佐橋皆人×月海
![]() 出雲荘の居間にて、皆人と月海はボーッとテレビを見ていた。 ”来たる14日に備えて、さっそくチョコ売り場が賑わってます! 今一番人気なのは―”と流れる映像はひたすらチョコを宣伝するようにしか見えなかったが、興味ありげに月海はジッとテレビを見ていた。 『ああ、もうすぐバレンタインかー…』 「ばれん…た…いん? なんじゃ、ミナト?」 『毎年2月14日の日に、好きな異性にチョコをあげるっていうものなんだけど、例えば気持ちを伝えたいけどそれが出来ない女の子が渡したり出来る日っていうか…… 男が泣く日というか…チョコ会社の陰謀というか…』 皆人は何故か遠い目をしながら、途中からチョコ会社の文句を喋り始めた。 ”―好きな女の子にチョコをもらうと嬉しいですからね! 貰った男性は堪りませんよ!やっぱり今の内から買って準備しておくといいと思いますよー!” 本当にチョコ会社の宣伝じゃなかろうかと思うぐらい、テレビのアナウンサーはチョコチョコと言いまくっていた。 「…くだらぬ。 そんなものに頼らずとも、直接気持ちを伝えればよいであろ!」 月海はテレビに吼えた。 『はは… 月海みたいな女の子ばかりだったら…ね…』 「むぅ……」 何やら思い込んだような顔をしながら、月海は部屋を出た。 ガッサガッサ ガッサガッサ 「あら、月海さん。 今日は何も頼んでませんが、お買い物ですか?」 「おっ大家殿! いや、ちょっと特売品があっての、それを…あっ見るでない!」 どこかへ行ってきたのか、出雲荘に帰ってきた月海。美哉は玄関先を掃除していた。 そしてあまりに不自然に膨らんだ買い物袋、膨張しすぎて破裂するんでないかと思うぐらい、パンパンのビニール袋を美哉は覗きこんだ。 「まぁまぁ…チョコがいっぱい。 ふふふふふ…」 「大家殿ーーーー!!!!」 「バレンタインですものねー やっぱり月海さんも女の子ですものねー」 「し…っ静かに…! こ、これは…ただ安かったから買っ 何でもないのじゃ!」 美哉は月海の顔を見てクスクスと微笑した。 月海はもう、今すぐこの場を立ち去りたい恥ずかしさに駆られ、顔を真っ赤にして出雲荘の中へと飛び込んでいった。 『さてと…勉強でもするかー…!?』 皆人は自室に戻ると、机の上に巨大なビニール袋が二つ置いてあることに気付いた。 『何、これ…? 新手の嫌がらせ…!?』 恐る恐るビニールを覗いてみると、中にはぎっしりと、板チョコが詰まっていた。 その数は数え切れないほど大量に、板チョコばっかり、板チョコしかなかった。なんでここまで板チョコばかりなんだというのは、買った人しか分からない。 『なぜ…大量の板チョコが……』 どう反応していいか分からない皆人の心情を知ってか知らずか、部屋の外で壁にもたれかかっていた人物は、満足気に微笑んでいた。 「吾の気持ちは、伝わったはずじゃ…」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |