰までゆっくりと手を滑らせて吸いつくような肌の感触を味わってから、
ブランケットの上にのだめを横たえた。

座ったまま頭を下げて、舌先でのだめの肌の上をなぞる。
首筋からふくらみの麓へくだり、それを巡ってから頂へ。
既に張りつめて立ち上がっている蕾を唇で挟んでゆっくりと扱いてやると、胸を突き出すように
体をしならせながらさえずるように鳴く。
胸の谷間へと川の流れのように蛇行して降りていく。
のだめの胸はゆっくりと、だけど大きく上下していて、艶やかな吐息が漏れる。
手に余るふくらみに片手を乗せたまま、ゆるやかに舌を這わせ続け、平らな腹部をくすぐるように通り過ぎ、
やがて河口へたどり着く。
この先は、海。本物の海は苦手だけど、この海にはずっとたゆたっていたい。

「脚、開いて」

のだめは伸ばしたままの脚を肩幅ほどに広げる。
もう一度促すとオレの体が入るには十分なスペースができた。

「膝、曲げて」
「や……」

手を添えて押すと割に素直に曲げたけど、横を向いたのだめの顔は薄明かりでもはっきりわかるほど紅潮している。
内股をさわさわとさすりながら問いかける。

「どうした?」
「恥ずかしい……デス」
「何で?」
「見てるから……」
「オレが?」
「ハイ」
「いつもしてるのに?」
「でも、なんか……いつもと……」

それをのだめも感じてたらしい。
視界に入るのはピアノやテーブルの脚。柔らかいベッドではなく硬い床を背中に感じながら
カーテンが揺れる窓を見上げている違和感。
いけない場所で、いけないことをしているような奇妙な感じ。

「だからこんなに感じてるのか?」
「そ……んなこと……」

でも、そうだ、と指で触れた場所は答えてる。不安と解放感で興奮して、そんな自分に羞恥していると言ってる。
それに言葉よりも表情の方が正直だ。飽きるほど(飽きてないけど)のだめを抱いてるオレには
今どんな風に感じてるか手に取るようにわかる。
恥ずかしがりながらもオレが触れるのを待ち焦がれてる顔を見ると、うれしくなるのと同時に
苛めてやりたい気がしてしまうのはなぜなんだろう。

「じゃあ、どうしてここが」
「あ……」
「こんなに濡れてる?」

ほとんど何もしていないうちから蕩けだすように零れた蜜で、花びらはぐっしょりと濡れていた。
それを啜るようにちゅっと口づけてやる。

「やっ……ぁん」

羞恥の色はまだ残ってるけど、そのイヤは拒絶じゃない。
忍び込ませた舌で浅いところをかき回し、わざと音を立てながら入口にあてがった唇で吸い上げると、
切れ切れに喘ぎ始める。

「んっ…ん、ふ、ぁあんっ」

刺激に反応してひくひくと蠢きだした襞の隅々まで舐ってから、もう少し上、
まだ莢の中に隠れている小さな芽まで舐め上げる。
びくん、とのだめの体が跳ねるように震えた。

「ここ?」
「ぁあんっ」

指先で莢を押し上げて軽く息を吹きかけると、甘ったるい声を上げる。
悶えるように腰が揺れるのを感じながら、その小さな突起に繰り返し口づけて、吸う力を段々強めていく。

「ゃっ、それ、ダメっ」
「なんで?」
「だって、声…」
「窓、開いてるからな」
「やっぱり、いじわる……」
「気持ち良くないの?」

目を閉じたまま弱々しく首を横に振る。

「どっち?」
「気持ち……イイです」

そんなことはわかってる。ただ、聞きたいだけだ。

「じゃあこっちにする?」

尖らせた舌先で、すっかり張りつめて赤くなった芽をつんつんとつついてやる。

「はぅっ、しんいちくん……、それっ……もっ、あ、んっ」

つつく度にびくびく体を震わせながら訴えたけど、もうそれを真に受ける必要はないだろう。
開いた窓を気にして堪えているような、それでいて零れてしまう声に背筋がぞくぞくしてくる。
つついて、吸って、捏ねて、またつついて、唇で包むように覆って、小休止と見せかけて強く吸い上げる。

「あ、やめっ…、は……んっ、ダメっ…あぁっ、うっ、いゃあぁっ…」

悶えるように身を捩り、腰を持ち上げてわなないた後、一瞬体を硬直させたと思ったら、
床の上に脱力したように落ちかかってくる。
ベッドと違って硬い床だから、慌ててその腰の下に差し入れた手で衝撃を和らげてやる。

「もういっちゃった?」
「……だっ…て」
「だって、何?」

言い澱んでいるのは息が切れてるせいばかりじゃなくて、それを口にするのが恥ずかしいからだろう。
だからこそ言わせたくてしつこく問いかける。

「何?」
「気持ち……良かった、から」
「じゃあもっと良くしてやるから」

「あ、待って、くだサイ」
「少し休む?」

のだめが、パッケージを開けようとしているオレの手を止めた。

「そじゃなくて……のだめにもさせてください」
「え……」

言いながら体を起こしたのだめがオレの脚の間に顔を埋めていった。
もう待ちきれないほどに漲っているそれに手を伸ばす。

「あ、おい、力入れて掴むなよ」
「わかってマスよ」

そっとくびれの下あたりに手を添えると唇を近づけて、ぱくり、とくわえ込んだ。
声をあげてしまいそうな心地よさと、幼げにも見える動作のギャップに刺激されて、中途半端な声が漏れた。
それを聞いて不安げな顔で見上げたのは、拙いと自覚しているからだろうか。

「気持ち、いい」

上目遣いで見上げるのだめに安心させるように言ったのは嘘じゃない。いくらネットで見たからって
実際とは勝手が違うだろうから、確かにぎこちない動きだけど、それでも十分に気持ちよかった。
何よりも神妙な顔つきでオレを喜ばせようとしてるのがうれしいから。
のだめはほっとしたように、また顔を伏せた。
口一杯に頬張って先端からくびれにかけて舌を絡めている。
熱くて柔らかな舌にまとわりつかれて腰のあたりがぞくり、とする。
幹をのだめの唇が上下するたびに聞こえる、濡れた摩擦音が淫靡だ。
根元から唇が届かないところまで握った手で擦り上げることもいつの間にかおぼえていた。
撫でるようにのだめの頭に触れながら、もう一方の手を胸元の蕾へ伸ばして指先で摘むと、
喉の奥で短い声を上げ、体を震わせながら顔を上げた。

「ゃん、触っちゃ、ダメ……です。ちゃんとできなくなっちゃうから」
「ん、もういいから……」
「気持ち良くないデスか?」
「そうじゃなくて、中に」
「でも、真一君疲れて……」
「だいじょぶって言ったろ」
「じゃぁ、のだめが動いてあげマス」

さっき破りかけたパッケージをのだめが手にとって、慎重な手つきでオレ自身に被せていく。
それは面映いような、それでいて何とはなしに征服感を感じるような不思議な感触で、
心ならずもびくんと跳ねて、ちょうど根元まで被せ終わったのだめの手を弾く。

「ひゃ……もぉ、暴れん坊、デスね」
「……いいから、ほら」

投げ出したオレの両脚を跨がせて、膝立ちになったのだめの腰を掴む。

「こっち、見て」

あごに指をかけ、俯いている顔をぐいっと上げさせる。
貫く瞬間の顔を見ていたいから。
中心を探りあてて、襞を押し広げるように先端をのめり込ませると、のだめは、くっと眉根を寄せて僅かに息を詰める。
その表情が物語るように、狭いところへ頭を突っ込んだオレ自身もぎゅっと圧迫されて、こちらも呻きたくなるほどきつい。
ゆっくりと埋め込んでいくに従って、のだめの顔には次第に愉悦が広がって、心地良さそうな声が零れる。
全部飲み込んでしまうと、ほうっと息を吐き出す半開きの唇がたまらなく艶っぽい。
二、三度、馴染ませるようにのだめの体が上下する。
その後は腰を抱きかかえてあやすように揺すってやる。

「気持ち、いい?」

ゆらゆらと体を上下させながら、半眼でこくこくと重ねて首を縦に振る。
揺する度に、初めて恋の季節を迎えた若い猫のような、戸惑いを含んだ、だけどとてつもなく甘ったるい声で鳴いている。
もっと快感を与えてやりたいのと思い切り味わいたいのとで我慢できなくなってきた。
繋がったまま背中を抱え、のだめを横たえて覆いかぶさる。
それでもまだゆっくりと深く貫いてやる。
ぐいっと突き上げる度にのだめは蕩けそうな声を上げた。
深いところで止めたまま腰を揺らしてやりながら、快感で歪む顔に見入る。
バカンスの季節だというのに、あまりのだめを構ってやれない。
こいつは放っておいても不平を言うことはないけど、本当のところはわからない。
寂しがらせてるかもしれないという気がかりが実は小さなストレスになってる。
こうやって抱いてやることがこいつにとって幸せなのかどうかわからないけど、
少なくともオレはこいつに触れてると何もかも忘れて、そして安心できる。

「風……」
「ああ」
「何か、部屋の中じゃないみたい…デス」
「うん」

どことなく心もとなかったのは背中を時折撫でる風のせいだ。
やっと熱気を空に放ちきったのか、地上の空気は少し冷めてきたようで、
カーテンの揺れがさっきより大きくなって、涼しいと感じるほどに風が流れてくる。
こんな時間に出歩いている人もいないから話し声や足音が聞こえてくるわけじゃないけど、
遠くを通る車の音とか微かに外界の気配がしてる。
外とつながっているという感覚が拡大されて、外そのもので抱き合ってるようなスリルを感じているのだ。
だからといって気持ちも体も萎えることはなくて、むしろ、そのことで興奮しているのを自覚していた。

「……しんいちくん?疲れてるのに、どして?」

ゆらゆらとオレに揺すぶられ、気持ちよさげに目を閉じたままのだめがつぶやいた。

「どうしてって……」

―理由なんかねーよ、お前が欲しいだけだ

「欲しいから」

素直に、だけどぶっきらぼうに言うと、眉根を寄せたままでふとのだめの口元が緩む。
こんな言葉がうれしいのかと思うと愛おしくて背中を抱える腕に力がこもる。

「もっと……いい?」
「ハイ…」

脚を抱え込んで深いところまで突き上げる。
ぐっと貫く度にもちっと胸が揺れて、入口がぎゅっと締め付ける。
その眺めだけでも放ってしまいそうなのに、のだめの喘ぎがこれでもかと下半身を直撃する。

「は、ぁんっ、あっ、ぁんっ」

少し速度を上げると、短く喘ぎ、首を振って背中を反らしながら体の下で身を捩る。

「あぁぁっ、だ……め、し……いち……くんっ」
「ダメ?」
「あ……やっ……」

止めるそぶりをするとしがみつき、こすりつけるように腰を浮かせてきた。
オレだってもう止めることなんかできない。それがわかってるだろうに必死になてすがりついてくるのがかわいい。
初めの頃はあんなに恥ずかしがってたのに、こうやって乱れてオレを求めるようになったのを見るのがたまらない。
これだからのだめに拒まれない限り、いや、拒まれても抱きたくなってしまうに違いない。

我知らずさらに速度が上がっていく。
繰り返し、何度も何度も、のだめの奥へ奥へと突き上げる。
体がぶつかる度にのだめの蜜が立てる小さく弾けるような音が淫らだ。
オレを呼びながら切れ切れに喘ぐ声も耳を刺激する。
背中を弄る風とか、いつもと違う場所だとか、そんなことはもう何もかも消し飛んで、
頭の中が空っぽになって、ただのだめを求めて激しく動き続ける。
のだめの腰もオレを迎えるようにいやらしく揺れている。

「あっ……あぁっ」

窓が開いてるというのにもう声を抑えきれなくなって、しゃくりあげるように喘ぎ、
オレを呼びながら昇りつめ始める。

「んっ…あっ、しんいちくぅんっ……しっ…ち…くっ……いっ」

きゅうっと締め上げてくる入口で扱き上げられ、腰から頭のてっぺんまで突き抜けるような快感に身を委ね、
のだめの中で全てを解放する。

「あ、あぁぁっ……しんいちく……ん」

オレ自身の震えを感じたのか、体をわななかせながらダメ押しのように入口をひくつかせている。
たまらずに声が漏れた。

「んっ、のだめ……」

ゆっくりとのだめの上にのしかかると背中にしがみついていた手がオレの頭を抱えるように撫でた。

顔だけ上げるとのだめは目を開けて口を尖らせていた。

「ん、重たい……デス」

腕をついて体を持ち上げながら顔の上に二つ三つついばむように口づけると、くすぐったそうに小さく笑った。

「汗かいちゃったな」

何もしなくたって汗ばむ気候だというのに、したたかに動いたのだから無理もない。
確かに疲れた。でも、今オレの体を支配しているのは、帰宅時の疲れとは違う、
清々しいというか心地よい脱力感だった。

◆◆◆

一緒にシャワーを浴びて部屋へ戻るともう空が白み始めていた。
床に敷いたブランケットの上にのだめと一緒にそのまま寝転がる。
今はたぶん一日のうちで一番涼しい時間帯だろう。これなら暑さにうなされずにぐっすり眠れそうだ。
ただし3時間くらいだけど。
のだめは疲れたのかオレの腕を枕にして早くもとろりとした目をしている。

「寝てたのに、悪かったな」

半分夢の中にいるようにゆるゆると振られた頭を撫で、満ち足りた気分になってオレも目を閉じた。
明日、いや、今日も暑くて長い一日になりそうだけど、部屋に帰ればまたこいつの顔が見られるから――。

―きっと、大丈夫






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ