黒木泰則×ターニャ
![]() 「日本語では”スキ”っていうのよね… ”好きよ、ヤス”…」 最中であっても、ロシア人のターニャとフランス語で交わしていた黒木は急に聞いた日本語に驚き、 同時にその懐かしい響きに少し感動した。 「ターニャ……。すごく、嬉しいよ。でも…、ロシア人の君が、どうして日本語を知ってるの?」 「そりゃ…、千秋とのだめから覚えたのよ。まったく、二人たらいっつもうっとおしいくらい熱いんだから……」 そう言って眉根を寄せたターニャは、しかし笑いながら柔らかく黒木に腕を回した。 「ふふっ、ヤス。でもね、こんな時に日本語が役に立つなんて…思いもしなかったわね」 黒木も、何だかんだ言いつつ常にお熱い日本人二人を思い出して自然と笑顔がこぼれた。 あの二人のように幸せそうに笑いあうことができるなんて、ターニャと会うまでは、まさか思いもしなかったから。 ターニャもつられて、黒木も額をくっつけ合いながら笑いあう。 「…ごめんターニャ、僕はロシア語、分からなくて…」 「馬鹿ねヤス、フランス語でいいのよ」 そう言われた黒木は、少し安堵して、ターニャの瞳をみつめてささやいた。 「うん。……ターニャ。"Je t'aime bien."」 「……?ヤス、”bien."?」 ターニャが怪訝な顔をする。 「ん……、え、僕のフランス語、何かまずかった?」 「それだと英語の”like"よ?ヤス……私への気持ちって、もしかして、そんなに軽かったの?」 ネイティブでは無いなら犯しがちな間違いを、わざと指摘して黒木をからかうターニャ。 ターニャの予想通り、黒木は可哀想なくらいに動揺した。 「え!?誤解だよターニャ!え…えーと、"Je vous aime.……で、いいの、かな」 顔を真っ赤にして口ごもるヤス。 ターニャは普段から想像もついかないほど焦る黒木を見て、おかしい気持ちと同時に、 とても愛しい気持ちが芽生えるのを感じた。 「ウフフ、よく出来ました、ヤス。なんだか私わたし、映画のヒロインみたいだわ〜♪」 「……ターニャ、僕のフランス語、何か変だったんだね……?」 気にしなくてもいいものを、生真面目に考え始めるヤスに、ターニャは愛しい気持ちを募らせた。 千秋とはまた別のようだけど、日本人らしい真面目で一途な気持ちをぶつけてくるヤス。 こうやって「武士」みたいに一途に思われるのは、悪くはないわね……。 ターニャはいまだブツブツとフランス語をつぶやいている黒木を抱きしめて笑った。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |