佐橋皆人×風花
「皆人クン、起きてる〜?」 夕食後−10時くらいだったろうか−、俺の部屋に訪問者あり。 扉越しなうえに小声だが、この甘ったるい声は・・・ 「か、風花さん?」 「しー・・・。そうよ。一緒に飲みましょ?」 そう言いながら俺の部屋に入ってくる。手には一升瓶1本に、お猪口2つ。 「いいですけど・・・どうしたんですか急に?」 「フフ、女にはいろいろあるのよん」 ・・・どうやら誤魔化されたらしい。取り敢えず一升瓶を受け取り、お猪口に注いでいく。 並々と酒のはいったそれを、風花さんに手渡す。 「有難う、・・・・プハー!やっぱり酒は辛口に限るわねえ!」 お猪口の酒を一気に飲み干した、彼女の顔はとても幸せそうで。俺まで幸せな気がした。 「・・・どうしたの?しげしげと私の顔見つめて。・・・もしかして、「粘膜接触」、したくなった?」 「い、いえ。すいません」 あわてて視線をそらし、気を紛らわすように酒をあおる。 あちゃ〜。知らない間に見つめちゃってたか。・・・あなたの顔が美しくて、なんて気障な台詞、俺には言える気がしない。 「ウフフ、可愛い子ねえ。顔真っ赤よ?」 「か、からかわないでくださいよ・・・」 ほんと、この人にはかなわないなあ。 そういえば。 俺は風花さんに常々聞きたいと思ってたことがあったんだった。 空になった彼女のお猪口に酒を注ぎながら、俺は切り出した。 「そうそう、風花さん」 「ん?なあに?」 この質問をするのは少し勇気がいる。腹に力を込め、声を出す。 「俺で、社長の代わりはできてるんでしょうか」 「何よ、藪から棒に」 彼女は鳩が豆でっぽうで不意打ちを食らったような顔で、俺を眺めた。 「いや、篝さんを助けた時も社長の事、まだ気になっているような口ぶりだったし、社長はきっと俺なんかよりずっと凄い人なんだろうから・・・・」 「・・・もしかして嫉妬?・・・ますます可愛い子ねぇ」 「ち、ちがいますよ!風花さんは俺で良いのかなって、そう思って・・・」 風花さんがまた一気に酒を飲み干す。 こつん、彼女が僕の額を小突いた。 「あうっ」 「何言ってるのよ。い〜い?皆人クンは皆人クン。誰の代わりでもないのよ」 ギュッ。彼女に抱きすくめられた。顔が胸の間に埋められる。出そうになる鼻血を必死で抑える。 「私たちは、貴方だから、そして、貴方が好きだから、貴方のセキレイになって、貴方について行っているのよ。だから、胸を張りなさい。堂々としなさい。貴方は、私たちにとってかけがえのない存在なんだから」 「風花さん・・・」 彼女の一言一言が、体の中にしみ入った。そうだ、前にも松さんに言われたな。「自分に自信を持て」と。 彼女の温もりと言葉が、胸のしこりを溶かして行く。 「分かりました。もうくよくよするの、やめます」 俺は力強く、そう宣言した。 「そう、それでこそ私たちの葦牙クンよ」 「あ、ありがとうございます・・・」 俺は抱かれたまま答える。 それにしても、風花さんの胸、心地良いな・・・。 「風花さん、ひとつ、お願いあるんですけど」 「どうしたの?」 「もうすこし、このまま・・・」 「・・・フフフ、気にいっちゃった?パフパフ」 「う、そういう言い方をされると・・・」 「うそうそ。ジョウダンよ。気の済むまでお姉さんが抱きしめてあげるわよ、ウフフフ」 「ありがとう・・・」 ・・・こうしていると、子供のころに戻った気分になるなぁ。母親の胸で寝ていたころ。 やっぱりあったかくて、気持ちよくて。 あ、なんだか眠くなってきちゃった。 篝さんの看病とかで疲れてたからなぁ・・・・。 抗いがたい睡魔に俺は、身を預けることにした。 す〜す〜 私の胸から小さな寝息が聞こえる。 まあ、仕方ないか。焔の看病で疲れてた上に、酒はいっちゃったしね。 どうしようもなく熱くなる体を抑えつつ、彼をベッドに寝かせる。 襲いちゃいたいのは山々なんだけど、彼の睡眠を邪魔するわけにもいかない。 結局、彼の部屋に飲みに来た理由、言えずじまいだった。 ま、一人で飲むのがさびしくて、愛しの彼と飲みたくなった、ただそれだけなんだけど。 少し恥ずかしくて誤魔化しちゃったな。 そうだ、彼、社長の事気にしてたんだっけ。 確かに、社長の事を全く忘れきった、って言うのはうそになるけど、でも、今は。 「あなたのほうが、社長より、誰より、ずっと好きよ」 そう耳元でささやくと、寝てるはずの彼の顔が、嬉しそうにほほ笑んだ気がした。 SS一覧に戻る メインページに戻る |