リュカ・ボドリー×野田恵
![]() 「のだめー!」 学校の廊下を歩いていたのだめは、後ろから声をかけられ振り返った。 そこには、珍しく正装しているリュカが大きな花束を持って立っていた。 成長期のリュカは、短期間で身体つきもすっかり大人と変わりなくなり、 もともとの整った顔立ちの為、スーツにネクタイ姿だと、とても美しい。 「ギャボー!リュカ!ど、どうしたんデスか?そのカッコ・・」 「これ、のだめに。本当はバレンタインにはバラの花束が普通なんだけど、 のだめにはちょっと可愛い感じのチューリップの方が絶対似合うと思ったんだ!」 リュカは、持っていた色とりどりのチューリップの花束をのだめに手渡した。 のだめは嬉しそうにその花束をもらって、ギューっと抱きしめた。 「わー、きれい!ありがとう。でも、どうして?」 「どうして?って・・・。のだめ、『バレンタイン・デー』知らないの? 今日は愛する人に感謝の意を込めて、プレゼントを送る日でしょ?」 「ほわー、そうなんですかー。日本では、バレンタインデーは、 女の子が男の子にチョコレートを渡して愛の告白する日なんデスヨ。 あ、そうそう、のだめもリュカにプレゼント。はい、コレ。チョコレート。」 「うん、まあ、パリでも女性はチョコレートだけど、告白??」 のだめはリュカの手に小さなかわいいプレゼントを載せた。 リュカはそのチョコレートの意味を深読みして、思わず顔をほころばせた。 「これ、僕に?わー、ありがとう!のだめ!!やっと僕の気持ちに応えてくれたんだね?」 「はいー。リュカにはいつも本当にお世話になってるから。感謝の気持ちデス」 「感謝?愛の告白じゃなかったの?」 「え?・・・あ、ゴメンなさい。それは『義理チョコ』って言って・・・」 「ギリチョコ?何それ」 「もちろん日本では、バレンタインデーに女の子が男の子に愛の告白をするんですが、 それだけじゃなくて、日頃お世話になってる男の人に感謝の意味を込めてチョコレートを プレゼントする事もあるんです。それを日本では『義理チョコ』って言うんですよ。 のだめも今日は張り切って、ほら、こんなにたくさんチョコ持って来たんです。 フランクと、ユンロンと、黒木君と、ポールと、オクレル先生と、それからリュカと。」 リュカはのだめの話を理解できずに唖然としていた。 しかし、そんな事で負けるリュカではない。今日のリュカは一大決心をしてきたのだ。 「ねえ、のだめ。今日、これから僕とレストランで食事して欲しいんだ。 もちろん僕のおごりだよ。ワインで乾杯して、素敵なディナーを楽しもうよ。」 「あ、でも・・・。のだめはこれからちょっと約束が・・」 「約束って、・・・チアキ?」 のだめはリュカの言葉を聞いて、頬を染めてこくんとうなずいた。 「っ・・・なんで!? チアキはのだめを置いて、引っ越しちゃったんでしょ。 僕ならそんなこと、絶対しないよ。いつでものだめの傍に居てあげられるよ?」 「ありがとう。リュカ。でも今日はのだめは行かなきゃ。 みんなにもチョコ配らないとならないし、のだめだって忙しいんデスから。 レストランはまた今度誘ってくださいね。あ、黒木君!!」 「え?ちょ、ちょっと待ってよのだめ!僕の話はまだ終わって・・・」 リュカの話もそこそこに、のだめは向こうから近づいてきた黒木のところにパタパタと走って言ってしまった。 *** 今日はバレンタイン・デー。 日本では女性が男性に愛の告白をする日で定着しているが、 ここパリでは、恋人同士の記念日、という事になっている。 特に男性は女性にバラの花束を贈るのが一般的だ。 多分そんなこと、のだめは知らないだろうな・・・ 千秋は、助手席に用意してある、真っ赤なバラの花束を見て、 彼女が驚いて頬を染める姿を想像した。 「そろそろ来るかな?」 車を停めて、ドアを開け、外に出た千秋は、校内からまっすぐ正門に向かって 走ってくるのだめの姿を見つけた。 思わず顔がほころんだが、次の瞬間、いいようも無いもやもやした感情が千秋を襲った。 「先輩、早ーい!すみません、お待たせしました〜。 もう、先輩ってば、そんなに早くのだめに会いたかったんデスかー?」 いつもならここで、「そんなんじゃねぇ!」と言うところだが、 今の千秋はそれどころじゃなかった。 「のだめ・・・。その花、どうしたの?」 「あ、これですか?ふふふ、きれいでしょー。リュカがくれたんですよ。 バレンタインだからって。本当はバラなんだけど、のだめにはチューリップが 似合うからって・・。どういうことですかね。カワイイってことかな。ギャハ。」 「・・・リュカって、だれ?」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |