千秋真一×野田恵
![]() 足早に、バスルームを後にする。薄着の身体に感じる微かな夜風が心地よい。 風呂上がりの火照った体を冷やしながら、のだめは千秋の元へと向かった。 そっと隣室を覗き込む。ライトが消された部屋の中は月明かりが差し込み、 静かな明るさを持っていた。 周期的に小さく揺れるカーテンの、その揺れの隙間から、冷たく青褪めた光が射す。 部屋の中には、冷たい光りを浴びたまま、ソファに横たわり眠る千秋の姿があった。 「先輩?」 音を立てないようにして近づき、そのまま間近に腰を下ろす。 千秋の眸が完全に閉じられていることを確認すると、のだめは仄青く浮かび上がるその姿を凝視した。 手をのばし、漆黒の髪を撫でる。 (ほわー本当にきれい……。悩殺ものデス!!なにか夢でも見ているんでしょうかね……?) のだめの眸に映るのは、ゆったりと眠りに落ちているとはとてもいえない、 儚げな、目を閉じて自らを周りから遮断したような、顔。 やがて月が雲に隠れる。それを合図にしたかのように、千秋の口元がゆっくりと動き始めた。 「人の顔をじろじろと覗き込むのはやめろ」 「え?」 ほんの少しの間をおいて、眸は開かれることのないまま、千秋はゆっくりと身体を起こす。 「ね、寝たふりするなんて卑怯ですよ!!」 「……どっちが」 射すように明るい光が姿を消し、部屋の中は先程までと比べものにならないほど暗い。 新たな言葉を発することなく、千秋はさらに身体を前に起こしてゆっくりとのだめの腕を掴んだ。 先程まで閉じられていた双眸は、今は少しの迷いもなくのだめを捕らえる。 「え、えと、一気に暗くなっちゃいましたね……」 さっきまでは目を閉じていても明るいくらいだったのに、と続ける。千秋からの返答はない。 「え、えーと……千秋先輩?」 仄暗い部屋の中で、千秋の眸だけが鈍い光りをたたえている。 端整な顔立ちの中でも、一際印象的な魅力を湛えている彼の眸。 その眸が徐々に近づき、柔らかな頬に手をよせて唇を捕らえようとする……と、 のだめの身体がビクッと震えた。 顔を千秋から背けるようにして、視線は中に浮いている。 「……お前さ、至近距離で人の寝顔観察したり、着替え盗み見したりするくせに、なんでオレが目合わせただけで逃げるんだよ」 「だ、だってなんか緊張して……」 「緊張―?」 掴んでいた腕を解放すると、のだめはサッと千秋から身体を離した。 そしてそのまま、照明のスイッチを入れようと一目散に壁際へかけていく。 少しの間の後、眩しいくらいに明るくなった部屋の中で千秋が最初に目にしたのは、 壁に頭を押しつけるようにして立つのだめの姿だった。 「おい……お前なにやって――?!」 「千秋先輩も一度、先輩からジーっと見つめられてみれば良いんデスよ」 「はぁ?」 「先輩に見つめられるのって、とーってもドキドキするんデスよ? のだめもう、心臓が口から出そうでした……。今日は何だか雰囲気が違っていたからセクシー度もアップしてて…… なんか、なおさらで……!!少しは自覚してください!!」 「意味の分からないことを、大声で叫ぶな――!!」 「ぎゃぼ―――!!!」 壁際からは奇声と共に、延々と大袈裟な抗議が捲し立てられる。 明かりがついてみれば、確かにのだめの頬には高揚をあらわす赤みが差していた。 「……もう分かったからこっち来いよ」 「千秋先輩は一度自分の破壊力の凄さを自覚するべきデス!!」 「分かったから……」 「その瞳にジーっと見つめられると、本当にドキドキするんですよ?のだめ、いっつも大変なんですよ?分かってマスか?」 「……」 このままでは埒があかないことを察して、千秋は自ら壁際へと向う。 のだめの焼け付くような視線を受けては、とても寝たふりを続けることは出来なかった。 それにしても、こんなに色気のない展開になるとは……。 頬を真っ赤にして奇声を発するのだめを前にして、千秋の口からは苦笑いが漏れる。 「ほら、オレはお前が風呂から上がってくるのを待ってたんだぞ」 「分かってますよ……」 「じゃあ、逃げることないだろ?」 「別に、逃げたつもりじゃないデス……」 「今日はもう、お前のことジーっと見たりしないから」 「え?」 千秋が思う、のだめにも似た月は未だ姿を現さない。今夜の月は無粋だった、窓に目をやり、そう思う。 「壁に寄りかかって立って。それで足、開いて」 「え?ちょっ先輩……!!」 声が低く響いたのと同時に、千秋はのだめを身体を壁際へと押しつけた。 同時に、少しだけ開いていた唇に舌を滑り込ませ、口内の熱さを確かめるように内壁をなぞり、ゆっくりと吸い上げる。 「ほら、ちゃんと目閉じて。そんなに緊張するなら今日はオレの顔見なくていいから……」 上顎、歯茎、舌の裏側、唇の両端。長い舌はゆっくりと丹念に愛撫を施す。 千秋の激しく攻め立てる様なキスは、のだめの体から徐々に力を奪っていった。 互いの口の間を繋ぐ銀糸を器用に絡めとり、千秋は昂ぶり始めているのだめの胸に、熱っぽく手をおいた。 細いうなじ、華奢な肩、そしてネグリジェの上から背骨の凸凹を辿って、下へ下へと指を滑らせる。 そのまま指の先で背中のラインを辿ると、のだめはしゃくり上げるように上半身を震わせた。 千秋の指は、のだめが最も悦ぶ場所には触れようとしない。ただただ、ゆっくりとその身体の中心を辿っていく。 指先が膝裏にたどり着き、その場で遊び始めた頃、のだめの身体は快感の火種に侵食されて薄紅色に染まっていった。 濃厚なキスの後、普段ならお互いに見つめ合い、さざめく様な心地よさを共有する時、 千秋は唐突にのだめのネグリジェをたくし上げた。 片手で捲った薄い布をのだめの臍のあたりで留めると、白くきめ細やかな肌が明かりのもとに晒される。 「ちょっ……先輩!!展開が早すぎデス!!」 「お前がオレと目が合うと緊張するって言ったんだろ?これならオレの顔は見えないから……」 そう言い残し首筋にきつく吸い付いた後、千秋は身体を降ろして、のだめの足元に跪く様な体勢をとった。 片腕でたくし上げた布をしっかりと掴み、もう片方の腕はのだめの秘部へと伸びる。 細長い指がそっと、薄い布一枚で覆われた丘に触れた。 「……あっ」 いつものように互いに見つめ合いながら、官能を分かち合っているのではない。 滲む眼下に見えるのは、愛しい人が自分の秘部を目の前にし、覗き込んでいる姿。 その事実が切々とのだめを焦がしていく。 ただ触れられただけで身体は大袈裟なくらいに揺れ、開かれた太腿を閉じようと抵抗するが、力が上手く入らない。 千秋はのだめの下着の紐を解き秘部を露わにすると、丸みを描いた割れ目に再び指をおいた。 「やぁっ……先輩、手つきがやらしい」 「……やらしいことしてるんだから、当たり前だろ。あと、もうちょっと足開けよ。その方が絶対気持ちいいから」 「電気!!電気消してください!!」 「さっきわざわざお前がつけたくせに……」 「だって、それは……!!」 「いいだろ?オレの顔は見えないんだから。明るくても……」 「そう言う問題じゃないデス……!!ぁ、んんっ……」 探るようにほんの少し指を移動させると、途端に甘い声が部屋中に響く。 既に、トロトロとした粘液がのだめの入口をしっとりと濡らしている。 千秋は導かれるように蜜壷に中指を滑り込ませると、その内壁の浅いところを繊細な指使いで弄りはじめた。 「キスだけでこんなに濡れてんの?」 「だって先輩があんなエッチなキスするから……」 「オレのせいかよ」 「膝とかっ……触るし……」 「膝の裏、弱いもんなぁ……お前」 申し訳程度に生えそろった淡い茂み、まばゆく光る白い腿、男にはない滑らかなラインを持つ腰回り。 明るく照らされた室内で見るのだめの身体は、どこか儚げな婀娜が漂う。 それは千秋の色欲に加速度をつけると同時に、のだめに対する庇護欲を掻き立てた。 「のだめ……、可愛い」 「っふ……んんっ……カワイイ?」 「うん……。すっげぇ可愛い……」 「っう、嘘デス……。あぁぁっ!!」 唐突に、中指を突き上げるようにして深く差し入れると、のだめの膣がどんどんきつく締め上げてくる。 指が鬱血してしまうのではないか、と思える程のきつい締め付けに千秋は一瞬戸惑ったが、 のだめの漏らす吐息が甘みを増していくのを感じて、また少し動きを早めた。 「ぁ、んんっ……あっ……」 耳元で切なげに響く嬌声と、くちゅくちゅというあからさまな粘液の音が、部屋の空気を一杯に満たし、振るわせる。 千秋は中指をさらに奥へと進めた後に、擦るようにして曲げると、蜜の源泉である窪みに行き着いた。 「や、しんいちくん……そこダメっ……っ!!へんになる……っ」 ほんの少し擦っただけで、のだめは身をよじり切なげに顔を歪める。 愛撫を加速させるにつれて、指先への締め付けはますます強くなり、 千秋が片手をのせた下腹部はゆらゆらとした動きを見せている。 手首にまで滴る愛液は甘酸っぱいムスクの香りを発しており、のだめの白い腿を淫猥に光り輝かせていた。 「あ、あぁ、あっ……」 「まだイクなよ。もっと味わわせて」 「えっ?」 指を引き抜くと、透明の蜜が指先から手首へ流れ落ちた。 のだめの目に、千秋の細長く節くれ立った指がてろてろと光っている様が映る。 千秋はのだめの視線に気がつくと、自らの指を下から上へゆっくりと舐め上げた。 「せ、先輩!!なにしてるんデスか!」 「ん?せっかくだから」 「せっかくって……!!」 「……いいから、壁に体重かけて寄りかかって。それでちゃんと足開けよ」 のだめがおろおろしながら視線を泳がせていると、千秋の指がその膝小僧に触れた。 「そう、それくらい」 そっとのだめの腿を割り、徐々に一定の間隔をとらせる。 「センパイっ……恥ずかしいデス……」 「裾……。今度は自分で持って」 「え?裾……?」 「うん。離すなよ」 「次は大好きな口だろ?」 のだめにネグリジェの裾を掴ませると、千秋は足を折って膝立ちとなり、丁度顔の前辺りにあるのだめの足の間に顔を埋めた。 目の前に広がる柔らかな膨らみは、蕩々と豊かな愛液をたたえ、男を誘っている。 いくら舐めてもとどまることを知らない蜜は、ムスクにも劣らない、秘められた濃い雌の香りを放っていて、 千秋はそれを満遍なく舐め尽そうと執拗に舌を使った。 「んはっ……あ……っ」 生温かい舌が割れ目を掻い潜り、硬く閉じた蕾を責める。 ゆっくりと、木の芽を剥くようにして親指で押し開くと、色づいたのだめの中心が、千秋の目の前に曝された。 普段よりも一層敏感になっているその部分を尖らせた舌先でノックすると、のだめは大きく仰け反るようにして声をあげた。 その反応を楽しみながら、千秋は両手をのだめの丸く白い尻に回し、その肉の柔らかさを堪能するように強く揉んだ。 千秋に触れられた部分が、どこもかしこも火傷したように熱い。 のだめは下腹部で握っていたネグリジェの裾を口元まで持っていき、口に含んだ。 薄い布を噛み、絶え間なく訪れる絶頂の波を押し殺そうと、身体に力を入れようと必死に耐える。 そうして快感を堪える中、布が捲れて露出した乳房に無意識に手をやった。 「……悪い。上が足りなかった?」 「え?え?……違いマスっ」 「じゃあ、この手は何?」 「し、知りません……!」 ククッと千秋の口から声が漏れる。 「お前、案外こういうの好きだろ?いつもよりさらに、濡れてる」 「そ、んなことっ…な、い…デス……ふぅ、ぁあ、んっ」 必死に抗議の声を上げようとしながら千秋の顔を見下ろすと、その顎や頬は自分が漏らした愛液で光っている。 それを見た瞬間、のだめの中心はますます熱を持った。 一向に退こうとしない舌の動きに耐えかねて、のだめはバランスを求め、千秋の頭を太腿ではさみこむ。 普段では考えられない体勢。立ったまま肌を露わにし、千秋の愛撫に耐えている自分。 まるで奴隷のように跪きながら責め立ててくる愛しい人。 目に映る全ての光景が倒錯的な快楽を生み、のだめを追いつめていく。 「も、いや……!だめぇっ……あっあっ!!」 執拗なまでの愛撫に、身体はとうに限界を迎え、のだめは助けを求めるようにして千秋の頭を両手で抑えた。 頭の中の全ての色が真っ白に塗り替えられて、そのまま気を失いそうになるのを何とか持ちこたえる。 フワフワとした感覚に足が震え、壁伝いに床に身体を降ろすと、焦点のおぼつかない視界の中に千秋の顔が映った。 「センパイ……?」 「悪い……。ちょっときつかった?」 「のだめばっかりで……。恥ずかしくて、死にそうです……」 「でも、気持ちよかっただろ……?」 「うぅ――、むっつりカズオ……」 「カズオはやめろ……。で、続きはここでする?それとも、ベッド移る?」 「……続き?」 「お前……、オレのことは気持ちよくさせてくれないつもりなの?」 「あ……、え、えと……ベッドでお願いします」 「了解。メルシー」 未だ身体に力が入らない様子ののだめを抱き上げ、ベッドへと運ぶ。 のだめの体温と、ぐったりとした柔らかい身体の感触を実感して、千秋は口角を上げた。 「先輩……。なんか嬉しそうデスね……?」 「ん。別に……」 「別に……ですか?」 「まぁ……。オレもお前の気持ちよさそうな様子を見てるだけで、結構いいからさ……」 「そんなことが嬉しいんですか……?] 「ああ、でも……」 「でも……?」 「こうやって、じっくり触れる方がやっぱりいいな」 「……おっぱい星人」 互いに見つめ合い、その空間を共有する。焦げ付くような想いも、激しい心音も、狂おしい程の快楽も。 これからもきっと、何度もそうやって求め合っていく。 間近で見るのだめの栗色の眸は息を飲む程に美しくて、千秋は先程のだめが言った言葉の意味ををほんの少し 理解できた気がした。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |