リュカ・ボドリー×野田恵
![]() 僕は最近、学校が楽しくて仕方ない。 もともと、ピアノを弾くのも、音楽の勉強をするのも好きなんだけど、今の学校にはステキな友達がいるから。 彼女は”のだめ”というジャポネの女の子。 のだめは、ピアノはとても上手だけど、初見とか勉強は苦手だから、あいた時間に僕が教えてあげたりもする。 年上ばかりの学校だけど、のだめといるとそんなこと気にならないし、のだめのピアノはとても素敵だし、とにかく僕は、のだめといるのがとても楽しいんだ。 …ほんの少し前までは、本当にそうだったんだ。 今年の夏、学校が休みの間…僕は気がつくと「のだめは何してるかな」そんな事ばかり考えていた。 お城でコンサートをするからと学校で練習をしている時は時々会えたけど、今はそんな口実もない…。 だから、会えないのは分かっているけど…のだめの家の近くまで来てしまった。 ……僕は、いつの間にか「友達」以上の気持ちでのだめを思うようになっていたんだ。 のだめの家がどこかわからないけど、近くにのだめがいるかもしれないと思うと嬉しい。もしかしたら、偶然会うかもしれない。 そんなことを思いながら、公園を歩いていた時だった…。 聞き覚えのあり声がして、振り返った先には、のだめ……と…。 「誰……?」 ヤスじゃない。ヤスより背が高くて…。それに、のだめはヤスには…あんなふうに腕を絡めてもたれ掛かったりしないんだ。 僕は、胸が焼け付くような、激しい感情が沸き上がってくるのに驚いていた。 偶然会えたら…とは思っていたけど、いざそうなると、声をかけることはできず、立ち去ることもできず…僕は二人を目で追う。 離れているし、日本語なんだろう、何を話しているかはわからない。でも、のだめの顔は、僕が見たことのない笑顔だ。一緒にいる彼も、のだめの笑顔につられるように、時折、照れたように笑う。 二人が段々近づいて来たから、僕は慌てて木の陰に隠れた。二人は木陰にあるベンチに腰をおろす。 持っていたバッグからバケットサンドを出して、お昼ご飯にするようだ。…学校にいる時は、僕とご飯を食べているのに。胸がチリチリ痛む。 のだめは、足元に擦り寄って来た猫に、自分のバケットを分けてあげている。 「あっ…」 思わず声が出た。 猫に触ろうとしてのだめが屈んだ拍子に、のだめのバケットが足元に落ちたんだ。 のだめが、落ちたバケットを拾おうとするのを、彼が慌てて止めている。 しょんぼりとうなだれるのだめと、笑いを堪えきれない彼。それを見てのだめが、今度は膨れている。 きっと、「ムキャー!笑うなんてひどいデス!」とか言ってるんだろうな…。 そんな事を思いながら、なんだか寂しくなって、もう、家に帰ろうとした時… 彼は、膨れているのだめの肩を抱き寄せ…そして、ゆっくりと当たり前のように唇を重ねた……。彼に身を預け、カーブを描くのだめの身体、白い顎…。見た事のない、大人ののだめがそこにいた………。 そして…僕は、逃げるようにその場を立ち去っていた。 「のだめ…」 「何ですか、リュカ?」 「僕、のだめが好きなんだ」 「…リュカ」 のだめが驚いてる。僕は、のだめの腕を掴むと引き寄せて…抱きしめる。 のだめは僕より年上だけど、華奢で壊れそうで…でも、胸の膨らみは…眩暈がしそうなほど、柔らかくて。 僕は、のだめの唇にそっと唇を重ねてみる。 「のだめ、僕…」 柔らかな膨らみに手を延ばした瞬間……………目が覚めた… 「うわ…」 夢の中のやけにリアルな感触と、自分の身体に起こった変化が恥ずかしくて、僕は慌ててバスルームに向かっていた。 あんな夢を見てしまって、学校でのだめに会うのが恥ずかしい…そう思っていたけど、久しぶりに会えたら恥ずかしさより嬉しさが勝って、僕は思いきりのだめを抱きしめていた。 夏の間に背が伸びた僕が、のだめは誰かわからなかったみたいでびっくりしてる。 ……抱きしめたのだめの身体は、夢の中よりもっと柔らかくて、それからの夢の中ののだめは…あの時よりもっとリアルになって行った。そして、夢の中以外でも、僕の想像の中にいる”異性”はいつでものだめになっていた。 そんな風にのだめを見てしまう事の罪悪感より、甘い妄想の誘惑が強くて…そこにいるのだめはとても綺麗で……僕は、それをやめる事はとても出来なかった。 そして今…。 のだめは前より一層、ピアノの音に磨きをかけている。学校の後に練習することも、しょっちゅうだ。 けれど…ピアノも、苦手そうだった授業も順調なのに、なぜかのだめは時折…淋しそうな表情を見せるようになった。 あの時公園で見かけた「千秋真一」は、のだめの恋人でデビューしたばかりの指揮者だそうだ。 …ついこの間まで、二人は同じアパルトマンに住んでいたけど、千秋は最近引っ越したらしい。 …だから、淋しい顔をしてるのかな?それとも、何か辛い事があるのかな…? のだめは、聞いてもきっと答えてくれないだろう。 …でも、きっとあいつのせいなんだ。 早く大人になりたい……。 …そう、僕なら、絶対にのだめに淋しい顔なんてさせない。 「のだめ!今日、家でご飯食べていきなよ」 「ムキャ、いいんデスか?」 「おじいちゃんも待ってるし」 「また、オルガン弾いてくれますかね〜」 「うん。連弾もしよう?」 笑顔ののだめの腕をとって、僕は歩き出した。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |